37:たのしい盗掘
「あ、あの。王女様?」
「既にこの身は主様から“ソフィ”の名を頂いております。呼ぶならそっちにしなさい愚民。主様のペットであるならば、その自覚を持つべきではないのですか愚民。」
「……あ、あの。カーチェ? この人、私のことすっごく愚民扱いして来るんですけど。」
「愚民だからじゃないですか?」
気絶し泡吹きマシンから人間に戻ったチロさんの言葉を、適当に流します。
まぁ正直どうでもいいですからね。王女ことソフィさんも、私に忠誠を誓っているのならば私のペット扱いになっているチロさんを攻撃することはないでしょうし。スルーでいいのですスルーで。
……あと圧倒的に格上なので、変に否定したりして反逆されたくないです。
(アンデッドとその創造主である死霊術師の間に構築されるライン、しっかりとした主従関係が為されてるっぽいんですけど……。王女が強すぎていつ反転するのか解らないくて怖いんですよね。はい。)
そんな私達は、現在王墓の最深部に向かって移動中。その間に適当なお部屋に入り、副葬品たちをせっせと回収している次第になります。
この王国自体、結構歴史の長い国の様で、埋葬されている王も結構多め。一緒に収められているものも、金銀財宝から武器魔道具まで。色々とバリエーションがあって楽しいですし、普通に有用なアイテムもぽろぽろありますのですっごく良い感じです。ただの盗人では持ち帰るのに苦労したでしょうが、今の私には『アイテム欄』という無限ポケットがあるのです。盗掘し放題ですね。
「それに……。」
「主様の御業により再誕させて頂きましたが、元は王女。そして次期国王であった身です。その私が『お納めください』と言っているのですから、この場に眠る祖霊たちも喜んで差し出すことでしょう。」
「所有者があげるって言ってるんですから何も気にせず回収できます。」
「……今のカーチェって作ったアンデッドを問答無用で配下に出来るんでしょ? それで死んだ王女を復活させてアンデッドにしてるわけだから、なんかもう洗脳と一緒なん「文句あるのですか愚民」ア、ハイ。ナンデモナイデス。」
うんうん。『共犯者』のチロさんにご理解いただいたようで何より、です。
あ、ちなみにですが現在の王国法によると『生存などの権利が認められるのは生者で人間のみ』とあるため、アンデッドに成っちゃった王女は人間扱いされませんし、生前持っていた権利も発生しません。
というかそもそもアンデッドな時点で人類の敵ですし、発覚すれば即座に撃滅されるような存在になっています。あ、あと。そんな人類の敵であるアンデッドを使役する死霊術師も、人間扱いされないでしょうね。
発見しだい即殺でしょう。無論仲間であるチロさんも同罪です。
「カーチェ、帰っていい?」
「駄目です。あと逃げてもチロさんじゃ逆立ちしても勝てない警備ゴーレムがうじゃうじゃいますし、多分王女がキレて殺しに行くので辞めておいた方がいいかと。」
「あ、主様の慈悲を賜りながら逃げる、と……?」
「ジョ、ジョウダンデスヨ! イヤダナー!」
「あとソフィ、私チロさん気に入ってるので手を出したらキレます。」
「ッ! た、大変申し訳ございません!!! この責、如何様にも!!!!!」
こえでか。……王女ってこんなキャラでしたっけ? 原作では基本大人しい人でしたし、前線に立つことはあれど凛とした姿を崩さない様な人でした。確かに主人公と恋仲になった後は急に国有の一等地プレゼントしようとしたり、国庫の中身全部上げようとするぐらいには愛の大きい人ではありましたが、騒がしい人ではなかったはず……。
まぁいいや。とりあえず奥に進みましょう。
そんな感じでテクテク歩いて行けば、ひときわ大きい扉が一つ。ここが初代国王が眠る場所であり、この王墓のゴーレムやトラップなどを全て管理する場所でもあります。んでちらーっと物陰から扉の方を伺ってみれば、扉の前に直立する警備ゴーレムが2体。門番さんですね。
「あ、そうだ。攻撃してみます、チロさん?」
「…………用済みになったから死ねと???」
「そんなこと言ってませんが?」
私より明らかに強そうというか、三倍以上の魔力持っている上に忠実なアンデッド手に入れたから殺す気じゃ……!? とか意味不明なこと言ってるチロさんをすぐに否定します。
「魔王とか邪神とか辺境伯相手にするには、アレぐらいのゴーレム一撃で倒してもらわないと困るんですよ。私みたいに今の能力解るわけじゃないですし、やっぱり現状の実力を実感してもらって、今後に生かしてもらいたいなぁーって。」
「あぁなるほど。そういうのね。了解了解。…………ちょっと待ちなさいアンタ! 魔王に邪神に辺境伯ってなに!? いやさっき聞いたけど私もそれと戦わなきゃなの!? てか並びおかしくない!? 強い順よねソレ!!!」
「強い順ですが?」
「辺境伯どこまでバケモノなの!?」
「裏ボス倒した後に出て来たDLCコンテンツのボスです。全クリ前提で作られたから仕方ないかと。」
「仕方ないって何が!?」
「あ、主様のお言葉を無視するどころか否定するのですか愚物……!」
なんか叫び出すチロさんに、なんかキレ始める王女。うんうん、良いですねぇこういうの。カオスな感じがとても好みです。
うるさいので眠い時は殺しに行きますが、今は眠くないので楽しい事この上なし。あ、そうそう。チロさんが騒いだせいで門の前にいた警備ゴーレムがこっちに走り寄ってきてますよ。
「はぁ!? あぁもうこうなったらヤケよッ!」
「がんばれー。」
「“燃え盛る息吹よ 今形となり 焼き尽くせ!” 『大火球』!!!」
即座に両手に魔法陣を展開させ、戦闘態勢に入る彼女。
両手から火の玉を生成し、それを一つに合わせることで巨大な火球へと変化させます。そして威力向上のために、詠唱もいれたそれは、おそらくチロさんが出せる最大火力。
現在彼女の魔法攻撃力が15で、『大火球』の威力が確かその2倍。時間をかけて詠唱を入れたことを考えると、倍率は2.5倍といった所でしょうか。威力にして37くらいですね。結構な威力です。
けれどまぁ警備ゴーレムには物理魔法半減の効果が常時ついていますし、チロさんはそれを突破する術を持っていません。ゴーレムが保有する魔法防御力がそもそも20であることを考えると……。
(37/2)ー20=-1.5≒0 うん。ノーダメージです。
かなりの熱量と大きさを誇り、ゴーレムに向かって打ち出された火球でしたが、着弾後すぐに消失。焦げどころか塵の痕すら残せない文字通り“何の成果”も上げられませんでしたね。
「き、きいてない!」
「ちなみに物理の方が強いので接近戦は死にます。無慈悲ですねぇ。」
「ちょ、死ぬ! ほんとに死んじゃう!」
「主様。」
「はい、じゃあピッチャー交替と行きましょうか。行ってくださいソフィ。」
「御意。」
そう言った瞬間、私の前に飛び出しながら前に出ていたチロさんの首根っこを掴む王女様。即座にチロさんを後ろに放り投げながら、戦闘態勢に移行します。
彼女の職業ですが、確か『亡国の屍姫』とかいう奴だったと思います。普通に見たことのない職業なのですが、おそらくまだ発見されてなかったりする隠し要素の一つなのでしょう。『天アバ』の製作陣そういうの好きでしたし。
そんな未知の職業ですが……、保有スキルやステータスからその攻撃手段や戦闘の組み立て方は容易に想像することは可能です。ソフィの保有する『血魔法』は自身の血液を媒介にし、グロテスクなエフェクトと共に効果を及ぼすもの。しかし近中遠距離と幅広い距離で戦える便利魔法です。
(まぁ使い過ぎると失血死しますし、彼女の場合攻撃力が5と低いので、中遠での運用でしょうが。)
「主様に歯向かう愚物、ここで排除して御覧に入れます。」
そう言いながら彼女が生成するのは、2本の血の槍。
胸元に開かれた死因の傷から溢れた血を指で拭い、大きく払うことで生み出されたソレは、即座にゴーレムたちに飛来していきます。
こちらに走り寄るゴーレムと、未だ門を守るため動かないゴーレム。両者ともに魔法の威力を半減させる、得意な金属によってその肉体を構成していますが……。
まるで障子にでもぶつかったように、突き刺さります。
(ま、彼女の魔法攻撃力は33、チロさんの倍以上あります。そこに血魔法の倍率が掛かるわけですから、通らなければおかしいというもの。ですがまぁ、血魔法の恐ろしさはここからでして……。)
私がそんなことを考えながら眺めていると、血によって構成されていた槍が、ゆっくりとその形を溶かしていきます。
元々は血というただの液体。魔力に寄って形を保っていたとしても、いずれ解けるのが世の定め。自然とゴーレムの身体から垂れていき、その身を赤く染め上げますが……。
王女からすれば、それが目的。
「“デトネーション”」
彼女の言葉によって、起動する血液。
ゴーレムの体表に付着していたソレが、“内側に向かって”槍を形成します。瞬間、真っ赤なハリネズミになってしまうゴーレムたち。フレームどころかそのコアまでも破壊されてしまったのでしょう。即座に行動を停止し、その場に倒れ伏してしまいます。
……こういう2手で確実に詰めていくからこそ、血魔法って強いんですよねぇ。
ただ人が使うとHP(血)を大量に消費するので割に合いませんし、1手でぶち殺せる職業がたくさんあるのでプレイヤーからすればあまり使われないスキルなんですけど、彼女は別。
「ソフィちゃんがMPタイプのアンデッド、つまり血液無限生成なのが上手く嵌ってる感じですね。良い手際でした。」
「感謝の極みでございます。」
「……本格的に私要らない子になって来たわね、これ。」
さ、門番倒しましたし、初代国王様のお墓に入っていきましょう!
あとチロさん。貴女は私が魔改造して化け物に仕立て上げてあげますから、待っていてくださいね? その過程で色々大変なことに成るでしょうけど、ちゃーんと死ぬまで私の護衛として働いてもらいますから!
あ、今私『死霊術師』だから、死んでも働かせますね!
「この子について行くって決めちゃった昔の私ぶん殴りたい……!」
……一応冗談のつもりだったんですが、まぁいいや。
否定しないでおこっと。




