67:絶望
突貫!!!!!
「な、は? ギャァァァアアアアア!!!!!!」
突如として地面から現れたボブカーに驚愕してしまったがゆえに、何もできず悲鳴しか上げられない邪神。もしこの攻撃がチロさんやモミジちゃんのモノであれば哀れみからその手が緩んでしまったかもしれませんが……、コレはボブカーという命令されたプログラムによって動く人工生命体による攻撃です。
私が轢き殺せと言えば、相手が死んでもただひたすらに破壊し続けます。
何枚にも重ね合わされた妖刀、朧月がまるで歯車のように重なったギアが邪神の肉体を切り裂いていき、刀に宿った特殊効果が切り刻んだ肉を再度細切れにしていきます。そして内側に招き入れるように備えられたギアたちは、高速で突っ込む車体へとその肉体を引き込んでいき……。
直撃。
接触時に車体に隠されたボブ達が噛みつきながら『今後の布石』のための毒と肉を打ち込み、敵の身体を吹き飛ばします。
「……思ったより衝撃無かったのじゃ。」
「よい設計でしょう?」
「モミジ、アンタ後ろの座席で良かったわね。何あのエグイ機械。さ、流石に神でも死んじゃったんじゃない……?」
そんな二人の声を適当に返しながら、ハンドルとギアを操作。虚空から完全に飛び出し、地面をスライドさせながらその勢いを止めます。そして我らの視線は、自然と吹き飛ばされた邪神の方に向かうのですが……。うん、やっぱり死んでませんね。吹き飛ばされて地面を転がったせいでダメージは出ているようですが、いまだ健在です。
良かった良かった、ダメージの計算は行っていましたが、もしものことがありますからね。ここで殺してしまえば後に差し障りますもの。
「な、なんだ貴様らは!? もしや神の……、いや人間だと!? え、人間!?!?!?」
「なんか驚いてるのじゃ。というか今さらじゃが、アレ攻撃してよい奴なのか?」
「大丈夫ですよ? 害にしかならない存在なので。」
あの邪神ですが、本当にいなくてもよい存在です。
以前チロさんにも説明しましたが、実はこの世界。あの邪神とは違う他の神が作り上げた世界という“設定”になっています。その他の神が自身の子供である神に管理を委託した時、何故かその子供の神が到着せず、『お、あいてんじゃーん!』と勝手に入って来たのが今騒いでいる邪神となります。
かなり昔にこっちに来たせいか、人間たちの宗教も元の神からこいつを崇めるように成っちゃってますし、テイアイエルを始めとした天使たちは自分の仕事で忙しいので今まで発覚してなかった存在に成ります。めっちゃ分かりやすく言うと……、『人の世界という家に住みつく害獣、ネズミ』みたいなもんです。
どうせ元々の持ち主である神が攻め込んできたと勘違いしたのでしょう。
「害獣駆除業者に怯える小物ですし、人に恩恵を与えたことのない存在です。というか魔王を生み出したのも、人に困難を与えればより信仰が深くなると思っての行動ですし、どうせ自分の世界じゃないので滅ぼしてもいいや、って思ってるはずです。」
「な、何故それを!?」
「ほらね? ちなみに神なので信仰心から強くなれますが、邪神でもあるので人の負の感情からも強くなります。人類丸ごと全部殺して、その感情をゲットした後はどっかに高跳びするつもりだったみたいですよ?」
「に、人間如きがなぜ我の思考を知っているッ!?」
だって顔(設定資料集)に書いてありますし。
「正直儂って巫女だし、もし神が善良であれば死んでも童を止めようと思っていたが……。反応見る限り童の言うとおりらしいな。」
「まぁコイツ、やり方はアレだけど目的はそこまで間違ってないのよね……。でも神殺しなんて、ちょっとワクワクするじゃない。二度とない機会でしょうし、ちょっと気合入れましょうか!」
「くッ! 計画でしかなかった魔王が勝手に生まれたと思えばすぐ死ぬし、たかが人間風情に発覚するなどッ! だがここで全員消せば何もかも元に戻るのだ! 神に歯向かうその愚かさをしるがいいッ!」
……あ、なんか今から戦闘するみたいな雰囲気出してますけど。
もうそいつ詰んでますよ?
「「「え???」」」
三人の声が響いた瞬間。邪神の肉体に異変が起こります。
えぇそうですね。先程ボブカーが接触した時に埋め込んだ『毒と肉』です。以前魔王を捕獲した時に使用したこの世界に存在するすべての状態異常と、ボブの肉片を埋め込んだ形に成ります。そして……、みんな大好きバグも使いました。
「ひぅ!? 蝕虫!!!」
「か、カラダが! 動かんッ!」
「……あー、ご臨終様。」
チロさんが哀れなものを見る目でそう言った瞬間、邪神の肉体から無数の肉塊たちが飛び出していきます。えぇそうですね、先ほど打ち込んだボブです。名付けるならば、かの偉大なる時止めの吸血鬼が生み出した存在、肉の芽をもじって『ボブの芽』でしょうか。
早い話、ボブを埋め込んでその肉体と同化しながら、その行動権を奪い取る存在です。経験値おじさんにも使用した『融合』と同じ原理を使用しています。バグ対策がしっかりされているリリース時期が遅かった辺境伯には効きませんが、邪神なら今でも使える便利技です。
はい、ということでもう邪神は何もできなくなりました。
「え、カーチェ。もしかしてアレも例の奴に合体させちゃうの?」
「や、辞めるのじゃ! ただでさえ蝕虫ヤバいんじゃぞ! さらに追加したら世界壊れちゃうのじゃッ!」
ご安心を、そもそもこの邪神。この部屋から出られませんし。
「「あ、そうなの?」」
えぇ、そうですとも。
というか一時期私達がバグで遊びすぎましてね? そういうのに寛容で結構そのままにしてくれる運営がキレちゃったんですよ。
邪神の尻に木の枝を差し込んで遊ぶ『邪神剣』、邪神の種族をバグで馬に変えてレースに出走させる『邪神ダービー』、全キャラクターのスキンを邪神に変える『オール邪神』、味方キャラ全員を邪神に変えて『邪神で世界救ってみた』。
他にも色々あって、どれが引き金になったのか解りませんが……。邪神をこの空間から運び出そうとした瞬間、元の位置に戻るように成っちゃったんですよね。大体のバグが邪神を外に出してから行うものだったので当時は寂しくなったもんです……。
「まぁ有志の方がMOD作ってたのでその後でも遊べはしましたが。」
「……の、のうチロ殿。この童、何物なんじゃ?」
「考えない方が幸せよ。」
「さて、では当初の目的通り。試射会を始めさせてもらいます。ボブ、仕事しなさい。」
「が、がぁぁぁアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
私がそう呟いた瞬間、邪神の身体に埋め込んだボブ達が一斉に動き出しその形態を変化させていきます。えぇその通り、コイツはラスボスに相応しく第3形態まで保有しているのです。正直どの形態でも今の私からすれば雑魚なので、どうってことないのですが……。3度も倒すなどという面倒なことはしたくありません。
ということで融合させたボブに指示をだし、無理矢理最終形態へと変化させます。
第一形態の人、第二形態の蝶を超えて生み出されるのは、獣の姿。この邪神本来の姿であり、様々な生物の肉を張り付けたネズミ系の身体をしています。まぁ依然としてボブがその奥深くまで浸食しているので、動くことすらできませんが。
「邪冥黒冠、その真髄をご覧入れましょう。」
取り出したるは、アイテム欄に保管してあった『朧月』。その本体。
無限増殖によって生み出したモノに差はありませんが、やはり持つならば元々の武器が良いでしょう。故にそれを強く握りしめ……。この身に宿る新たなスキルを発動させます。
「『顕現』」
私がそう唱えた瞬間。朧月を中心に、黒い渦が生み出され始めます。
まるでこの世全ての悪を吸い込むように、徐々に強く深くなっていく黒。その形も徐々に研ぎ澄まされた日本刀ではなく、禍々しい魔剣へ。
顕現、それは姿を現すこと。
えぇ、このスキルは遠い過去に私と同じ職に就いたものが使っていた武器を呼び出し、重ねるものとなっているのです。
「冥光剣グランヴェルザ、でしたか。相変わらず厨二臭いもので。」
軽くそう呟きながら、新たに生み出した魔剣を天高く掲げます。
そしてその刀身に送り込むのは、全身の魔力。
限界まで下げたカルマのように全てを飲み込む黒となったソレが急速に形を成していき、生じる滅殺の柱。振り下ろした先の全てを消し去り、太古の時代では世界すら滅ぼそうとした黒。何よりも純粋だからこそ引かれ、何にも染まらず飲み込むからこそ拒絶される色。
神すらも消し飛ばすそれは、今か今かと振り下ろされるその瞬間を、待ち望んでいます。
ですがそれは、たった一つではありません。
「武器を、“重ねる”のです。つまり触媒として使用した『朧月』の効果である、『2回攻撃』も適応される。魔法には効果がありませんが、これは物理と魔法の融合ですからねぇ?」
目を凝らせば理解できる、薄っすらと重なる2撃目。
「既に計算済みですが、一度叩き込むだけで貴方は何もできず吹き飛ばされることでしょう。そんなところに2発目を打ち込んだらどうなるのか。試してみたくはありませんか?」
「や、やめ! やめろぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!」
「い・や・だ♡」
ゆっくりと紡ぐごとに、膨れ上がる邪神の感情。
それを吹き飛ばすように剣を振るえば……、全てが黒によって塗りつぶされ、消えていきます。
えぇ、これにてシナリオクリア。
私のお昼寝を脅かす元凶が、消し飛んだのです。
「とまぁこの後普通にEDが始まるんですが、さっき私アイツが死ぬ攻撃を2回たたき込んだでしょ?」
「「え?」」
「判定的には死亡するんですけど、なんかオーバーフローして体力が回復するんですよね。んでさっきの『顕現』ですが、注ぎ込んだMPを基準としてダメージが算出されるので、ちょっと上手く計算してHPが1だけ残るように調整してみました。」
ちょっと直前で経験値おじさんが頑張っちゃったせいかレベルがあがり、想定よりダメージを多く与えちゃったんですけど……。一桁代には収められたはずです。ちょっと面倒ではありますが、この状態であれば物理攻撃力の低いチロさんやモミジちゃんでも十分破壊できるはずです。
「さて、ここで解説なのですが……。EDに入る直前。プレイアブルキャラクターたちがとある場所にいると、『画面が暗転しても判定はそのまま』という状態を生み出すことが出来ます。つまりエンディングが流れている裏で、自由にキャラを動かせるようになるんですね。」
つまりスタッフロールなどが流れている142秒間、好き放題この空間で遊び続けることが出来るんです。まぁそれが終わると強制的に故郷の村に返されてしまうんですが……。この時間は本当に何でもできる時間なのです。
えぇ勿論、HPを適切に管理した邪神を殴りまくり、それでレベリングすることも可能です。
というわけでチロさんとモミジちゃんに最大強化した朧月を持たせましてぇ!
「コイツ、殺してください。」
「「は?」」
一回殴るだけで死ぬように調整したので、簡単ですよ?
「おじさん同様ED終わるまではHP固定なので、殺し放題です。しかも魔王より吐き出す経験値は多いんです。ほらハリーハリー! 時間は有限! ただでさえモミジちゃんはレベルもステータスも低いんです! さっさと経験値手に入れないと辺境伯に殺されますよッ!」
「のじゃッ!? ど、どういうことなのじゃ!?!?!?」
「あぁもう、やっぱこうなるのねッ! モミジッ! あんた廃人に成りたくなかったら無心で武器振りなさいッ! 足りなかった分また『おもち』させられるわよッ!!!」
「の、のじゃぁぁぁあああああ!?!?!?!?!?!?」
うんうん、流石チロさん。よく解っていらっしゃる。実際足りない分はますたーおもちレベリングで何とかしてもらおうと思ってましたし。ま、攻撃した分だけ邪神の経験値が入って来ますからね。エンディング流れ終わるまでがんばってくださ~い。
……あ、そうだ。故郷の村に転移させられるわけだし、元の服に着替えておこ。今の服装、どこからどう見てもヴィランですからねぇ。
〇Kill数
カーチェ:1
チロ:128
モミジ:397
(途中から腕と心が辛いと泣き喚き始めたので、見かねたカーチェが無理矢理ボブアーマーを使用。単身では27。)
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