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中間市 -11:33-

 両手ガトリングガンでゾンビの群れの迎撃を始める英人。

 それを監視カメラの映像で見ながら、武蔵はひたすらにタブレットをタップしていた。


「くっそ……! どれだ!? 隔壁のセキュリティ項目をいじる欄はどこにあるんだ!?」


 ひたすらタブレット内のアイコンを叩き、目的の項目を探す武蔵。

 彼が探しているのは、セキュリティの詳細項目。その中の、対人設定に関わる項目だ。

 現在、川のように移動しているゾンビたちに対し、隔壁を利用して流れを遮断するという手段が使えない状態である。

 これは隔壁に存在する対人安全装置が機能しているためだ。多くの部分で機械制御を利用しているこの施設、安全管理に関してもセンサー類を利用しているため、隔壁が下りる部分に人が立っていると隔壁は作動しないようになっている。

 そして、ゾンビたちもウィルスに感染しているという一点を除き、基本的には人間と同じ機能を備えている。その為、隔壁を下ろそうにもゾンビが隔壁の降りる位置に立っているせいで、作動させることが出来ないのだ。

 ディスクにそのことを問い合わせたところ、対人設定をいじれば人が立っていても隔壁が下りるようになるという話であった。


「こっちか!? これか!?」


 武蔵は必死にタブレット内のアプリをタップし、その中のファイルを漁ってゆく。

 隔壁の操作やマップの表示など、比較的単純な操作項目は浅い階層で見つかるが、それ以外の複雑な分野の操作項目はだいぶ奥のほうに隠されているせいで、対人設定検索にかなり手間取ってしまっている。

 その間にも、監視カメラの向こう側の英人が徐々に劣勢に立たされている。


《オオオォォォォォ!!!》


 彼が両手に持ったガトリングガン。そして、天井に現れたセントリーガン。

 これらは正確に、あるいは凶悪にゾンビたちの急所を抉り、確実に奴らを屠ってゆく。

 しかし、全部で六つ存在する銃口に対し、ゾンビの数は無制限。

 奥から奥から沸いて出てくるゾンビたちの数の暴力に対し、いかな凶悪な兵器といえど多勢に無勢。圧倒的な劣勢を強いられていた。


「ああ……!? 武蔵君、急いで!?」

「分かってる! くそ!」


 反射的に悲鳴を上げる湊に返しながら、武蔵は乱暴に頭を掻き回す。

 あれでもない。これでもない。無意味にタップを繰り返してしまう武蔵の焦りが思わずすべり、思ってもいなかった方向のアプリをタップしてしまう。


「うぉ!? まちが――」


 そして出現する各種対人設定項目。どうやら、対人に関わる項目は一箇所に纏められているものらしかった。


「――ってない! これで合ってた!!」

「合ってるのはいいから、早く早く!!」

「分かったから揺らすな、ががが!?」


 湊に急かされ、武蔵は大急ぎで隔壁の対人設定項目をタップ。

 人の感知項目というものが合ったので、それをOFFに設定。

 すると、マップ上で赤く異常を示していた隔壁たちが、全て緑色へと変化した。


「やった!!」

「英人!! 隔壁が下ろせる!! 下がってくれ!!」


 武蔵が通信機に向かって叫ぶと、英人がガトリングガンを斉射しながら下がってゆく。

 英人が一定以上のライン下がったのを確認し、武蔵は隔壁を操作する。

 次の瞬間、轟音を上げて下りる隔壁。その上に立っていたゾンビたちを容赦なく挟み潰し、厚殺してゆく。

 英人が無事、安全な隔壁の中へと逃げ延びたのを見て安堵の息をつく湊。

 同じように息をつきながら、武蔵は英人へと呼びかけた。


「大丈夫か、英人!」

『ああ、なんとか……。武蔵。隔壁が下ろせるのは、ここだけか?』


 英人の問いかけに武蔵は軽くタブレットを操作する。


「いや、今お前がいる場所以外の隔壁も弄れる。とにかく、隔壁を下ろしていって、化け物どもの足止めをする!」

『頼む。侵攻は防げないと思うが、後続の足を止められるだけでも十分だ』


 次の防衛機構がある場所に向かって駆け出す英人。

 彼が両手に持っているガトリングガンを見て、武蔵は彼に尋ねてみる。


「ところで、結構派手に撃ち散らかしてたけど、大丈夫か?」

『俺の体に関してなら心配無用だ。筋肉痛も、あっという間に治った』

「いや、そっちじゃなく。そっちも心配だけど、そうじゃなくて」

『……弾数に関してなら、少し不安だな』


 英人はバックパックにガトリングガンを戻しながら、ポツリと呟く。


『結構派手にばら撒いた。おかげで、残弾が一割減ってる。これからも似たようなことがあると考えると、無駄弾を撃ちたくなくなってくる』

「だよな……」


 武蔵から見ても、かなり発射レートの高いガトリングガンのように見えた。

 いくら装甲服に倍力機構があるとはいえ、人が撃つには過ぎた連射力じゃないかと武蔵は思ったが、まあそれは置いておこう。今は残弾を補充できるかどうかが問題だ。

 武蔵は軽くタブレットを弄り、英人が今着ている装甲服に関連する項目を引っ張り出してみる。

 その説明によると、試製対軍用機動装甲服・甲型の兵装は撃ち尽くした後はその場で廃棄するものらしく、新しいものは全て丸ごと交換という形になるらしい。


「……取説見る限り、武装パージして背負いなおすらしいぞ?」

『男らしいな』


 英人が呆れたように呟く。


『……なら、あまりガトリングは使わないようにする。隔壁操作で足止めをしっかり頼んだ』

「分かった。俺はこのまま、隔壁の手動設定をどうにかできないか確認してみるから、防衛機構を動かしたら呼んでくれ」

『ああ』


 英人の声が途絶えたのを確認してから、武蔵はタブレットを弄る。

 英人にはああ言ったものの、隔壁の手動設定をどうにかできるとはさすがに思っていない。このタブレットで弄れるようなら、そもそも手動設定自体不要だろう。


(俺からできるのは、せいぜい隔壁の操作と英人に声をかけることくらい、か……)


 武蔵はそれを確認し、拳を握り締める。


「……くそっ」


 今も死地にて危険を顧みず、自分たちのために戦ってくれている親友に出来ることが何一つない。

 力強く食いしばった歯の隙間から、血が一筋流れる。

 口の中を噛み切った痛みは、武蔵が思っている以上に軽かった。






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 まどろみから覚めたばかりで頭は働かないが、それでも彼らは彼女の思ったとおりに動いてくれているようだ。

 確認できる限りの入り口から、材料にする予定だった彼ら全員を突っ込ませ、その数でさっき感じた脅威を抹消する。

 単純だが、効果的な作戦だ。今やこの町に存在していたそのほとんどの命は、彼女の手の中に存在する。

 まだ町の中で微かに動き回る人間はいるが、それらはもはや無視しても問題ない。

 さっきと感じたノイズの持ち主。それだけは、確実に消し去らなければならない。


「―――」


 彼女は直観で感じていた。さっきノイズを放ってきた輩は、きっと自分と同じなのだと。

 自分と同じように、生き延びたいだけのものだ。だが、自分とは決して相容れない存在だ。

 何故なら、先の輩は違う。自分とは、決定的に違う。

 同じだからこそ……違うのだ。先の輩は、自分とは相容れないのだ。

 彼女はまだ微かにまどろみの残る頭の中をはっきりと晴らすように、目元をクシクシと擦る。

 だが、いまいち気が晴れない。そのまま、彼女は軽くあくびもしてみた。


「―――ッアアアァァァァァァ!!??」


 その時だ。凄まじい悲鳴が上がったのは。

 不愉快なその響に彼女が視線を下に下ろしてみると、彼女を見上げて一人の少年が絶叫を上げているところであった。


「なんで……なんでだぁ!? 町の外には壁があって、とても出られなくて!! 街にはゾンビがうじゃくそいて!! 化け物にまで襲われて!! しばらく身を隠して、やっとどっかにゾンビどもがいって!! シェルターみたいなのがあったから、そこに逃げ込めて安心だと思ってたのに……!!」


 頭を抱え、ぼたぼたと涙を流して少年は叫ぶ。


「なんだよこれはぁ!! 何で、何でこんなのが中間市の真下にいるんだよ!!?? テメェ、一体なんなんだよぉ!!」

「―――」


 耳障りな雑音を上げる少年を、彼女は煩わしそうに見下ろす。

 どうやら、一つ欠片は入っているが、もう一つの欠片がはいっていないようだ。

 二つの欠片は互いのピースで、がっちり嵌めあえば、もう彼女にとってそいつは手駒になってしまうのだが……。


「ちくしょう! ちくしょぉうぅぅ……!!」

「―――」


 膝を突き、うめき声を上げる少年。

 彼女はそいつをすぐにでも手駒にしてしまおうとしたが、すぐに気が付いた。

 どうも、欠片が芽を出そうとしているようだ。

 一つの欠片だけではなかなか芽が出ないものなのだが、どうやらそいつは彼女に近しい存在だったらしい。


「―――」


 彼女はふわりと微笑んだ。そうであるなら話は別だ。今耳障りな雑音を上げるそいつは手駒ではなく……優秀な仲間になるかもしれないのだから。

 彼女はゆっくりと片手を上げる。すると、数多のゾンビたちを液化し、練り上げた塊の中から触手が飛び出す。


「っ!? ヒィ!!」


 そいつは触手の存在に気が付くと、怯えたように逃げ出した。その表情は恐怖に塗れ、必死の形相で両足を動かして逃げ延びようとする。

 彼女はそいつに先んじ、逃げられそうな通路を全て自らの触手で遮断する。


「アアァッ!?」


 それを見て、そいつが悲痛な叫び声を上げる。己の退路を立たれた絶望に、再びそいつは膝を突く。

 彼女はそのまま触手をそいつの体に巻きつけ、一気に自分の足元へと引き寄せる。


「ギィヤァァァァァ!!? 離せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 そいつは叫び、必死に抵抗する。

 己の体を掴む触手を必死に殴り、爪で引っかき、歯を立てて食い破らんとする。

 だが、その程度ではもはや彼女に痛みを感じさせることすら出来ず、むしろ彼女の中の欠片が、そいつの中にある欠片の発芽を手助けする。

 彼女には、その様子がとても愛おしく映る。

 そいつが、自分から仲間になってくれているようで……とても愛おしい。


「イィィヤァァァダァァァァァ―――………!!!」


 やがてそいつは……かつて黒沢と呼ばれていた少年は、彼女の胎内へと引きずり込まれる。

 彼女は満足げに息をつくと、黒沢が己の胎内で変わってゆくのをゆっくりと待ち始めた。






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