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夜会ー2

赤や青、藍、紫に黄色。

薄いピンクにベージュ。


様々な色彩がその場には溢れていた。


人が百人入ってもまだ充分な余裕があるだろう広い、広い会場。


ふわふわと揺れる色鮮やかなドレスに身を包んだ令嬢たちに夫人たち。


壁や飾り窓を飾る華やかな刺繍の施された布。

天井から吊されたシャンデリアの明かりがキラキラと女性たちが身に付けた宝石や手に持つシャンパンの華奢なグラスに反射している。


まるで煌びやかな色の渦。


その中に、白を纏うのは二人だけ。


ディアナ王女とフィリルはまだ登場していない。

王族やそれに連なる高位貴族は遅れて場に現れるのが夜会の常だ。


だから一人はメリッサだけれど、もう一人はディアナ王女に扮したフィリルではない。


そのもう一人はーー。



「マリエラ……?」


久々に見た妹の姿に、メリッサはカーテンの陰に隠れて目を見張る。


胸元の大きく開いたドレスはどこかアンバランスな雰囲気を感じさせるもの。


腰よりも高い位置にあるウエストのリボンから上は身体にぴったりと沿い胸元と背が大きく開いている。逆に太めのリボンから下のスカート部分は何枚もの紗が重ねられてふんわりと後ろに丸く広がったフォルム。足下は前は膝下で後ろは踝が隠れる長さ。高いヒールは細い小粒の宝石を連ねた紐が繋がっていて、足首に巻かれている。


メリッサと同じ茶の髪は全てを結い上げず両耳の後ろに一部を残し毛先だけをクルリと軽く巻いて下ろされていた。


高く結い上げられた髪には、それだけは色鮮やかな真っ赤な薔薇の髪飾り。

開いた胸元に揺れる真珠の二連のネックレス。


可愛らしいけれど、妖艶さも兼ね備えた装いで、堂々と会場の真ん中に立つマリエラの姿は、とても目立っていた。


周囲にいる人間たちも皆一様にマリエラを気にしている様子だ。


ただしその視線は決して好意的とはいえないものがほとんどだったけれど。


一部の若い令息からは熱い眼差しを向けられているようだ。しかしそれ以外、特に令嬢や夫人からはどちらかというと険のある視線が向けられている。


夜会に招待されている貴族たちは当然これがどういった夜会か知っており、主役である花嫁以外が白を纏うーーその不遜さと不敬に眉をひそめ、それぞれ耳打ちし合っていた。


おかげで同じく白のドレスを着たメリッサが目立たなくて済んでいるとも言える。


マリエラはそれらの視線を気にする様子もなく誰かを探しているのか、辺りをキョロキョロと見回していた。


(……何故マリエラがここに?)


両親と共に新しい領地に向かったのではなかったのか。


メリッサの驚をよそに、会場には司会の厳かな声が響き渡る。


「ケーリカ公爵ご夫妻ならび第二王女様、マードック侯爵令嬢のご入場です」


マリエラに向けられていた視線と囁き声がぴたりと止む。皆の視線を追って開かれた扉へと目をやったメリッサはまたも目を見張ることになった。


伝統的な騎士服に赤と金のモールを付けた公爵。エスコートされている菫色のドレスの女性が夫人なのだろう。

すぐ後に続く侍女らしい女性に押された車椅子のディアナ王女。その隣に並ぶ白いドレスのフィリス。


そして、その後ろーー。


五人の赤いマントの近衛兵に囲まれて手を後ろ手に縛られた状態で歩かされるヘルト殿下の姿。


その姿に会場にざわめきが走る。


「お静かに!」


諫める司会の声。


「続いて王太子ご夫妻ならびに国王陛下、王妃様のご入場です!」


その宣言に、会場中の人間が頭を下げた。


ただ一人、ポカンと口を開いてボロボロのシャツを纏い手を拘束されたヘルトを凝視するマリエラを除いて。


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