12 華麗なる真綾
「え……何、これ……?」
リビングに入った高斗の目に映ったのは、高級ホテルで使われてそうなクロスが敷かれたロココ調のテーブルであった。その上にはダイヤで出来た花瓶に生けられた大輪の薔薇。その横では高そうなカットフルーツの乗ったタルトに、これまた美味しそうな香りのするダージリンティーが、白磁のティーカップの中で湯気を立てていた。
あっけに取られる高斗を前に、真綾は優雅な微笑みを浮かべた。
「高斗さま。真に僭越ながらご用意させていただきましたの。さあ、わたくしとティータイムをいたしましょう?」
「……いたしましょう? じゃないですよっ。何勝手にあがりこんでるんですか、真綾先輩!」
「いやーん。わたくしのことは、『マヤたん』と呼ぶ約束ですわ~」
「真綾先輩に対して、そんな呼び方……」
「……マヤたん、ですわよ?」
「分かりましたよ。マヤたん、先輩……」
高斗は諦めてそう呼ぶことにした。
「きゃはっ」
すると真綾は、実に嬉しそうな笑顔を見せた。
(こ、この人は本当になんなんだ……)
不法侵入をしておきながらここまで堂々とされると、怒るより逆に呆れ果てるしかなかった。
「むう。そのようなお顔をされたら傷つきますわ。せっかく高斗さまのことを思って準備いたしましたのに~」
いやんいやんと真綾が首を振ると、振動で大きな双乳がたぷんたぷんと揺らめき、高斗は顔を赤く染めた。
羽波真綾は高斗が通う学園の生徒会長を勤める、大財閥のお嬢様である。
去年に一度文化祭の準備を手伝っただけなのだが、どういうことか高斗を気に入っており、それ以来あの手この手で迫ろうとしてくる。
彼女は緑青色のウェーブしたロングヘアーで、天女を思わせるような優しい笑みを携えた美少女である。さらに驚嘆すべきはその豊満な体つきで、特に胸は小ぶりなスイカほどあるだろう。
「うふふっ。高斗さまったら。さっきからわたくしの胸ばかりじーっと見つめて。いやらしいですわ~」
……そう言うが、見るなという方が無理なほど見事な巨乳なのだ。
「……す、すみません。もう見ませんから」
真っ赤になって俯きながら高斗が言うと、
「駄目ですわ! 見ていただきませんと! わたくしの体は、全て高斗さまの為だけにありますの!」
「は、はあ……そうなんですか……」
はっきりと言明されるが、内容は実に馬鹿らしい。
「それよりも高斗さま。はやくお席におつきになって。それとも、わたくしとのティータイムはお嫌ですの?」
一足先に席についた真綾が、またもや胸を揺らしながらテーブルを指差す。
(お嬢様なだけあって本当に強引だよな……でも、別に害意はなさそうだし)
何よりも、目のやり場に困る!
高斗は躊躇しながらも促されるまま席についた。
「それじゃあ、いただきます」
「どうぞ、めしあがれ~」
高斗がちょこっとカップを傾けると、緋色の液体が波打った。匂いを嗅いでみると、濃厚な香りが鼻をくすぐる。
ふと真綾の様子を見ると、口をつける気配はない。先に高斗が飲むのを待っているようだった。
少しはいじらしいところもあるじゃないかと、高斗は失礼して先に紅茶を飲むことにした。
すると……。
「んぐっ……」
途端に舌は痺れ、ビリビリと全身が麻痺し、持っていたティーカップを落とすと高斗はテーブルの上に崩れ落ちた。起き上がろうとしても体は動かせず、ビクン、ビクン、と痙攣する。
「うふふ! あははははははははは!!」
倒れた高斗を見下ろしながら、真綾が高笑いを浮かべた。
「どうして、笑って、るんですか……」
高斗は呂律の回らない舌で、懸命に言葉をつむいだ。
「……どうして、ですって? 決まってますわよ。これで高斗さまが、ついにわたくしのものになったからですわ~」
そう言うと真綾はニヤリと笑った。いつものような天女の微笑みではない。それはまるで、悪魔の笑顔だった。




