7 七海、襲来
千堂七海は、見慣れた玄関の前で立ち尽くしていた。
気分は暗い。高斗の家にお邪魔することなど、何年ぶりのことだからだ。
七海は高斗の幼馴染で、金髪のポニーテール、切れ長の二重に高く通った鼻筋と、非常に整った容貌をしている。
彼女はさっきからドアの周りをウロウロし、何度も帰ろうとしたが、結局帰りきれずに覚悟を決めると、またドアの前に向かい合った。
そして、震える指でインターホンを押した。
“とある事情”により、高斗が今自室にいることは知っていた。高斗の部屋からリビングを通り、玄関まで到達するのにおよそ二十二秒かかることも知っている。
三十四秒……四十一秒……五十六秒……一分……。
既に二分が経過した。出迎えるのが早い高斗にしては珍しい。
(ああん、高斗のやつ、何で出ないのよ! もしかして、羽波先輩や芹奈に先を越されちゃった!? 今頃ベッドの上でイチャイチャして、あたしのことなんか無視してるとか!? ううん、そんなことない。あたしは高斗の幼なじみなんだ。あんなおっぱいがデカいだけのメス牛や、貧弱な体系のメスガキなんかに、高斗は惑わされない! ああ、でも……。高斗、それならどうして出てくれないの?)
七海の不安はとどまることを知らず、一刻も早く高斗の顔を見たい一心で、ただひたすらにボタンを押すべし、押すべし、押すべし。
何度チャイムを鳴らしただろうか。これだけ鳴らせば、さすがに聞こえてるはずなのに。
(大音量で音楽でも聴いてるとか? そんなわけないか。高斗の部屋にはCDプレイヤーもコンポもないし。ええい、高斗め。居留守を使うなんて生意気よっ)
その後も、インターホン連打にドア叩き。
この二つを交えたが一向に高斗は現れなかった。
「ああ、もう! たーかーとー! 何で出てくれないのよ! いるんでしょ!? 分かってんのよ! 早く出てこないと殴るわよ! それとも、幼稚園の頃から隠してる高斗の秘密、大声でバラすわよ! 遠足に行くバスの中で、みんなが見てる前でお漏らししちゃったこと、学校中に言いふらすわよ! それでもいいの!?」
これだけ言えば、いつもならすっ飛んでくるはずだけど、相変わらず高斗は出てこなかった。
(むう、高斗ったらいつからこんな強情になったのかしら? こんなに清楚で可愛らしい幼なじみが尋ねてきてるっていうのに。高斗のくせに生意気だわ!)
迷惑な行為をしてるのは自分だなどという考えは、今の七海には浮かんでこなかった。むしろ、さらにしつこくインターホンを鳴らし続ける。
(もう! 弱虫で、意気地なしで、優柔不断の臆病者……。でも、あたしはそんな高斗が世界で一番好き……あの時から)
七海はがっくりと肩を落とすと眼を細めた。
高斗を初めて異性として意識した“あの日”のことを思い出していたからだ。




