22:たのしい虚無
「さ、煩いので何かされる前に処理しますね?」
「な、何し、ッ!?」
というわけで大盤振る舞い、最近手に入れたばかりのボブさんたちを取り出します。
急に私の手に生首が現れたことで酷く動揺する組長さんでしたが……。彼も裏の人間、鉄火場を潜り抜けて来たからこそトップに立っているのでしょう。すぐに彼の中で何かのスイッチが入ったようで、目が据わりかなりの速度でドスを引き抜いています。
狼狽えながら騒いでいてくれればかなり早く処理できたのに、面倒ですねぇ。
「……死霊術師か。するってぇと見た目通りの年じゃねぇな?」
「あら。」
半ば確信めいた形でそう分析する彼。
まぁ確かに、あのゲームでも『死霊術師』は存在していました。敵側専用のジョブで、人でありながら魔王に寝返った愚か者が所有していた職業ですね。組長さんの言う通り人の死体を操るのみならず、自身の精神を他人の身体に無理矢理入れることで体を奪ってしまうような描写もありました。
……して、これはどっちなんでしょうね?
単にそれと似た伝承がここに伝わっており組長さんが知っていただけなのか、もしくは私が『ゲームにとって想定外』の動きを始めたせいで“奴”がもう動き始めてしまい死霊術師として活動しているのか。こちらとしては初手で主人公が爆散してますから、正直原作のストーリーラインをあまり信用できないんですよねぇ。
現代でしたらスマホ一つで勝手に愚民どもが情報を垂れ流し、お家でぬくぬくしながら情報収集出来たのですが……。ま、今は置いておくことにしましょう。
(にしても、凄い勘違いだこと。)
確かに私の中身は、ただの幼女ではなく成人済みの存在です。それだけ聞けば死霊術師の能力に当てはまりはするのですが、こちとらただの『村人』で未だ一発喰らえば即死のスペランカー状態。おそらく2階から落ちても死ぬので、言葉の元になったあのゲームとほぼ同じ状態です。
そんな状況で、相手がこちらに必要以上の警戒を抱いてくれるのは……。好都合というもの。先ほど頭の中で組み上げた策とも一致しますし、その勘違いを抱いたまま没して頂くことに致しましょう。
「おい、女。その頭。」
「うん? あぁ確かに貴方の組のものでしたねぇ。そう言えばつい手癖で首を取ってしまったのでした。別に必要ありませんし、お返ししましょう。」
「ちィ!」
そう言いながら首を投げつけると、何故かそのすべてを回避する組長さん。
まぁ私が死霊術師と考えているのであれば、顔見知りの頭に何か仕込んでいると考えるのが普通。受け取った瞬間に爆弾のように起動すれば、途轍もないダメージが期待できるでしょう。……あ、それいいですね。ちょっと頭を開くのは気持ち悪くて嫌ですが、適当に爆薬でも括りつけておけば手ごろな爆弾になるかもしれません。
どうせこの後お金が手に入りますし、火薬の生産施設でも用意しますかねぇ?
「ウチの若いもんを……!」
「こちらとしては折角楽しく賭け事していたというのに、払い戻しをしないからそうなっているんですよ? まぁ埒があきませんし、首を増やしましょうか。」
「どこに隠し持ってんだッ!?」
私が投げつける生首を回避しながらも、確実に距離を詰めてくる彼。
先程倒した戦士の……、誰でしたっけ? まぁ新しくボブになったマフィアよりも速度は遅いですが、動きのキレは彼の方が上ですね。経験によるテクニックというものでしょう。まぁその経験が必要のない警戒を促しているわけですから、面白いものですね。
ではではこの辺りで。
「ボブさんのお体をお返ししますね?」
「ッ!?」
アイテム欄から取り出すのは、これまで集めて来た死体の雪崩。
全身がそのまま残っているもの、チロさんによって焼き飛ばされたもの、首がない者から細切れになってしまっているものまで。そのすべてが死後数時間しかたっていない綺麗な死体たち。まぁ私の『アイテム欄』は入れた瞬間に時間が止まるみたいですから、いつでも新鮮なものをお渡しできるんですよねぇ?
故に“地下”だからこそ。充満する濃厚な死の匂い。
「さて、想定以上の“オブジェクト数”も用意できましたし。締めと致しましょうか。」
私達が地面をすり抜け地下へと移動できた以上。肉眼で視認できずとも“処理落ち”が起きているのは確実です。そしてそれが解ったのであれば……、取れる『嵌め技』というものが存在します。
「上階は私が連れて来た暴徒で一杯、地下は地下で死体を出したおかげで今のハードは限界寸前まで熱されていることでしょう。まぁもう確かめようがないのでどうでもいい話ですが……。」
アイテム欄から更に取り出すのは、即席の足場。
盗賊が集めていた破材や拾った石や草木など。その高さを段階的に合わせ駆け上がることで、上空へと舞い上がります。そして再度取り出すのが、愛用の『木こりの斧』。
私の筋力ではこれを振り回すなどまだ難しいですからねぇ。ちょっとした輸送でもアイテム欄に放り込んで置けば重さを感じずに持ち運べるってわけです。そして駆け上ったからからこそ生まれる“高さ”から生まれるのは……。
自然の摂理、重力による落下です。
「生首の投射物という“触れただけで”何が起きるか解らない代物に、視界一杯に積み上げられた大量の死体。こちらに近寄っていたからこそ自然と逃げ道は無くなり、上空からは私の攻撃。威力はなくとも、“直撃”が何のトリガーになるか解らない。」
「ッ!?」
「えぇ、ですよね? だからこそ貴方は武器で受け止める。」
苦し紛れにドスを持ち上げ、私の斧を受け止める彼。
私が想定以上に“力を込めていなかった”が故に帰って来た軽い感触に驚いたようですが……、それ以上の驚愕が、彼を襲います。そうゆっくりとですが確実に、彼が押し込まれる。
いえより正確に言うなれば、“地面に吸い込まれる”のです。
「処理を遅らせれば、壁や地面を超えることは出来ます。しかしそこから“弾かれたように戻って来れる”のは、壁や地面自体に判定が存在しており、キャラクターが消失しないように設定されているからです。」
「あ、足がッ! て、テメェ何をした!」
「では疑問が生じるのですが……。その“帰って来れる”のに必要な『判定』すらも処理落ちによって消されてしまったら。もしくはその『判定』が及ぼされているよりも“下”に行ってしまったら?」
「うごか、うごけッ!?」
えぇ簡単な話です。
判定よりも下ということは、プレイエリアの外。製作陣によって設定されていない完全なる虚無の世界です。そして何も決められていないということは……、落ちてしまえばそれで最後。誰にも、何にも止められず、ただ落ち始めた時に加えられていた落下の命令に従い、延々と落ち続けるだけ。我々キャラクターからすれば文字通り地獄といって差し支えないでしょう。
無論、ゲームが進行不能にならないよう操作キャラや重要ポジションのキャラクターであれば一定以上世界に存在しない場合、初期位置に再度配置されるような設定が為されているのですが……。私たちモブは別です。
ゲームを再起動しない限り、戻って来ることは出来ません。そしてこの世界を再起動する方法は、少なくともこの時点では存在しないでしょう。何せゲーム、元になったと思われる『天帝のアバンギャルド』というゲームの開始時期は、今から約10年後。
「ゲームスタートすらしていないものを、再起動するなんてことは出来ませんからねぇ?」
「なに、何言ってッ!?」
処理が落ちているせいか、徐々に地面に飲み込まれて行っている組長さん。既に下半身すべてが飲み込まれており、地面に手を付けて這い上がろうとしたせいか両腕すらも飲み込まれてしまっています。もはや動くのは首とその上だけ。
ちょっと惨めでかわいそうですが……、貴方がたが払い戻しをしっかりしないからこうなったんですよ?
「本音を言えば、これで魔王とか邪神とか倒したかったんですけどねぇ? アイツら重要キャラですから戻って来やがるんですよ。まぁ初期位置にリスポーンなので、そこに爆薬とかトラップとか仕掛けて効率的に殺す、ってのも不可能ではないのですが。」
「たすッ、たすけ!」
まぁそれをするにも、ラスボスの前に辿り着くのに必須な力。高めに纏まったステータスが必要なので、レベリングは絶対にしなければいけないのが面倒な所なんですよねぇ。それに、ちゃんと殺さないとゲーム内に存在するフラグがバグって世界がおかしくなっちゃうので、ズルもそこまで出来ないっていう……。
全く、不便な世界です。私はお昼寝しながらのんびり過ごせたらそれでいいというのに。
「ッ! ッ!?」
「まぁ10年後にゲームスタート、ってなったら貴方も初期位置にリスポーン出来るかもしれませんし、それに期待して虚無を楽しんできてくださいな。あ、帰ってきたらお手紙くださいね? お昼寝に良さそうな空間でしたらちょっと遊びに行ってみるので。」
最後まで何か吠えていましたが、最後までちゃんと伝えれば完全に消えてくれる彼。
それに満足した後、即座にこれまで取り出していたアイテムたちを回収し、処理落ちを収めます。うんうん、これ失敗すると自分も連れていかれるので気を付けないといけないんですよね。今回は色々周囲に出していたので、それを足場に何とかなりましたが……。
うん、必要以上のリスクは負いたくありませんし、今後はレベリングを適度にこなして単純な腕力だけで相手を処理できるように成りましょう。変に頭を使うせいで、しんどくなっちゃいますからねぇ。
「というわけでチロさーん、そろそろ復帰できましたかー?」
「……はッ! え、ここどこ!? え! さっきのアレは!?」
「あぁ地面の中ですね。」
「じ、地面の中!? いやもっと根源的な恐怖というか、入っただけで壊れちゃうというか、もっとヤバい感じだったでしょうが!?」
うん? ……あぁまぁ確かに、単なるキャラクターとしては色々と恐怖しかない空間ではありますよねぇ。
何も存在しない世界ということは、言い換えれば『何かが存在してはいけない』世界でもあります。無論ゲームですから使われなかったデータとかマップとかが埋まってたりするものですが、そこにいるということは『存在が世界から否定された』ということに他なりません。
純粋なこの世界の生まれの人間が強い恐怖を覚えるのも、そうおかしくない話かもしれません。
「まぁそんなことは置いておいて。」
「そんなことじゃないけど!?」
「この地下室、あからさまに金庫とかありそうじゃないですか? 探してみましょうよ。」
「も、もうそんな気分じゃないのだけど……。」
とまぁなんか隅で震えてるチロさんを放置してウロチョロと地下室を歩き回ってみれば、ちょっと離れた所に隠されていた扉が一つ。それを開けてみれば……。
なんと私5人分ほどの高さを誇る、巨大な金庫が。
ほほーう、これは貯め込んでそうですねぇ?
「あ、でも。番号が解らないですね。開けられない奴です。吐かせてから沈めればよかったですかね? まぁいいや、チロさーん。ちょっと魔法で鍵の部分溶かしてくれません?」
「か、カーチェ? 私さっき色々キツイって話したわよね? 休ませてくれると助か」
「早く。」
「……はい。」
ということで鍵の部分を無理矢理溶かしてもらい、後はアイテム欄に入っていた鉄の棒とかそういうのでぐりぐりと弄ってみれば……、はい開錠。
覗いてみれば案の定、大量の金貨たちが。うーん、壮観ですねぇ。
「では中身を全部『アイテム欄』に放り込みまして……、あぁ金庫も重量あって使い道ありそうですし、回収っと。んでんで金額は……、Oh。」
ざーっと枚数数えてみれば、少なくとも30億ゼニ。
なんか金貨以外にも入っていた装飾品やお宝、あと権利書などを含めればより跳ね上がるでしょう。というか『土地の権利書』みたいなアイテムもありますし、換算したら50億軽く超えててもおかしくないですねコレ。
うんうん、大収穫。
善人、それこそ主人公であれば自身に権利が発生している48億だけもっていくのでしょうが、私は私です。文字通り全部、金庫すらも合わせて持って帰ることに致しましょう。換金の手間を考えれば2億なんて手数料ですし、迷惑料も含めればむしろ良心的な対応と言ってもいいレベル。流石カーチェちゃん、やさしいですねぇ。
それに、ここにあるお金たちも私のお昼寝に使われた方が幸せというもの。どうせ持ち主は虚無に飲み込まれたわけですし、問題ありません。
「まさに大勝利、ってやつですねぇ。さ、チロさん。もうここに用はないので帰りましょー。」




