35:これ大丈夫なんですかね?
「はい、辿り着きましたのは王墓。ということで楽しい楽しい盗掘のお時間です。いい機会ですし、王女の身柄だけじゃなく副葬品も全部頂いて行きましょう。」
「あ、あの。カーチェ? 私達が顔隠してるのって……。」
「はい、見つかったら一族郎党親類縁者ぜーんぶ根切ですからね。たぶん故郷丸ごとけしとばされるので安心してください。」
「どこが安心できるの!?!?」
そう嘆くチロさん。まぁ原作ではこちら側に王女がいましたからねぇ。王族の許可をもってお墓を荒らすことが出来たのですが、その許可を出してくれる王女様は5歳で死亡。お墓の中に入ってしまっています。これじゃあ許可もクソも出せないですね。
まぁ一応、今の国王&王妃陛下にご許可願うことを考えたのですが……。『世界を消滅の危機から救うのに必要なので、全部貰っていきますね♡』なんて言った瞬間、その場で打ち首が決定します。
だから無断で盗掘する必要があったんですねぇ。
「あ、そうそう。この王墓ですが地下に広がっていくピラミッドみたいな形状をしています。つまり人工ダンジョンですね。罠の場所や巡回ゴーレムのルーティンは頭に入っているので大丈夫ですが、余計なことした瞬間に私諸共チロさんも死ぬので、とーっても注意してください。」
「……私帰ってい」
「貴女が付いて来なかったせいで盗掘に失敗し発覚した場合、私に雇われてたって理由でチロさんも拷問+処刑ルートが確定しますがそれでいいですか?」
「アンタ悪魔よ。」
ついて来てくれるようで何よりです。
では早速、王都最難関ダンジョンこと『王墓』に挑んでいきましょう。
ということで早速取り出すのは、損傷が激し過ぎてそろそろ廃棄を考えていたボブの一人です。
「これに『死霊術』を掛けまして……。はい、お返事。」
「グゥルォォォォ」
「うん、無事ゾンビちゃんに成りましたね。今日から君はボブゾン君です。さぁ主人の為に華々しく散りなさい。」
そう言うと、動かしにくい体を無理矢理キリっと動かし敬礼一つ。ゆっくりとですが確実に王墓の中へと入っていきました。
ちなみに彼ですが、元は盗賊だった存在で、チロさんに炎で顔面を焼き溶かされて死んだ存在です。そのあと私に首を切断され、マフィアのドスでめった刺しにされ、足場にされたり投げ飛ばされたりとかなり破損が進んでものに成ります。左腕とかもう千切れそうでしたし、予定が狂っていなければこれまでの功績をたたえ、経験値おじさんの隣に埋める予定でした。
ただまぁ、本人が『マダマダハタラケルヨー!』と裏声でいうものですから、仕方なくの起用です。
「2、2度目だけど凄い見た目ね……。こんなのが私の雇い主とか、バレたら問答無用で殺されそう。……この職場ってアガリじゃなかった???」
「殺しに来たら殺し返してボブにすればいい話では? あとチロさん。また一緒にあのレストラン行きましょうね? 今度はスイーツ食べ放題にしてもらいましょう。お腹がはちきれるまで食べれますよ? あぁ勿論、お土産もた~っぷり。」
「俄然やる気出て来たわ。……んで? あのゾンビどうするの? アンタのことだから意味のないことは……」
「グギャァァァアアアアアアア!!!!!」
その瞬間、響き渡るゾンビの絶叫。
はいはい、ボブゾン1号は無事役目を果たしてくれたようですね。今頃ミンチを通り越して、壁を彩る赤いペンキになってそうですが……、素晴らしい仕事をしてくれたのです。3秒だけ彼のことを覚えておいてあげましょう。
……はい忘れた。
とまぁこんな小芝居を打っていれば、化け物を見るかのような目で見てくるチロさん。この人の中に形成された“私”がどんなものになっているのか少々気に成って来ましたが、とりあえず横に置いておいて説明をしてあげましょうね。
「この『王墓』ですが、多数の“警備ゴーレム”によって守られている場所になっています。詳しいことは解りませんが、どうやら王家の血に反応しているらしく、王家に連なるもの以外を物理をもって排除する様な奴らがうじゃうじゃいる感じです。んでこのゴーレムの面倒なところは……。」
「ところは?」
「物理・魔法半減を半減する特異な金属に寄ってそのボディが構成されており、かのヘビー級王者にして地上最凶の男として恐れられた彼並みのパンチを毎秒放ってくるところですね。しかも拳に防御貫通効果が付与されているので当たったら大体死にます。」
「私達今から死にに行くの!?!?!?」
ちなみに、ステータスはこんな感じです。
[STATUS]
Name : 魔導警備ゴーレム
JOB : 王墓の守護者
Level : 0
HP : 30 / 30
MP : 0 / 0
ATK : 35
DEF : 25
M.ATK : 0
M.DEF : 20
SPD : 5
LUK : 0
どうです、やばいでしょ? ちなみに私のHPが6で、チロさんが18です。とある方法を使えば防御力貫通効果を無効化出来るのですが、今はそんな用意していないので、二人とも攻撃力35を喰らって即死します。
つまりこちらの攻撃がほぼ通らず、中盤位の主人公でも1発ぐらいしか耐えられない強力な攻撃を撃って来るゴーレムが“雑魚敵”として沸いているのがこの王墓です。『死霊術師』になったとはいえ未だカスな私と、魔法使いという職業故に撃たれ弱いチロさんが攻撃を喰らった瞬間……。塵が残ればいい方ですかね?
「ですが彼らはゴーレム。いわば“定められた動きしか出来ない”存在です。つまり私のように王墓全体のマップと彼らの警備スケジュールを理解しており、足止めに使える生贄を幾らでも用意できる存在がいれば……、簡単に突破できるって寸法です。」
「……というかそもそも、なんでただ村娘でしかないアンタが王墓の地図とかゴーレムのこととか知ってるの?」
「うん? おかしなことを聞きますね、何度もチロさん言ってたじゃないですか。“悪魔”って。」
「…………ほ、ほんとに悪魔だったの!?!?!?」
「あはー、冗談です。さ、行きますよ。秒数も数えてましたし、あと3度ほど新しいボブゾンを送り込めば接敵なしで目的の場所に辿り着けるはずです。ささ、急ぎましょう。」
というわけで王墓のゴーレムやトラップだけでなく、私にも滅茶苦茶ビビッているチロさんを引きずりながら、テクテク中を歩いて行きます。適宜ボブゾンを派遣して巡回するゴーレムのタイミングをずらしたり、上から落ちてくる針の山や転がる巨石のトラップへの生贄にしながら進んで行くと……。
ようやくたどり着いたのは、今代の王家の為に割り振られた部屋。原作では亡き国王と王妃が収まり、今ではおそらく王妃が収まっているだろう部屋です。
ここまで幾つかの部屋をスルーしてきましたが、扉だけでひと財産を稼げそうなところでした。鋼鉄の扉に黄金張り付けて宝石で装飾してますし。ことが終われば発掘会社でも立ち上げてやりましょうかね? どうせ王家は断絶するわけですし、文化財として残そうにも常人ではゴーレムが強すぎて内部に入るのは不可能です。
(面倒なのですることはないでしょうが、色々終わったとにお金に困ればしてみてもいいかもですねぇ。)
そんなどうでもいいことを考えていると、足元から感じる振動。
其方の方を見てみれば、丸くなって高速振動をし始めちゃった同行者が一人。まぁさっき、ボブゾンがゴーレムに塵にされる瞬間を見ちゃいましたからねぇ。ひとつ間違えれば私達も塵の仲間、怖いのも仕方ないでしょう。でもその場で震え続けていると邪魔なので、声をかけることにします。おーいチロさん、大丈夫ですかー?
「な、なによあのゴーレムッ!? か、カーチェなんであんなの見て平気でいられるの!? や、やばいわよここ!? ほ、ほんとに無事に出れるんでしょうね!?」
「私と逸れると一緒出られ……。ノータイムで抱き着く当たりよっぽどだったんですね。はいはい、見捨てませんから。とりあえずこのドアを開けて中に入ってみましょう。罠などはないと思いますが……。一応安全のためボブゾン達にやらせますね。」
震えながら抱き着いてるチロさんはもう使い物になりませんし、と付け足しながら開くのは『アイテム欄』。
そこから追加で10人ほど死体を取り出し、装飾された鋼鉄の扉を開くように指示します。
「グル?」
「グギャ」
「えぇそこそこ。そこの取っ手を引っ張ってみてください。えぇ、5人が引く係で、のこり5人が隙間から顔を出す係です。えぇ、そのように。」
罠でもあれば、覗かせた5人のどれかに矢でも突き刺さるかなぁ、と思っていましたが……。特にそんなこともなく、普通に扉が開かれます。まぁ最奥部まで来てますし、ここに来れた人間は全て王族という判定なのでしょう。彼らにも先に逝った者たちを偲ぶ時間が必要でしょうし、そんな雰囲気に合致しないトラップはない感じなのですかね?
とまぁそんなことを考えながら、死体たちに掛けていた死霊術を解除。死体に戻しアイテム欄にしまった後は、私にまだ抱き着いてるチロさんを引きずりながら中に入っていきます。
すると、すぐに感じる花の香。
周囲を見渡せば数多くの副葬品に、おそらく王女が普段使っていただろう品々が幾つか。そして数多くの瑞々しさを保ったお花の山が見て取れます。
「……お供え物の香りですかね? まだ新しい感じですし、最近葬られたのは間違いなし。王女の墓であってるみたいですね。」
「ね、ねぇカーチェ。ほんとに大丈夫なの? すっごい不敬じゃない?」
「不敬ではあるでしょうが、世界丸ごと滅ぶことに比べれば全て細事です。ささ、ではお顔を見せてもらいましょうかねぇ?」
そう言いながら、部屋の中央に置かれた棺まで近づき……、その蓋を開けます。
正直、私も現代人の感覚を持っているので死体に何かしたり、それを辱めたりするのは好みではありません。しかし今後のことを考えると、これは必要な行為と言えるでしょう。最終的な目的は私がお昼寝を死ぬまで楽しむというものですが、その過程に世界を破滅から救うという事項があるのも確か。
故に、ちょーっとだけ祟りとかそう言うのは無しの方向性でお願いしますよ、ほんと。……まぁ今の職業である死霊術師極めたらそう言う祟りも利用できそうな気がしますが。
「うん、やっぱり王女ですね。幼いですが私の知る彼女の面影があります。」
「…………綺麗な人ね。」
「美形な方ですよねぇ。まぁパッケージ飾ってましたから、美形じゃないと困るってのもあるでしょうが。んで、死因は……。胸部に大きな傷が1つ。心臓を一刺しってところでしょうか? 刃の向きからして、正面から刺したっぽいですねコレ。」
ちょっとひっくり返して背中を見てみれば、胸に刻まれた大きな傷よりも小さい穴が。
このことから切っ先が背を貫通している、つまり正面から小刀のようなもので心臓を貫かれた、ということが解ります。……王族真正面からドスで突き刺すとかやべぇ奴ですね。普通に毒殺とかだと思ってましたけど、こういう外傷によって王女が死んだとなると……。警備担当者とか全員物理的に首切られてそうですし、王家と下手人の公爵との対立は想像以上にヤバい所まで行ってるのかもしれません。
「ま、それを全部丸ごとひっくり返すんですけど。ささ、チロさん。抱き着くのもいいですが、手伝ってくれません? 王女様を棺から出して、そこに寝転がしてください。」
「う、うん……。何するの?」
「まぁまぁ、とりあえずは見ててください。」
私はこれまで、王女が死んでしまったせいで『これから詰むんじゃ!?』と恐れ戦いていました。何せ今回は役立たずのクソ主人公とは別の、代わりの効かない人間の死です。あのルールとかいう主人公はどこまで行っても農民の子供で、確かに未来の業績こそ考えれば重要な人物だったのでしょうが……、『代わりの効く』人間でした。重要なスキルこそ持っていれど、そのスキルがなくとも魔王や邪神を倒せることは確か。未だに失ったのは惜しいですが……。まだリカバリーが効いたのです。
しかし王女は別。国を引っ張りながら同時に支援をしてくれ、状況によっては前線でも戦える王族なんてこの人しかいませんでした。王家というこれまでの実績によって、人によっては無条件で信頼を手に入れられるような人物。未来の指導者としての教育を受け、その知識を試し糧として蓄積させる環境を持っているものなど……。彼女だけ。本当に替えの効かない人間だったのです。
そんな彼女が死んだ。
「なら生き返らせればよい話。“起動”。」
私の身体に宿った『死霊術』を起動させ、彼女の亡骸を中心に魔法陣を描きます。いくら死を操る存在であっても、一度死に時が経過しすぎた存在を生者として蘇らせるのは不可能です。しかし“アンデッド”としてなら、可能。多少工程がややこしいですが……。“生前と同じ精神を持つ死者”として再度産み落とすのです。
魔法陣が暗い紫の光を発し、地面から這い上がってくるのは数えきれないほどの亡者たち。骨が、腐肉がどんどんを彼女を包み込んでいき……。目の前に生み出される、死者の胎盤。本来聞こえるはずの脈動の代わりに、死者たちの悲鳴が部屋中を埋め尽くし……。私が指を鳴らした瞬間、“産声を上げる”。
瞬間、胎盤から突き出される手。
私の良く知る“彼女の手”によって澱んだ羊水共に這い出てくるのは、一切の生気を感じさせない大人の女性。死者に送られる真っ白なドレスと、禍々しく輝く胸部の傷が特徴的な彼女は……。
「ソフィリア・エリオン・アルヴェステリア。御身の前に、参上仕りました。この身、如何様にもお使いくださいまし。」
「……ありゃ?」
「…………プクプクプク」
何故か私の前で頭を下げる王女と、なんか思ってたのと違う感じに仕上がって首を傾げる私。そして泡吹いて倒れちゃったチロさんが残ったのでした。




