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28 罪は償われた

翌日、帝からの求婚を断る為の相談をする為、貴人の方を屋敷へと招いた。


爺さん婆さんは用意して貰った書状を持って逸早く宮廷へと伺う事となり、屋敷にて貴人の方と2人だけで御簾越しに向かい合う。


珍しい事に貴人の方たってのご希望だ。



「帝とのご結婚はご辞退するという事で本当によろしいのですか?」


「…はい」


貴人の方からの再度の確認にしっかりと頷く。


「…そうですか…因みに他に結婚のご希望やご予定は…?」


「…ありません」


強い意志の気持ちを込めて貴人の方へとはっきりと答える。


貴人の方はそれを聞くと下を向いて暫くじっと何かを考え込み始めた。


そして…顔を上げたと思ったら衝撃の言葉を伝えられた。


「…あなた方の贖罪は果たされました」


「…は?」


『…!』


あなた、がた?…しょく、ざい……が…果たされた…?



貴人の方を天界関係の方だと思ってはいた。


思ってはいたが…まさかここまでハッキリと何かを言われるとは思ってもいなかった上に言われた内容もいきなりすぎてすぐに理解する事が出来なかった。


「…し、贖罪が…果たされたって…」


「はい。…つまり、科せられていた罪は償われました。

…よって…赦罪を与えられる事となります…」


いったいどういうことか…とか、こんな急に…と色々と思う事はあるが貴人の方の言葉は続いている。


「…つきまして、次回満月の夜に天界よりお迎えが参ります」


「…ッ」


…そうだった。


物語では満月の夜にかぐや姫は月に帰るのだ…。


何で今まで忘れて…いや、思いつかなかったのか…。


すっかりこのままお姫様や爺さん婆さんとのんびり過ごす事しか考えていなかった…。


「…い、いや、あのちょっと待って欲しいのですが…」


焦りつつ貴人の方へと声を掛けるが貴人の方は肩の荷が下りたかのようにスッキリとした様子で返事をする。


「…私は伝言役に過ぎませんので何か疑問等ございましたら、お戻りになってから直接お聞きください…」


そう言って頭を下げると静かに立ち上がり部屋を去っていく。


『…あの者、こんなに関わっておきながらなんて薄情な…』


お姫様からも呆然としながらも少し恨みのこもった声が聞こえた。


…いや、あのスッキリとした様子を見るに…色々と押し付けられてうんざりしていたのかもしれない…



それにしても…


…そうか、お姫様とは満月の夜までしか一緒に居られないのか…




宮廷から戻った爺さんと婆さんは疲れた顔をしながらも何処かホッとした顔をしていた。


「…かぐや、ちゃんと断ってきたからのぉ」


「…しばらくは結婚の事は忘れて一緒にのんびりと過ごしましょうね」


何も知らない2人は一緒に過ごせる事には喜んでくれつつも…まだ、結婚については完全には諦めてはなさそうな様子だ…



…爺さんと婆さんには感謝している。


こんな怪しげな俺を拾ってからとても大切にしてくれていたと思うし、結婚以外はすべて俺の気持ちを尊重してくれていた。


このまま、ここでみんなで過ごしたかったな…


「かぐや…?」


「…何かあったのですか…?」


俺の様子がおかしな事に爺さんも婆さんも心配の声をかける。


「…いえ、ちょっとした事が…あっただけで…」


なんとか返事は返すが正直俺も頭の中がごちゃごちゃで良い返事が思いつかない…。


「…ちょっと疲れたみたいなので…部屋にもどりますね…」


「…」


「…」



無理矢理笑顔を作ってなんとか言葉を返し、心配そうな爺さん婆さんを残しつつも部屋へと早足で戻る。


部屋の縁側へと座るとそこからは欠けた月がよく見える。

あの月が満ちた時、月からの迎えが来るのだろう。



「…お姫様、大丈夫か?」


『…』


なんとなくお姫様に声をかける。


『…今は私のことよりあなたのことでしょう?』


…あ、そうか、俺ってどうなるんだろう…ひょっとして消えるとか…?


「…まぁ、でもそれは考えたってどうせ答えはでないしな…。

それよりもお姫様の事だよ」


そう、天界へと戻る事になってお姫様はどうするつもりなのだろうか…


『そんな…私のことよりも…』


「お姫様は天界に行ったら今度こそ結婚するのか?」


お姫様の声を遮るようにして問いかける。


『っ…結婚は…しません』


しないのか。


その答えを聞いてホッとする。


「でも、大丈夫か?お姫様って結構流されやすいし…」


『なっ失礼な。今度ばかりは絶対に大丈夫です』


キッパリと言い切ったお姫様に頬が緩む。


「…そうか…大丈夫か」


『…貴方には…感謝してます。

…出来ることなら…いえ…なんでもありません』


お姫様は何かを言いかけて止める。


俺はじっと月を見上げる。



「あのさ、こんな事言うと迷惑かもしれないけど…俺、お姫様の事好きだよ」


『…は?』


「…だから、お姫様には幸せになって欲しい」


もし、消えてしまうのなら伝えておこうと思った。


お姫様にとったら負担になるかもしれない。


…けど…ごめん。

忘れられたくない…と思ってしまった。


本来なら、いつか好きな人と出会い幸せになって欲しいと願うべきなのに結婚しないとの発言に安堵してしまう。


幸せになって欲しいし笑っていて欲しい…けど、結婚はして欲しくない…。


もし、自分がお姫様に求婚出来る立場なら…


…いや、これは考えても仕方のない事だな…。




『私も…私もあなたとなら一緒に居ても良いと思ってました』


取り留めのない事を考えているとお姫様から声がかかる。


「…え?」


『…好きって気持ちはわかりませんが…貴方に対してだけは他とは違う感情を持っている…と思います』


「…」


『あなたと一緒にいると…今まで見ていたモノが全く違って見えるようになりました…世界に色が付いたようで…』


「…お姫様…」


『…だから、…消えて欲しくないっ…』


俺のものかお姫様のものかはわからないが、頬に涙が流れている。


俺はただ月を見上げた。

お姫様を抱きしめることさえ出来ないことが酷くもどかしい…。



そして月を見上げて涙を流す俺を、心配して部屋を訪ねてきた爺さん婆さんに見られていた事に気付く事はなかった。





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