17:逃げるが勝ち
「カーチェ! カーチェ!」
「なんですかチロさん。」
「凄いじゃない貴女!!!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねることで感情を露わにしながら、大喜びする彼女。
先程の勝負の時。あまりにも顔に表情が出ていたので黙らせるためにその口にタオルを突っ込んだのですが……。額が額なのでもう全部忘れちゃっている様です。まぁ約800万、これが100円ならぬ100ゼニから増やしたとなれば飛び上がってしまうのも理解できます。
「さ、早く換金に行きましょう。ここから先は速度が重要です。」
「そうなの? ならさっさとしましょ!」
ちょっと前までなら反発を受けていたでしょうが、結果が既に出ているため酷く協力的なチロさん。すぐにチップを運ぶための台を持って来てくれて、即座に換金所への移動が始まります。……やっぱ無駄に機嫌が良いですね。
ではその移動の合間に、確認も兼ねて少し整理しておきましょう。
先程彼女にもお伝えした通り、このカジノは裏の存在。所謂マフィアが牛耳っている賭博場になります。
つまり多少勝つ程度なら問題ないのですが……。やり過ぎると『お呼び出し』を喰らうのです。スロットでも少々遊び過ぎてしまいましたし、もう彼らの呼び出しゲージは限界まで溜まっていることでしょう。もしここにいるのが成長した主人公たちであれば敢えて相手の懐に飛び込み撃破する方針を取れるでしょうが……。今この場にいるのは幼女とちょっと出来る魔法使いが一人。
(これで勝ち切るのはちょっと無理でしょうね。)
ちなみにですが、もし『お呼び出し』を受けてついて行った場合。このカジノの地下にある特別な賭博場に連れていかれ、ここの支配人と賭け事での勝負をすることになります。負ければ身ぐるみはがされ装備0の状態で戦闘が始まり負けると奴隷落ちしてゲームオーバー、勝ったとしも逆上した支配人とマフィアたちとの戦闘というちょっと理不尽なイベントが待ち受けているんですよね。
ま、今回は逃げるので関係ありませんが。
「既に私達はカジノ運営に目を付けられています。イカサマなどしていませんが、変に勘繰られる可能性もりますし、裏に連れていかれ戦闘になれば不味い状況です。というわけで早急に換金して逃げる必要があったんですね。」
「……あ! さっきのイカサマの指摘!」
「えぇ。アレで騒ぎを時間稼ぎしました。」
ちらっと後ろを見てみれば、袖や懐から大量のカードが出てきたせいか。私の隣に座っていたおじ様とディーラーの方々が、他のお客たちから制裁を受けている姿が見て取れます。馬乗りになってボコボコにされているあたり、相当周囲から毟っていたのでしょう。……あ、歯が飛んで行った。
とまぁそんな騒ぎが起きれば周囲の職員、運営側の人たちは止めるしかないわけで……。この間に、ってわけですね。ということで施設内にある換金所にご到着です。
「換金願います。すぐに、です。」
「お、お客様。しょ、少々お待ちいただけるでしょうか。額が額ですので……。」
「お釣りとか要らないので、上の桁以外は親切な店員さんにでも寄付しようかと思うのですが。」
「すぐにご用意します。」
というわけでおそらく上から『足止めしろ』といわれている店員に賄賂を贈り、作業を急がせます。
今回の場合26万ゼニほど差し上げるわけですし、一瞬チロさんから『いいの?』という視線を送られますが、何も問題ありません。もうカジノで出来ることは終わらせましたし、そもそも私の“稼ぎ”のターンは終了していないのです。ここで小金をケチり私の大事で貴重な時間をロスするのはいただけません。
まぁ26万円……、じゃなくてゼニを小金と言ってしまうのはちょっとアレですし、何もしていない見ず知らずの店員にプレゼントしちゃうのは確かに抵抗がありますが、気にしないようにしておきましょう。だってこの人、マフィアが上にいるっていうのに26万ぽっちで命令背いて取り逃がしちゃってるわけですから。後で絶対指とか腕とか足とか、最悪命とか“ケジメ”させられちゃうでしょう。それに比べたら、ねぇ?
「お待たせしました、こちら800万ゼニになります。」
「どうも。……チロさん、小火球。あちらに。」
「あ、うん。」
そう指示を出せば、ほぼ反射で魔法陣を起動し『小火球』を放ってくださる彼女。
思わず店員さんがそちらの方に視線を向けながら驚きますが……。その瞬間に眼の前に置かれた800万。全額を私の『アイテム欄』にへと収納します。これで私の能力が露見することはありませんし、ついでにボヤ騒ぎを起こして逃げる時間を稼ぐことが出来ます。
ちなみにですがこの世界に防犯カメラは存在しませんし、私のように人のステータスを見てその人の職業を判別するってことが出来る人もおそらくいません。ついでにもっと言えば村から村、町から町へと移動する人も魔物という危険生物のせいかあんまりいないので……。町の外に出てしまえばたとえ何をしでかそうと“バレない”可能性が高いのです。
あと普通にマフィアという悪の存在なので放火してもあんま気に止まなくて済みます。
というわけで逃げますよ、チロさん。
「うわ放火しちゃった私……。まぁ確かに悪い奴らだしいっか。うん、盗賊みたいなもんだと思って切り替えよ。ぅしッ! りょーかいカーチェ!」
そういうと私を勢いよく担ぎ上げ、肩に乗せながら走り始めるチロさん。
所謂お米様抱っこという奴ですが……、普通に肩にお腹が当たって痛いですね。まだ幼女ですし軽めですから普通の抱っこでも良かったと思うのですが、まぁ足遅いですし、仕方のないことかもしれません。いやむしろ走るという無駄な行為をせずに済んで良かったかも。
とまぁそんなことを考えていると、見えてくる出入り口の扉。職員さんが私達を外に出さないよう固めていますが……。
「火事だー! にげろー!」
「え、火事?」
「火が上がってるぞ!」
「に、逃げろー!!!」
チロさんの背中からそう叫べば、換金所から上がる火の手を見て大騒ぎし始める他のお客さんたち。
誰でも火というものは怖いもののようで……、一斉に出入口向かって走り始めます。そ、後はこの人並みに紛れながら逃げればいいって寸法ですねぇ。というわけでチロさん、此方でルート指定しますのでそれに合わせて逃げてください。
「良いけど道分かるの?」
「マップは頭の中に入っているのでご安心を。この騒ぎです、軽く撒いた後に別の所に行きましょう。」
「りょーかい! 振り回されないよう捕まってなさいね!」
というわけで、再度逃走開始です。
このまま単に逃げても大丈夫だとは思うのですが……、相手はマフィア。面子を気にする方々です。最悪人手のみならず馬まで出して追って来る可能性もあります。元々『この後も稼ぐ』つもりではありましたが、今町の外に出たとしても私達の牛車ではすぐに追いつかれてしまうでしょう。なので1泊……、いや2週間ぐらい泊まりましょうかね? 色々疲れたのでそれぐらい休みたいものです。
「あ、でも。この町煩いからお昼寝に不適ですね……。更地にしたら寝やすくなるかな?」
「なに物騒なこと言ってるの!?」
「仮定の話ですよ、仮定。でもそれだと夜のお休みすら妨害される可能性がありますね。嫌だなぁ。」
そうなるとどこかに宿泊するにしても他の場所が良いですよねぇ。野宿には慣れていますが、あるならふかふかお布団が欲しい所。……いや、どうせならもうお布団も買ってしまいましょうか? お金ありますし、アイテム欄がある私はいつでもどこでもベットルームにすることが出来ます。『稼ぎ』が終わったら寝具店にでもよって色々買い込んじゃいましょう。
うん、そう考えたらやる気出てきました。
「というわけでチロさん、次の目的地はレース場です。お馬さんで勝負しましょう。」
「また賭け事なの、って言いたいところだけどあれほど勝っちゃったら、ね! まらランスウナントカってう奴を使うの?」
「いえ、レースはちょっと起動時間が解らないと無理なので使えません。ただ……。」
馬名と日付さえ分かっていれば勝てるレースがあるんですよ。ミラクルが起きそうな、ね?




