9:ピンチではないですね
捕まっちゃいましたねぇ。
……おそらくですが、あの冒険者。魔法使いのチロさんが盗賊たちに襲撃を掛けた瞬間。急いで森の中に身を隠したのでしょう。開けてはいますが、ちょっと踏み込めば森になってますからね、この辺り。チロさんの魔法によって逃亡防止用の火球が放たれていますが、それよりも前に逃げ出した腰抜け盗賊ならそうおかしな話ではありません。
後は後ろから斬りかかって確実に相手を仕留めようとしたところ……。たまたま私を発見。アンブッシュで倒すよりも人質を使って上手く利用した方がいいと判断し、捕まえたって感じでしょうねぇ。
(後、普通にこの人力強いですね。ぎゅって握られたらそのままゴキって折れちゃいそう。)
うーん、ちょっとピンチ。
そんなことをのんきに考えていると、私の首根っこを利き手じゃない方に持ち替えながら、ゆっくりと茂みから顔を出す彼。腰に差していた剣を引き抜き私の顎近くに持って行くことでいつでも殺せる構えに入っています。
人質を取ったのであれば、相手にわかる場所にそれがなければ意味がない。それを盗賊のお頭? まぁ彼も理解しているのでしょう。敢えて音をたてながら、チロさんに向かって歩き始めます。
流石にそれだけされれば私の尾行も気が付かなかった彼女にも理解できるようで……。急いで振り返った彼女の顔には、驚きの表情が浮かんでいました。
「おーっと。一歩も動くなよ魔法使い。こいつがどうなったっていいなら話は別だが。」
「っ! カーチェちゃん! なんで!?」
「はっ! お前さんも知らなかったって口か。どうせ冒険者とやらが気になってついてきちまったんだろうよ。まぁ俺様としては大助かりだが、な?」
あら、軽くしかご挨拶してないのにもう名前覚えてくれてるのチロさん。はえー、すごい。
私なんか取引先の人の名前、何回聞いても憶えられなかったのに……。いやまぁアレは睡眠不足&過労で色々終わってた時だから仕方ないかもだけど。あ、あとお頭さん? 普通に首根っこつかまれると痛いのでせめて服掴んでくれません?
「あんたッ! 卑怯なマネなんかしないで離しなさいッ!」
「そーはいかねぇよなぁ? こちとらようやく拠点作って人集めてた途中なんだ。それが一気にお前さんにぶっ壊されたと考えると……。“お詫び”してもらわねぇと気が済まねぇだろう?」
「あ、このゲームR15でしたし。私5歳なんでそういうの控えてもらっていいですか?」
「……は?」
え、いやだって子供の前でおっぱじめようとしてたらふつう止めるじゃないですか。
……というかコイツ。急に私が話しかけたせいで隙晒してね?
そう理解した瞬間。即座に体が動き始めます。
小さく唱えるのは前世の言葉。私が持つ力の一つであるアイテム欄を開き、取り出したるは以前もお世話になった便利な兵器。放出された直後のものを採取した『うしのふん』です。すごくあつい。それを手に取った瞬間、考えるよりも先に盗賊の顔にシュート。半ば穴という穴に押し込むような形に、です。
「ぉごッ!?」
「……ぇ。」
お頭さんの悲鳴と、何が起きているのか理解できていないチロさん。
そして彼が驚いたことで拘束から抜け出せた私。後はもう、解りますよね?
そうです処理のお時間です。
(といっても私が殺してももう経験値は入りませんし……。チロさんに譲るとしましょうか。)
ほかほかの物体をねじ込まれたことで可哀想になっている盗賊さん。流石に色々と堪えるのでしょう、緩んだその手から剣を奪い取り、即座に足の甲に切っ先を叩き込みます。彼からすれば五感の内、視覚と嗅覚と味覚を糞でやられている状態。避けれるはずもなく直撃し、姿勢を崩します。
後は動けないよう胴体にいつもの、経験値おじさんの血が大量に染み込んだ『木こりの斧』を叩き込んで置けば……。うんうん、若干両断できてないぐらいに止めれましたね。生きてます!
「完璧なダメージ管理ですね。ということでチロさん、トドメお願いします。」
「え、は?」
「トドメ、やって? 早く。」
「あ、はい。」
そう急かせば少し慌てながら『小火球』を放り込んでくれる彼女。
情報を脳に叩き込み過ぎたのか何も解ってない顔をしていますが、すぐに動き始めているところは高得点。
瞬きの間に小さな火球が勢いよくその手から放たれ、盗賊のお頭に直撃。絶命させます。人だけじゃなく糞も燃えちゃってるので若干匂いますが……、まぁ無傷で切り抜けたので良かったということにしておきましょう。あ、手洗お。水もアイテム欄に入れてるからすぐ綺麗にできて便利ですよねぇ。
「そうだ。チロさんも手洗います?」
「あ、や。結構です、はい。」
「いくらでも出せますから言ってくださいね。……あ、そうそう。盗賊たちが持ってた物資とかですけど、全部所有権はチロさんのものになりますので持って帰ってくださいね。ちょうど馬車とかありますしそれに積んで帰ってください。あ、馬はいませんけど牛は貸し出せますので馬車ならぬ牛車にはできますよ。」
そう言いながら、車体だけになった馬車の方を指差します。
どうやら盗賊たちが近くの道を通る商人などを襲って手に入れた品のようです。いくらか積み荷も残ってますし、町で売却すればいい値段に成るでしょう。普通なら馬もいるはずなのですが……、おそらく食べちゃったのでしょうね。まぁ森の中で安定的に食料を得るのは難しいですし、品種や調理次第では美味しいですからね、馬。
(商人さんには悪いですが……、ウチの村の人ではありませんしね。別に死のうがあんま関係ないんですよ。)
基本、盗賊の持ち物はその討伐者に所有権が移ります。もし私達の村から被害が出て何か盗まれたとなれば買戻しなども考えるのでしょうが、今回は一切そう言うのはありません。
それにそもそも、私達の村は小さな村ですから持っている貨幣には限りがあります。しかも今回チロさんに討伐を依頼したせいで更にその量は減っていますし、此方で買い取るのは色々と難しい話。チロさん的には全部売り払って身軽になりたいでしょうが、無理なものは無理。大人しく馬車と一緒に王都に帰って頂かねばなりません。
そしてその馬車に……、私が忍び込むって寸法ですね。
ふふ。実は経験値おじさんを引っ張ってきた時に、確認してたんですよね~。
「じゃ、そういうことなので。一応村に達成報告しに来てくださいね。お夕飯はママがいいの用意してるみたいですから楽しみにしておいてください。では失礼します。」
「あ、はい……。」
というわけでカーチェちゃんかえって寝まーす。ふわぁ、働いたから疲れた。晩御飯までゆっくり寝れそ。そう言えばなんか、チロさん途中から返事しかしてなかったけど……、お昼寝の方が重要なので後は一人で何とかしてくださーい。んふんふ、お布団楽しみ。
「…………は?????」
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