51:しめやかに
「ということで到着しました、有料追加DLC『誉ある者たち』にて追加されました新規マップ。常春の地域として著名な『桜塚』ですね。いやー、久しぶりに見ると良いものですねぇ。桜吹雪が舞い散る下でお昼寝としゃれこみたいものです。」
「……ぅおぇ。」
「あ、吐くならボブに穴掘らせますね。」
虚空移動を利用し2時間のバイク旅。
本来王国の外に存在するため、最短でも馬車で4カ月という旅程を大幅に短縮した私達ですが……。流石に辛すぎたのか、チロさんがダウン。このようにゲロゲロ状態になっております。
私からすればよくあるゲームの裏側空間って感じですが、純粋なこの世界の人間であるチロさんからすれば、世界から存在を拒絶され続ける様な時間。幾ら強靭な精神を持つ彼女でも2時間は無理があったらしく、既に立ち上がる気力すらないようです。ボブが掘った穴の中にその内容物を垂らしているあたり……、かなりヤバいですね。
「ボブにジェットエンジンでも付けて速度向上できればよかったんですけどねぇ。流石にそう言うのは作り方解りませんし……。あ、レシプロ機でしたらアンデッドでも再現できるかもしれません。今度ちょっとやってみましょう。」
「や、やす、ませっ、ぉうぇ」
「あ、マジでヤバい奴ですねコレ。ボブチャン。介抱しておいてください。」
「セバスチャン」
即座にアイテム欄から改造馬車とアンデッド執事のボブチャンを召喚。
何故か鳴き声が『セバスチャン』になっちゃった彼にそう頼めば、やさしく抱きかかえ、ベットの中へと運んで行ってくれました。かなりダメージを受けている様でしたが、彼女はチロさん。魔改造され私に振り回されて鍛えられた存在です。まぁ少し休めば復活してきてくれるでしょう。
さてはて、では私は景色を楽しみながら目的地に向かうことにしましょうか。
(……にしても、転生した異世界でまた日本に触れることが出来るとは。流石に私も感慨深いものがありますね。)
転生した当初は、この世界が『天アバ』の世界だと確証は持っていれど、DLCがどこまで適応されているかの判別がつきませんでした。故に最悪、生まれ変わったこの人生において日本の文化や光景に触れることは難しいだろうと考えていたのですが……。
その機会が転がってくれば、流石の私も頬が緩みます。
別になくても死にはしませんが、また楽しめるとなればこの一帯に広がる桜の木々や香り。そして今後待つであろう日本食のことを考えると、強い望郷の念が込みあがってくるもの。日本食、食べられるのならいくらでも食べたいですからね。これでも食に異様なほど執着している日本人なのです、生まれ変わってもそう変わることはありません。
「味噌に醤油、後は米ですね。大量に買い込むのはマストとして、ウチでも作れるよう苗などを手に入れてもいいかもしれません。」
チロさんに手渡した砂糖の生産で既に把握できたことですが、アンデッドは農夫に成り得ます。24時間働き続け、賃金を必要としない最高の労働力です。現在の自身の職業、『風魔』の忍術で土質の改善や、植物の成長を促すことすら可能になった今。私の生産を止めるものは何もありません。
無論村の人々に分け与えて、新たな産業にしてしまってもいいのですが……。あそこは閉鎖的な村であり、大きな変化を嫌うタイプの村です。何でもない生活を送るには最適ですが、村をより大きく発展させるという目標を掲げるには少し向いていない場所です。まぁ私は騒がしいの嫌いなので、発展して欲しくないのですが。
もし何か村の運営に問題が生じた場合、砂糖を持ち込むなどして改善に動いてもいいのですが、必要がなければする必要はありません。そもそも、どうせ作るものもチロさんの為だったり私の為だったりするもの。当分は個人菜園のノリで大丈夫でしょう。
そんなことを考えながら、馬車を引くアンデッド馬に指示を出していると……。
「ん、建物? まだ忍者の里まで距離があるはずなのですが、おかしいですね?」
忍者の里へと繋がる道を見つけ、それに沿って馬を動かしていたのですが……。
想定よりも早く、建物を見つけます。アンデッドの馬にはカバーを付けてバレないようにしていますし、馬車も『この地域では見られない』ものながら、何処にでもある様なものです。故に人目を避ける必要はなく、道中に建物があろうとなかろうと困りはしません。
しかしながら原作にあのようなオブジェクトが無かった、というのは気に成る所さんです。いくら今の時期が原作開始10年前と言えど、もし『有ったものが無くなれば』それ相応の描写がされていたはず。
「そも、この地域でも普通に魔物が出てきます。そんな危険地域でポツンと一軒家があるというのは……。少々不穏です。確かにのぼりや椅子が外に出ていることから、茶屋的な奴なのでしょうが……。」
まぁいいや。何かあるかもしれませんし、迂回せずちょっと遊びに行ってみましょう。
ということで、えっちらほっちら馬車の御者席に座りながら道を歩いていると、たどり着いたのはどこにでもありそうな茶屋のような場所。おそらくこちらの馬車に気が付いたのでしょう、人の好さそうな顔をしながら、細目の女性が出てきます。……わ、着物に黒髪だ。懐かしさよりも『時代劇みたい!』って感情が来ますね。
「いらっ……、もしかして南蛮人かい?」
「私って南蛮人扱いなんですか? どっちかというと西から来たんですけど。」
「あ、あぁごめんよお嬢ちゃん。外の人は珍しくてねぇ。旅の途中かい?」
「えぇまぁそんな感じです。んで、ここ茶屋さんであってますよね。休憩できます?」
そう言うと、『勿論だよ! 座って座って!』という小気味良い声と共に、椅子の用意をしてくれます。
わざわざ座布団も出してくれましたし、久しぶりに正座でもしてみましょう。おかみさんが何か驚いているようなお顔をしておりましたが……、私日本人ですからねぇ。その辺りは問題ないのです。あ、注文? 何が適当なものを。あ、支払いはこの金貨でお願いします。
「……もらっちゃっていいのかい?」
「えぇ。というかこの国のお金ありませんので、両替料を含めとっておいてください。」
「毎度ありぃ。んじゃ、ちょっと待ってな。腕によりをかけて用意して来るよ!」
そう言いながらこちらに背を向け、奥に入っていく彼女ですが……。
視線が外れた瞬間。『風魔』に至る過程で手に入れた上級忍術を起動し、手で印を結んでいきます。
(チロさんがダウンしていなければこんな小芝居を打つ前に動けたでしょうが……。いやはや、スキルって便利ですねぇ。)
私が懐から金貨を取り出した瞬間、一瞬だけですがおかみさんの目が、座りました。まぁそれだけが理由ではありませんが……。確実に“黒”でしょう。
おそらく以前の私では気が付けなかった違和感。忍者のスキルを入手し、風魔という忍者として最高の職に就いていたからこそ理解できたことになりますが、彼女。着物の中に大量の武器を隠し持っていました。近づかなければ理解できないことではありましたが、着物の下に独特なふくらみがあります。護身というにはあまりにも数が多いですし、厨房の方からほんの少しですが、特徴的な毒の香りも漂ってきています。
チロさんのように周囲を索敵する術を持たない私ですが、忍者であるならば『家屋にいる他の人間』の気配程度なら即座に把握することが可能です。武器を持った存在が控えているようですし……。彼彼女らの詰め方から、おそらく茶屋の外にも控えている人間がいるのでしょう。
(茶屋で旅人の気を引き、茶で毒を飲ませ簡単に排除する。道幅からして馬車や牛車も通るでしょうし……。盗賊にとって絶好の稼ぎ場、ってことなのでしょう。)
「はいよ、お待たせ! せっかくの太客なんだ、特別に濃いめに入れておいたよ!」
「あぁこれはどうもご丁寧に。」
そんな考え事をしていると、軽い握り飯と共に茶を用意してくれる彼女。毒の匂いを紛らわすため、かなり濃いお茶を入れてくれたようですが……。折角のお抹茶だったのに。もう飲めないではありませんか。ということでお仕置きの時間です。
「ところでおかみさん。」
「なんだい?」
作法に則り、合掌。
「そう言えばご挨拶していなかったと思いまして……。ドーモ、ハジメマシテ。カーチェです。この辺りを騒がす賊というのはお前たちのことだな? インタビューさせてもらおう。」
「ちィッ!」
即座に懐の武器を取り出すため、動き出そうとしたおかみさん。しかしアイサツに返礼せず攻撃しようとするその行為は、スゴイ・シツレイ。相手に何をされようとも構わないという意思表示である。これにはジッサイ奥ゆかしいカーチェちゃんでも許容は不可。ケジメ案件だ。
「イヤーッ!」
「アバーッ!」
故にこちらは毒入り茶を湯呑ごと投擲。そしてしめやかに爆散四散するおかみさんの頭部。
「さぁハイクを詠むがいい……。あ、メンポとマフラー用意しておけばよかったですね。」
おぉブッタよ寝ているのですが……!




