第168話 ミュージック・ビデオを撮影したいのです
学園祭の『織りなす音』のライブは色んな意味で伝説になった。僕イコール、ルナにはならなかったが、僕イコール女装のイメージは完全に定着してしまった。
黒歴史である事に間違いない。
黒歴史である事に間違いはないのだが……様子が少し違った。
『音無って女装趣味なの? やだぁ』
『えっ! 音無女装趣味なん? キモッ』って感じではなく、皆んな僕の女装を好意的な目で見てくれているのだ。
むしろ羨望の眼差しを向けられているまである。
ちなみに衣織と付き合って以来、毎日のようにあったやっかみの目も無くなった。
とはいえ、僕は無理やり女装をさせられていただけなので、期待されても困るのだ。
とにかく全校生徒の僕を見る目が、あのライブ以来確実に変わってしまった。
そして学園SNSもあの日の僕の写真で溢れ返っている。
ミスコンを開催すれば窪田衣織に勝つんじゃないか? なんて馬鹿な憶測まで飛び出す始末だ。
女装の影響で衣織と付き合ってからずっと受けていた、男子からのやっかみは無くなったが、僕の平穏な日々はまだまだ戻りそうもない。
「というわけでミュージック・ビデオを作りたいのです! 撮影させてもらえませんか?」
と申し出てくれたのは映像研究会の鳥坂さん。
メガネキャラだ……身だしなみは一見清楚だが……。
今風のルーズなお下げ髪に……爆乳と言っても過言ではない巨乳。
目のやり場に困る人だ。
「織りなす音のミュージック・ビデオを作らせてもらいたいのです!」
「だそうよ衣織……ウチは全然いいけど」
少し困惑しながら衣織に決裁権を投げた結衣さん。
「皆んな、どうする?」
衣織も少し困惑の表情を浮かべている。
もしかして知り合い?
僕的にはミュージック・ビデオ制作はプロ志なら当然経験しておいた方がと思うけど……。
「あーしは別にいいよ」「私も」
みんなは乗り気のようだ。僕もミュージック・ビデオ制作そのものに問題はない。
「僕もミュージック・ビデオ制作自体には問題ありませんが……」
「何が問題なのです!」
ずいっと顔を寄せてくる鳥坂さん。なんか僕の周りはパーソナルエリアが崩壊している人ばかりだ。
「この……女装ってのがちょっと……」
「な、な、な、な、な、何を言っているのですか音無くん! いま我が学園で1番ホットな話題は音無くんの女装なのですよ!」
「でも……ほら、あの時は『男女逆転コンテスト』で女装しただけなので」
「な、な、な、な……あれほどの完成度をもってしても、たまたまと仰るのですか!?」
なんだこの人テンション高いな。
「いや……でも普段から女装してるほうが珍しくないですか?」
「うぅぅ……でもボクは女装が撮りたいのだ!」
ぶっちゃけた……この人ダメな人だ。
直感的にそう思った僕だった。
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