63:お菓子博士
「んー、そろそろお夕飯の時間ですし、今日は切り上げるとしましょうか。」
「あ、アンタねぇ……!」
「のじゃ……」
そう言いながら二人に着せていたアンデッドスーツ、全自動おもち虐殺レベリングマシーンから解放すると、一気に地面に転がり落ちる二人。チロさんの方はふらつきながらも立ち上がり罵声を浴びせてきますが……、モミジちゃんは体力不足の様で地面から起き上がれていません。目も虚ろですし、口から出てくる言葉も意味不明。壊れてはいないようですが……、休息が必要なのでしょう。
まぁ全自動と言えど、この世界の『ラストアタックを行った存在に経験値が集中する』というシステムのせいで、相手にとどめを刺す攻撃は自身で行わなければなりません。スーツの力で体は勝手に動きますが、疲労は溜まるというもの。明日のレベリングには作業中も休憩できるように腕を増やし、読書しながらレベリングできるよう改造してもいいかもしれません。
「こんのクソカーチェ! 何なのよほんとにもうッ!」
「いやだってチロさん経験値おじさん使うの嫌がるじゃないですか。それに事前に言っても逃げるか拒否してたでしょう? これが一番最速なんですから、我慢してくださいよ。」
「何が我慢だこの馬鹿ッ! 阿呆! 無理矢理に体動かされて苦行させられて! 許されると思ってるのかお前! んもう燃やす! 燃やすぅぅぅ!!!」
んーどうしましょ。チロさんが完全にキレちゃいました。
ふつうに燃やされたら痛いですし、焼き溶けるのは結構辛いものがあるのは確か。ちょっと地面に隠れてるボブに指示し、MPだけ全部吸い取ってもらいましょうか?
「させるかッ!」
おぉ踏みつぶされた。そして即座に「獄炎」起動からの、私への投射。うんうん、惚れ惚れする様な速度ですねぇ。炎の温度が上がり過ぎて白く発光したものがこちらに向かって飛んできているのを除けば、そのまま呑気に鑑賞したいレベルです。
まぁレベルが上がった彼女の『獄炎』ですので、此方も何かしらの対処をしなければ、死んでしまうというもの。というわけで取り出したるは『HP0』の状態で固定した新たなボブ、『バグボブ』です。ちょっとしたバグを使い、HPが0でありながら破壊されていないという珍しい状態のボブです。
こちらはなんと既に死んでいるという状況から、外部からの攻撃の一切を無効化する効果を保有しています。しかも『不壊』というこの世界において絶対に破壊されないという特性をバグによって付与しているので、何があっても壊されることはありません。この存在を作り過ぎるとゲームがクラッシュするという明確なデメリットさえなければ、ずっと量産したいと思っていたモノでした。
早い話、HPが0ということは、どれだけ喰らっても0。というわけですね。
「まぁ範囲攻撃系だったりすると、私にも飛び火するので完璧な盾ではないのですが……。」
「なッ!?」
「慣れ親しんだチロさんの攻撃ぐらいなら、コイツ一人で完封可能です。そして……、」
アンブッシュ。
攻撃をノーダメージで受け止められたことに動揺してしまったのでしょう。即座に範囲攻撃への移行を行うチロさんでしたが、動揺だけでなくレベリングでの精神的疲労が重なり、攻撃のリズムにズレが生じます。その隙をつかぬほど、ニンジャのカーチェちゃんは甘くないということで……。
彼女の後ろから忍び寄るのは、私の分身体。
先程のオハギ攻撃同様、そのお口に和菓子を叩き込むことで、その怒りを少しだけ発散させます。
「……第2大通り38番目、風蜜堂の新作?」
「…………あってますけど、なんで知ってるんですか。それ昨日発売した奴ですよ。」
「一番乗りで食べたもの。」
蜂蜜を練り込んだ羊羹。チロさんの言う通り風蜜堂の羊羹を叩き込んでみれば、所在地まで正確に答えられ、ちょっと引きます。あるだけ寄越せ、と言われたのでそのまま12本ほど献上すれば、包み紙を剥いてそのまま齧り出す彼女。そうとうキレていたのか、瞬く間に1本がその腹の中に消えていきました。あ、2本目……
え、もしかしてチロさん。あの里のお菓子屋全部把握してます?
「当り前じゃない。アンタから“金だけ”はしっかり貰ってるもの。装備の発注は終わってるし、食費も家賃もアンタ持ちみたいなもんだから、出費ほぼ0。どうせあの別荘から出ないアンタの護衛してても暇だし、時間見つけて巡ったりするでしょ普通。……文句あんの!?」
「あ、いえ。ないです……。でも太りません?」
「アンタに鍛えられた“おかげ”で『獄炎』で脂肪を燃やせるようになってるの。太るわけないでしょうが。」
あぁ最近チロさんの体温が地味に高いのはそういう……。
「じゃあこれ食べ終わったらアンタのこと燃やすわね。」
「え、許してくれ……、はしないですよね。はい。じゃ、じゃあこれはどうでしょ? この前言っていた自作砂糖を使ったスイーツの開発。そろそろいい感じのが出来上がってそうですし、直通ボブ便で届けてもらうってのは?」
「……。」
うわ全身に獄炎纏い始めた。
「……里の市場にも自作砂糖を流して開発を活性化させますし、助成金も出します。」
「…………。」
か、火力上がってる。というか隣で倒れてるモミジちゃんの尻尾、ちょっと焦げ始めてない?
「じゃ、じゃあ滅多に予約が取れない里の老舗、『餡庵』を貸し切りってのは。」
「…………今回は見逃してあげる。」
ふ、ふぅ。ようやく火を収めてくれましたね。いやはや、良かった良かった。
一度バグボブを見せてしまった以上、次からは範囲攻撃の獄炎が飛んでくるのは間違いありませんでした。そうなると私もダメージを受ける可能性がありますし、何よりぶっ倒れて虚ろな目をしているモミジちゃんが焼狐になってしまいます。いや耐久力的に溶けるかな? となると何も残りませんね、無狐です。
とても良いリアクションをしてくれる子なのです。殺さず壊さず、大事に使って行かなければなりませんからねぇ。
「……いっつも思うけど、人のこと物みたいに扱うのは良くないわよ、カーチェ。」
「失礼ですね、物として扱うのならボブにします。」
「あ、確かに。となるとアンタの扱い方の下限が低すぎるだけか。より酷いわね。鬼、悪魔、カーチェ。」
「はいはい。んじゃ二人とも今の職業がカンストしたので、帰る前に天使のテーちゃんにご挨拶行きましょうか。」
というわけで転職のため、例の天使像をアイテム欄から出現。モミジちゃんを担ぎそのお口に持って来ていたイナリ=スシを放り込みながら、像に触れて転移を行います。
するとあら不思議、真っ白で何もない空間へと移動したではありませんか。そうですね、天使のテーちゃんことリアル聖書キモ天使、テイアイエルちゃんの居場所です。……うん? おぉちょうどモミジちゃんも再起動し始めましたね。これから何度もお世話に成るでしょうし、ご挨拶しておきましょうか。
「……む! これはいなり寿司! うまいのぉ。……あれ、何故涙が出るんじゃ? な、なんか辛いことがいっぱいあったかの? でも何も思い出せんのじゃ。というか思い出さない方がいい気がするのじゃ……。ってアレ? そもそもここどこじゃ? なんで童に運ばれておる?」
「おはようございますモミジちゃん。こちらですが、本日お世話になる方のお家みたいなものです。」
「む! そうなのか。ではしっかりと挨拶せねば……。」
そう口にしながら周囲を見渡した瞬間。完全に制止するモミジちゃん。
無論その視線の先にあるのは、例の存在。大きな目玉に大量の眼が付着し翼を形成した天使、テイアイエルです。まぁそんなどこからどう見ても化け物な存在が、再起動した瞬間に眼の前にいれば……。
「ば、バケモノなのじゃぁぁぁ!!! にぎゃぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!!」
「あはー、おもしろ。あ、どもテーちゃん。転職しに来ました。」
「ひ、人の子? 我も傷つくんだぞ? 化け物じゃないんだぞ? せ、説明くらい事前にしてもらっても……。」
「やです。」
「んぎゃぁぁぁ!!! 悪霊退散! 悪霊退散! 札がきかんのじゃ! ぬぎゃぁぁぁぁあああああ!!!!!」
うわ攻撃してる、おもしろ。
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