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29 死なせはしない!

「高斗――――!」


 反射的に直毘は叫んだ。そして急いで駆け寄ると、高斗の体を抱き起こした。予想していたとおり、手の施しようがないほど損壊は激しかった。


「しっかりするのじゃ!」


 首をガクガクと揺れ動かしながら直毘が叫ぶ。高斗は一瞬顔をしかめながら「うっ」と声を漏らして目を開けた。


「や、やあ。ナオ」


「気がついたか、高斗!」


 直毘はわずかだが安堵した。よかった、まだ生きている。しかし火傷はもとより、圧迫による内臓破裂も凄まじい。直毘は高斗の首に腕を回してぎゅっと抱きしめた。こんな酷い目にあわせてしまうとは!


 直毘は、涙が溢れそうなのを懸命に抑え、気丈に言った。


「大丈夫じゃ、高斗。わらわが来たからにはもう安心じゃぞ」


 我ながら、何と情けなくて弱弱しい言葉だ、と直毘は思った。

 これだけの深手、一体どうやったら治せるというのだ!


「ナオ……」


「ん? なんじゃ? 高斗」


「……」


 高斗は直毘の腕の中で、微かな呼吸を続けていた。

 その小さな動きは、いつ止まってもおかしくないほど儚いものに見えた。


「……だ」


 高斗は小声で呟いた。直毘には、ハッキリと聞こえた。


 もういいんだ。確かにそう言ったのだ。


「ぼくは、もう助からない……」

 

 そして、彼は遠い目をしながら呟いた。


「ばか!」


 高斗はゆっくりと目を閉じようとしたが、直毘はそれを許さない。荒々しく肩を揺さぶり、永遠の眠りを阻止した。


「高斗! まだじゃ、まだ桂馬瑠璃とも結ばれておらぬではないか!」


「桂馬さんは……遠い所に引っ越す。もうぼくには、告白する理由もない……」


「誰でもよい! 恋人を作るのじゃ! そうすれば生き返れる!」


「この体じゃ……もう無理だよ」


 直毘がいくら鼓舞しようとしても、高斗は薄い反応しか見せなかった。直毘は恐怖に顔をひきつらせる。高斗はもう生きることを諦めているのか。彼を現世に引き止めることは、もうできないのか。


「ナオ……きみは、ぼくに色々世話をしてくれたね。それは、使命感からだったの? それとも、ぼくのことを想ってのことだったの?」


「な、何を言う……」


「答えて。きみはただ義務を果たそうとしただけなのかい?」


「違う!」


「やっぱり。きみはぼくの記憶を封印していたんだ。きみとぼくは以前から知り合っていて、旧知の仲だった。そうだね?」


「……そうじゃ」


「だったら、もうハッキリ言ってくれないか? きみだって分かってるはずだろう? ぼくはもう生き返れないと。バラバラにでもなれば蘇らせることは出来ないと、ナオだって言ってたじゃないか」


「駄目じゃ! わらわは、何年もかけてようやくおぬしとまた再会できたのじゃ! それなのに……! もう、大切な人と別れるのはいやじゃ! おぬしと、もう離れとうない……」


 大声で張り上げる直毘の声は、だんだんと尻すぼみになっていった。直毘には、もう分かっていたのだった。自分には、何も出来ないと。そしてそれを認めることができずに、彼女は大粒の涙を流した。


「なあ……高斗よ。おぬしが言ってくれたのじゃぞ。わらわの友達になってくれると。そばにいてくれると。それなのに、おぬし自身が約束を破るのか? 許さぬ。死ぬことなど、わらわが許さぬぞ!」


 そう叫ぶが、もはや自分の言葉には何の効力もなかった。もはや何をすることも出来ず、ナオは高斗の体を強く抱きしめながら泣き叫んだ。


 その時だった。


 直毘の体から眩しいほどの光が発せられたのは。

 閃光に包まれながら、直毘はただ一つのことを強く願った。


 死ぬな、高斗!


 光はどんどん光度を増していき、まるで小さな太陽のような輝きを見せた。

 その輝きは、直毘を、そして高斗の体も全て呑み込んでいったのだった――――

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