68:グッバイお昼寝
「はい、ということで帰って来ました我が故郷。あ、チロさんにモミジちゃん。お疲れさまでした。ワンパンで沈むような雑魚でしたが、ラスボスであることは間違いありません。結構な経験値でしたでしょう?」
「まぁそうね。無駄に心を削られた気もするけど、強くなったのは実感できるわ。」
「……もぅゃだ。」
少し応えながらもいつも通り返してくれるチロさんに、その場で崩れ落ち痙攣しながら泡を吹き始めるモミジちゃん。まぁ途中から『腕と心が痛い!』とかふざけたことを言い始めたので、無理矢理ボブスーツを展開することで強制稼働。適宜テーちゃんによる転職休憩タイム(2秒)を挟みながら、延々と邪神を処刑させちゃいましたからね……。
仕方のないことだと推察できます。
ご存じのことかとは思いますが、私も倫理を解する人間。このような行為がモミジちゃんの心に多大な影響を与えるということは理解していますし、褒められた行為でないことは理解しています。しかしラスボスよりも狂的な辺境伯を倒すためには、それ相応の力が必要です。今のままではお荷物どころか会敵した瞬間にお陀仏なステータスですもの。コラテラルダメージという奴です。
「あ、それとモミジちゃんのHPもMPも確認しましたがノーダメージ。肉体的・精神的疲労でぶっ倒れてるだけなのでご安心ください。まぁ回復薬でもかけて寝かせておけばいずれ回復するでしょう。」
「……全部終わったら本気で痛い目見せてやろうかしら? んで、ここどこよ。アンタの故郷に帰るって話だったけど、見たことない部屋よ?」
「うん? あぁなるほど。そういう判定なのですね。」
ちょっと周囲を見渡してみれば、確かに全く知らない場所。チロさんがここ何処よ、となるのも仕方のない話ですが……、部屋の隅に見覚えのある物体を発見します。
えぇそうです。今は亡き主人公こと粉塵爆発でお亡くなりになったルール君のおもちゃです。むかしからそういうのが好きだったのか、木で出来た剣の玩具を振るっていたことはよく覚えています。それと全く同じものが常に手入れされた状態で飾られていることから……。現在彼のお部屋にいるのでしょうね。
まぁ原作のゲームでも同じ部屋に飛んできていましたし、そうなるのも納得です。私としては自身の家の部屋、というか寝室に飛ばしてもらいたかったのですが、仕方のないことでしょう。
「え、なら不法侵入じゃない。……外に人影見えないし、窓から逃げ出す? それか虚空移動か。」
「……チロさんからその選択肢が出るとは。」
「これよこれ。この子からもらった札。心がぶっ壊れるデメリットさえなければその有用性は理解できるもの。使わなきゃ損でしょ?」
そう言いながらモミジちゃんを担ぎ、その彼女からもらった『精神防御の札』を軽く揺らす彼女。
定期的に騒いだり、お菓子に狂ったり、私を焼き溶かしてくる騒がしくて面白い彼女ですが、その本質は合理的な冒険者です。私のボブ達に『頭おかしい』という判定を下しながら一定の有用性を認めてくれている人ですからね。そう判断出来るのも納得することは出来るのですが……、毎回毎回ブチギレていた彼女を知る私からすれば、驚くべき変化です。
うぅ、チロさん。成長しましたねぇ……。
「誰かさんのおかげでね。んで、どうすんの? 問題になる前に出た方がいいでしょ。」
「ご心配なく、先ほどちょっとオブジェクトを透過して見てみたのですが、家の中どころか周辺に人はいないようです。何故か一か所に固まってるみたいですね。」
「一か所に? ……まぁ長居する必要もないし、だったら普通に玄関から出ましょうか。」
ですね、と返しながら勝手に死にやがったクソルールこと主人公の部屋から出、その後実家からも出ます。……にしても、なぜ村の人たちは一か所に固まったりしてるのでしょうか? 何か攻めて来たとか? だったら私のお昼寝聖域とも呼べるここを汚そうとした奴を、消し飛ばさなければならないのですが。
「違うでしょ。ちょっと前にアンタのパパさんから聞いたけど、村の防衛としては男手が防壁の前に固まって応対し、女性とか子供が裏口から逃げるって話だったし。全員が一か所に固まるってのは無かったはずよ。……というか村長の娘ならそれぐらい知っておきなさい。」
「何が来ようと吹き飛ばせますし、いらないのでは?」
「…………たしかにそれもそうね。神殺し。」
「チロさんの方がキル数多いですよ? その称号は差し上げます。」
「その理屈で行ったらこの子が神殺しになっちゃうでしょうが。」
そう言いながら、神殺しモミジを指差すチロさん。まぁ彼女からすれば私に振り回される後輩が出来たようなもの、その運び方もかなり丁寧なものになっています。どうせこいつなら大丈夫だろ、という私に対する荒っぽい奴とはだいぶ違いますねぇ。
「最初のころは丁寧にしてたでしょう!? アンタが規格外すぎてやめたのよバカ!」
「あら、これは失礼を。」
そんないつもの軽口を叩きながら、皆の集まる方へ。
徐々に距離を詰めていくことで理解できたのですが……、どうやら訪問客のようです。結構な数の馬車と人が集まっている感じです。先程透過して見た時は気が付きませんでしたが、どうやら村の人数より訪問客の方が数が多いご様子。まぁそんな大量の人間がやって来たとなれば、何事かと皆が集まるのも理解できます。
「……あ、なんか嫌な予感してきた。」
「そうですか? まぁチロさんの勘はなんやかんや当たりますから、備えていた方が……。あぁそういう。」
チロさんが身震いしながらそう言ったと思えば、私の視界に写るとある紋章。
えぇそうですね。王家の者しか掲げることを許されないガチの奴です。そしてわざわざこんな辺鄙な村にやって来る王家の人間と言えば……、一人しかいません。
私がこの場からの逃走を考えた瞬間、人混みを掻き分け“彼女”が飛び出てきます。
「主様ッ!!!!!」
はい、おわりでーす。
「主様主主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様! おあい、お会いしとう御座いました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
人目もはばからず、私に抱き着いてくる王女様。
自然とこの場にいる全員の視線がこちらに向き、チロさんがこちらにバレぬようジリジリと距離を取り始めます。オイ。
村の人たちはマジで何が起きたか理解できていない様子ですし、王女の護衛としてついて来た人たちも何が起きたか理解できていないご様子。視界の端でウチのパパとママがぶっ倒れていることを除けば、摩訶不思議な空間が出来上がりました。
正直、私からすれば『あ、あはは! 何言ってるんですか王女様! 御冗談が過ぎますよー!』とか言いたいところでしたが、それよりも先に彼女が口を開いちゃいます。
「ソフィリア・エリオン・アルヴェステリア。御身の前に。この度はあの神を名乗る愚物の討伐、誠に、誠におめでとうございます! 真なるすべての支配者たる貴女様の前では霞むものばかりではございますが、王都にて宴の用意を整えております!!! 足を運んで頂ければ、これに勝る喜びはございませんッ!!!!!」
「何してるんですか貴女……。」
誤魔化せなくなるでしょうがッ! あとなんですその宴って! 確かに色々やってもらっているので定期的に着信拒否を解除して、近況を伝えてたりはしましたけど……。マジで何やってるんです!? あと跪かないで! マジで! 貴女から公爵位貰うって話でしたけど、村ではまだ村長の一人娘なんです! 王女が跪いたら色々まずいでしょうがッ! あとチロさん! 逃げ出そうとするな! たすけて!!!
思わず視線をチロさんの方に向けてみれば、村の反対側に向かってモミジちゃんを担ぎながら、全速力で逃げ始めているチロさん。邪神レベリングによって速度が上がっていることは嬉しいのですが、助けて! これほんとにマズイ奴! こ、このままじゃ私のお昼寝生活がッ! 単なる村長の娘として死ぬまでのんびりする生活がッ!
村の人たちの視線が、ヤバいっ!!!
「き、貴様ッ! 王女様になにを「万死」……は?」
声を上げながら、飛び出して来た男性が一人。
おそらく、ただの村娘に王女が跪いていることを異常に思ったのでしょう。洗脳などを行っていると判断し、私に向かって突っ込もうとして来る護衛さんでしたが……。王女の一言によって、全身が赤い線によって埋め尽くされます。
えぇそうです。アンデッドという成長できない存在になった彼女ですが、それでもかなりの強者にして『血魔法』を操るのが、彼女です。血が詰まった水袋ともいえる人間の処理など、簡単に出来てしまうのでしょう。一瞬にして護衛さんの体内の血が活性化し、纏っていた装備ごと肉体を細切れに両断。瞬く間に血だけの存在となり地面を赤く汚します。
「大変失礼……、主様?」
「~~~~ッッッ!!! お前とはもう一生口きかないッ!!!!!!!!」
もうやだぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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