30:スイーツの悪魔
〇本日のメニュー
前菜
香草と山小鳥のパテ
フェンネルやセージを効かせた小鳥肉の旨みを、薄焼きパンと共に。
烏賊と黒玉葱のマリネ
本日水揚げされた烏賊と旬の玉ねぎを、ビネガーであえた一品。
スープ
雪根菜の冷ポタージュ
雪原の下で育った甘みの強い根菜を、雪解け水で仕立てた冷たい白いスープ。
魚料理
海エビと星砂貝のワイン蒸し
虹色の殻を持つ月貝と、ぷりっとした海エビを甘口白ワインで蒸し上げる。
口直し
氷精のシャーベット
氷で冷やした柑橘のシャーベット。
肉料理
仔羊の塩釜焼き
大粒の岩塩と香辛草で漬け込み、樽の中で熟成させた仔羊肉を薪火で炙ったもの。
デザート
黄金林檎のミルフィーユ
金粉を散らし、幾重にも重なる甘美な層。
月光のプリン
月明草の蜜を溶かし込み、青白く輝く濃厚プリン。
天空ベリーのタルト
酸味と甘みの高山果実をぎっしり詰めた一品。
香水花の砂糖漬け
紅茶に浮かべれば、香りが杯の上で咲く。
(えぇ。流石貴族御用達とだけあって、かなりのものでした。)
食材の鮮度や質に問題はありませんし、シェフの腕もかなり高め。
未だ文化的には中世でしかないこの世界に置いて現代でも通用するようなものがどんどんと出てくるのは少し違和感がありますが、まぁ製作会社が現代日本なのです。売る相手も日本人となれば、史実を元にしたわけでもない異世界テーマのゲームに、わざわざ不味そうな料理を出す必要もない、という事なのでしょう。
(真っ当に考えるならば、地球には存在しなかった『魔法』によって長距離輸送が発展。後は単純にこの世界の人々が日本人のように料理への探求心が高かった、とかでしょうか?)
まぁ食事の際に無粋なことを考えるのは全く美しくありません。酒精が恋しくなることこそあれど、料理に舌鼓を打っていたのですが……。
「ん! んん! んんん~♡♡♡」
「せめて呑み込んでから話しなさい。」
デザートを口いっぱいに入れながら声を上げる彼女。なんかもうリスみたいにほっぺぷくらませてますし、口の周りにクリームとか沢山ついてます。確かにある意味可愛くはあるんですが、みっともなさが先に来るというか、ここが個室で本当に良かったというか……。
いや途中の食事までは良かったんですよ? 幸いなことに私の知るテーブルマナーと一緒だったのでそれを彼女に教えながら料理を楽しみ、会話も交わしながら食べてはいたんですが……。
まぁはい、デザートで全部終わりました。
御覧頂ければわかるように、まん丸と膨らんだ頬に興奮のせいかほんのりと赤く染まった顔。過度な糖分のせいか目は開き切っていますし、鼻息もとても荒い。
かなり良い所のお店なのでそう何度も来れる場所ではありません。故に満足するまで堪能してもらった方がいいだろうと放置していたら、こんなのになっちゃいました。怖いですね。
(それで確か、5回目でしたか。お店側が了承してくれているとはいえ、何回お代わりするつもりなんですかねぇ?)
食後の紅茶を口の中で転がしながら、そんなことを考えます。
まぁ正直、デザートに気合を入れている店なだけあって、料理と比べれば格段に上なのは理解できるのです。前菜、スープ当たりは良かったのですが、こと肉料理に関してはこの系列の店に珍しく量と素材の質だけで何とか形を保っている、という感じだったのです。
確かに味は良かったですし、最悪薄切れ数枚で肉料理を終わらせるような店と比べると、大きめのお肉を出してくれる店は嬉しくはあるのですが……。あまり得意ではないのだろうな、という印象を受けました。
ま、後衛職とはいえ肉体労働なチロさんには受けてたんですけどね?
(ですが一度下がった評価も、デザートで全て塗り替えてしまう。デザートが悪ければそれまでの料理全てが駄目になるとはよく言ったものですよ。本当に。)
逆を返せば、最後のデザートで全て捲くってしまえばそれまでの失敗は帳消し。いや消し飛ばすことができるということ。
ミルフィーユはリンゴとパイ生地の触感が楽しくカスタードは絶品でしたし、確かゲームでも納品クエストがあった月明草の蜜は透き通り淡い蒼に輝きプリンを彩ってましたし、タルトは色鮮やかなベリーをこれでもかと詰め込んだ結果、味も見た目も絶品でした。食後の紅茶を楽しめるよう砂糖漬けも下処理をしっかりした上に、甘くなりすぎないよう細やかな調整が為されてましたし……。
(ここ、別にコースなんかせずに菓子専門でいけそうなものなんですけど。何かあるんですかねぇ?)
「んっんっんっ……! ぷは! カーチェ様!!!」
「周りに人いないので様付けしなくていいですよ、チロさん。お代わりですか?」
「うん!!!」
「構いませんが、食べ過ぎて気分を悪くする前には止めてくださいね?」
「まだ全然大丈夫!!!!!」
酷く元気そうにそう言うチロさんへのため息を噛み殺しながら、近くに置いてあったベルを鳴らします。すると礼をしながらドアを開け、給仕の方がこちらを伺いに来ますが……。私の顔色からまたお代わりだと察し、若干固まります。
しかしまぁプロなのでしょう。すぐに再度頭を下げ、準備に動いてくれました。デザートの説明の際に『お代わり前提でかなり多めに用意している』みたいなことを言っていたので大丈夫だとは思うのですが……、そろそろ止められそうですよね。
(さて、折角良い紅茶を楽しみながらゆっくり出来る時間が手に入ったのです。少々思案でも巡らせてみましょうか。)
茶の香りを楽しむのではなく、砂糖を楽しむために紅茶から砂糖入れの運搬作業を始めたチロさんを眺めながら、今後のことを考えます。
まず今日の宿ですが、2つ取っています。ひとつは牛と馬車を預けている宿と、貴族用の宿です。実はドレスを用意している際に、サービスの一つとして手伝ってもらいましてね? この王都に邸宅を持たない貴族向けに用意された高級宿をとって頂きました。チロさんが満足した後は、そちらに向かい夜を明かすつもりです。
(まぁ単純に良い宿がどんなものか見て見たかったというのもあるのですが……。高い宿を取った理由は2つあります。)
まずは私の趣味というかライフワークであるお昼寝、それに必要な寝具の調達です。ご存じの通り、私は地方の村出身で王都など来たことがない田舎者です。つまりまぁどれだけお金が合っても、何処に欲しいものがあるのか全く分からない情報弱者になるわけです。
そのためわざわざ宿を取り『ここの寝具が気に入ったからどこで仕入れてるのか教えてくれるかしら?』とでも言って情報を集めようと思っているわけです。貴族用となればそう悪いものではないでしょうし、最悪気に入らなくても紹介された寝具店で他の店を見繕ってもらったり、オーダーメイドして貰えば済む話。
(して次が……、情報の入手、ですかね。)
王都に邸宅を持っていない貴族向けの宿、どう考えても確実に情報が集まる場所でしょう。暗いが高い貴族、それこそ私が殺したいあの公爵は流石邸宅を持っていると思うのでそこから情報を抜くことは出来ないでしょうが……。その下々は違います。
無論ホテルにも守秘義務があるでしょうし、そう簡単に教えてくれるものなどいないでしょうが……。『情報を渡せばお金を出す幼女がいる』という情報が流れれば、それで完璧です。私が思いつくことは他の貴族、もしくは情報を売る存在もホテルに根を張っているということ。すぐに接触して来ることはないでしょうが……。何かしらのアクションを起こしてくれるはずです。
(それに対応し、協力関係を結ぶ、金銭により雇う、もしくは脅して言う事を聞かせる。この辺りで上手く情報を抜いてしまおう、って魂胆ですね。)
ま、直近ではそんなところでしょうか。
(後は教会から買い取った天使像の受け取り、それを使用しての転職、後は真に王女が死んでいるかどうか確認するために王墓に忍び込んでみる、ってところでしょうが……。この三つは後回しですね。今の私達では『王墓』にアレが必須ですし。)
あの狸の大司教から聞きましたが、幾ら予備の天使像とは言え受け渡しに時間がかかるそうで、指定の場所に『おいておく』から『勝手に持って行って』欲しいとのことでした。まぁ奪われないよう護衛や見張りは付けているようですし、そこで合言葉を言ってもらっていく、みたいな手順になるようです。
なので先程言った『王墓への突入』にとある『職業スキル』が必須なのを考えると、転職の為に天使像が必要。つまり受け取りの期日まで待たなければいけない、という感じになるわけですね~。
(こんな感じ、ですかね?)
うん、まぁ後は流れでいいでしょう。
ここ最近色々なことがあり過ぎた上に、今日一日だけで途轍もなく疲れました。王女の死亡や天使像の購入に服屋二軒ハシゴに高級レストランですね。後はもうホテルに帰って、お貴族様向けのふかふかベッドで昼間で熟睡してもバチは当たらない……。
「お待たせしました、デザートでございます。」
「やったー!!!」
「チロ?」
「あ、あの。それでお嬢様。大変申し訳ないのですが、これ以上となりますと他のお客様の分が足りなくなってしまいまして……。タルトなど、パティシエが多めに切り分けておりますので、ご容赦いただけれると……。」
「ほんとごめんなさいね。後で追加分の請求持ってきて頂戴。払うわ。」




