36:でっかくなっちゃった
「フプクプクプク」
半ば現実逃避しながら、泡吹いてぶっ倒れているチロさんを眺めます。
おそらくですが、ここまでの道中に見てしまった警備ゴーレム。数えきれないほどいる自分を一瞬で殺し切ってしまう化け物の住処を通らされたことで精神が削られ、王女の墓を荒らすというバレたら皆殺し案件な事に怯え、最終的に“再誕”の儀式があまりにもおぞましかったことから恐怖で気絶してしまったのでしょう。
若干彼女が心配になりますが、その泡の吹き様はまさに芸術的。著名な画家を連れてきて絵を描かせたいくらいです。確実に文化財コースですね。はい。
(まぁ実行した私でも“キモ”って思うほどには不気味でしたからねぇ。)
そもそも、スキルというものは備わった瞬間に『一程度の理解と使い方』を察することが出来る力です。私が何も学ばずにアンデッドを操れるのもスキルのおかげ。しかしこれは一切の発展性がないわけではないのです。使えば使うほどに習熟度は上がりますし、学べば学ぶほどに出来ることは増えていきます。今の職業であれば、死霊術師ながら生者を思うがままに操る、とかでしょうか。
まぁそんな発展性のあるスキル。本来ならばどこかに師事したり、本を読んだりするのでしょうが……。私には原作知識というものがあります。作中で敵となっていた死霊術師がしていたことを列挙し分析する、いわばあらかじめ答えの解っている問題を逆算して解くかのような行為を行い、今現在の習熟度では本来使用できないような技を実現させてみせた、って感じです。
なのでおそらく高等技術に類する様な、一度死んだものを“より高位なアンデッドとして再誕させる”ことも出来たのですが……。
「詳しく調べずにやっちゃったせいで、何かおかしな事になってますよね……。」
「プクプクプク」
ちらっと彼女、私が生み出したアンデッドの方を見てみれば。ずっとこちらに跪き次の指示を待つ王女の姿が。
この人の元々の身分を考えれば、村娘である私に跪くとか天地が引くり帰ってもあり得ないんですけど……、なんか私を主人扱いしてますし、死霊術師特有のアンデッドとの繋がりも私を主とした関係性が成立しています。い、いやね? 元々色々働いてもらうつもりで蘇らせたのでね? 主従関係が出来るようにはしましたけどね? 急に『御身の前に』って言われるとか聞いてないんですよ。
しかもなんか私がよく知る彼女の姿というか、原作後半で出てきてた大人としての彼女の姿になってるんですよね。もともと5歳だったから5歳児のアンデッドを作るはずだったのですが、なんかデカくなってる。これじゃぁもう王女じゃなくて女王じゃないですか。
「あー、えー。」
「なんとでもお呼びください、主様。」
「じゃぁソフィちゃん。なんでデカくなってるんです?」
「申し訳ございません、いま確証をもってお答えできるものはございません。ただ、推測であれば幾つかございます。このソフィめに、少しお時間をいただけますでしょうか?」
「あー、うん。じゃあお願いします。」
幾ら原作キャラとはいえ、自身の住む王国の王女に敬語を使われるのは精神的に良くないなぁと感じながら、彼女の無駄に高貴な言葉を聞いてみます。
「おそらくでございますが……、主様のお持ちの記憶が作用したのではないかと愚考いたします。先程の御業は、素体となった者をより最適な形で再誕させるものと拝察いたします。その際、主様の記憶より“最上のわたくし”が抽かれ、形づくられたのではないかと。」
「あー、うん。まぁ知ってますからね、成長後の姿。あぁうん、つづけて?」
「は。おかげをもちまして、五歳の童では到底持ちえぬ知識。国家の運営、王としての心構え、社交の作法までをも備えております。これもすべて、主様からの賜りもの。この恩義に恥じぬ働きを、必ずや果たして御覧に入れます。」
……うん! なんか向けられてる感情がクソデカい! な、なんでこの人私に忠誠向けてるんですか……???
あ、私がこの人再誕させたからか。
「あー、うー、どうしよ。幼女のまま復活させて、そのまま今の国王王妃の所にぶち込んで色々情報だけ流してもらおうかと思ってたんですけど、成長した後の姿で出ちゃったか……。戦力には成るだろうけど、『原作での王女』の働きは……。」
「ご許可さえ頂ければ……。3年、いえ2年でこの国を主様に捧げます。」
「いけそうですね。大まかな流れでいいので教えてください。」
「主様の御業を賜る前、幼き日の記憶ではございますが、わたくしは両親から愛されておりました。主様より賜ったこの顔も、両者の面影を宿しております。口惜しいことながら……、『初代国王陛下の御業により蘇った』と称して王宮に戻れば、疑念を持たれることなく受け入れられましょう。あとは政敵たるジュポン公爵を排し、中央の権を固めるのみ。二年の猶予を頂ければ、この国を主様への供物として仕立て上げてみせます。」
「採用、それでいきましょう。私の仕事がない所が途轍もなくグッドです。」
「これほど嬉しきことはございません。」
そう言いながら、嬉しそうに頭を下げる彼女。
うんうん、すごくいいですね! 最初はどうなるかと思いましたけど、普通に何とかなりそうというか、想像以上に良い感じに転がりそうです! この子がアンデッド。つまり『魔物に類するもの』とバレればちょっと面倒なことに成りそうですが、待ってるだけで国の支援を受けれるのはこれ以上ない利点です!
いやはや、蘇らせて良かった良かった!
「あ、そうだ。ステータス見てもいいですか? “単純な戦力”として使えるかも見ておきたいので。」
「主様のお望みのままに、この身を余すところなく御照覧くださいませ。」
……胸元を大きく開けたドレス着てる人がそんなこと言うと、年齢制限掛かりそうですね。いやまぁアンデッドであることを知らしめるための構造というか、胸元で赤く怪しく輝いている傷を見せつけるために開いているのは解るのですが……。王宮に戻すときはちゃんと隠させてから行かせましょう。
ということで確認確認。
[STATUS]
Name : ソフィ
JOB : 亡国の屍姫
Level : 1
EXP : 0 / 0
HP : 0 / 0
MP : 98 / 98
ATK : 5
DEF : 28
M.ATK : 33
M.DEF : 42
SPD : 21
LUK : 55
Skill : 屍術
血魔法
「うわつっよ。しかもMPタイプじゃないですか。やば……。」
MPタイプ、所謂HPとMPを共有しているタイプの存在です。レイスとかの幽霊系の魔物に多いのですが、ダメージを受けるとMPが減るタイプの魔物ですね。基本的にステータスが高く厄介な敵ではあるのですが、攻撃にもMP。いわば命を使用して戦うため、長期戦に成れば成る程勝手に自滅していくタイプの敵でもありました。
しかしこの子は……、98とかいう明らかにヤバい数値。これじゃあ息切れするまでかなりの時間がかかりますし、そもそものステータスも私どころかチロさんよりも強い。殴り合いでも普通に負けますし、私のようなアンデッドを作る力はなくとも操作は可能な『屍術』と、血を自由に動かし遠距離攻撃から身体強化のバフまで付ける『血魔法』を持っています。
あー、うん。これ『死霊術』で手綱握ってるからいいですけど、離した瞬間に私たちどころか王国が死者の国に成っちゃうやつですね。やば。
「もしかしなくても、単身でジュポン公爵とかその他もろもろ滅ぼせちゃう感じ……、ですよね?」
「死する前から、下手人たちの名は全て把握しております。お命じ頂ければすぐにでも首を捧げて御覧に入れましょう。」
なるほどなるほど、それは素晴らしいですね。
……何かの弾みで反乱された時に備えて、早急にレベリングする必要がありますね。ちょっとあまりにも面倒なので採用するか迷ってましたが、『魔王経験値トラップ』の作成を真面目に考えた方が良さそうです。今の経験値おじさんでは効率が悪すぎます。
「うん、まぁ今は置いておきましょう。してソフィちゃん?」
「はい、主様。」
「王国の支配ですが、やはり一人だけでは数が足りないのではないですか?」
「ご慧眼の通りでございます。故にアンデッドの楽園とも呼べる、王国北部にございます大霊園を“視察”の体で抑えようかと考えておりました。」
「それ、キャンセルで。もっといいものを用意してあげましょう。」
今もまだ泡吹いてるチロさんが精神的に追い込まれた理由の一つ、警備ゴーレムですが……。とある手段を用いることで、その全てを『管理下』に置くことが可能なのです。本来であれば、追加DLCでの実装で、大規模マップで行われるような『戦争』を簡単にする兵士ユニットのような扱いでしたが……。
全てが現実となった今では、それ以上の働きが期待できます。
折角の機会なのです、予想外なほどに王女が強くなりましたし、ここまで来たのなら対魔王・対邪神・対辺境伯を考えて大幅に戦力拡充をしちゃいましょう。
「というわけで歴代の王たちが眠るこの王墓、その最深部である初代国王が眠る場所まで移動しましょうか。……あ、ついでに他の部屋とかにある副葬品とかも貰って行っちゃいましょうか。何かの役に立つかもですし。」
「とてもよいお考えかと。主様のお役に立てるのならば、祖先たちの魂も歓喜し消し飛ぶというもの。……あぁそうです。そこで泡を吹いている主様のペットですが、こちらででお運びいたしましょうか?」
あ、チロさんペット扱いなんですね。かわいそ。
じゃ、お願いします。




