癇癪と謝罪。
「閣下!おやめ下さい!!」
甲高い悲鳴のような声が、室内に響き渡る。
「何故そのような……!その者はたかが男爵令嬢でしかないのですよ!」
「フィリル、おやめなさい」
「いいえ、いいえ!姫様っ!」
激しく首を横に振って、フィリル、と呼ばれた少女はまろぶような足取りで室内に駆け込んでくると、レモンイエローのドレスをぎゅっと握って、言葉を続けた。
「閣下が頭を下げる必要などありませんっ!説明だってそんなものする必要はありませんわ!この者はただ黙って今すぐ薬を調合すればそれで良いのです!!」
キッ!と睨まれて、メリッサはいったいどうすれば良いのかわからずに俯いた。
突然謝られるのも困るけれど、そのように言われても困る。
それにメリッサを睨み付けるフィリルの視線は、初対面のはずなメリッサに向けられるものにしてはあまりにも攻撃的で。
(……まるで憎まれてでもいるよう)
どうしてそんな視線を向けられるのか。
コルト閣下がメリッサに頭を下げた、それだけでここまで憎悪に満ちた瞳を向けられるものだろうか。
だいたいこう言ってはなんだが、閣下の謝罪は向こうが勝手に始めたことで、メリッサだって戸惑っているし、困っているのだ。
自分より明らかにずっと地位も年齢も高い男性にいきなり頭を下げられて、しかも動揺しているうちにフィリルに横から割り込まれた状態で、はっきり言っていったい何がなんだかわからないでいるのに。
「だいたいこの者は罪人ではないですか!なのにそんな者にっ!」
「メリッサ嬢の罪は冤罪だとすでに証明されているだろう」
え?そうなの?とメリッサは内心で驚くが、口を挟める雰囲気でなく、とりあえず黙って俯き、成り行きを見守ることにする。
「だとしても罪人の家族であることには違いありませんわ!この者の妹がヘルト殿下をたぶらかし毒殺騒ぎを起こしたのでしょう?だったら……っ」
癇癪を起こした子供のようにフィリルは喚き散らす。それを止めたのは掠れたか細い少女の声。
「おやめなさい。そもそも私は貴女に発言を許しましたか?」
「で、でも……姫様っ」
フィリルはとうとう涙目になって、己を諫める王女を見返した。
メリッサはというと、なんだかフィリルがあまりに感情的なせいか、逆に戸惑いやら驚愕やらが落ち着いてきたように思う。
(……ええっと)
でも、どうしよう?
(ひとまず私は静かにしているしかないわよね?)
とにかくフィリルの癇癪が落ち着くなりしてくれないことには、何も先に進めないだろう。
「黙りなさい、と言ったの。私の言葉が聞こえなかった?それに私は貴女の入室を許可した覚えもないのだけれど?聞こえているのなら今すぐこの部屋から出て行きなさい」
ぴしゃりと叩きつけられた命令に、フィリルはドレスを握る手と唇を戦慄かせてメリッサをさらに睨んでから、足早に部屋の外へ出て行く。
乱暴にドアが閉じられた後に、バタバタと走り去る足音が聞こえてきて、メリッサは正直ホッとした。
「すまない。これでは謝罪の意味がないな」
コルトは閉じられたドアを見送りながら、苦笑して立ち上がる。
それでも改めてメリッサに向き直ると「重ね重ね申し訳ない」と頭を下げた。
「い、いえ!あの、お願いですから頭をお上げ下さい!」
メリッサも慌てて声をかけるが、そのメリッサに別の声が追い討ちをかけた。
「本当にごめんなさい。彼女も根は悪い人ではないのです」
王女にまで謝られて、メリッサは「もう止めて下さい!」と言いたくなる。
ある意味拷問のよう。
もう謝るのはいらないから説明をお願いしたい。
メリッサはひっそりとそう嘆息した。




