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第15話 中将からの奇妙な手紙

烈歴98年 6月8日 リアリ・バルカ号 甲板


ビーチェと一夜を過ごした次の日、ビーチェはそれはもうご機嫌になってくれていた。


ずっとニコニコと笑顔でいてくれるし、リタさんが僕を子ども扱いして抱き寄せて頭を撫でても、「どうぞ、ご自由に」と言わんばかりに余裕を醸し出している。


その変容ぶりに周りの人達は訝しんだが、なぜか女性陣にはビーチェがご機嫌な理由がわかっていたみたいだ。


「ベアト……あれは…そういうことよね…」

「……わかりやすい女ね……まぁ…羨ましくもあるけど……」

「……シリュウちゃんも大人の階段を昇っちゃったのね…少し寂しいわ…」


各々に好き勝手言うリアナさんにヒルデガルド、あとリタさんまで…


「そういうことは小声で話してくれませんかねぇ……あとリタさん、多分元凶はあなたですよね?ビーチェに変なこと言うのやめてくださいよ」


僕はジト目でリタさんに抗議する。


「そのことに関しては私が悪かったわ…でも結果的にシリュウちゃんとベアトちゃんの絆が深まったじゃない?雨降って地固まるってやつよ!」


僕の抗議を受け流すリタさん


う~ん


なんか申し訳なさそうにしているし、これくらいにしておくか……


何かもやもやするけど、魔獣でも狩って鬱憤でも晴らそう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


僕はもやもやした気持ちを晴らすべく、航海中の船から飛び出し、海中に潜って龍槍を手に魔獣を狩っていた。


最初はジョルジュ大佐や周りの兵士に「が、外海に飛び込むなんざ自殺行為でさぁ!海流も尋常じゃなく強いですぜ!やめてくだされ!」と止められていたが、僕が蹴りで海中から飛び上がる様子を見て、そのうち何も言わなくなった。


エクトエンドに住んでいたころから、流れの激しい渓流で魚や水棲魔獣を狩っていたから、水中での動きも慣れているのだ。


肉付きの良い魔獣を槍で突いては、そのまま船に持って帰ってを繰り返し、10匹くらいの魔獣を獲れたところで船へ上がった。


船へ上がると、その前に狩っていた数匹をリック(ベタンクール都督)が火の魔術で炙ってくれていたようだ。


「お~シリュウ准将!いい感じに焼けてるよ~。こいつはまた脂が乗っておいしそうだね」


軽い感じで僕に声を掛けるリック


リックが同船してから、僕の魔獣を良い感じに焼いてくれるから食糧には困らない。


そしていつでも美味しいお肉を食べられるからリックの存在はありがたかった。


僕は肉が大好物だから、一日にたくさん食べているのだ。


それにじいちゃんからも「肉を食うのも修業じゃ!」と昔から言い聞かされてきたので、肉を食べることは呼吸をするのと同じくらい当たり前のことだと僕の中で染みついていた。


「助かるよ、リック。一緒に食べようか。あっ他の皆も良ければ食べようよ。昼食前の軽食だよ」


僕が周りの兵士に声を掛けると、少し歓声が上がり食いしん坊の兵士達が寄って来た。


「ひゅ~!シリュウ准将は話がわかるぜ!」

「それに毎日こんな魔獣の肉を食えるなんて……」

「…俺…シリュウ准将が乗る船じゃないとダメな体になりそう…」

「…わかる…こんなに食い物の残量を気にしない長期航海も初めてだ…」


兵士達からは好評だったが、ジョルジュ大佐は苦笑いをしていた。


「シリュウ准将がいると海でも食い物に困らないのは素晴らしいですが、兵士が軟弱になってしまうのも考え者ですなぁ…」


「ん~でもやっぱり空腹は慣れるものじゃないよ。空腹に慣れる努力より、空腹にならない努力の方が大事じゃない?海の魔獣を安定的に狩れるようになるとかね」


僕の提案にジョルジュ大佐は首肯してくれる。


「確かにそうですな。対人戦闘も海の上では重要ですが、対魔獣戦闘の訓練も増やしてやりますか」


「それが良いって。自給自足はやっぱり生きていく上での基本だと思うよ」


「はっはっは!俺も軍暮らしが長くなって、その辺の感覚が鈍くなっていやしたな!確かに!海の上では食糧はそこに無数にありますからな!」


僕の言うことに大きな口を開けて笑うジョルジュ大佐


そんなジョルジュ大佐に航行の予定を聞いてみた。


「今航行はどんな感じ?帝国のハンブルグにはいつ頃着きそう?」


「予定より1日程早く出立しやしたので、順調にいけば明日の昼頃にはハンブルグに到着しやすぜ」


「ついに明日から帝国か……気を引き締めないとね…」


「もちろんでさぁ。……それと…そろそろ頃合いか…」


「…ん?どうしたの?」


「少し話がありやす。リータ殿下とパオ少将にもお耳に入れておきたいのですが…」


お?


なんだろう。


なんだかただならぬ話のようだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

烈歴98年 6月8日 昼過ぎ リアリ・バルカ号 特別会議室


ジョルジュ大佐がリタさん、僕とパオっちに話があるということで、シリュウ派の面々とジョルジュ大佐でリタさんが居る特別会議室へと来た。


特別会議室にはリタさんとアウレリオ准将、サルトリオ侯爵が待っていた。


「海軍から話があるって珍しいわね?何かしら?」


リタさんが物珍しそうに質問する。


「僕からというより、ジョルジュ大佐が報告したいことがあるとのことです。ジョルジュ大佐、よろしく」


そしてジョルジュ大佐に説明を求める。


「お時間をいただきすいやせん。実はフランシス中将より手紙を預かっておりまして、帝国に入国する直前に外交使節団の幹部達に開示せよとの指令を受けておりました」


「…手紙…?…」


リタさんが首を傾げる。


その他の面々も一様に不思議そうな顔をしている。


僕だって初耳だ。


するとジョルジュ大佐が懐から封筒を取り出した。


「それがこの手紙ですぜ。俺もまだ開けておりません」


「開けても?」


リタさんがジョルジュ大佐に確認する。


「もちろん。お願いしやす」


「私が開けよう」


するとアウレリオ准将がリタさんに代わって手紙を開ける。


封筒から出てきたのは1通の手紙ともう一つ小さな封筒が入っていた。


「……手紙を読むわ…何々……」


**********************


外交使節団及び護衛団の幹部の皆様方へ


この手紙を読まれているということはおそらく帝国への入国の直前のことかと愚考します。


帝国へ入国する際に、皇国海軍参謀として余計なお世話ながらお伝えさせていただきます。


まず今回の外交使節団及び護衛団の食糧については充分に積載しております。


具体的には出征から皇国への帰還まで、一度も食糧の補充をせずとも足りる分量を積載しております。


これは諸外国で偶発的に補充ができないことを想定しております。


帰還までは、食糧に関しましては、ご安心召されますようお願い申し上げます。


次に陸軍参謀サンディ・ネスターロ中将より封筒を預かっております。


この封筒はサンディ・ネスターロ中将曰く『迷った時に開封して欲しい』と(ことづか)っております。


その真意は私共では測りかねますが、かのサンディ・ネスターロ中将のご伝言でありますので、重々ご承知おきください。


皇国海軍 中将 フランシス・トティ



**********************


リタさんが手紙の全文を朗読してくれたが、会議室の面々は頭に疑問符が浮かんでいる。


「…な、なんです?この手紙…?」


僕は率直な感想を述べてみた。


「にー。オイラにはわけがわからないろん。でも無駄なことをフランシス中将はしないはずだにー」


パオっちもフランシス中将の真意は測りかねているが、無駄なことではないと信用しているようだ。


「………ライモンド…どう思う…?」


リタさんがサルトリオ侯爵に問う。


おそらくこの中では一番の知恵者だろう。


「………普通なら気にするなと一蹴するような内容ですな。しかし差出人があのフランシス・トティ中将で、もう一人の登場人物があのサンディ・ネスターロ中将です。何か裏や事情があるのでしょうな…それが何かは今この時点ではわからないですが…」


サルトリオ侯爵もこの手紙の真意が見えないようだ。


「前半の部分は意味はわかる。有事に備えているから安心してくれとのフランシス中将の気配りだ」


アウレリオ准将が言う。


それは僕もそう思う。


「…しかし…解せぬのはサンディ・ネスターロ中将の封筒なのじゃ……これは『迷った時に開けろ』と…なんとも奇妙な…」


ビーチェも手を顎に当てて考え込んでいる。


会議室は皆が考え込んでしまったため、変な静寂に包まれてしまった。


この空気に耐えきれなかったのか、リタさんが驚く提案をする。


「…もう開けてしまったら?…気になってしょうがないでしょ?」


「え!?でも迷った時に開けろってありますよ?」


僕がリタさんに言う。


「なら迷った時に見返したらいいんじゃない?」


う~ん、それもありなのかなぁ…?


「まぁまぁ、私が責任取るわよ。開けてちょうだい」


「はっ」


そう言ってアウレリオ准将がサンディ・ネスターロ中将からという封筒を開ける。


その中には手紙が1通入っていて、大きく一文だけしか書かれていなかった。






『門に帰れ』





「「「「「??????」」」」」





いや開けて更に謎が深まるんかい!






シリュウ「サンディ中将って悪戯好きなの?」


ビーチェ「軽薄な印象は否めんが、流石にこのような手の込んだ悪戯はせんじゃろ…」



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