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17 早くしなさいよ!

「ど、どうしよう。ナオ」


 困惑する高斗に向かって直毘は、

「拒絶という選択肢はあるまい。まさか朝から殺しにきたわけでもなかろう」


「そ、そうだよね……」


「それに、忘れてはおるまいな? 恋人を作らねば、おぬしは死ぬのじゃぞ? たとえ嫌であったとしても、冷たい態度を取るのは得策ではあるまい」


「うん。今は七海と顔を合わせたくないけど、仕方ないよね……」


 そう言うと、高斗はため息をつきながら玄関へと向かった。


 冗談抜きで自分はまた殺されてしまうかもしれない。現に、昨日高斗は芹奈に殺されたのだ。

 恐る恐るドアを開く高斗の目に入ったのは、いつもの七海の不機嫌な顔だった。


「ふん、昨日より出てくるのが五分十九秒早かったじゃない。少しは見直してあげてもいいわ」


「み、見直さなくていいよ、そんなこと……」


「そんなことより」

 と、七海がピンク色の可愛らしい弁当箱を渡してきた。


「食べなさいよ。今日のお昼に。どうせ今日も購買に行く気なんでしょ? あ、安心して。あんたの嫌いなものは入れてないから」


「……ありがと」


 高斗はこわごわ弁当箱を受け取った。七海には悪いが何が入ってるのか気が気でなかった。昨日の件もあるし、つい警戒心を持ってしまうのだ。 


 しかし、七海はそんなことお構いなしとばかりに、

「さあ、早く支度してきなさいよ。せっかく幼馴染の美少女が迎えにきてあげたんだから。これ以上待たせたら罰が当たるってものよ?」


「ぼくのことなんか待たなくても、一人で行ってくれていいよ?」


「あー、もー、うるさいわね。高斗のニブチン! 鈍感! このあたしが待っててあげるって言ってんだから、四の五の言わずにとっとと準備する!」


「わ、わかったよ……」


「二分で戻ってきなさいよー!」


 踵を返す高斗の後ろで七海の叫び声が聞こえた。彼女は何事にも機敏で、いつもテキパキとしている。優柔不断で、どちらかと言うとのんびりしている高斗とは正反対の人間だった。事実、いつも喧嘩ばかりしている。

 しかし、直毘の言葉を信じるなら七海はツンデレで、高斗に対する好意を隠そうとして、あえて嫌っているそぶりを見せているという。つまり、憎まれ口を叩くのは愛情の裏返しなのだ。


 また面倒なことになりそうだ。高斗はリビングで大福を頬張ってる直毘に、

「それじゃあ、行ってくるよ」

 と声をかけた。


 高斗の言葉に、直毘は軽く手を振って挨拶をした。


「うむ。気をつけて行ってくるのじゃぞ。何かあればわらわもすぐに駆けつける」


「ありがとう。何事も無いのが一番なんだけどね」

 

 希望的観測をもって、高斗は答えた。その観測が裏切られることを、この後高斗は身を持って知ることになるのだが。

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