第98話 ヤキモチ
セッションは大盛況だった。アンが何か言いたそうに僕を見ていたが、スタッフに連れられ僕はそのままステージを降りた。アンだけではなく僕にも盛大な拍手が送られた。アンのフィールドなのに何故かこそばゆく感じてしまった。
母さんと佳織さんは笑顔で出迎えてくれたが、衣織は少し、凛に至っては完全に膨れっ面だった。
「……ごめん衣織、突然こんなことになっちゃって」
「別に!……初対面なのに……やけに親密なのね」
ジト目で見られた。
こ……これはもしかしてヤキモチですか!?
「親密だなんて……」
「知らない」
機嫌を悪くしてしまった。そして、佳織さんが悪い顔で笑っていた。
アンとは初対面ではないのだが、話せば長くなる。二人っきりなら今すぐ話すのだが、今はお互いの母親がいる。今日のお詫びを含め、衣織には明日きっちり話そうと思った。
「兄貴、なんでバトルしなかったんだよ!」
この格好の時に兄貴って呼ぶんじゃない。
凛はアンの挑発に乗らなかったことが気に入らなかったようだ。
——このあと僕たちはイベントを最後まで見届けてから、それぞれ帰宅の途についた。
帰り道、衣織にメッセージを送りたかったのだが、ずっと凛のクレームを受けていたのでそれどころではなかった。
せっかく母さんがいたのに衣織のことをきちんと話せなかったのも心残りだ。まあ女装していて、アン・メイヤーと出会って、ステージへの飛び入りがあってって考えると仕方ない。
「鳴」
「なに母さん」
「衣織ちゃん、いい子ね」
何をいきなり藪から棒に。
「佳織の娘ってのもあるけど、泣かせるようなことしちゃダメよ」
「分かってるよ」
「本当に分かってんのか? あんなにアイツと心の通い合った熱い演奏しやがって! 浮気者かよ!」
心の通い合った熱い演奏……凛はあのセッションにそんなイメージをもったのか……だから機嫌が悪いのか?
ん……もしかして衣織も?
……それでヤキモチを?
いてもたってもいられなかった。僕は帰ってすぐに衣織に電話した。
すこし小言を聞かされたが、最後は許してくれた。
アンと過去にコンクールで出会ったことは話したが、アンがきっかけでギターをやめたことまでは話さなかった。
電話でするような話じゃない、会って直接話したい。
ユッキーのお願いからはじまって、女装がバレて、アンと再会して……色々濃い1日だった。
でも、今日の出来事は更なる騒動の幕開けに過ぎなかった。
無自覚野郎!
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