本音と嘘。
「メリッサのことなんて、昔っから好きなんかじゃないわよ。は?姉?ふん!まあ、半分血が繋がってはいるけど?あんな暗い女と姉妹だなんて、とんだ迷惑だっての。そのくせやたら妙なところで偽善者なのよね。毎度、薬草茶やらなにやら作ってきて。ハーブの匂いってホントは苦手だってのに。いい顔するためにわざわざ目の前で飲まなきゃならないし、苦痛でしかなかったわ」
「……婚約?ああ、ヘルト殿下なんてなんとも思っちゃいないわよ。もちろん。だって顔だけなんだもの。口を開けば大したこともない自慢話ばっかり!
次期王?馬鹿みたい。上に何人もいるのになれるわけないじゃない」
「でも悔しいじゃない?メリッサなんて私の引き立て役なクセに王族と結婚するなんて。この私がメリッサよりも下の男と結婚しないといけないなんて、おかしいでしょう?だから、とってやっただけよ」
「ついでにもういらないから追い出してやっただけ」
ぺらぺら、ぺらぺら。
一人掛けのソファーにグッタリと凭れた状態で、マリエラは問われるがままに話し続ける。
通常精神に作用する魔法というのは、なかなかかかりにくいものだが、数日間少しずつ暗示をかけておいたためか、あるいは普段仮面を被っている分奥底では誰かに言ってしまいたいという欲望がもともとあったものか、マリエラからしてみれば姉を上手く利用して捨ててやったという自慢話のつもりなのかも知れない。
もはや聞くに堪えない、というか、女相手に殴りたい衝動に駆られたので、クロイスはパチンと指を鳴らして魔法を解いた。
虚ろな焦点の合わない目で、口調だけははっきりと話し続けていたマリエラの唇が喘ぐように声をださずに動く。
「……マリエラ嬢?」
「……っ?--わ、私?」
徐々に目の焦点が合うに連れて、マリエラはぱちぱちと瞬きをしながら自身の唇に指が触れた。
「……あ、ら?……私、何を話していましたっけ?」
首を傾げるのに、クロイスは作り笑いを浮かべて「姉君の話を」と答えを返す。
「毒を盛られたというのに、心配なされているとは、マリエラ嬢は本当にお優しい方ですね」
さらりと顔にかかった髪を撫で上げると、面白いように頬を染め、口づけをねだるように顎を上向かせて媚びた視線を寄越す。
気付かないフリで視線を逸らし、内心で舌打ちした。
日を追うごとにマリエラのこういった媚びた仕草は増えていて、鬱陶しいことこの上ない。
「ああ、そういえばお母君は無事に旅を続いているようですよ。おそらくこの月の内には新しい領地に着かれるでしょう」
「え?……ああそうですの」
話を逸らせば、マリエラは拍子抜けした表情で気のない返事を寄越した。
マリエラと共にやってきた母親は初日の時点で二人揃うと面倒が三倍増しになると気づいてマリエラを街に買い物に誘ったすきに強制的に馬車に放り込んで父親の下へ送ってやった。
マリエラは父親からの手紙で仕方なく向かったと思っているが。
「……何かしら、私、ボーッとしてしまって、何をお話ししていたか、よく覚えていないの。変ね」
「疲れているのでは?……私はとても楽しくて有意義な会話でしたよ?貴女のことが良くわかった気がする。ーーとても、ね」
おかげでせっかくメリッサからようやく欲しい言葉を貰って良かったはずの機嫌が急下降だ、と声に出さずに呟く。
マリエラ次第では、メリッサの機嫌を損なわないためにもこのままただ母親と同じく馬車で父親の下に強制送還で済まそうかとも思っていたが。
「やはりそれなりの仕置きは必要か……」
「マルカン侯爵様?」
小さな呟きはマリエラには何を言っているかはわからなかったらしい。
小首を傾げ、さり気なく襟ぐりの開いたドレスの胸の谷間を強調して前のめりになるのに、眉をしかめたくなる。
髪や瞳の色は似ているが、実は母親が別の男と作った娘ではないのかと疑いたくなった。
「そうだ。大切なお話しがあったのでした。貴女のお話が興味深くて、ついお伝えするのを忘れてしまうところでした」
「まあ、侯爵様ったら。どういうお話しですの?」
コロコロとマリエラは笑う。
「お喜び下さい。貴女と殿下の婚約がようやく叶ったそうです。一週間後、王宮主催の夜会で第二王女の輿入と共に正式に発表するとのことですよ?」
良かったですね、とクロイスが笑いかけると、マリエラは頬をひきつらせながら「……ま、あ。そうですの。嬉しいですわ」と返した。




