59:のじゃろり
「んで来客って……。神社? あの寺院ではなく?」
「はい、その通りです。」
私のお昼寝用別荘からその客人が来ているという屋敷への移動中、元里長の奥様であるお婆ちゃんにそんな問いを投げかけます。
正直にいって、私のお昼寝を妨害するなど万死に値する行動です。ボブにする価値すらありません。でもちょうどいい感じの眠気が来ていたので、今日は見逃し無視してやろうと考えていたのですが……。そう言おうとした瞬間にチロさんの体温が急上昇、いつでも『獄炎』が使用可能な状態になってましたし、お婆ちゃんが『そこを何とか……』という雰囲気を醸し出していました。
チロさんは正直、どれだけ振り回してもいい人間なので燃やされない限りどうでもいいのですが……。お婆ちゃんはちょっと別です。何かこの人虚空に落してから私への好感度がバグってまして、めっちゃ世話焼いてくれるんですよ。それこそ本当の孫と祖母みたいな感じに。先日叩き潰したホクジョウ氏とのいざこざで、孫どころか息子夫婦まで殺されてますから、気持ちは分からないでもないんですけど……。
(今世、生まれた時には既に祖父母は他界していましたし、前世を思い出せば途轍もなく甘やかしてもらった記憶ばかり。前世の両親も含め、孝行できずに死んでしまいましたから……。こういうの弱いんですよねぇ。)
まぁ邪魔になれば即座に切り捨てるんですけど。
ということで『しょうもない話だったらその客人をネギトロにする』ということでお昼寝用別荘から移動。何かあった時の為にある程度の装備を整え、出発したわけに成ります。んで話は最初に戻って来るわけなのですが……。神社って何なんでしょうね? この里から見えるお山には、お寺しかないハズなのに。
「実はですが……、あの寺院。完全な偽装用でして、管理者を配置してはいるのですが、祀っている仏像も見せかけであり、住職も里の手の者になっております。」
「えぇそれは理解してます。この里を門前町、お寺の庇護下にある街だと見せかけるためのモノですよね?」
「はい。ですがもう一つの役割がございまして……。山頂に存在します、とある神社を隠すための役割もあるのです。里長にお伝えするのが遅くなり大変申し訳ないのですが、我らは何代も前からその神社の保護も行っておりました。今回はその神社から、巫女様がいらっしゃっている形に成ります。」
……普通に知らない存在ですね。
そもそも、この地域で行われていたDLCの内容は、現在鬼籍に入っていられる小太郎君が里長に就任するまでのお話でした。確かにこの前潰したホクジョウ氏とかも絡んできましたが、どっちかというと忍者と忍者の戦い。道中のお使いクエストなどでお寺の方に行くことは合っても、ストーリーに関わる様な事はありませんでした。
つまり完全なる未知の存在。それがあっちから接触を図って来たとなれば……。
ちょっと警戒する必要があるのかもしれません。
お婆ちゃんの話し方的にかなり友好的な存在っぽいですが、私は完全な部外者で傍から見れば里長の地位を奪った簒奪者です。この忍者の里が代々神社を守護して来た、って話ですからそこまで強さは持っていないのかもしれませんが、備えるに越したことはないでしょう。
(っと。もうお屋敷ですか。んじゃお婆ちゃんの目を盗んで……。ほいっと。)
手早く『影分身』の印を結び、客人を応対する役目を分身に任せます。
普通にチロさんには見られていたのでバレますが、この人は最初から私側の存在。特段おかしなことをしない限り、『何かしらの意図がある』として目をつぶってくれる存在です。
まぁお菓子かお砂糖渡しておけばおかしなことをしても目をつぶってくれる可能性が各段に上がりますし、毎日ずっと振り回しているのでその基準が破壊され尽くしています。道行く人を突然殴り始めてその頭を引っこ抜き、脊髄剣にするでもしないと止めてくることはないでしょう。……しませんよ?
(アンタのことだから信用できないのよバカ。どうせそれが有用だったり強かったりすれば迷わず実行するでしょ。カーチェだし。)
(否定できませんね。)
というわけでチロさんとのコソコソ話を終了し、私は虚空へと移動。
攻略テクニックの一つである『透過』を使用し地面からお屋敷全体を視認し始めます。分身の私が客室へと案内されていくのを眺めながら、『お客人』の様子を確認するって寸法ですね。地面の下にいて、建物というオブジェクトを全て透視していますから、中にいる人はばっちり見えるわけです。
それでまぁ覗いてみたわけなのですが……。
(狐耳に尻尾、んでロリで巫女……。マジで初めて見るキャラですね。)
神社と言えばコレだろ、って属性を山盛りにした感じのキャラが、そこに。
見た感じそこまで強そうには見えませんが、言い知れない雰囲気を保つ存在です。とてもロリロリしていると言いますか、私と同年代な感じがしますが……。おそらく見た目通りの年齢ではないのでしょう。座布団への座り方が妙に様になっていますし、醸し出す雰囲気も私同様幼女のものではありません。
確かに、一応今回の訪問理由は神社から里長へのご挨拶的な感じと伺っていました。お婆ちゃんも『断るのはちょっと……』という感じでしたし、神社の中でも身分のある存在なのでしょう。私同様中身が変になっているか、その見た目で長い時を生きたか。まぁどっちかってところでしょうね。
(まぁ見た感じ武器も持ってませんし、物々しい雰囲気でもありません。里長が変わったと聞いて、挨拶に来たとかそういう……。あ、目が合った。…………目が合った???)
あり得ないハズの事象にちょっとびっくりしていると、いきなり動き出す巫女さん。
声は聞こえませんが表情が怒りに染まり、何か叫びながら取り出すのは何枚かの御札。叫びながらそれを地面に叩きつけるとあら不思議、よくある和風の魔法陣が構成され、するすると彼女が“虚空”に降りてくるではありませんか。
はえー、処理落ちさせずに虚空落ちって可能だったんですねぇ。
「き、きさ、貴様じゃなぁぁぁ!!! 世界中で蝕虫を生み出しまくってるのはぁぁぁ!!!!!」
「蝕虫? 聞いたことがありませんね。」
「とぼけるな阿呆ッ! わ、儂らがどれだけ苦労して修正しているかと思っとるんじゃ! というか常人が入れるわけないじゃろッ! ……え、常人じゃよな? え、ならなんでこの空間を耐えれてるんじゃ? なんで????? と、とにかく! 蝕虫を増やし過ぎたら世界が壊れるんじゃ! やめるのじゃぁぁぁ!!!」
蝕虫……、あぁ雰囲気的にバグですか。
お話を聞く限り、どうやらバグ修正を代わりに行っている存在の様子ですね。詳しくは知りませんが、『天アバ』製作陣はバグ修正にAIを使用しているという噂がありましたし……、その名残みたいな人でしょうか? まぁもしかしたら別の存在かもしれませんし、ちょっと確認してみましょう。
「例えばこう……。空中浮遊しながらアイテムを地面に落し、着地と同時にアイテム欄に収納すれば増殖するのも蝕虫ですか? ほら『朧月』が2本。」
「あ、そうそう。そんなのが蝕……、ほぎゃぁぁぁぁ!!! め、目の前で増やすのはやめるのじゃぁぁぁ!!!!!」
わぁ、すっごく叫んでる。おもろ。
「えー、私コレあと300本ぐらい用意するつもりだったんですけど。ちょうど最大強化しましたし、無限増殖させようかなーって。ほらこんな風に。」
「ふぬぎゃぁぁぁぁあああああ!!!!!」




