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お昼寝したいのに主人公が爆散したからできません ~モブだけでも世界は救えるのか~  作者: サイリウム


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33/75

33:もうやだこの世界


「んで、落ち着きました? いくらこの空間では時間が止まるとはいえ、私の感じる時間は止まらないので待たされるの苦痛なんですが。」


「お、おぉ済まぬな人の子よ。」


「……なんでアンタはこんな化け物と普通に会話してるのよ。」



あら? さっきの紹介聞いてませんでした? ではもう一度。


此方の目玉一杯天使ことお名前が『例の借金取りの企業名に似てるな……』で有名な天使。テイアイエルです。転職を司っており、毎日人の新しい門出を見守ってあげてる優しい奴ですよ。まぁ声が何重にも聞こえるせいで、男なのか女なのか解りませんし、見た目も酷くキモイですが……。



「天使様ぁ! これが!?」


「こ、これがって……。我天使ぞ? いや確かに人の子が作った像って色々かけ離れてるけど、ちゃんと神に寄って生み出された天使ぞ? 敬え?」


「あ、チロさん。コイツ別に殴りかかっても絶対にダメージが通らない存在なので、好きにサンドバックにしてもいいですよ。ストレス発散にもってこいです。」


「人の子???」



ちなみにこの天使ですが、作中のストーリーには全く関わってこない存在です。


設定集によると、どうやらこの世界を作った『神』によって配置された存在であり、私達が排除する予定の邪神とはまた別系列の存在のようです。アレですね、世界っていうビルを作って権利を持っているのが『神』で、ビルの管理人がこの天使。んで殺す予定の邪神が『人間が借りてるビルのフロアに勝手に住みついた害獣』って感じです。え、魔王は? ゴキブリ。



「懐かしいですねぇ、よくコイツをサンドバックにしてコンボの練習とかしてました。背景が白いもんですから、派手な攻撃のエフェクトとかを鑑賞するのにも適してましたよねぇ。ということでテイアイエル。新しく思いついた技があるので、そこを動かないでください。」


「人の子? やめよ? ねぇ我を的にするのやめよ? というかなんで人の首取り出してるの!?!?」



とまぁそんな冗談を交わしながら、チロさんにこの存在が天使であることに納得して頂きます。一瞬『アンタと同じ悪魔の仲間とかじゃないわよね……?』みたいなことを言われかけましたが、一生スイーツ無しだとお伝えすれば、すぐに『よく見れば神々しい天使様ね』とご理解いただけたようです。



「それほんとに納得してるのか……?」


「しました。」


「させました。」


「な、ならいいか。いやいいのか? ま、まぁうん。とりあえずそれは置いておいて……。人の子よ、どうやってこの地に足を踏み入れたのだ? 入って来るなとは言わんが、ここは天使のような限られた存在しか入れぬはずなのだが……。」



テイアイエル……、もう長いからテーちゃんでいいや。性別も面倒だから君のほうね。


まぁ彼の反応を見る限り、私達がここにいるのはイレギュラーではあるのでしょう。しかし私からすればむしろここに来れない方が異常。ゲームでは何でもないように入れましたし、キャラたちも何も疑問を抱かず転職してましたからそういうものだと思っていたのですが……。



「普通に転職しようとしたら入れた、って感じですね。たぶん私が特別だった、というのが理由でしょう。」


「特別……、なのか? まぁ別に立ち入り禁止というわけではない。何もない空間だが、転職するなり寛ぐなり、好きにすると良いだろう。話し相手ぐらいならなってやれるだろうしな。」


「ではサンドバックに「やめて?」……仕方ありませんね。では普通に転職させてください。」


「どちらがするのだ?」


「私、カーチェでお願いします。あぁその前に、幾つか確認させて頂いても?」



天使のテーちゃんから了承を受けながら、軽く思考を回します。


この天使像を使用する転職ですが、単純に転職以外の使い方があります。それすなわち、『DLC』の確認ですね。この世界の原作となっている『天帝のアヴァンギャルド』ですが、3Dオープンワールドということもありバグや修正を多く抱えるゲームでもありました。あの墓場無限経験値おじさんのように最後まで修正されなかったバグこそありますが、結構な頻度で手直ししてくれる手厚い運営だったのです。


そしてそんな“意欲的”な運営ならば、幾つかの追加コンテンツを売り始めるのが世の常。無料から有料まで、色んなものを売り出していたんですよねぇ。まぁちょっと有料の数が多すぎたのは確かですが……、『DLCで金毟り取ろうとしてない?』って批判出た際、やけくそで全品90%オフみたいなヤバいことをする運営だったので眺めてて面白い所でもありました。



「まずですが、現在反映されているDLCの確認をさせてください。」


「で、でーえるしー??? な、何それ。人の子の間で流行ってる奴?」


「あれ、ありません? とにかく探してみてほしいのですが。」


「う、うむ。我の権能の中にそんなのあったか……、あったわッ!!!」



おぉ、それは良かった。


にしても、目玉だけで驚愕の表情って表現出来るんですね。 どうやら初めて確認したようで、滅茶苦茶ビビッています。おもしろ。



「それで、何個ぐらいあります?」


「う、うむ……。おぉ、全部で33個存在しているようだな。……え、我これだけの権能今まで気が付かずに仕事してたの? ふ、不甲斐なし……。」


「33、ですか。不安にはなりますが、一応“全部”ありますね……。ではその中で、DLCコンテンツ『光に堕ちた悪逆』、『頂きに立つ者』、『守護者にして墳墓の神』、『新春特別ゴールドラッシュ』、『星震う神器たち』は適用されていますか?」


「全部で五つだな。うむ、うむ……。おぉ、ちゃんと全部反映? されているようだ。安心して良いぞ!」



なるほどなるほど……。えぇ、確かに安心できますね。


先程上げた5つの追加コンテンツは、所謂自軍を大幅強化できる職業や装備、アイテムを追加するものです。別になくても何とかなりますが、あればあるほど楽になるものばかり。もう鬼籍に入ってしまった主人公のルールや、暗殺された王女のような特定のキャラしか扱えないものもありますが……。私のようなモブでも十二分に活用できます。うんうん、転職したりわざわざ取りに行ったりとそれ相応の手間はかかりますが、これでグーンと楽になりますよ!



「うん、良かった良かった。本当に!」


「そ、そうなのか? まぁなぜ我も知らなかった権能を人の子である其方が知っているのかという疑問はあるが、これまで知らなかった自身のことを知れたのだ。とりあえず感謝しておくとしよう。」


「えぇそうしてください。……あぁそうだ、一応確認なんですが、一番最後に書かれてるであろうDLC、『あなたなる野望』は勿論適用されてない、ですよね?」


「む? 少し待てよ……、おぉ! 安心するといい、しっかりと適用されているみたいだぞ!」


「終わりました、死にます。」


「急!?」



全身から力が抜けその場に倒れ伏しますが、もうどうでもいいです。おわりですおわり、閉廷、おしまい!


なんかチロさんやテーちゃんが騒いでる気がしますが、終わりでーす。世界救う前に勝手に滅びまーす。魔王や邪神なんかよりももっと恐ろしいものでお終いでーす。どうせ死ぬならもうこの空間で朽ち果てるまでお昼寝してやりますー。



「え!? ど、どうしたのよカーチェ!?」


「そ、そんなにヤバいものなのかこのDLCとやらは!」


「やばいってもんじゃありません。ゲームどころかハード、挙句の果てには製作会社さえぶっ潰した悪魔のDLCですよソレ。」



追加DLCコンテンツ『あなたなる野望』。


明らかに例の映画をパクってるこれは、天帝のアバンギャルドの発売3周年を記念して製作された大幅アップデートを兼ねたDLCになっています。当初の裏ボスだった邪神よりも強い敵を登場させ、新しいマップも多数追加することでもっと顧客に楽しんでもらおうとした意欲作。映画と同じく3部構成でいくつもりだったみたいなので、その1つ目に成ります。


魔王と邪神を討伐した主人公は、最近噂に成り始めた『邪神を復活させようとする団体』の噂を追いかけて、『アユタナア辺境伯』が治める地に赴くのですが……。この地の領主であるアユタナア辺境伯。このDLCのラスボスを務めるこいつが、本当に問題だったのです。



「えぇ、確かに作中の強さ的にもヤバかったらしいんですよ。ステータスカンストしてても下手な構成だったら即座にパーティが全滅する強さだったそうなんです。でもね? 問題はそこじゃないんです。」



ボスである『アユタナア辺境伯』の真の怖さは、“ゲームハードを破壊してくる”ことです。



「詳しいことは解らないのですが、これまでのバグとDLCのバグが悪魔合体した結果、『ハード本体にアユタナア辺境伯のデータが無限コピー&ペーストされ続ける』って現象が“確定”で起きるようになってまして……。」



ププイステーション9、もしくはナナテンドースコッチ3でプレイしていた人は延々と続くデータ書き込みによってハードが熱暴走からのクラッシュで物言わぬ箱に。PCで遊んでいた人も同様に無限増殖し続けるデータに耐えきれず爆発四散し内部データが回収できないほどに。


しかも制作会社はその損害賠償に追われ、裁判まで起きてこっぴどく負けたことからこれまでの利益が全部吹き飛び破産、ハードどころか会社まで壊した本当にヤバい奴なんです。


当時就活中だった私もこいつにパソコン壊されて、そのパソコンに大事なデータとか色々入っていたもんだから生活が破綻。何とか大学は卒業できましたが、就活は爆散しあんなクソみたいなとこに勤めるはめになりました。



「ふ、ふふふ。私の人生どころか命まで奪った遠因のDLC。一応有志の方と爆散した製作会社の方が頑張ってバグ取りした結果、ハードを壊さずプレイできるようにはなったらしいんですけど……。そのころ私激務で死んでてプレイしてないから解んない。適用されてるかの見分け方も解んない。あは、あはは。」


「そ、そうなのか。た、大変だったな人の子。」


「な、何言ってるか全然わかんなかったけどとりあえず落ち着こうカーチェ。」



落ち着けるわけないでしょチロさん。


もしこれ、現実に起こったらどうなると思います?


何がキーに成るかは解りませんが、このバグの恐ろしい所は『辺境伯が増殖する』ことです。しかもその速度も悪魔的で、1から2。2から4。4から8と指数関数的に増えていくんです。つまり一度でも増え始めてしまえば、終わります。こちらで死ぬほど努力して何とか1人くらいは倒せるかもしれませんが……。たぶんその間に世界が辺境伯で埋め尽くされます。


しかもあのバグ、ゲーム内部における容量だけでなく、その外。パソコンならばハードディスク内に勝手に増殖して増えて増えて増えまくるんです。一度起動したらもう誰も止められない全てを破壊するまで止まらないウイルスみたいなもんなんです。



「増殖が開始されるタイミングはまちまちです、プレイ中のキャラが該当DLCのストーリーを始めた時、キャラが特定の町から出た時。ダウンロードしてゲームを起動した時。ふ、ふふふ。もしかしたらもうどこかで増殖始まってるかもしれませんね。次の瞬間には世界終わるかも。」


「つ、つまりそれって……。まずい?」


「逆にまずくないとでも? 文字通り全部消滅するんですよ?」



固まるチロさんとテーちゃん。すると次の瞬間から始まる、取っ組み合いの喧嘩。



「な、何とかしなさいよ天使!? 見た目キモイけど力はあるんでしょ!? こ、こうその辺境伯ってのだけを排除するとか!!!」


「む、無理いうな大きい方の人の子! わ、我にだって出来ないことあるんだぞ!」


「とにかく今はこの世界に“修正パッチ”が適用されていることを祈るしかないですねぇ。あ、ちなみにテーちゃんはその辺り解ったりします?」


「……大変申し訳ないのだが、我が権能はDLCなるものに限定されているようだ。それが世界に反映されているのか、いないのかぐらいしか解らぬ。」


「でしょうねぇ。」



はぁ、まぁいいや。


今この時点、DLCがダウンロードされている時点で世界が存続しているということは、まだ辺境伯という爆弾が起動していないということになります。つまり次の起動タイミングになりそうなのが……、今から10年後に起きるであろう“ゲームスタート”の時。原作が始まる瞬間です。


辺境伯の無限コピーは、全てこのゲーム内に存在する辺境伯から始まります。つまり何らかの方法で辺境伯を10年以内に消し飛ばすことが出来れば……。世界が消し飛ぶのを防げるかもしれません。修正パッチが掛かっていれば何もせず普段通りの生活を送ればよいのですが、解らない以上は“対策”するほかありません。



「となると、魔王も邪神も経験値にしないと不味いですね。……自分で倒すつもりは全くなかったのですが、私も死にたくないですし。」



すっごく嫌だけど……、やるしかない、ですね。


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