46:秒死四天王
正直、途轍もなく後悔している。
魔法使い、剣や槍と比べ格段に威力が高い『魔法』を使える私たちには、一番気を付けないといけないことがある。
それが、味方撃ち。誤射だ。
前衛で戦うような人ほど、魔法への抵抗力が弱い傾向にある。だからこそ彼らに前を頼み後ろから魔法を撃つ時に、一番気を付けなければいけない。もし直撃してしまえばその仲間の命を奪い、同時に前衛を失った自分の身を危険にさらすことになる。他の仲間への強い不信感を植え付けることにもなる。
私は長期のパーティを組んだことが無いが、商人の護衛は何度もしたことがある。護衛対象を傷付けず、敵だけを対処する。仲間がいようがいまいが、誤射の危険性は同じ。万が一が起こらないように常に鍛錬し、その操作技術を高めていく。それが私達、魔法使いだった。
けれど私は……、事故と言えど、彼女に当ててしまった。
よく忘れそうになるが、未だ彼女は齢5つの女の子。そんな彼女を、殺しそうになってしまったのだ。いつの間にか備わっていた魔法を唱えてしまい、効力が暴発。周囲に信じられない火力の炎がまき散らされ、私を中心にすべてが溶けていく。あそこにいたのがカーチェでなければ、私は人殺しになっていただろう。
彼女の機転のおかげで、何とか大事には至らなかった。
そして同時に『いつも通り』振舞うことを求められたわけだが……。
(あ、うん。これ本当に気にしなくていい奴だわ。)
「私ここ連れてこないでって言ったわよねぇぇぇえええええ!?!?!?」
「確約はしていなかったはずですが?」
「あぁぁぁあああああああ!!!!!」
全身に叩き込まれる、“拒絶”の感覚。全世界から拒絶され、自身の人格どころか存在すらをすりつぶされそうになる感覚。こんなところ一人で入り込んでしまえば即座に廃人になってしまうし、傍に全く動じてないカーチェがいて、それに思いっきり抱き着いていたとしても、声を上げてないとそのまま廃人になってしまいそうなヤバさ。
そ、そこに。10分も叩き込まれるとか地獄でしかないでしょ!!!
「いやだって四天王って大陸の四方に散らばってますから……。これでもかなり高速化してるんですよ? 見てくださいよコレ。」
そう言う彼女の指の先には、よく『ボブバイク』と言っている存在が。
普段はアンデッドになった人間が腕を伸ばした腕立ての姿勢を取りながら両手両足の間に人の生首を連結し、高速回転することで無駄に速い乗り物になっているのだが……。今日は生首ではなく、胴体がつながったアンデッドがそのまま連結している。
うん、首が高速回転するのではなく、タイヤの部分につなげられた五体満足のアンデッドが、全力疾走しているのだ。……私は何か悪い夢でも見てるの?
「ボブバイク:スカイタイプです。王墓で発見した『空飛ぶブーツ』をアンデッドに装着させ、虚空内部での高速移動を可能にした特殊バイクですね。確かにそのままお空を飛びながら目的地を目指してもよかったのですが……、虚空を使えば各段に時間短縮できます。」
「普通に! 普通に外! 外がいい!!!」
「数か月レベルの長旅に成るので、そう言うのはあんまり……。確実にパパママに止められちゃいますし。」
「私! 私が! 何とか! 何とか説得するからぁぁぁぁ!!!!!」
「というか馬車の中でお昼寝するよりも、お家でお昼寝する方が各段に快適なんですよね。後今日中に魔王までの対処するので覚悟しておいてください。」
「ヤダァァァァアアアア! 返して! 元の世界返して! うわぁぁぁあああああ!!!!!」
とまぁそんな感じで叫びながら何とか10分耐えきると、連れてこられたのは全く見たことのない草木が生い茂るジャングルのような場所。
私を安心させる? ためかずっと喋ってたカーチェの言葉を思い出すと、何でも魔王という存在を倒すためには事前に四天王を撃破する必要があるらしいのだが……。
「魔王城の最奥へと繋がる扉があるのですが、部外者が侵入する場合。四天王がその胸に秘めている宝玉を填め込む必要があります。有識者諸兄諸姉の研究のおかげで、『宝玉無しで突入する』方法はいくつかあるのですが……。今回私が行おうとしている『経験値トラップ』の作成のためにはどうしても必要になるのです。」
「そ、そうなの?」
「みねうちの状態で連れ帰る必要がありますからね。それに、『扉が正規の手段で開かれた』というフラグは『その先に魔王がいる』という条件を決定づけるので、本来ならまだ生成されていない魔王を無理矢理誕生させ、生け捕りにすることが出来ます。というわけであそこにいるエチエチな感じのドライアドが四天王の一人に成ります。殺してください。」
「え、あ、うん。『大火球』」
さっきの強行軍のせいか、反射で“これまでの最大”であった『大火球』を放ってしまう私。
けれど以前の威力は以前の大火球とは大違い。本来赤く燃え盛るはずの炎が何故か真っ白に発光し、周囲のものを熱で溶かしつくしながら進んで行ってしまう。これまでの私ならば意識して制御しなければ起こせなかった延焼も、今では保有する熱だけで勝手に燃えていってしまうレベル。
無理矢理戦わされたあの巨大なゴーレムだって、今では全く怖くない。いや恐怖を感じないだけの魔力を、自分の中に感じている。
……というか四天王っていうあのドライアド、上半身人間で下半身でっかい球根なタイプの魔物だけど。女の私がムカつくくらい良い体してるわね。魔物のくせに。ちょっと火球操作して、内外から焼き尽くしてやろ。
「エ!? ナ、ナニ!? 火!? ギャ、ギャァァァァ!!!!!」
「ナイスショット。やはり四天王レベルなら『大火球』で十分ですね。あ、魔王にはさっき失敗した『獄炎』でお願いします。練習です練習。生け捕りにするつもりですが、第二形態があるので初手はオーバーキルでも問題ありません。では次の四天王に行きますね。」
「……また虚空を移動するの?」
「勿論です。なので耐えてくださいね。」
カーチェがそういった瞬間、虚空に叩き込まれてもう一度始まってしまう最悪な虚空旅。
ほんとにもう声を上げてないと自分が何かに押し潰されそうな感覚。カーチェを殺しかけてしまったという自責の心こそあれど、幾ら世界のためとはいえこんな状況に叩き落してくるカーチェへの怒りが募っていく。でもまぁ彼女に当たっても、もっとひどい状況になってしまうのは目に見えているので……。
八つ当たりするしかない。
「あぁぁァ! 何が! 何が四天王だ! 魔王だ! もう全部しねぇぇぇ!!!!!」
「炎ノ王デアル我ニ大火球……。エ、何ソノ威力。グ、グワァァァァ!!!」
「水ニ火ガ効カナイッテ子供デモ……、ウワ蒸発! 消える! カ、体ガァァァアアアア!!」
「ドンナ攻撃モ雷ノ前デハ無力! 避ケテシマエバ……、アバァァァアアアア!!!」
「しゃァ!」
「ほんと操作技術は一級品ですよねぇ。火は呑み込み、水は蒸発させ、雷は蜘蛛の巣状に展開させ殺す。それも全て『大火球』だけでの対処。流石チロさん、お見事です。」
「はッ! アタシがいっちゃん強いのよッ!!!」
強大な敵と戦うために、ではなく。単に虚空での移動で消耗した精神を奮い立たせるために無理矢理強い言葉を使う。……いや昨日までの私だったら全部の四天王に敵わないどころか、多分一瞬で消し炭にされてそうな相手だったんだけどね? 隣で宝玉を拾い集めてるカーチェに魔改造された結果、まるで脅威を感じなくなってしまった。
自分でも強くなったことは確実に解るんだけど……。怖くて深く聞き出せないのよね、うん。というかコイツの場合、聞かずに従っていた方が幸せな気がする。なんか『この世界実は作りものですよー』みたいな戯言言ってたし。うん、そうよ。全部気のせいなの。
「もっかい1から説明しましょうか?」
「やめて。」
「あら残念。では最後に魔王ですね。ステータスだけを見れば格上に成るのですが、『獄炎』があるチロさんならまぁワンパンです。あ、でも指示通りに動いてくれませんと私もチロさんも死にますから、ちゃんと従ってくださいねー。」
「解ってるわよ。……んでさ、もう虚空移動ないわよね? ねぇ、無いって言ってよ、ほんとに辛いのよ。しんどいのよ。きついのよ。無理なのよ。助けて、たすけて、タスケテ。」
「普通にここから30分ぐらいかかりますし、帰りもそれぐらい時間かかりますよ? 頑張ってください。」
「やだぁぁぁ!!!!!」
〇虚空移動
RTA勢御用達の移動方法。地面の裏側に入り込み移動することで本来よりも各段に素早くマップ間を移動できる。マイクラのネザー移動みたいな感じ。ただ現地人からすれば『本来自身が存在してはいけない場所』なため、精神に強い負荷がかかる。
常人であれば数秒で精神が崩壊することは例の組長さんが実演しているのだが、カーチェはそもそもこの世界の人間ではないという自覚があるため全く効かない。なのでチロさんのダメージに関してはあまり理解できていないところがある。というか抱き着けるカーチェがいるとはいえ十数分レベルを耐えきれてるチロさんがヤバい。心の強ぇ女。
ちなみにパワーアップした身体能力で全力で抱き着いているため、カーチェは物理無効の王墓産アイテムを使用している。じゃないとグチャグチャに抱き潰されて死ぬぐらいには強く抱き着いてる。




