28:服を買うための服
(ふぅ、無事買い取れましたね! 良かった良かった。教会施設の誘致は出来ませんでしたが、まぁ『アイテム欄』に入れておけばいつでも転職できるわけですし、逆に良かったかもしれません!)
(あああ、あの。カーチェ?)
(はい何ですかチロさん。)
(あれ、なに?)
何って……、おそらく教会という互いに蹴落とし合う組織の中で大司教という高位の役職にまで上り詰めたクソ狸こと大司教さまですよ? いやー、流石のカーチェちゃんもお口で負けてしまいました。本職は違いますねぇ。
まぁこちらとしては『正体がバレなかった』上に、『無事買い取りも出来た』ので何の問題もないのですが。
(おそらく適正価格としては3億ぐらいだったのでしょうが、口止めも含め10億近く毟られてしまいました。おぉ怖い怖い。)
(わ、わたしもうヤダ……。なんであんな好々爺してた人があんなに!? 怖いよぉぉぉ!!!)
(そう言うもんじゃないですか? 人間なんか裏に何を隠してるのか解らないものですし。ほら私が解りやすい例でしょう?)
(確かに!!!)
(……そう勢いよく肯定されると少々困りますね。)
今回の交渉の結果としましては、此方が10億を即金でお渡しするのと引き換えに、現在教会が保有している女神像の予備を交換して頂く、というものでした。
適正価格の3倍以上近い値段を口止め料としてお支払いする羽目になりましたが、此方も『もし偽物をつかまされた場合しかるべき時に教会丸ごと更地にする』という条件を付けさせてもらいましたので無事契約が成立した形になります。
ま、いくら元金が100ゼニぽっちから始まったお金でも、ただ奪われるだけでは面白くありません。ということでその瞬間だけちょっと本気を出させて頂き、本気で睨ませて頂いたのですが……。ちょっと唾飲んでた大司教様のお顔、面白かったですよねぇ。
(なんであんなヤバい人をビビらせてるのよアンタぁぁぁ。)
(ちなみにこの教会でしたら普通に“平に”することは可能ですからね? 柱の位置とか全て把握済みですし、爆薬でも仕掛けてしまえば一瞬で吹き飛ばせます。あ、村に帰ったら黒色火薬でも作りますかね。チロさんも一緒に教会吹き飛ばしましょう。)
(この子怖いぃぃぃ!!!)
ほらほら、まだ教会の中なんですから。そんな叫ばないの。
それに、煩い人はスイーツ無しですよ?
(黙ります。)
(……私はその豹変速度がちょっと怖いですけどね。まぁいいです。良い時間ですし、一仕事終わったのも確か。リフレッシュのためにも、王都の高級スイーツを堪能しに行きましょうか。)
(しゃッ!)
というわけで教会から出てテクテク歩きまして……。
「まずは服屋に来ました。」
「…………なんで?」
「服を買いに来る以外あるのですか?」
だって今私達が来てる服、何処にでもいそうな村娘と冒険者って感じじゃないですか。そういう偽装、という面から見れば完璧ではあるのですが、この服装で良い所のレストランに入ろうとすれば、一瞬で蹴り出されてしまうことでしょう。
「そ、そういうもんなの?」
「えぇ、ドレスコード……、ってわかります?」
「どれすこーど???」
あぁうん、これは言語が存在しないというわけではなく、彼女が全く解ってないだけですね。なるなる、チロさんは完全に一般出身の冒険者さん、と。
「ほら綺麗にお掃除した場所に、汚れた服を着た人が入ってくると嫌でしょう? 高い所になるとお客を含めた雰囲気づくりが必要になるので、気を付ける必要があるんですよ。」
「はえー。」
「“昔”だとスーツ一着あればギリギリ何とかなりましたが……。この世界にそんなもの存在しませんからね。ちゃんとおめかしする必要があるのです。ということで庶民向けながら、新品のお洋服を作って下さるお店に来たわけなんですよねー。」
さっきと同様に、はえーと返す彼女。
ちなみにですが、市民にとって衣服は基本、中古品を買うものになっています。機械化されていない世界ですから、服を一着仕立て上げるのもすべて手作業、凄い値段が掛かります。なので町に住む人は中古衣服専門店で購入し、村にいる者は定期的に町から中古服を持って来てくれる商人から買う、って感じなんですよね。
「新品となるとオーダーメイド専門かと思っていましたが……、流石王都ですね。量販店のように既製品が買えるのはとても助かります。」
1から作ってもらうとなると、スイーツを食べに行くのに何日も時間がかかることになりますからね……。とまぁそんなことを考えていると、ちょっと身構えながらお店の方らしき人が近寄ってきます。
村にいた人よりも身なりの良い人ですし、おそらくこのお店の店長さんですね。手に針山の奴を付けてますし、首からメジャーかけてますし。まぁ私達は幼女と若い冒険者風の少女、明らかに金を持っていない厄介客と思われたのでしょう。
「あのー、お嬢ちゃん? ウチ結構高いんだけど、買えるかい?」
「あぁ店長さんですか? こちらで二人分適当に見繕ってください、釣りはいりません。」
というわけで取り出したるは100万ゼニが入った革袋。現代日本円換算で100万円ですね。う~ん、カーチェちゃん太っ腹。
「はわッ!? 金貨いっぱいの袋ォ! ははーッ!!!」
「私達がここにいたことは誰にも言わないように。」
「勿論です!!!!!」
途轍もない速度で移動しながら大きな声を返してくれる彼女に、深く頷きます。
え? あぁ口止めですか? 別にする必要はないのですが、そっちの方が『貴族のお忍び』っぽいでしょう? 人間で自分が信じたいものを信じてくれるものですし、お金の魔力には酷く弱いものなのです。
よくよく考えれば『いやなんで村娘っぽい子が口止めを? 貴族風の服装をしていてこれから一般人の振りをするから市民の服を買うのなら分かるけど、この子の服って明らかに中古品を手直しして大事に着続けてる奴……。もしかしてこのお金、盗品?』となるかもしれませんが、問題ありません。だってそもそもこのお金の所有者は虚空に落ち続けているのですから。所有権を主張するのが私しかいない以上、私のものなのです。
「ではでは、此方のお洋服はいかがでしょうお嬢様! 上はよくあるシャツに茶のアウター! 下は2シーズンほど遅れた色にはなりますが、逆にそれっぽさが出る黄緑のスカートになります! ちょうど隣で旦那が靴屋やっておりまして、皮のブーツをご用意いたしました!!!」
「ふむ、悪くないですね。試着しても?」
「勿論でございます! こちらに!」
本来は必要ないであろう『試着室利用に対する料金』をあえて金貨で支払い、軽く着替えてきます。……ふむ、悪くないですね、流石です。これならば次の店に行ったとしても、問題なさそうです。
「失礼、これに……。」
「護衛のお姉様はこういうのはどうでしょ! 服装からして魔法使いの方ですよね! あぁ多分杖は使いにならない、指輪。もしくは素手かしら!? となると赤い髪をより綺麗に見せるのがいいですよね! となると落ち着いた黒とか茶が似合うと思いますよ! あぁいやでも、寒色系じゃなくて、逆に暖色で固めてみるのも……!」
「店長、あまり目立たないもので。それと時間は短めに。」
「勿論ですわお嬢様!」
私の時よりも熱心に服を選んでいる店長さんが。
まぁこんなちんちくりん着飾って遊ぶより、ある程度成長しててなおかつ幼さも残っている15のチロさんで遊ぶ方が楽しいですもんね。わかりますわかります。あと気難しそうな主人の私ではなく、少し気圧されしていた従者の方を狙った、というのもあるでしょう。
私って基本、表情筋動かすのめんどうなので『無』ですからね。1発で正解を引き抜かなければ終わる、と思ったのかもしれません。あ、後単純にそもそも幼児向けの服の取り扱いが少なかった、というのもあるかも。
「あ、あの助け……」
「ではこちらはどうでしょう! 男性向けのコートを自分用に仕立て直していた奥様から着想を受けまして、始めから女性向けに組み直したシリーズがございます! 自信をもってお渡しできるように仕立て上げたお勧めの一品です! 護衛の方でしょうからやはり強さといいますか、相手に踏み込ませない覇気みたいなのが必要だと愚考いたしまして、あえてこういうのも……。あぁでもでも! まだお若いのですからより少女風にぐっと押し込んだガーリーで固めてみるのも!」
「カーチェ、たす」
「トラッド系はどうです? このチャック柄のスカートとか良さそうですけど。知的で上品なコーデも似合うでしょう。」
「あぁお貴族様の間では『トラッド』というのですね! 是非我が店でも使わせて頂きますわ! して確かに確かにお嬢様のいう通りでございます! 黄色と黒のチャック柄スカートに水色、いえ黒色の上着を合わせましょう! あぁでもこの水色の上もいいですわね! さすが私の作品! これと合わせるのならやっぱりもっと落ち着いたスカートにして、靴ももっと……。」
エンジン掛かって来ましたねぇ。
うん、気に入りました。適当に見かけたお店に入ったのですが、質もいいですし、店長さんの癖が強くて面白いです。今後もここを利用させて頂くことにしましょう。何かと服は必要ですからねぇ。
~少女着せ替え人形中~
「っと、無事服を変えましたね。」
「あ、あのおばさん30分以上ずっと一人で喋ってた……! なんで助けてくれなかったのよッ!!!」
「巻き込まれたくなかったので、生贄ご苦労様です。後似合ってますよ? お綺麗です。」
「え、ほん……。って! 途中結構アンタが口挟んでおばさんの暴走加速させてたでしょうがッ!!!」
煩いですねぇ、かなりの数の服があの店にありましたし、30分で収まったから逆にいいじゃないですか。現代だったら多分あと数時間は粘ってましたからね? 早めに済んで良かったと思ってください。
さ、次行きますよチロさん。
「はッ! そうね、ようやくスイーツ! そして今向かっているのは貴族向けの商館が集まる地域! ようやく甘味の天国が……!」
「違いますよ? 次も服屋です。」
「なんでッ!?」
え、いやだって『高級スイーツ』となれば貴族向けのお店しかないじゃないですか。砂糖の生産量が少ないせいか、あれって高級品でしょう? つまり身分が高くてそれ相応の服装じゃないと入れないお店しかないんです。
そんなレストランに、いくら新品の服と言っても庶民向けの奴を着ている奴が入れるわけないじゃないですか。今後そう使う機会はないと思いますが……。折角です、ドレスも用意してしまいましょう。
というわけでやってきました貴族向けの衣服店。入ろうとした瞬間、ドアボーイらしきからに止められますが……、その懐に金貨を忍ばせ『良しなに』ということで簡単に通らせて頂きます。うんうん、教育が行き届いているようで何より。賄賂最強ですね。
「……。お越しくださり光栄に存じます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「適当に一つ、見繕ってください。あぁ彼女のも。」
此方の服装、市民の服を見て一瞬何か考え込んだようでしたが、すぐにこちらに駆け寄り跪くことでこちらと視線を合わせてくる店員さんに、そう言います。あぁ勿論彼の懐にも金貨をプレゼントし、追加でドレスのお支払いも先に済ませておきます。
まぁドレスなんて私も初めてですので……。とりあえず2000万ぐらいで大丈夫ですかね。
「ッ。先程までの無礼をお詫び申し上げます。」
「構いません、解りにくいでしょうし。」
「感謝を。して無礼を重ねるようで大変申し訳ないのですが、本日の予定をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
おそらく、最初のやり取りの中で“貴族相手”にしてはいけない行動があったのでしょう。前世の記憶はあれどこの世界では村娘、全く解りませんでしたが……。寛大な心で許してあげる的なことを言っておきます。今はさっきまでお忍びで町を歩いていた貴族のお嬢様、を演じてるわけですからね。
して、今日の予定。ですか。
「その子、チロが良い働きをしたの。だから褒美に食事とでも思ったのだけど……。あのデザートが良い所はどこだったかしら。」
「……西区にあります『ル・フェストン』でしょうか。」
「あぁ、そこね。」
「よろしければこちらで馬車と店への予約などさせて頂きますが、いかがいたしましょう?」
「気が利くのね、気に入ったわ。」
そんな会話を繰り広げながら、彼の指示を受けて飛んできた女性の店員さんたちに採寸を受けていきます。
オーダー的に『この後すぐに食事!』というのは伝わったと思うので、既製品を出してくれるとは思うのですが……、おそらく細かい手直しをこの場でしてくれるのでしょう。先程の店同様適当に目についた店に入りましたが、今回もアタリだったようです。
さ、慣れない採寸にあたふたしてるチロさんでも眺めながら身を委ねましょうか。あぁお茶まで用意してくれるの? ありがとう。あぁ、無論ちゃんと作法に則った飲み方は心得ていますから問題ありません。昔取った杵柄という奴です。
(にしても、『ル・フェストン』。祝祭ですか。全く知らない店なのですが、どんな感じなんでしょうねぇ?)
ま、もとはと言えばチロさんに対する感謝と契約継続のための“飴”として用意するお食事です。確実にチロさんが考えていたものよりもスケールが大きくなっているでしょうが、気にせず楽しんでいくとしましょう。
「お嬢様。先程店に問い合わせたところ、ちょうど個室が空いておりました。そちらでコースの方を取らせて頂きましたが、よろしかったでしょうか……?」
「気が利くのね。さっきの金の余りは好きに使いなさいな。それともまだ足りなかったかしら?」
「いえ、身に余るほど頂戴しております。」
「謙虚ね。ここ初めてだったけど、またお邪魔させてもらっても?」
「勿論でございます。」




