10:協力者です
「ちょっとッ! ちょっと待ちなさい!」
「……ふぁ、ねむ。」
「待って! 待ってって!」
「ママがお布団干すって言ってましたし、ふかふかだろうなぁ。」
「待てって言ってるでしょうがッ!!!!!」
瞬間私の耳元を通過し、地面に着弾する小火球。
……あら、奇遇ですねチロさん。こんなところで会うなんて。まだ森の中ですよ?
「こっちのセリフッ! というかなんで呼び止めてるのに止まらないのよッ! 耳聞こえないのッ!?」
「えぇはい、実は両方とも全く聞こえませんで。」
「え。そ、そうなの? ごめんなさい全然気がつか……。ってじゃあなんで会話できてるのよッ!!!」
ち、誤魔化せませんでしたか。
まぁどうせ利用しようと思っていた相手です。何も言わず利用するか、相手から了承を得てから利用するか。どちらがいいと言えば後者ですし、ちょっと真面目にお話しするとしましょうか。……あ、でもお昼寝の時間減るのは死ぬほど嫌なので手短にしてくださいね。じゃないとキレます。
「その昼寝に対する強烈な執着と幼児に出せない眼光は何なのよ。」
「頑張りました。……それと先ほどの小火球は攻撃の意思アリということでよろしいですか? でしたら依頼不履行な上に盗賊と組んで悪さした罪人として父に報告しますが。」
「いやアンタが話聞かないからでしょうがッ! 止まってたら撃ってないわよ! その、危ないのは確かだし申し訳なさはあるけれど……。あぁもうッ! こっちの質問だけ答えなさいッ!!!」
打てば響くような反応。ちょっとお話してて楽しいタイプですねぇ。
なんかすぐ怒っちゃったり、子供が尾行していることに気が付かなかったりと色々不安にはなりますが、普通にいい人みたいですし安心はできます。……これ以上怒らせるともっとお昼寝の時間が削られそうですし、大人しく頷いて質問にだけ答えるとしましょうか。
「(コクコク)」
「……まず最初にだけど、何でついて来たの? 危険でしょうが。」
「おしゃる通りですが私も魔物避けの香を焚いていましたし、対盗賊に関しては先ほどのやり取りを見て頂ければ疑問を解消して頂けるかと。」
「あぁアレ。確かに無残な死に方……、じゃなくてっ! 親御さん了承してるの!?」
「いえ、全く。」
「駄目じゃないッ!!!」
ダメですねぇ。実際ママから釘刺されてますし。
でも“危ない事”の定義が“ケガするような事”であるならば最終的に怪我せず帰っているので危なくないことになりません? あ、ならない。屁理屈。……まぁ確かにそうですよね。確かに私も自分で言ってて無理があるなと思ってました。
よその子の面倒まで見切れないと思いますので、帰ったら素直に白状してきます。『冒険者さんの後ろついて行って帰って来た』って。
「そ、その辺りは素直なのね……。まぁいいわ次ッ! あの! あのうん……、糞出した奴! どうやったの!? あと水とか斧とか! どっから出した!?」
あら、そっち。てっきり盗賊に斧叩き込んだことについて聞かれるかと思ったのですが。あ、そっちはこの後に聴くつもりだった、ですか。
……普通に私の異常性というか、チート?に関することですがどうしましょう。
まぁ別にバレても彼女が騒いだり吹聴しなければ問題は起きないでしょうし、面倒だから黙っていただけで特に強く隠すつもりはありませんでした。広く伝わればまぁ問題に成るでしょうが、その時はお昼寝の邪魔をする全てをバイバイすればいいだけの話。試してませんけど、死体も収納できますからね、コレ。完全犯罪し放題です。
ま、適当に言っておくとしましょう。
「私の持つ『スキル』ですね。職業ではない奴です。」
「……え、嘘!? “天賦”持ちッ!? というかやっぱり!?」
彼女が言った“天賦”。こちらについて解説する前にまずスキルに関して述べておいた方がいいでしょう。
まずスキルというのはこの世界に存在する不思議な力の一種で、これを持っていると不思議な力を引き出すことが出来ます。常時身体能力が上がるパッシブなものから、指定した攻撃を強力にするアクティブなものまで。ほんと色々なものがあるんですよね。
してこちらを手に入れる方法は2種類ございまして、『転職して“職業スキル”を手に入れる』か『生まれ持つ』が存在します。前者はおそらくチロさんも持っているであろう『魔法』、後者は爆散したクソ主人公が持っていた『天帝の加護』ですね。
……ちなみにですが私のスキル欄には何も記載されていないのでアイテム欄を扱えたりステータスを見れたりするのはまた別個の力と推察できるのですが、説明するのが面倒ですしチロさんにはこのまま勘違いしてもらうとします。
「す、すごいわね……。一生持ってる人に会えるか会えないかって話なのに。たぶんだけど、独自の収納空間を持つ、みたいなやつよね!? 物語とかで出てくるような!?」
「寡聞にしてその物語は存じませんが、そちらの認識で間違いないかと。」
「しゅ、収納限界とかは……?」
「今の所まだ底が見えてません、ほぼ無限に近いかと。戯れで池の水全部抜いても余裕ありましたし。」
そう言った瞬間、彼女の表情が固まります。
……えぇ、まぁ解りますよ。その気持ちは。あと活用方法も。
まだこの世界は、産業革命を迎えていません。よくある異世界中世ヨーロッパ、文明はあれど現代を知る私からすればかなり未発達な世界です。そんな世界に置いて“物流”は酷く限定されたものになっています。何せトラックどころか鉄製の巨大な船すらないのですから、大量輸送など夢のまた夢。しかも前世には存在しなかった危険な魔物という野生生物もいるのですから『何かを運ぶ』ことは想像以上の困難とコストを必要とするのです。
そんな時。体一つでほぼ無限に物を持ち運べる人間がいれば。
「お、お金になる……!」
まぁそうなりますよねー。
「ね、ねぇカーチェちゃん。私と専属の契約、結ばないかしら?」
「そんな猫なで声で言われなくても話だけは聞きますよ。内容は半ば察せますけど。」
「貴女、絶対商人として大成できるわ! その時、護衛の冒険者いるでしょう? 今なら私が専属になってあげるわよ! どんな相手からも守り切って見せるわ!」
「幼女の尾行に気が付けなかった人はちょっと……。」
「た、単に『索敵』の魔法使ってなかっただけよ!? 普段は完璧、完璧だから!!!」
ほんとかなぁ?
まぁ理解できないことではありません。今回彼女にお願いした依頼は『盗賊の処理』だったのですが、実は彼女に提供できた情報は敵本拠地の位置、だけだったのです。彼女にとっては敵の居場所こそ分かれど、そこにどれだけの数が詰めているか解っていない状態。それを考えればできるだけ自身の魔力、MPを温存して動き最低でも生きて帰れるようにするはずです。
索敵を切り、攻撃のため温存する。そう考えればまぁ納得は出来ますが……。
「だったら索敵得意な仲間見つけたりしません? 普通。あと前衛も。」
「うぐッ!? ま、まぁ色々あって……。で、でも! ちゃんと戦闘能力は見せつけたでしょう!?」
「まぁ確かに。その年齢にしてはかなり出来るようでしたね。」
「……幼児の貴女にそう言われると複雑ね。」
ふーむ。まぁ正直商人なんて忙しそうなお仕事欠片もしたくありませんが……。自分から売り込んでくれたのはとても好都合ですね。これならわざわざ馬車とかに忍び込む必要もなさそうですし、協力者になってもらいましょうか。
「では軽い試験をさせてください。私を王都まで無事に連れていく、それが出来ましたら専属の件、考えて差し上げます。あぁもちろん正規の依頼料はお支払いしますのでご心配なく。」
次回はチロさん視点かもしれません。




