第16話 サンディ・ネスターロ
フランシス中将がサンディ・ネスターロ陸軍中将から預かっているという封筒を開封してみたら、一文だけ書かれていた手紙が出てきた。
『門に帰れ』
その内容を見て一同は疑問の海に飲み込まれるだけだった。
「……これは、やはり「迷った時」ではないから意味が分からないのか…?」
アウレリオ准将がそう推測する。
「おそらくそうね。今この時に見ても意味はないのでしょう」
リタさんも同意するが、僕は一つ疑問に思っていた。
「あの~アウレリオ准将もリタさんもこの手紙に意味があると信じてやまなさそうですが、サンディ・ネスターロ中将ってそれほど信用できる方なのですか?」
僕がそう切り出すと、皆驚いたような顔をする。
パオっちまで、目を見開いて驚いていた。
「あ~シリュウはまだ軍に入って日が浅いし、陸軍のことなどあまり知らなかったじゃろうから仕方あるまいか…」
ビーチェが多分僕をフォローしてくれている。
「う~ん、そうね……ジョルジュ大佐、外してくださる?報告がこれだけならもう行っていいわよ」
唐突にジョルジュ大佐を退室させようとするリタさん
これはここから皇妹派の話し場にする予定だな。
「へ、へい……それじゃあ俺は失礼させてもらいやす…」
少し訝しんでいたが、素直に退室するジョルジュ大佐
ごめんね……仲間外れにするようで
ジョルジュ大佐が退室し、この場にはリタさん、アウレリオ准将、サルトリオ侯爵そしてシリュウ派の4人といつもの面々だけになった。
そしてリタさんが切り出す。
「さっきの話に戻るわね。サンディ・ネスターロ中将が信用に値するかどうかだけど、ある意味で信用に値するわ」
「ある意味…?」
「その人物というより、その明晰な頭脳に私達は全幅の信頼を置いているの。だからあのサンディ・ネスターロ中将が無意味なことしないってね。だからこの手紙には必ず意味があり、意味を持つ時が来ると私達はそう思っている」
リタさんにここまで言わせるとは相当な実力者なのか、サンディ・ネスターロ中将は
アウレリオ准将が更にサンディ・ネスターロ中将のことについて話す。
「…皇国には参謀が3人いる。レア・ピンロ少将、フランシス・トティ中将、サンディ・ネスターロ中将…そして我々王家十一人衆共通の認識では、最も優れた参謀はサンディ・ネスターロ中将で一致している」
「え!?」
アウレリオ准将の発言に驚く僕
あのレア・ピンロ少将やフランシス・トティ中将よりも優れている参謀?
そしてそれが王家十一人衆の中では共通認識になっている?
「だいたい合っているろんよ。『円卓会議』では大体いつもサンディが主導権を握っているじゃもんね。会議の方向性も落としどころも、いつもサンディの思うところじゃないかぬん?」
パオっちも同意している。
「サンディ・ネスターロ中将は齢30とファビオ・ナバロ中将と同い年のかなり若い将軍じゃよ。驚くべきはその出世速度じゃ。かのファビオ・ナバロ中将も王家十一人衆になる少将までには18歳の入隊時から8年要した。パオ少将は18歳の入隊時から7年で少将となった。いずれも驚異的な速度じゃが、2人とも軍学校を優秀な成績で卒業したため少尉からの始まりじゃった。しかしサンディ・ネスターロ中将は22歳に平兵士として入隊したにもかかわらず、わずか6年で少将にまで昇進したのじゃ」
「え!?ファビオ中将やパオっちよりも短い期間で王家十一人衆になったの!?それも平兵士から!?」
ビーチェの説明に驚きを隠せない。
ファビオ中将は皇国一の武術師で、パオっちはかの魔術大国も驚くほどの魔術師だ。
その2人よりも階級が下で始まったにもかかわらず、出世速度が上だなんて…
傑物じゃないか…
更にサルトリオ侯爵が重ねるようにして言う。
「…サンディ・ネスターロ中将は皇国最高学府のタキシラ大学を首席で卒業しているのだよ。卒業後の進路は大商会や研究機関、有力華族や冒険者ギルド、果ては政庁からも勧誘があったそうだが、それらをすべて蹴って陸軍の平兵士として入隊したのだ。そして持ち前の頭脳で平兵士ながら戦線で活躍し、ノースガルド戦線を大きく押し上げた陸軍の英雄だよ」
サルトリオ侯爵がサンディ・ネスターロ中将の陸軍での経歴を説明してくれるが、凄い人なんだと痛感する。
「そんな凄い人がなんで陸軍に?それも平兵士からだなんて…」
僕の疑問にアウレリオ准将が答える。
「サンディ・ネスターロ中将はアレス・デルピエロ大将に心酔…いや…なんというか…仕えているようなのだ。デルピエロ将軍の望みなら何でも叶えるということを生きがい…使命のように感じている節があってな…本人はデルピエロ将軍の奴隷を公言している程だ…おそらく陸軍に入隊したのもデルピエロ将軍が深く関わっているはずだ」
「…それも入隊した時期からずっとデルピエロ将軍に付いていたそうよ。入隊前…いやタキシラ大学前からの知り合いかしら…?」
リタさんが考え込むように言うが、歯切れが悪い。
「サンディ・ネスターロ中将はどこの街の出身なのですか?」
「戸籍上はノースガルドになっているわね。でも多分違うわ。ノースガルドの爺さんにサンディ・ネスターロ中将の幼少期を知っているかどうか聞いたら全く知らなかったもの。あれほどの頭脳を持っているなら幼少期は神童と言われたはずよ。そこの領主が知らないわけないわ」
リタさんがそう答える。
ますます謎な人物だな…サンディ・ネスターロ中将…
「幼少期が謎で…頭脳明晰…まるでシリュウの軍師版のような方じゃのう」
ビーチェが面白がって言う。
「いやいや…凄さは全然違うと思うけど…6年で少将って凄すぎない?」
「シリュウちゃんはいきなり准将じゃないの、そっちも中々凄いとも思うけど…」
「それは偶々ですって…僕も平兵士から始めたら6年で准将まで来れるとは思いませんって…」
「来れるでしょ」
「来れるだろう」
「来れるじゃろう」
「来れるにー」
「来れると思います」
「来れるだろうね」
なんでやねん!
声を合わせて言うんじゃないよ。
「ま、まぁ…とにかくこの手紙の真意はさておき、いつか僕らが迷った時にもう一度見返すということで…」
「確かにそれはそう…そんな事態にならないといいのだけど」
リタさんが心配そうに言う。
王国でも暗殺未遂に巻き込まれたのだ。
現在が後継者争いの真っ最中の帝国では何が起きても不思議ではない。
不測の事態が起こった時に、このサンディ・ネスターロ中将の手紙を思い返すことにしよう。
『門に帰れ』
この言葉の意味を僕達が知る日は、そう遠くはなかった。
シリュウ「会話したことないけどサンディ・ネスターロ中将は傑物なんだろうね」
ビーチェ「皇国軍の主力である陸軍の組織運営を一手に担う重鎮じゃよ」
シリュウ「一手に担う?それは大変じゃない?」
ビーチェ「大将はアレス・デルピエロ将軍で少将はマリオ・バロテイ将軍じゃぞ?」
シリュウ「ああ…うん……サンディ中将が一手に担うことになるわけだ…」




