第19話 第一皇子との交渉
烈歴98年6月13日 帝都シュバルツスタット シュバルツ城 特別会議場
シュバルツスタットに到着した僕らは、到着後すぐには会談に入らず、翌日から会談に入っていた。
王国と違って歓迎の催し等はなく、淡々と各所で会談を行う予定だ。
帝国の皇国に対する態度が透けて見えるな。
今僕たちがいる特別会議場には帝国側と皇国側の数人の幹部しかいない。
皇国側はリタさん始め、アウレリオ准将、サルトリオ侯爵、僕とビーチェ、そして変装しているヒルデガルドだ。
パオっちとリアナさん、ジョルジュ大佐は実務者協議の方の護衛に回ってもらっている。
帝国側は、ハインリヒ第一皇子とその際側近である軍服に身を包み、立派な白鬚を整いている筋肉隆々の老人
あれが長年帝国を支える重鎮
鉄血宰相オットー・ビスマルク
そしてその隣には帝国軍総司令の十傑第3位 フリッツ・バルター将軍が座っていた。
そして起立して控えているのは十傑第5位 カチヤ・シュバインシュタイガー将軍
昨日見た十傑第2位のゲルト・ミュラー将軍は不在だった。
異様な雰囲気に包まれながらも相対する皇国と帝国
口火を切ったのはオットー・ビスマルク宰相だ。
「黙っていても話は進みますまい。僭越ながら私が進行させていただく。遥々お越しくださった皇国の方々に敬意と感謝の意を表す」
意外にも友好的な言葉から切り出したビスマルク宰相
「こちらこそ、急な来訪にも関わらず手厚いおもてなし感謝するわ。帝国の度量の大きさを感じ入るばかりよ」
それに対して、そこまで良くはない待遇を皮肉で返すリタさん
リタさんは帝国に対してはいやに好戦的だな…
何か思うところでもあるのか
「急な来訪ゆえ満足のいく対応でなく申し訳ござらん。しかし貴殿も何か理由があろう?」
ビスマルク宰相がさっそく切り出す。
「もちろんよ。休戦条約も来月で期限切れ…その前に帝国の方々と友誼を結びたくてきたのよ。私達は平和主義者だから。それにやっぱり外交って会ってなんぼのものでしょう?」
「外交において会うことが肝要だということに関しては同意する。して本意は?回りくどくては会談日程が10年あっても足りませぬぞ。まずは休戦条約の更新について、皇国のお考えを聞かせていただきたい」
「皇国は短期の条約の更新を望んでいるわ。おおよそ約1年程の…」
「……!……やはり…」
リタさんの短い発言から皇国が帝国へ侵攻することを悟ったビスマルク宰相
1年だけ条約を更新するなんて、その間に準備して攻めるって言ってるようなもんだしね。
リタさんの発言を受けて、目線をハインリヒ皇子に移すビスマルク宰相
「…問題ない…皇国の目標地点はインバジオンだろう?あの馬鹿弟の都市ならばむしろこちらからお願いしたいものだ」
余裕綽々に答えるハインリヒ第一皇子
自国が攻められようにも意に介さない。
むしろ歓迎している節まである。
そしていつものようにビーチェ参謀の解説が入った。
「第一皇子の領地は帝国の主に南東に位置しており、戦線は対王国が主なのじゃ。対して第二皇子の領地は南西に位置しており、戦線は対皇国じゃ。だから皇国に攻められようが、第一皇子は対抗勢力の第二皇子が削られるだけで痛くも痒くもないようじゃな」
なるほどね
であれば皇国からの武力を盾にした威力外交は第一皇子からしたらノーダメージってことか…
これは難しい交渉になるんじゃない?
そう思っていたところリタさんがアウレリオ准将に合図して1通の親書らしき文書を持ってきた。
「これを見てもそんな態度取れるかしら?」
リタさんが意地悪な笑みを浮かべて文書を帝国側は見せつける。
「……なんだそれは……うん…?」
怪訝な表情を浮かべるハインリヒ皇子
しかしビスマルク宰相とバルター将軍は文書を見た瞬間目を見開いていた。
理解が早いな…
そして少し遅れて驚くハインリヒ皇子
「……お、王家とプラティニ公爵家…更にはポアンカレ公爵家まで『リータ皇妹殿下と共に在らんことを』…だと!?…い、いつのまに王国の3勢力と誼を通じたのだ…!?」
「あらぁ?私がここに来る前にどこに行ってたか知らないわけないわよねぇ?」
「にしても数日間だけの滞在だったであろう…!?…王家とプラティニはともかくどこにもつかないことで有名なポアンカレまで…ぐぅ…!」
めちゃくちゃ焦ってるハインリヒ皇子
さっきまでの余裕はどこ行った。
この人本当に次期皇帝か?
急に小物に見えてきたんだけど…
しかしその親書を見て最初は驚きはしたものの冷静に切り返す御仁がいた。
バルター将軍だ。
「…失礼ながらこれは本物か?見たところ署名のみで、印章は入ってはおらぬ模様…これを真と断ずるにはいささか不明瞭と思いまするぞ」
バルター将軍の言う通り、この親書は非公式な約定の為、お互いの家の印章は使用できず、署名しかなかった。
お互いには公証力はあったが、署名の真偽を確認できない第三者には公証力は皆無に等しい。
そんな反論も予想していたのか涼しい顔をしているリタさん
「けつの穴が小さい男達ねぇ…リオ、リックを呼んできてちょうだい。廊下に待たせているはずよ」
「承知した」
そう言ってリックを呼びに行くアウレリオ准将
なるほど
リックが随行しているのはこういうことだったのか。
しばらくして皇軍海軍の軍服を来て軍帽を深く被ったリックがやってきた。
その一連の行動を不可解に思った帝国側から苦情が入る。
「リータ殿下よ…ここは神聖な場であるぞ…無関係な者は入らせないでいただきたい」
ハインリヒ皇子が苦い顔で言う。
それに対して軽い声で答えるリック
「ははは、そんなに構えないでよ。取って食いやしないって」
そして深く被った軍帽を取る。
リックの特徴的な赤と黒が入り混じった髪が露わになり、帝国の面々の顔が驚愕に染まる。
「なっ!?き、貴様はリクソン・ベタンクール!?」
驚きに満ち溢れるハインリヒ皇子
「……王国の若き都督…まさか皇国に随行していようとは…」
まさかの事態にも冷静に受け止めるビスマルク宰相
「……なるほど、貴殿がこの親書の生き証人というわけか…」
瞬時に答えに行き着くバルター将軍
「御名答さ。この親書の中身は本物だとボナパルト王家 都督 リクソン・ベタンクールの名において保証しよう。それに僕がここに来ている、いや来れていることの意味を考えてね?」
「ぐうう!!」
してやられたと苦虫を噛み潰したように唸るハインリヒ皇子
会議は踊る。
皇妹殿下が奏でる音楽と共に
シリュウ「なんでリクソン都督が付いてきたのかようやくわかったよ」
ビーチェ「リータ殿下は親書にケチをつけられるところまで読んでいたようじゃな。いやはや…深謀遠慮とはこのことじゃ…」




