53:門なんかいりません
というわけで、表向きは『門前町』となっているここが、忍者の里となります。
「……ニンジャってよく知らないけど、諜報員みたいなもんなんでしょう? 何か普通に入れたんだけど。それに、知らない文化の街だけどなんか普通じゃない? ふつうにお店とか沢山出てるし。」
「そういうお仕事だけじゃ食べていけないですからねぇ。実際の忍者をモデルにしているせいか、結構買い叩かれてるみたいですし。」
後世に残る創作から闇夜に紛れるかっこいいヒーロー、みたいな扱いを受ける忍者ですが、実際の彼らの扱いはあまりよくなかったことで知られています。
まぁコソコソしてて見た目は良くないですし、実際に戦に出て殺し合うわけでもありません。情報に重きを置いていれば重用することもあるかもしれませんが、基本お給料は安く、それだけで生活できるほどではありませんでした。ここは日本とは違う異世界なので、私が持つ知識が的外れな可能性もありますが……、『この里』に限って言えば、忍者のお仕事だけで食っていけないのは確かです。
「ほら、あの山の方に建物が見えるでしょう? こちらでの神、正確には仏様を祭る教会みたいなのがアレです。それに集まって町が出来てるんですよ。」
「へー。あぁ教会に商売とかの認可貰ってやってる、ってやつか。」
「そうそう、そんな奴です。」
まぁこっちじゃ教会じゃなくて寺院なんですが……。チロさんに言っても要領を得ないでしょうし、放置します。
早い話、お寺に保護してもらうために商人や職人が集まってここに門前町作ってますよ~、というのが表向きの顔で。裏では忍者が集まってコミュニティ作ってますよ~、という感じになります。一般人からすればただの人と物が集まる大きな町で、権力者などからすればお仕事を頼んだりする場所ってわけです。
私が忍者の里という秘境みたいなところで『装備とかお米とか味噌とか色々買い込んじゃいましょう!』と言っていたのは、これが理由ですね。
「……ところでカーチェ。」
「なんですか?」
「なんかめっちゃ見られてるんですけど……!!!」
あぁ……。まぁそりゃそうでしょうね、私ら“南蛮人”って括りみたいですし。
正確に言えば南じゃなくて西から来てますし、野蛮でもないのですが……。彼らからすれば外国人など全て同じ括りになってしまいます。日本をモデルにした地域だからこそ、ここにいるのは全員黒髪黒目。チロさんみたいな赤髪の人とか、私みたいな金髪の幼女とか。めーっちゃ珍しいんです。
最悪死ぬまでそういうの見ない人とかもいるわけですから、仕方ないものでしょう。あ、文字は日本語使ってるので通じませんが、発声している言語は同じなので意思疎通に関してはご安心ください。
「南蛮人、ねぇ。私はともかくカーチェにはぴったりじゃない。野蛮だし。」
「チロさん?」
「事実でしょうが。……んで? “アレ”はどう説明つけるの?」
そう言いながら、ほんの少し視線を動かすチロさん。その先にいるのは……、明らかにこちらを伺っている“ニンジャ”。一般人に偽装しているようですが、体の運びが少々整い過ぎています。転職しなければ解らなかったでしょうが、おそらく中忍から下忍レベルの存在でしょう。
あ、下忍が忍者系の下級職。中忍が忍者系の中級職に成ります。私が最上級の風魔ですので、格下ちゃんですね。
おそらくチロさんは魔法、周囲の反応を感知する『索敵』を持って判別したのでしょうが……。
「そういえばさっき和風ボブを仕入れていた時、周囲に私達以外の気配がありましたね。どうせこの里の忍者だろうと無視していたのですが……。」
「え、それ。アンタのアンデッドも見られてる、ってこと?」
「そうなりますね。」
「そ、そりゃ警戒するわね。……というか確実に討伐対象じゃんか!!!」
そうなるでしょうねぇ。死体をいじくってアンデッドに変える存在などこの地域でもバケモノ扱いです。
「なんでアンタは動じてないのよ……ッ!」
「いやだってニンジャって汚いですし。死体の活用とか自然にしますよ?」
「……そうなの?」
「えぇ。だってとある偉大な忍者さんとか、敵の忍者蘇らせて情報全部抜き取った後、爆弾にして敵陣地に突っ込ませてましたから。」
そう言うと、顔を青くするチロさん。
まぁ別作品の話ですし、この世界における普通の忍者ではそんなこと出来ませんが……。基本闇に潜む者は大体卑劣です。井戸に毒入れるなんて当たり前、相手に重傷を負わせた後に町に『その重症を直せる薬が新開発されたよー』なんて噂を流し寄って来た敵陣営の人間をあぶりだすとかも普通にします。
だからまぁ私の死体遊びも許容範囲。可愛いものと見逃してくれますって。
「それに今から私が里長に成るのです、トップが変わればルールも変わる。世の常ですよねぇ。……あ、昔の事思い出しちゃった。クソ上司殺す。殺す殺すコロスコロス……ッ!」
「なんかまた触れちゃいけないもんが出て来たわね……。んでカーチェ、実際どうやって里長なんかに成るつもり? なんか実力でどうにかするって言ってたけど、どうするのよ。まだ決まってないのなら適当に宿とって馬車預けたいんだけど。」
「あ、それに関してはご安心ください。」
そう言いながらアンデッドの馬を停止させ、馬車を止めます。
「……なんか、明らかに宿じゃない場所だけど。」
「はい、ここがさっき言ってた里長のお屋敷です。そこまで広くありませんが、忍者屋敷ということで仕掛けたっぷりのテーマパークみたいな場所です。んで、実力をどうお見せするかということですが……。」
「まさか。」
「えぇ、カチコミです。」
瞬間、馬と馬車に施してあったアンデッド化を解除し、単なる物へ。即座にアイテム欄に叩き込みながら、王墓で手に入れた斥候用の装備に身を包みます。
本来であればニンジャ用の装備を整えたかったのですが、言ってしまえばここは敵地。里長の地位を確保する前にここで買い物をしても、粗悪品を押し付けられる可能性がありました。故にメンポはありませんが……。ちょうど対魔王様に用意していた布の余りがあります。それを首に巻くことでマフラーとし、準備完了ですね。
あまりヘイトを稼ぎ過ぎてしまえば今後に響きますし、忍者というだけで利用価値のある方々です。わざわざ用意した武器も常時『みねうち』というHPを1だけ残す効果がある特別なものを持ってきました。これで死ぬことはないでしょう。
ということで。
心地よい睡眠に必要な運動分くらいは頑張ってくーださい♡
「というわけで和風ボブ壱号!」
「ワギャ」
「あの門に向かって突撃~!」
「ギャワワ!」
呼び出された瞬間、アンデッドとは思えない速度で走り出す彼。
私達が乗っていた馬車が彼らの屋敷の前に止まったことで、いそいそと戦の準備をしていた彼らでしたが……、和風ボブによってその雰囲気が一気に変化します。
「ちょ、待ちなさッ!?」
チロさんの声がキーとなったのでしょう。
それまで私達の背後の物陰や、屋敷を囲う壁の裏に隠れていた者たちが一斉に顔を出し、持てる限りの武器を投擲。攻撃が始まります。手裏剣や苦無、弓矢のみならず火縄による銃弾も。より取り見取りといった攻撃が我々に飛んできますが……。
もうすでに、こんなもんじゃダメージにもなりません。
「コンゴウ・スゴイカタイ・ジツ!」
「絶対違う奴でしょソレ、『獄炎』。」
私が金剛の術、所謂防御力を底上げする忍術を使うことで攻撃を無効化。チロさんは獄炎を起動し、その周囲に広がる炎を上手く操作することで、自身と私に降りかかるモノを全て溶かし切ってしまいます。……え、和風ボブ? 普通に喰らってますが何か?
まぁ彼はアンデッド。どれだけ攻撃を喰らおうと肉体が残っている限りは走り続けられるのです。
一番手裏剣やら弓矢ら銃弾を喰らいながら、懸命に門に向かって突き進む彼。
そしてようやく、屋敷の正面を守る門に辿り着いた瞬間……。
爆発します。
視界一杯に広がる爆炎は、門を確実に吹き飛ばし、黒煙を立ち上らせます。
傍から見れば木で作られていた門でしたが、実際はカモフラージュ。鉄製の門の上に木々を張り付けた頑丈な物だったようですが、既にこちらは最上位職の風魔です。そもそも魔法攻撃力が上がりやすい『死霊術師』を経由しての転職。チロさんには劣りますが、鋼鉄の分厚い門程度、吹き飛ばすくらいたやすいもの。
「そう、これが2代目考案の穢土転……、じゃなくて『爆裂変化の術』ですね。手裏剣などを爆弾に変える術でしたが、死体にも適用可能。いやー、アンデッドとの相性がいいとは思っていましたが、結構な威力で何よりです。」
「……うわぁ。」
「さ、道も空きましたし。お邪魔させて頂くことにしましょう。行きますよチロさん~。」




