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第3章 流浪の果て(14)

「後悔することになると言っただろう? 」


 自身を拘束していた、重い鎖から解放されたシンはそう言ってマリーの手を取った。


 シンの言葉に、マリーは知らず微笑んでいた。


「……後悔なんてしてないわ」


 マリーの口にした答えに、シンは苦笑した。


「悪いがここを出る前に、俺についてきてくれ」


 そう言って、シンは終焉牢の更に奥を指差して歩き始めた。


 前を行くシンに遅れぬようにと歩きながら、マリーはこの終焉牢の内部に既に自分達以外の人影が無くなっていることに、その時初めて気が付いた。


 周囲はひっそりと静まり返っており、人の気配は微塵も感じられない。

 

 扇動者であったリオンが凶弾に倒れたことで、他の者達は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった後らしかった。


「随分な結束の連中だな……リオンがやられただけで散り散りか。あいつら一体何がやりたかったんだ? 」


 シンは呆れたようにそう呟きながら、マリーを導くように前を行き、暫く歩みを進めた後、鉄格子の嵌め込まれたひとつの牢の前に辿り着き、立ち止まった。


「大尉、俺です。聞こえますか? 」


 シンは深淵の闇に呑まれたような、静寂に包まれた鉄格子より更に奥の空間へ向かってそう叫んだ。


 その闇の中から、ややあってから答える声があった。


「……その呼び名は止めるようにと、しつこい程に言ってあったはずだが……? お前の記憶の中では、どうやらそれが完全に抹消されているらしいな」


 若干、苦々しさの混じった声と共に、ジーク・アストリーがその姿を現した。


「そうでしたか……。どうしても慣れることが出来ないんですよ。鬼のような上官様を、馴れ馴れしく名前で呼ぶことなど、俺には到底出来そうにない」


 シンは一切悪びれた様子も見せずにそう言った。


「……俺がここを出たら半殺し決定だな、シン。お前、言ってるだけで本心では、何時も俺のことは上官を上官とも思ってないだろう。素直になれよ。……それにしてもまさか本当にお前が、俺をここから出してくれるとは思っていなかったが……ああ、そうかあなたのおかげか……」


 シンの背後で佇んだマリーの姿を認め、ジークはやや驚いた表情を浮かべた。


 だが、マリーの首にかかった革紐の先にあるものに目を留めると直ぐに表情を和らげ、言葉を続けた。


「結局は俺の望んだ通りの結果になったな。……まあどうでもいいことだが。俺はお前のその姿が見られただけでもいたく満足だ。お前のような稀代の死にたがり屋も、軍の中には他にいなかったからな」


 ジークが悪趣味な程、にやにやと笑う様子に、一人マリーは言葉の意味を測り兼ね、不思議そうに首を傾げた。


「妙なことを言うのは勘弁してくれませんか。もう過ぎたことです」


 シンはひどく居心地が悪そうに苦笑いしつつそう言いながら、手にした銃を鉄格子の扉の鍵へと向け、引き金を引いた。


 瞬時に砕け散り、破片となった鍵の残骸が四散し、シンの足元へと落下していった。


 牢獄の扉が重く軋むような音を立てて開かれた。


「何時かあなたを一度だけ見かけたことがあった。礼を言わなくてはならないな……」


 ジークはマリーに敬礼しながら、そう言った。


 マリーは黙って、何度も首を横に振って見せた。


「出来ることなら、上手く脱出して下さい、大尉。多分クリューガーが死んだ今、この国にとって俺達は逆賊以外の何者でもないでしょうから……」


 シンは俯きながら、そう言った。


「その言葉はそっくりお前に返してやるぞ。……俺は今まで通り上手くやるだけだからな。ここさえ出られればどうとでもなるだろうさ。同じ徹は二度は踏まん」


 シンはジークのその様子に頷きつつ口を開いた。


「……確かにその通りだ。俺はどうかしていたらしい。大尉はこの俺とは比べ物にならないほど有能で優秀ですからね」

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