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第9話 母が夢見た世界

縄で縛られた2人の男女


エゴン・レヴァンドフスキ


ヒルデガルド・ラーム


帝国で10人しかいない武術師の最高の称号である十傑の名を持つ2人


縄で縛られていても、2人の表情は対照的であった。


まるで捕虜になっていないように周りを明るい表情で見渡すエゴン


一方、生気を失い項垂れているヒルデガルド


「おいおい。雁首揃えて何を話すんだ?俺様は帝国を売るようなことはしねぇぞ?」


ヘラヘラと笑いながら挑発するようにリタさんに言うエゴン


「別にあんたのことはどうでもいいのよ。16歳の少年に負ける帝国の十傑なんて名ばかりで大したことないわね。がっかりよ」


挑発に挑発で返すリタさん


それに対して激昂するエゴン


「……テメェ…言ってくれるじゃねぇか…だがそいつはただの少年じゃねぇだろ!それはテメェらもわかってるはずだ!」


この人強いんだけどこの短気さが弱点なんだよなぁ


「はいはい。見ての通りエゴンはこの通り懐柔は難しいわ。こいつは帝国との交渉材料にすることでいいわね?」


リタさんはそう言って僕ら全員を見渡す。


僕らは全員が頷いた。


それを見てリタさんはエゴンを連れてきた兵士に合図して、退室させた。


哀れ、エゴン


何しにきたんだ?


僕が不思議に思っているとビーチェが説明してくれた。


「エゴンはシリュウが生捕りしたじゃろ?じゃからシリュウの前で処遇を決めたのじゃ。リータ殿下なりに筋を通したのじゃよ」


そういうものなのか。


僕はもうリタさんに一任しているのに


エゴンが退室して、僕らの視線は残ったヒルデガルドに集まった。


「さて、ここからが本題よ。ヒルデカルドちゃん、あなたはどうしたい?」


項垂れているヒルデガルドに問うリタさん


襲撃の際に、捕らわれてからずっとこの様子だ。


「………私には……何もない………首を切るなり………皇帝に引き渡すなり………好きにすればいい……」


投げやりな答えを返すヒルデガルド


それに対してリタさんが優しく声を掛ける。


「とは言ってもね、私達はそうするつもりはないのよ?」


リタさんの言うことが理解できないのか、聞き返すヒルデガルド


「……どういうこと……?」


「私達はあなたを引き入れたいと考えているわ。皇国に…いや私に仕えなさい」


「「「「!?」」」」


リタさんの提案に驚く僕ら


アウレリオ准将とサルトリオ侯爵は知っていたのか平然な顔をしている。


「……正気…?……帝国の十傑の私を引き入れられるとでも?」


「あなたのことは少し調べさせてもらったわ。事前にリオが調べていた情報とベタンクール都督が持つ情報を合わせてね。………あなたは帝国に、ラーム家にもう忠誠心はないのでしょう?」


「……!?……大した分析ね…確かに今の私には帝国もラーム家もどうでもいい…病弱な母の医療費を稼ぐことが私の生きる意味だった…去年母を亡くして…私は生きる意味を失った……その後は惰性で任務に明け暮れていただけ……それもそこの男に組み伏せられて、十傑としての誇りも砕け散った…私にはもう何もかもがどうでもいいの….」


絞り出すような声で独白するヒルデガルド


その言葉には重みがあるようで、空っぽにも感じられた。

 

「そうは言っても、私達はあなたを必要としているわ。あなたの武術は見事だった。その力を私達に貸して欲しいの」


「…それに…私に何のメリットが…?…もう私は何もかもがどうでもいい…」


リタさんが懸命にヒルデガルドを登用しようとするが取りつく島もないヒルデガルド


膠着状態になってしまったが、切り出したのはアウレリオ准将だった。


アウレリオ准将は持っていたロングソードでヒルデガルドの縄を切り、両手を解放させた。


「!?」


アウレリオ准将の突然の行動に驚くヒルデガルド


しかしそれに構わずアウレリオ准将はヒルデガルドの両手を握りしめて、顔を近づけて熱弁した。


「私達には、君の力がどうしても必要だ。それに君の剣技はとても美しかった。天才少女だと持て囃されただろうが、実際は相当な修練を積んだのだろう。それはこの両手から伝わってくる。それに逆手での剣技も見事だった。ヒルデガルド・ラームはここで終わる剣士ではない!」


「……!……でも私は…」


アウレリオ准将の熱弁に顔を背けるヒルデガルド





ん?





ん?






ヒルデガルドさんや







顔が少し赤くないですかね?


「そんなに自分を卑下することはない。君のような可憐で気高い剣士など、大陸探してもそうはいまい。私達の仲間にならなくとも、私は君に生きてほしいと思う」


「そ、そんな……」




これって武将の登用ですよね?





愛の告白にしか聞こえませんけど?



僕がそう思って、周りを見渡すと皆んな「こいつやってんねぇ」と同じ顔をしていた。


パオっち以外


そしてこの機を逃さないのがリタさん



席から立ち上がってヒルデガルドの肩を組む。


「リオ、あんたはちょっとあっちに行ってなさい」


「わ、わかった」


リタさんはアウレリオ准将を部屋の隅に追いやり、ヒルデガルドと小声で話す。


しかし会話の内容はアウレリオ准将以外には丸聞こえだ。


「リオって綺麗な顔してるわよね?中々の男前でしょ?」


「………わ、私は……別に……//」


「いいのいいの、隠さなくて。私はあなたの味方よ?」


「み、味方?」


「あいつ、極度のマザコンでね。27にもなって碌に女性とお付き合いしたことないの。今も特定の相手はいないはずよ?」


「………そ、それが……私と何の関係が……?//」


否定してみせるが、ヒルデガルドのアウレリオ准将への好意は隠しきれていない。


まぁめちゃくちゃ美形で、あんなに情熱的に口説かれればね。


それにアウレリオ准将の強いところもたくさん見ただろうし


「私の臣下になったら、あなたの役職はリオの副官よ」


「…!?」


「それに功を積んだら、リオとの結婚も仲介してもいいわ」


「け、けけけけ結婚…!?わ、私はまだ24よ…!//」


「帝国の結婚適齢期がいつか知らないけど充分じゃない。そこのシリュウちゃんは16歳で既婚者よ?」


唐突に槍玉に挙げられる僕


とりあえずヒルデガルドと目が合ったので、愛想笑いをしておく。


あっ


目を逸らされた。



解せぬ。



「……しかし…私は…」


「大丈夫、私が、リオがあなたの家族になるわ。それにお母さんのお墓も帝国にあるんでしょう?私達が目指す世界は皇国に仕えるあなたがいつでもお墓参りのために帝国に帰省できる世界よ」


「………!……それは…母が夢見た…世界…」


「そうなの?」


「……私の母は……地理が好きだった…皇国の文化遺跡や王国の観光都市の話を私にしてはいつか行ってみたいと話していた。しかしこの戦乱の世の中じゃ一般人が他国に旅行に行くなんてかなり難しい…」


「……素晴らしい夢だわ…でも私はそれを大真面目に目指しているの。普通の人が当たり前に他国に旅行できる、そんな国境なき世界を」


「……あなたは…その覚悟があるのか….?」


「もちろん。私はこの戦乱によって生まれている不条理を無くすために立ち上がっている。それには覇権を唱える帝国を打倒しなければならない。そのために帝国の事情に明るく一流の武術師であるヒルデガルドが必要だわ」


「……私が……必要……」


リタさんはヒルデガルドに伝えたい全てのことを伝え終わったのか、立ち上がってアウレリオ准将に声を掛けた。


「リオ、いいわよ。最後はあなたの言葉で押してちょうだい」


「何の話をしていたか、わからないが…いいだろう。ヒルデガルド、もし私達の仲間になってくれるなら、君が望む私ができることは何でもしよう」




ん?いま何でもって言った?




「な、なんでも!?」




ヒルデガルドも驚きふためいている。




「天然のスケコマシ野郎ね」

「まぁ演技とはいえ、社交の場で華族令嬢のお相手をたくさんしていましたからのう…」

「おお、無垢な青年の純情はどんな達人の矢より可憐な武人の心を射ることができている」

「あわわ…国を超えた恋…!素敵…!」

「眠いろん」


皆様々な反応を見せている。


パオっちはもう興味なさそう。







そしてついに




ヒルデガルドがリタさんの前に膝をついて頭を下げた。



「………ヒルデガルド・ラーム……いえ、今の私はヒルデガルド………リータ・ブラン・リアビティ殿下に、ここに忠誠を誓います」



「よろしくね。ヒルデガルドちゃん」



ここに帝国十傑第9位『紅猫』ヒルデガルド・ラームはリタさんの下へ降った。



そしてヒルデガルドはアウレリオ准将に向き合った。


「私の役割は…あなたの補佐……よろしくお願いするわ……その……リオ様…」


辿々しくもアウレリオ准将に挨拶するヒルデガルド


「ああ!よろしく頼む!」


そんなヒルデガルドの両手を掴み、満面の笑みで応えるアウレリオ准将


赤面し、顔を背けているヒルデガルド



そんな2人を僕はとてもお似合いだと思った。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 いわゆる『無自覚すけこましイケメン』ってやつですね准将…一昔前の主人公みたいだww 演技の際は自分のイケメン具合を自覚しながら受け流す=冷たさも感じる対応なんでしょう…
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