34:切り替えは早いのです
「よし、切り替えました。ということでテーちゃん、転職させてください。」
「「だ、大丈夫なの!?」」
「この私の顔を見てくださいな。ヤル気に満ち溢れているでしょう? どっちみち動かなければ邪神のせいで滅ぶ未来だったのです。やることが増えた程度で、私のお昼寝を邪魔できると思うのなら大間違いですよ?」
「あ、ほんとだ。普段よりちょっとやる気出してる。……というか邪神ってなにッ!? え、辺境伯以外にも世界滅ぼしてくる奴いるの!?」
「……我には人の子の顔が完全なる無にしか見えぬのだが。え、表情筋そもそもない感じ? というか邪神ってなに!? 我の知る以外の神とかいるの!?」
煩いチロさんと天使のテーちゃんを無視しながら、その大きな目玉に近づき『アイテム欄』を御開帳。
慣れ親しんだ『木こりの斧』を叩き込んで、無理矢理黙らせます。私、転職したいの。あと煩いのきらいなの。黙れる? 黙れるよね。黙れよ。
「「ア、ハイ。」」
よろしい。では転職していきましょう。
一番最初の想定では、命中率に補正が入るスキルを手に入れることが出来る『弓兵』。王都についてからは王女の死体を確認するために王墓に忍び込む必要性が出てきたため『潜伏』という隠密スキルが使える『斥候』を転職先として想定していました。
しかし辺境伯を吹き飛ばすために動くのであれば……、より早く正確に物事を熟す必要があります。
なにせ奴は戦術を組まなければ絶対に勝てない相手。適当に組んだパーティや戦術では、たとえすべての数値がカンストしているような存在であっても、たやすく屠られてしまうような敵です。確かに自身はPCが文字通り爆発四散したためゲームとしてプレイすることは結局できませんでしたが……。幸いなことに、その道筋は動画などで確認済。後はその道をなぞって歩くだけです。
(まぁ既に主人公が死ぬという意味不明な事象が発生しています。そのすべてがこちらの想定通りに進むとは考えない方がいい筈です。)
故に万策をもって想定できる全てを対処できるように準備する。出来ることと言えば、それぐらいです。
無論この身の目標は辺境伯だけではありません。魔王を倒さねば人の生活圏は消し飛ばされてしまうでしょうし、邪神を倒さなければ正攻法で世界を滅ぼされてしまうでしょう。それに、現在王国では王女暗殺による政争の動きが見え始めています。
このすべてを『私が死ぬまでぬくぬくお昼寝し続けられる余生』へと至る経過点とし、ルートを策定すれば……。次に選ぶ職業は、コレ一択です。
「先ほど確認しました『光に堕ちた悪逆』を使用します。いいですか?」
「ハイ、モチロンデス。」
選択するのは、本来プレイアブルキャラクターが入手できないハズの職業。有料追加DLCによってその制限を取り払ってしまうもの。そして未だ片言な天使に、更なる役目を投げかけます。
「では村人から『死霊術師』に転職。認証及び処理願います。」
「ハイ、モチロ……、ちょ、ちょっと待て! 我そんな職業聞いたこと」
「DLC」
「あったわ。い、いやでもこれ転職にカルマ値が限界まで下がってな」
「見て?」
「うわこの人の子カルマ値、下に突き抜けてる。というか人のカルマってここまで下げれたの? こわぁ……。」
私が何の為に人の死体を加工して防御に使っていたと思うんです?
このゲーム、『天帝のアバンギャルド』にはプレイヤーからは見れない幾つかのマスクデータというものが存在しています。その中の一つである、善悪を判別する“カルマ値”。今回使用するDLCはそのすべてが魔王軍などの悪側に類する者たちの職業になるものであり、その転職条件として悪の方に寄っていること求められています。
故に“防御手段の拡充”という主目的を行いながら、あえてわざわざ人を弄ぶような加工を行っていたのです。確かに自身のカルマ値を自由に操るバグ技も保有しているのですが、現時点ではどう足掻いても使用できないというデメリットがあったため、無理矢理ボブ達を作成していたのです。
まぁそもそもですが……、誰が好きで人の頭と胴体切り分けていると?
「え、そうなの? てっきりそういう趣味じゃないかって……。」
「チロさん?」
「あ、何でもないです、はい。」
誰が趣味ですか、チロさんもボブさんにしますよ。
「ま、まぁまぁ人の子よ。仲間同士で争っても、な? うむうむ。では転職を始めていくぞ。その手で我の身体に触れてくれ。」
「解りました。」
テーちゃんが言うように彼の目玉に手を乗せると、ぬるっとした気持ち悪い感覚。まぁ少しそれを我慢していれば、……彼の目玉から流れ込んでくるドス黒い力。ふむふむ、体が大分軽くなった気がしますねぇ。
見てますか今も虚空に沈み続けている組長さん、カーチェちゃんは無事に『死霊術師』に成れましたよ……! まぁ今頃そいつ精神崩壊して真面に考えるのも難しそうですが。さて、では久しぶりに自身のステータスでも確認してみましょうか。
[STATUS]
JOB : 村人→死霊術師
Level : 1
EXP : 0 / 304
HP : 6 / 6 (+1)
MP : 8 / 8 (+4)
ATK : 2 (+1)
DEF : 2 (+2)
M.ATK : 5 (+3)
M.DEF : 3 (+0)
SPD : 4 (+1)
LUK : 0 (+0)
Skill :『死霊術』
「……ふむ。やはり予想通り最低値ですが、特殊職ということで数値が高めですね。悪くありません。早速使ってみましょうか。」
アイテム欄からボブとボブの胴体たちを一気に出していき、この体に宿った新たな力を流し込んでみます。流石魔王軍専用の職業だけあって、力そのものがかなりどす黒い感じがしますが……。特に問題なく使える以上、力が黒かろうが白かろうが何も関係ありません。
有用か有用でないか、このどちらかだけです。
「ふむ。維持だけならば魔力は消費しませんか。その代わり脳の容量を使う、と。では軽い命令を。『整列』。」
私がそう言った瞬間、地面に転がっていたはずの死体たちが一斉に動き出し、自分の生首を抱え整列し始めます。
数秒も経たぬうちに完成するのは、一寸の狂いもない様に並んだ死体たち。不安定な頭部をわきに抱え私に敬礼を送って来る、死者の軍勢が完成しました。
「か、カーチェがヤバいのになっちゃった……。あ、いや。ヤバいのは元からか。うん。なら問題ないわね。」
「なんか酷い事言われてますね。」
「これが『死霊術師』というジョブか……! すごいな人の子。うむうむ、今度から我も他の人の子にこの職を進めてみても良いかもしれぬな。確かに人の感性には合わぬものもいるだろうが、これが天職というものも……。」
「あ、テーちゃん。それはやめてくださいね。というかDLCの存在を一般に公開するのはやめてください。」
軽く考えて貰えば解ると思うのですが……、DLCに登場する職業や品々は、使い方次第で軽く天下を取ってしまえるようなものさえあります。私がいま転職した死霊術師も、やりようによっていくつかの村や町、そして経済を簡単に崩壊させられる職業です。
私でも数十個は思いつきますし、適性のある方でしたら数百は固いでしょう。
「そ、そうなのか?」
「えぇ、このボブ……。解りにくいのでアンデッドと言いましょうか。軽く使ってみてわかりましたが、おそらく私でも数千、頑張れば万程度の管理が可能かと思われます。『転職しても一度入手したスキルは消えない』ことを考えると、管理者1人で1万を軽く動かせるという事実は不味い以外の何物でもありません。」
そしてこれは、先ほど挙げた悪事以外にも適応されます。
アンデッドたちに簡単な作業を任し、農業従事者にする。もう少し時代が進めばライン工にする。たった一人の人件費で万に等しいマンパワーを発揮できるとなれば……。経済など簡単に崩壊してしまうでしょう。そしてもしこれを戦場で体系立てた運営をしてしまえば、休みも糧食も要らない万単位の兵を、たった一人の物資で好きなだけ動かすことが出来るようになるのです。
「死体を切り刻んで遊ぶだけで、カルマ値は下がります。故に再現性が高く、気が付けば人類皆が『死霊術師』を経由することに成るでしょう。そうなるといつか死体が足りないようになり、いつしか人が『死んでアンデッドという労働力になるために生まれる』のようなディストピアが生まれますよ?」
「……我黙っておくね。」
「それが良いでしょう。」
話が分かる天使で良かったです。もしそんな世界になってしまえば、お昼寝とか言っている場合じゃなくなりますからねぇ。労働力としてのアンデッドにされる存在なんて、真っ先に私たちのような農民が狙われるわけですから。
「さ、転職も終わりましたし、一つ目のステップも終わりました。次に行きましょう。世話に成りましたね、テーちゃん。」
「あぁ、うむ。役に立てたのなら何よりだぞ。我は人に新たな職を与えることでよりよい未来へと導くという仕事がある故、共に何かしてやれることはないが……。ここで業務を熟しながら、人の子のよりよい未来を祈るとしよう。」
「あ、死霊術師のカンストが50なので、それ終わったらまた転職しに来ます。なので今生の別れっぽいお言葉はしまっておいてください。たぶん2週間もしないうちにまた来ますから。」
「……我黙るね。」
それがいいかと。
「ではチロさん、今度は王墓へお邪魔することにしましょうか。」
楽しい楽しい墓荒らしのお時間です。
虚空に沈む組長さんはカーチェが死霊術師に成ることを予知していた……!?
特別に虚空+114514年追加です。




