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身代わりの少女と王家の呪い。

「身代わり?」


小さいメリッサの呟きに、ベッドに半身を起こした王女はほんの僅かに視線を落として頷く。


「ええ。彼女には本当に申し訳ないことをしたと思っています。私のせいで、人生を歪めてしまったのですもの。……貴女にあのような態度をとったのも、きっと憤りや焦りがあるからでしょう。私には言えないから、その分も貴女に当たってしまったのかも知れませんね。本当にごめんなさい」

「い、いえ!大丈夫です!……えっと、お気になさらず」 


またも頭を下げる王女に、メリッサはブンブンと両手を振った。


「あ、あの、それで、身代わりというのは?」

「……私が発病したのは6才になってすぐ。その頃、私とフィリルは従姉妹だからかとても良く似ていたのです。王家としては私の発病は決して表向きにできなかった。だから、同じ年で見た目も良く似たフィリルを身代わりとした」


王女は一度言葉を切ると「王家の呪いをご存じ?」

と続ける。


「呪い」という不吉な言葉の響きに、メリッサは項がヒヤリと冷える気がした。


王家の呪い。


それは貴族の間に密やかながらも深く根を張って広がるある噂。


根拠はなく、王家にまつわるものだけに、表立って噂される類のものではなく。けれどもだからこそ、裏ではまことしやかに伝わっている。


魔力硬化症は、王家の血に伝わる呪いだと。


「魔力硬化症の発病者は決して多くはありません。もともと魔力のある貴族の子供にしか発症しませんし。なのにその発症者のおよそ7割が王族。それ以外も王族の血縁である公爵家や侯爵家が大半を占めています。いったい何の呪いなのかは知れませんが、そのように言われても致し方ないのかも知れませんね」


ふふ、と王女は自嘲するように声に出して笑った。


「けれどそれを認めるわけにはいかないのです。特に今は……。父は私の病を隠すために従姉妹であるフィリルを病状と偽ってこの離宮で療養しているということにしました。ここなら国で一番の治療ができますからね。同じ年で仲の良い私が心配して呼び寄せたということにして。対外的にはこの離宮の主は彼女ーーフィリルがディアナ・アルバッハ。私がフィリル・マードック侯爵令嬢ということになっています。そのことを知るのは私たち家族とマードック侯爵家、それにこの離宮の護衛である衛兵と近衛の一部のみ。そのせいで、フィリルは……っ」


けほっと咳こんだ王女に、メリッサはソファーから腰を浮かせた。


「王女様っ!」

「ごめ、な……さい。大丈夫、です。そこのお水を取って下さる?」


震える右手に差し示されたベッドサイドの水差しを、メリッサは王女に手渡す。

力の入りにくいらしい王女の手を両手で支えて、水差しの吸い口を唇に当てた。


二口ほどゆっくりと飲み込んで、王女はふぅ、と息を吐く。


「私、が、こんなだから、フィリルはろくに家族に会うことも、家に帰ることもできません。もう何年も、この閉じられた離宮でまるで侍女のように私の世話をする日々です。本来、なら、メイドにかしずかれて過ごすはずが、ここにはメイドも多くは置けませんから。皆、私が発病する前から仕えてくれている年嵩の者ばかりで」


それはどんな思いなのだろうか。


まだお互いに6才でしかなかったのだ。

それが片方は病に倒れて、片方は家族と離れて。

それぞれ表向きは別人として生きていく。


想像することさえ難しい、とメリッサは思う。


「その上、このまま私が死んだら、フィリルは私として帝国に嫁ぐことになります」

「え?」

「帝国の、条件の一つなのです。このまま王族と国を残す。……一つが魔女の待遇改善。魔女を受け入れて、今ある偏見や嫌悪をなくすための教育を施す。

それと元老院の縮小と五年以内の解体。代わりに帝国の者からなる帝国院が作られ王、円卓議院、帝国院の三者によって政が進められる。そしてもう一つが王女を帝王の側妃として差し出すこと。側妃と言いますが、要は人質です」


それ自体はよくある話だ。

敗戦国の王族が恭順の意志を示すために王女、あるいは血縁の娘を差し出す。


そうして差し出された娘の扱いは、けして楽観の出来るものではなく。


「帝王にはすでに正妃と四人の側妃もありますので、六人目の妃ということになります。このままならフィリルはディアナ・アルバッハとして帝国に嫁ぎ一生別人として生きていくことになります。私はフィリル・マードック侯爵令嬢として死ぬことになりますわね。……フィリルにとって貴女は最後の希望だったのだと思います。私よりも、誰よりも貴女を待っていたのはきっと彼女。この一年間、ずっと自分を救い出してくれる存在だと、待ち焦がれていた。だからこそ、冤罪騒ぎで貴女がいなくなってしまったことが、ショックで、許し難いことだったのでしょう」


そう言って目を伏せる王女に、胸が痛くなる。


同時に、自身がそれほど待ち焦がれられていたということに、戸惑いが隠せなかった。



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