49:こんなに大きくなりました
「……カーチェ?」
「なんでしょ。」
「アンタいつまでその生活続けるつもりなの?」
寝室でゴロゴロしていると、何故か急に入って来たチロさん。
なんかいつも通りの凄い顔と言いますか、『コイツの考えていることマジでわからん』というお顔をしているのですが……。その言葉にはどこか非難の意味が込められているような気がします。はて、何かしたでしょうか? 確かに先日、虚空移動で連れまわした結果。かなり機嫌を損ねてしまったのは覚えているのですが……。
「あのねカーチェ。」
「はい。」
「あれから2月経ってるのよ。」
「あら。」
「その間アンタ何してた?」
「お部屋でゴロゴロしてました。」
「働け馬鹿ッ!」
そう言いながら、私のおふとんを引っぺがし、外に放り出そうとして来るチロさん。
確かに彼女、魔改造したおかげでかなり強くなっていますが……。私だって経験値おじさんに魔王を追加したことで、時間経過で強く成って行っています。ちょうど先日行った『転職』のこともあり、おそらくATK、物理攻撃力の数値はほぼ均衡。力任せに引っ張られても、ベットにしがみつくことで耐え伸びます。
「力つよッ!? ……じゃなくてカーチェ! 外みなさいよ外!」
「外ですか?」
そう言われ、しぶしぶアンデッドを召喚し窓を開かせます。
すると入り込んでくる、心地よい陽光。時期的にそろそろ熱くなってくる感じですが……、まだ気軽に日向ぼっこ出来る気温です。あぁなるほど、確かにずっとお部屋でゴロゴロするよりも、たまには太陽の光を浴びながらぬくぬくするのもいいですよね。
王都で揃えた寝具があまりにも良かったので、お家というか寝室から出るのが面倒になっていましたが……。お昼寝にも味変が必要。流石チロさん、解ってますねぇ。
「違うッ! 天気じゃなくてその下ッ! 大地で働いてる人たちのこと見なさいっていってんの!」
「働いてる人……? あぁちょうど菜園を手入れしていらっしゃるドッジュさんご一家が見えますね。あそこのお家。パパに30万くらい借金してるんですけど、まだ返してもらってないんですよね。このままじゃ畑どころか家の権利もこっちに手渡すことに成るんですけど、大丈夫なんでしょうか?」
「え、そうなの? ……じゃなくて! 私は働けって言ってんの! いつまで自堕落するつもり!?」
そう言いながらチロさんの指の先を見てみれば、ドッジュさんちの子。私と同程度の子があくせく働いているのが見えます。
まぁ確かに、ちゃんとお外に出て頑張っている子と。お部屋で何もしていない子。どっちが健康的かと言われれば……。私ですね。うん。だって今でもレベリングしてますから見た目は変わらずとも肉体内部の出来はこちらの方が各段に上ですし、圧倒的です。
多分本気で抱き着いたら爆発四散したクソルール君よりも酷いことに成りそうです。
「だからそう言う事じゃなくて……! あんた村の人になんて言われてるか知ってんの!?」
「あぁ。なんかヤバい奴扱いされ始めてますよね。最初は大量の物資持ち込んで英雄扱いでしたけど、家にこもり過ぎたせいかニートみたいな扱いに成り始めてます。面白いですよねぇ。」
「知ってんなら動けッ!!!」
王都から帰還した際、私は大量の物資をこの村に運び込みました。
主人公であるルールが爆散した原因である崩壊した粉挽き小屋の再建物資や、村人たちの日々の物資。後は身を護る武器や嗜好品などなど。正直それを使って村内部から金を巻き上げても良かったのですが……、幾ら村トップの娘と言えど、小さなコミュニティに属する小娘です。余りヘイトを買い過ぎると、後々面倒なことになる可能性がありました。
故に一旦父に預け、そこから村全体に無料配布することで、一時的に私が英雄扱いされるような感じになったのですが……。
(まぁ人ですし、そう言うのすぐ忘れますよね。)
そもそも我が家、村長家はこの村の住人たちに金貸しのような事を行っています。まぁ農具の新調や新規畑の開拓、その他色々にお金がかかりますからね。助け合いの精神を持って利息無しで貸し出しているのですが……。期限が過ぎてしまえば、代わりに何かを持って行かなければなりません。
この小さな村で金を稼げる手段など限られていますし、その額も知れています。自然と村の形態は、ここが農地を持つ農民たちの集合体から。村長という地主と小作農たちという形にシフトしていくのですが……。これ、ヘイトを買うんですよね。ものすごく。
(パパやママは結構いい人ですし、コミュニケーション能力にも秀でています。利息無しの貸し出しや、先日の物資無料配布のような事を行っているので、そう変なことにはなりませんが……。陰口ぐらいは叩かれるでしょう。)
この村では子供だろうと立派な労働力です。
以前までの私であれば『まだ幼いし村長さんちの子供だから』ということで働かなくてもそう目くじらを立てられることはありませんでしたが……。私は一度働き、その有用性を見せてしまいました。つまりこれは私の身分が『労働力としてカウントされない人間』から、『立派な労働力』に変化したことを意味しています。
「まぁこんな感じでしょう? チロさんが私に文句言いに来たのも、多分ですがハッチャ夫人を始めとした奥方チームに嫌味言われたからでしょうし。……貴女の忍耐力的に、3週間前ぐらいから言われ始めたってところですかね。」
「…………なんでそこまで把握してるのよ。こわ。」
「いずれ私の村に成るのですから、個々人の性格など全て把握済みです。あと今度ハッチャ夫人に何か言われたら『ツケ溜まってますけど、どうするんです?』って言えば黙ります。あそこ200万ほど滞納している上に、もう差し出せるもの無いですから。」
色々不運が重なり、そうなっちゃった感じなのでパパもママもあまり強く返せとは言いませんし、そんなご一家でも小さなコミュニティを構成する労働力の一人です。
やろうと思えば夜逃げしたことにして『消えてもらい』、ボブの仲間になってもらってもいいんですけど……。まぁそれをしたところで一切の利益は出ませんからね。ちょっとした陰口でストレスを発散し、頑張って働いてくれれば村長の娘としていうことは特にないんですよ。
……あれ、どうしましたかチロさん。何か怖いものを見る様な眼をして。
あ、そういえば最近ウチの村で用心棒みたいなことしてくれてるんですよね。村に近寄って来た魔物を焼き殺したとか聞きました。お駄賃に砂糖500gほど差し上げましょう。滅多に手に入らない質の良い真っ白できめ細やかな砂糖です。嘗めるだけでも幸せになれるかと。
「わーい! ……じゃないッ!!! いや確かにアンタが言ったようなこともあるけど! さすがに家にこもり過ぎで心配だから外に出ろって言ってんの! 体動かさないと鈍ってほんとに動かなくなるわよ! それにご両親ちょっと心配し始めてたし! 『最近家どころか寝室から出てこないんだけど大丈夫なんだろうか?』って!」
「あー、そうでしたっけ?」
「なんで家の外のこと無駄に詳しいのに、そこだけ要領を得ないのよッ! あと魔王は何とかなったけど、邪神とか辺境伯とかいうヤバい敵がまだ残ってるんでしょ!? それはどうするのよッ!!!」
えー、私。働きたくないんですけど……。え? これ以上ベットの中に留まるのなら獄炎で焼く? そ、それは今でも普通に溶かされるのは勘弁してもらえませんかね……。
…………はぁ。明日世界が滅亡するレベルで憂鬱ですけど。そろそろ動きますかぁ。
大きなため息と共にベットから降りると、ようやくかという風に少し鼻を鳴らすチロさん。ではまず……、このお昼寝期間の間。私が裏で何をしていたのかご説明しておきましょう。
「まずはレベリングですね。経験値おじさんが魔王と融合したことにより効率が大幅に向上したため、実は既に死霊術師が『何度か』カンストしておりました。既に転職は経ていますが……。一応当時の数値を記録しているので、お見せしておきます。」
[STATUS]
JOB : 死霊術師
Level : 50 (MAX-2周目)
EXP : 203343 / 203343
HP : 16 / 16 (+6)
MP : 30 / 30 (+22)
ATK : 8 (+6)
DEF : 30 (+28)
M.ATK : 29 (+24)
M.DEF : 23 (+20)
SPD : 8 (+4)
LUK : 2 (+2)
Skill :死霊術
「……結構いい数値ね。HPって体力の事よね? 打たれ弱いのは変わってないみたいだけど。」
「HP、ATK,SPD、LUK。まぁ穴はありますがそう弱い感じではありません。本音を言うと、二周も回したのに一桁で止まってるステータスを見ると吐き気を催すのですが……。とりあえず初期チロさんを消し飛ばせるぐらいの強さはこの時点でありました。」
「初期チロって何よ。」
主人公とかがこれだけ育成すれば、三桁のってもおかしくない時がありますからね……。それなのに私の数値は雑魚雑魚の雑魚。モブの宿命として受け入れるしかありません。けれどこれでは、辺境伯どころか邪神の足元にも及ばない強さです。
ということで現在は、『とある前衛職』を選択し、穴になっている各数値の向上に励んでいる形に成ります。
「というわけでこれが今の数値ですね。」
[STATUS]
JOB : 風魔
Level : 8 (3周目)
EXP : 134 / 153734
HP : 31 / 31 (+15)
MP : 38 / 38 (+8)
ATK : 29 (+21)
DEF : 45 (+15)
M.ATK : 38 (+9)
M.DEF : 31 (+8)
SPD : 38 (+30)
LUK : 8 (+6)
Skill : 死霊術
上級忍術
秘伝忍法
「“フウマ”って何? というか滅茶苦茶強くなってるじゃない!?」
「追加DLCで増えた職業の一つです。分類的には『回避万能型前衛』ですね。素早く行動し、相手の攻撃を避け、物理攻撃と魔法攻撃に分類される忍術を駆使するタイプの存在です。まぁ使いこなせばこのように……。」
軽く印を結び、MPを消費すればあら不思議。部屋いっぱいに私が現れます。そうですね、みんな大好き多重影分身の術です。やっぱこれ、楽しいですよねぇ。
「「「「「どうですチロさん、凄いでしょう?」」」」」
「…………ついに人間やめたの?????」
「失礼ですね、魔法の一種です。」
なんか変なことを言い始めたので、泣く泣く術を解除。普段の私に戻ります。
とまぁこんな風に、私も確実に強くなっていっています。まぁレベリングしすぎた結果、必要経験値が酷いことになっていますが、私には経験値おじさんがいるのです。今この瞬間も爆速で経験値が上昇しているのを見て頂ければ、今日も元気に首を落されていることが解ります。
24時間体制で働き続けてくれているのです。おじさんも魔王と融合したことで新しい友達が増えて万々歳、私は時間経過で強く成れて万々歳。ついでに私が強く成れば世界平和により近づく。これが三方ヨシ! という物なんですねぇ。
「あ、ちなみにこの風魔ですが、普通に風以外の忍法も使えるので『大地を豊かに』したり、『植物の成長を早めたり』する効果もあったりします。実はアンデッドが余っていたので、村から離れた地点を切り開き、そこで砂糖農場を開いていたのですが……。」
「そう言えばなんか王都でそんなことするって言ってたわよね。……まさか!?」
「えぇその通り。先程お渡しした砂糖。色と質から見て『上白糖』とでも名付けましょうか。そちらも私が開いた砂糖農場で生産されたものに成ります。やりましたねチロさん。私についてこれば一生砂糖に困りませんよ。」
「……マ?」
マ、です。
以前お約束していましたからねぇ。チロさんの機嫌も取れますし、いざとなれば市場に流せばお金に成るでしょう。それに、以前お邪魔したかのレストラン。スイーツが美味しかったあそこに持ち込めば、より良い菓子をご提供いただけるかもしれません。
「あ、あれより美味しいお菓子が食べられるの……!?」
「えぇ。可能性はあるでしょうね。しかしすぐに何かが出てくるわけではないでしょう。いくらか試行錯誤する時間が必要な筈です。……そうですねぇ、王女経由で幾らか送り、イイものを開発してもらうことにしましょうか。」
「しゃッ!!!」
では時間も稼げましたので、私はまたひと眠り……。しようとしたらチロさんが本気の獄炎を起動しようとしたのでキャンセル。
とても嫌ですが仕事をすることにします。
「せっかく忍者に成りましたし、実は欲しい武器があるのです。少々遠いですが……、『忍者の里』。行ってみましょうか。」
強さ的なのが大きくなったのか、カルマ的なものが大きくなったのか判断に困りますね。
あとチロさんは二カ月間カーチェというストレスの根源が行動を停止したので、体重が適正値に戻りつつあります。大きくなりましたね……!




