55:刀ですね
「ふぅ、危ない危ない。殺すとこでした。」
「……なんであそこまでやって死んでないのよ。」
「ミネウチです。」
「えぇ……」
いやほんと、危ない所でした。
チロさんにはミネウチと言いましたが、普通にHPの0どころか、マイナスまで消し飛ばしちゃいましたからね。単なる再現技でゲーム上スキルでもなんでもない通常攻撃の括りではあったのですが、経験値おじさんのおかげでとっても強くなったのがこのカーチェちゃんです。
本気パンチ3発に、キック1発。そこから空中ダイブとなれば、正直肉体が消し飛んでいないのが不思議というレベル。ほんとに間に合って良かった良かった。戦闘中にのみ効果が発揮されるバグ技と、王墓で拾ってきた高品質の回復薬が無ければ殺人者に成っちゃってましたもん。
……あ、盗賊とかそう言うのには人権が適応されてないので、人殺しには当たりません。やったねカーチェちゃん! ボブが増やし放題だよ!
「とまぁ戦える人全員私がのしちゃいましたし、里長もノックアウトしたということで大人しく降伏して貰えたわけなんですが……。なんかめっちゃ睨まれてますね。何ででしょ。」
「……本気で言ってる?」
なんとか生き長らえたとはいえ、小突いただけで死にそうな里長のお爺ちゃん。彼がこっぴどくやられた以上もう勝ち目はないということで、全員無事に投降して頂くことに成功しました。
というわけで重症の里長さんは別室に運ばれ、まだ動けている人が私の前で頭を垂れている感じになるのですが……、めーっちゃ睨まれてます。特に真っ先に逃がされていたであろう子供忍者の方々から特に。別にそれぐらい痛くも痒くもないというか、前世のクソ上司の視線に比べればベイビーなのでどうでもいいんですけど……。あ、隣の忍者さんに頭叩かれてる。おもしろ。
そんな感じで叩かれてる子供を鼻で笑っていると、今度はこっちがチロさんに頭を叩かれ、顔を寄せられます。
(おもしろ、じゃないでしょクソカーチェ! なんか色々知ってるっぽかったから最後まで任せたけど! これ明らかにマズイ状態じゃない! 里長って実力主義だからカチコミするだけで簡単に代替わりできます~、って状態じゃないわよコレッ!?)
(ですねぇ。……正直小太郎死んでる以上『朧月』以外興味ないのでそれだけ貰って帰ってもいいんですけど。)
(これ放ってどっか行くの!?!?!?)
えー、だってもうこの里にいる意味なくなったんですもん。
どうせこのまま『朧月ちょうだい、そしたらもう何もしないよ♡』って言ったらそのままプレゼントしてくれるでしょうし、その後米やら味噌やら買って帰ればもう終わりなんですもん。使えそうな小太郎が死んでいる以上、利用価値なんてまーったくありません。装備の更新とかも言ってましたが、正直ここ以外でもいい装備手に入る場所ありますし……。
(あ、アンタねぇ……! カチコミのことに対して突っ込みたいけど、私も参加しちゃってる手前そこは目をつぶってあげる。でもねぇ、自分で“こう”しておいて何もせずに帰るってのは人としてどうなのよッ! ちゃんと後始末付けなさいッ!)
えー、面倒。
というか原作キャラ死んでる時点で、もうやる気とかそういうの全部なくなったというか、2年くらいはお昼寝し続けたいというか、もう面倒ごと全部誰かに任せて隠居しちゃ「燃やすわよ。」……はぁぁぁ、仕方ありません、ちょっとだけ頑張りますか。
そう思い、口を開こうとした瞬間。聞こえる足音。
そちらの方に視線を動かしてみると、高齢の女性が一人。……周囲の動き方からして里長の奥様、原作キャラのお婆ちゃんですね。そして彼女が持っているのが、一本の刀。
「……お待たせして申し訳ありません、此方がお求めの『朧月』でございます。お納めください。」
「…………話が早いのはとても好みです、どうも。」
おそらく降参したことを把握したその時から、刀を取りに行っていたのでしょう。ずっと私『朧月くれくれ』って言っていましたからね。とまぁそんな感じで、お婆ちゃんから“例のこと”に対する指摘が無かったな、と思いながらそれを受け取り、鞘から抜くことで刀身の確認を行います。
形状、刃紋などを確認しますが……、『朧月』に間違いありません。
「えぇ、間違いな……。」
「カーチェ?」
私がそう口にしようとした瞬間、自身の口角が異様なほどに曲がることを自覚します。
そして内側から湧き上がってくる、強い殺意。
この刃を持って全てを切り尽くしてやりたいと思うような、狂気的な感情。
そして脳内に直接語り掛けてくる『殺しつくせ』という言葉。
……えぇ、そうですね。実はこちらの『朧月』。分類としては妖刀となっております。まぁ早い話、強力な効果を持つ代わりに、精神に異常をきたすタイプの刀ってやつなんですよね。
けれどまぁ、私がこれまでこの刀を『妖刀』と表現していなかったのは、その心配が一切ないからです。
あと普通に殺意の質が悪いですね。前世の上司に対する私の殺意の方がもっと濃くて強いですよ?
「持ち主の意に従わない武器はいりません。」
ということで即座に刀を『虚空』目掛けてボッシュート。
精神を完全に持っていかれるよりも前に捨てちゃいます。ばいば~い。
「え。」
「か、カーチェ?」
「とりあえず3分くらいですかねぇ?」
おそらく普通に妖刀から手を離せたことに驚くお婆ちゃんと、欲しがっていた刀を急に捨てたことに驚くチロさん。お婆ちゃんはまだ驚く理由は解りますけど、チロさん気が付かないんですが? 『虚空』ですよ『虚空』。
最近の彼女は耐性が出来て来たのか、一定時間耐えきることが出来ていますが……。あの空間は、この世界で生れ落ちた者に対して強烈な『否定』の意思をぶつけてくる空間です。何せ本来存在してはいけない場所に来ているわけですから、そりゃ世界からお叱りをうけるというもの。チロさんによれば『この世のすべてから否定され拒絶される』ような感覚が延々と流れ組んでくるような場所。
妖刀でありこちらに語り掛けてくるという存在であれば、その物体に意思が宿っていることに他なりません。つまり意志ある存在が『虚空』に叩き込まれたりすれば……。そ、壊れちゃうって寸法です。まぁもしかしたら生き残るかもしれませんが、もう一度虚空に叩き込むとなればすぐに言う事を聞いてくれるでしょう。
「というかお婆ちゃん、『妖刀』への説明が無かったように思えますが。」
「い、いえ。ひ、必要がないかと愚考しまして。……我が里に伝わる『朧月』は、初代里長にして里の名を冠する『風魔』様がお使いになった刀です。先程拝見した術の数々、そのいくつかに初代様しか使えなかった術があったことから、貴女様こそ『風魔』様の再来かと考えまして……。」
「まぁ道理は通っていますね。襲撃者が妖刀の力に溺れている瞬間に首を取ってしまう。作戦としては間違ってはいないかと。」
「滅相もございません。」
最初は少し言い澱んだものの、すぐに立て直し最後の言葉を淡々と述べるお婆ちゃん。
多分この人も忍者、くのいちさんなんでしょうねぇ。完全に勝ち目が絶たれたと理解した瞬間、生き残る道を即座に選んできました。後ろ手で隠していますが、此方への不意打ちを取りやめるような指示も出していますし、流石里長の奥様ってところでしょうか?
……あ、そろそろですね。
ぱっとアイテム欄からアンデッドを呼び出し、虚空に送り込むことで『朧月』を取ってきてもらいます。そして地面から生えて来た彼から受け取ってみれば、うんともすんとも言わなくなった刀がそこに。
武器としての効果はそのままですが、なんか脳に直接語り掛けてこない以上、妖刀の部分は完全に壊れちゃったようですね。
「チロさんは普通に耐えてるのに、三分程度で精神崩壊するとか妖刀の風上にも置けません。」
「……自分で言うのもなんだけど、アレ耐えれる方が異常よ?」
「そうなんです?」
私、そのあたり全く解りませんからねぇ。と言いながら軽く刀を振るい、鞘へと戻します。
一連の様子を見て、この場にいる忍者やお婆ちゃんからの視線がよりヤバいものになった気がしますが、まぁおいておきましょう。
「さて……、ではちょっと説明を求めましょうか。この里とホクジョウ家の現在の関係と、お亡くなりになったらしい小太郎君のことについて。」




