11:チロさんの考え
(……この『カーチェ』って子。見た目に似合わない言動や思考。一瞬エルフとかそういう長命種なのかと思ったけど、普通に人間種みたいね。神童ってやつかしら。)
残った魔力で『索敵』の魔法を起動しながら、そう考える。
確かに使う語彙や思考の速さなど、本人申告の5歳児だとはとても思えないものだが……、後ろから見ているとその体は子供でしかなく、その動かし方も多少の心得こそ見えるが経験を感じさせない幼いものだ。これが後ろからついて来ているのに気が付かなかったというのはちょっと色々冒険者として考えさせれれてしまうが、とりあえず今は気にしないことにしておく。
(失敗から学べばいい話だし、ね。)
雇い主候補ことこの生意気なガキに指摘されたように、行きの私は『索敵』の魔法を使用していなかった。彼女からも一旦の納得をされたが……、まだ幾つか開示していない情報もある。自身に少し感情のまま動いてしまう気質があることは否定しないが、決して無策で森の中を進んでいたわけではない。
(魔法使いは近距離に弱いってのが通説だけど……、その対策を怠るわけないじゃない。)
あの時自身が発動していたのは、小火球5回分に匹敵する『索敵』ではなく、『防壁』という魔法だった。一定の防御力を誇り、どんなに強い攻撃でも必ず1度は防ぎきってくれるもの。小火球2回分と『索敵』よりも消費魔力が少なく、使い勝手のいい魔法。『索敵』はともかく、前衛を用意すれば使うタイミングがない魔法なせいで人気はないが、私は結構愛用している。
今回の依頼は敵盗賊の殲滅、どれだけの数がいるか解らない以上、少しでも魔力を温存する必要があった。故に本来索敵と防壁の二つを起動して安全に森を進むところを、村長さんから魔物避けの香を借りて進んだ。
なにせ小火球1発で敵1人、上手くいけば2人倒せるのだ。こっちは魔力が無くなれば何もできなくなる魔法使いだからこそ、その辺りの管理には細心の注意を払わなければならない。
(もし攻撃されても、1度なら耐えられる。そこから『後の先』を取って確実に倒し切る。)
結局奇襲されることはなかったが、これまで何度か実戦で上手く機能したからこその行動だった。
まぁそのせいでこの子が付いて来てるのに気が付けなかったのは不甲斐なさというか恥ずかしさが来てしまうけれど……、とりあえず今は未来の大口契約が取れるかもしれない、ということで納得しておくことにする。
(にしても、限界のない収納空間。そんな相手の専属だなんて……、もしかしてもうアガリが見えてきちぇってる? ふふ、コレ絶対逃しちゃいけない奴ね!)
彼女、カーチェちゃんが見せたあの『スキル』。本人はそこまで気にしていなかったようだけど……、どこからどう考えてもお金にしかならない。
それに、あの盗賊の頭らしき男の顔に叩き込んだアレ。あの匂い立つ物体は確実に温度を保っていた。それがいつ出されたものかは正直ちょっと考えたくないが、村から盗賊たちのアジトまで歩いて約30分。それまでずっと温度を保っているというのは……、少し難しい話だろう。
つまり彼女が持つ空間の中では、時間が止まっているのだ。
(限界がないのなら城とか砦作る時に割り込んで資材持って行けばちょっとした財産が手に入るし、時間が止まるのであればお貴族様や王族相手に食材を運ぶとかもできる! 海とか川から魚運ぶだけで途轍もない値段になるのを考えると……。ヤバいわね。)
以前魚を輸送する商人の護衛を受けたことがあるが、わざわざ専用の氷室から氷を用意し原産地から消費地まで運ぶというかなりのコストをかけて輸送していた。もし彼女がそこに参入してしまえば、本来必要なはずの初期投資。氷などの用意が一切必要なくなる。
何処からどう考えても……、お金にしかならない。
確実に、懐に入っておくべき相手だ。
(こんな職業してるからこそ、若いうちに実績と繋がりを得て“後”のことを考えなきゃって思ってたけど……。こんなに早く転がり込んでくるなんて! 私、ついてる!)
冒険者は、危険な仕事だ。
魔物という人類と生活圏を奪い合う相手がいるから討伐の仕事は余る程あるし、まだまだ人が探索し終わってない地域も多くあるから文字通り“冒険”することもできる。冒険譚や物語に憧れた者であれば進んで飛び込んでいく仕事なのだが……、そのせいか殉職率が酷く高い仕事でもある。
手に職持っている奴や家業を持つ奴ならそもそも成らないし、ソロでなんかただの自殺行為だ。基本、人間よりも強い魔物ってのは徒党を組んで倒すのが普通だしね。
でもまぁ私は色々あってソロになってしまい、これでも何とか出来るよう色々工夫して来たんだけど……。その所為か同年代の奴らよりもいち早く、この仕事の“限界”が見えていた。ソロと若さで注目を集めて仕事を多めに回してもらえるようになったからこそ、この仕事の割の合わなさと自分の限界がそこに。
早い話、ずっとこのまま冒険者続けてたら絶対死ぬってことに気が付いたのだ。
(だからこそ、次の仕事への伝手を探さなきゃって思ってたところで……。こんな子と会えるなんて!)
冒険者の“その後”にも、色々な種類がある。
何処かの商人と仲よくなり専属の護衛として雇ってもらったり、何処かの村に住みつき用心棒として養ってもらったり、貴族とかの護衛だったり、軍に良さげな役職で迎え入れて貰ったりと様々だ。
勿論一番最高なアガリはお貴族様とかにその強さを認めてもらって、囲い込んでもらうってのだけど……。それを狙えるのはほんの一握りだ。
確かに周りと比べれば自身は出来る方だとは思うけれど、それも上には上がいる。そもそも私には『魔法使い』としてある意味無視できない欠点を抱えているし、それが酷く悪く見える可能性もあった。
(まぁそもそも、相手から信頼されるような人間じゃないと難しいって感じだけどね。)
ともかく私は、次のことを考え始めていた。
まだ15という若造だけど、上手く回っている今こそ次を考えないといけない。どれだけ運が良くてもいつかケガで動けなくなる時が来るだろうし、ずっと戦場に身を置いていれば体よりも先に精神に不調をきたしてしまう。そもそもいつ自分の抱える欠点が牙をむいてくるか解らない以上、次の仕事に必須とも呼べる“繋がり”と“信頼”を稼ぐことにしたのだ。
ギルドから出される単なる魔物討伐ではなく、色んな所と繋がりを作れる仕事を回してもらうよう頼み始めたのが約半年前。今回も同じように村からの依頼を受けた形だ。正直依頼料はそこまで多くなかったけれど、上手く村との伝手を作れれば何かの役に立つかもしれない。そう思っていたけれど……。
こんなにも早く“当たり”に出会えるなんて。
(しかもこの子、村長の一人娘だったわよね。……つまりもし商人として上手くいかなくても、村の用心棒ルートとかもいけるってことでしょ!? もう完璧じゃないっ!)
私からすればどう考えても失敗しないだろうと思っているが商人の世界は魑魅魍魎複雑怪奇と聞く。この子の『スキル』と神童と思わせる様な頭をもってしても失敗してしまうことがあるかもしれない。普通ならそこでお終いになってしまうが……。この子には帰る場所がある。
村長の役職というのは、基本世襲だ。もし兄弟がいればどちらが長になるかでもめるだろうが、彼女は一人娘。5歳という時点でまだ弟も妹もおらず、耳元に魔法が通過したとしても淡々と話し始めるその胆力があれば確実に村長に収まるだろう。統治者である貴族との兼ね合いの問題などあるだろうか、この子ならその辺りも確実にクリアできるはず。
(商人が無理でも、村長は確実。もしかしたら両方出来ちゃうかもしれない。)
もし専属の護衛が何らかの理由で出来なくなったとしても、村の用心棒に滑り込めるかもしれない。
何せさっきあの村を訪れた時、そういう役割に当たる人はいなかった。まぁ村に入るとなれば結婚とか、外部からの人間への警戒とか色々面倒ごとが転がり込んでくる可能性もあるが……、彼女との繋がりが深ければ深いほど大きな問題にはならないだろう。
何より、一生死と隣り合わせで怪我でもすれば一気に転がり落ちてくる冒険者を続けるよりも何倍もマシだ。
(ようやく運が回って来た、ってやつね~! 王都までの護衛が試験って言われたけど、それぐらいならかるーく熟せるし! ふふ、これから先が楽しみね!)
「凄い笑みですね、チロさん。」
「あら、悪いかしら! こっちはアタリの依頼人を見つけられて気分いいのよ? ま、種銭くらいなら貸してあげるからバーンと稼いじゃいなさいな!」
……まぁこの後コイツのせいで色々巻き込まれて『あの時の私ぶん殴りてぇ』ってなるのだけれど、またそれは別のお話。
なおカーチェには一切商人になるきはありません。
だってコイツ主人公死ななければアイテム欄どころかステータスを見る能力も使わずに一生お昼寝するつもりでしたから……。ただ最低限お金は必要になると思われるので、真似事ぐらいはするかもしれません。昼寝しながらですけど。




