45:危ない危ない
「おわッ!? ……あれ、ここは?」
「ようやく起きましたかチロさん。村近くの墓地ですよ?」
「あぁうん。そっか、そうよね。なんか急に変なところに連れていかれて、そこで拷問みたいに魔物しばき回るのは全部悪い夢よね、うん。そうよね……。」
なぜか自分に言い聞かせるように、そう言うチロさん。
普通に全部事実というか、気絶させた後もかなりの工数レベリングしていたのですが……。まぁ言わぬが花という奴でしょう。ここで錯乱されても困りますし、私も私でそろそろ次に進みたいのです。さっさと切り替えて貰わなければ困ります。
ということで彼女の言葉を半ば聞き流しながら、アイテム欄を操作。使い物にならなくなった死体などの筋肉を張りあつめて形成したマッスルボブ2号機を出現させておきます。私というチロさんにとっての味方が生み出したアンデッドですので、倒しても経験値などは手に入りませんが……、現状の強さを再確認するよい指標に成ることは確かです。
「ではチロさん、急で悪いのですが、あのアンデッドに向かって『小火球』でも撃っていただけませんか?」
「え、うん。それぐらいならいいんだけど……。ねぇカーチェ。私、アイツの事夢で見た気がするんだけど。」
「正夢じゃないですか? とにかく時間押してるので早めにお願いします。」
「そうなの? じゃあとりあえず、『小火球』。」
彼女がそう唱えながら、いつものルーティンで魔法を起動させますが……。その手に生み出されるのは、極大の豪火球。以前彼女が苦戦した“警備ゴーレム”程度なら一撃で破壊できそうなレベルです。大きさも以前の野球ボールレベルから、バランスボールレベルに。うーん、これ私喰らっても即死ですねぇ。
まぁそれもそのはず。何せ彼女の魔法攻撃力は以前の5倍に跳ね上がっているのです。逆に言えばコレぐらいしてもらわなければ困ります。
「…………は???」
「うんうん問題なさそうで良かったです。最初は火力不足が心配でしたが、今のチロさんなら魔王程度ワンパンでいけるでしょう。『獄炎』も持ってますし、まだ成長途上と言えど十二分に活躍できますね。」
「ちょ、ちょっと!? な、ナニコレ! ナニコレ! あ、あと『獄炎』ってな」
「あ、まず。」
チロさんがそのワードを唱えた瞬間。即座にアイテム欄から取り出せる限りの死体を前方に投棄、即座に防御態勢を整えますが……。
一瞬にして、視界が炎に包まれます。
おそらく単なる死体程度では、防御壁にすらならなかったのでしょう。圧倒的な火力によって即座に蒸発し、自身の肉体が火によって解け始めます。このままじゃ死体すら残さずに消し飛びますね。こっちだって自動経験値マシンでレベル上がっているというのに。
ですがまぁ、一瞬でも時間を稼げたのは確か。死体の次に取り出していた『不壊』の性質を持つ天使像を取り出し、それに触れることで転職の空間へと転移します。
「おわ人の子!? って溶けてるッ!?!?!?」
「回復薬買い込んでいるのですぐ直りますよ? ……王女の支援によって在庫に余裕があると言えど、普通に回復役はいた方がいいかもしれませんね。近接の火力も欲しいですし、辺境伯と戦う前までに仲間はあつめ切っておいた方が良さそうです。っと、修復終了。ではお邪魔しました。」
「なんか半分くらい溶けてた気がするけど、即座に元通りになって帰って行った……。え、人の子大丈夫なの?」
天使のテーちゃんのお話を無視しながら、再度元の世界へ。
想定通り未だ周囲に獄炎がまき散らされていますので、まだ余っていたボブバイクを召喚し、即座にその場から離脱。取り合えず効果範囲外へと逃げ延びます。あぁもう。そのスキル使い方次第じゃ味方もダメージ喰らう奴なんですから、気を付けてくださいよぉ。
「え、わた、わたし。今……?」
「とりあえず獄炎制御してください。周囲の炎を『火球』系のように集めれば収まりますから……。はい、出来たようで何よりです。やはり操作技術は一級品ですね。」
先程彼女が使ってしまったスキル、『獄炎』は最上級職のスキルだけあって、かなりの効力を持っています。スキル使用時に自身を中心とした一定エリアに火をまき散らしてしまうというデメリットこそあれど、『火属性無効化』を全て無視できますし、その倍率はそれまでの魔法と比べ群を抜いています。
DLC適応後でも、ゲーム攻略サイトの『最強職業ランキング』の中で最上位ティアだったのを考えれば、その強さはご理解いただけるでしょう。
「ただまぁ、フレンドリーファイヤは確実にしますし、火属性無効化も突破して来るので、パーティ内で強さが突出しすぎていると味方が全滅するっていうデメリットもあるんですけどね?」
「い、いま。私。か、カーチェを焼いて……」
「チロさーん、無傷ですよー?」
「…………ほんと?」
「ほんとほんと。というか私がチロさん程度の暴走想定してなかったとでも? 思い上がらないでください。」
「そ、そうよね。うんそう……。」
一瞬私の顔が溶けるのを見てしまったのでしょうか? 若干錯乱が入りそうだったチロさんに言葉を紡ぎます。
……まぁ普通に想定外でしたし、あとコンマ数秒防御が遅れていればそこで溶け死んでいたでしょうが、まぁ最終的に無傷なので良しということにします。チロさんも目をつむり何かを言い聞かせているようですし、多分大丈夫でしょう。……あ、王女からイタ電きてますね。私がダメージ食らったの察知したのかな? とりあえず無事なので 『問題ない』という言葉と共に、着信拒否しておきます。うるさいの嫌いです。
「はい、ということでチロさんが無茶苦茶強くなっているのはご理解できたと思いますが……。大丈夫ですか?」
「焼いてない、私は焼いてない。……っし! うん、大丈夫! って言うか私に何したのよカーチェッ!」
「無理して声上げてるような気がしますが大丈夫ですか? あと普通にレベリングして魔改造しました。色々出来ること増えてると思うので、色々試してみておいてください。」
獄炎もそうですが、範囲魔法や上級魔法も入手してますからねぇ、チロさん。私が彼女に求めてるのは火力だけなので、獄炎以外使用することはないでしょうが……、まぁ出来ることが多ければ多いほどいいのは世の常です。とりあえず、私が覚えているのを紙に起こしておくので、それを見ながら……。
「あ、さっきので死体全部なくなったんでした。筆記作業代わりにさせられません。……仕方ありませんね、鮮度は悪いですが、適当に死体掘りだして筆記役にしましょう。」
「……私がやったほうがいい?」
「結構です。チロさんには他にやってもらうことがありますので。」
何せ魔王を経験値にするために、四天王全員を消し飛ばしてもらう必要がありますからね。
道中の時間をスキップするためにまた『虚空』を通りますから、覚悟決めておいてください。




