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中間市 -11:07-

「化け物が集まってきて……!? 侵入されてるぞ!」

「うぉい、マジかよ!? ディスク! ディスクー!!」


 モニターの中で、群れをなすゾンビども。さらにその中に混じる、人外の化け物たち。

 英人たちのいる場所目指してゆっくりと進む化け物たちの映像を前に、英人たちは戦々恐々となった。

 ようやく安全を手に入れることが出来たと思ったのに、このままでは昨日に逆戻りだ。しかも、今度は向こうからこちらに向かってきていると来ている。早急に何か手を打つ必要があるだろう。

 大急ぎでインターフォンを連打する武蔵に、ディスクは淡々と返事を返す。


『タブレットリモコンにある、隔壁という項目を操作したまえ。足止めくらいはできるだろう』

「英人ぉ!」

「これか!?」


 英人はタブレットを操作し、隔壁の項目を呼び出す。

 隔壁の開閉に関してかなり細かく設定できるようであったが、英人は全て無視して“全隔壁遮断”の項目を選択。

 隔壁付近に人の反応があるだとか、このまま隔壁を下ろすと甚大な被害がどうとか注意喚起を促すメッセージが流れる


「知らん! とっとと隔壁を下ろせっ!!」


 が、全て無視して隔壁を下ろすように操作する。

 瞬間、タブレットの画面が真っ赤に染まり、アラートの文字が現れるのと同時に今いる研究室の周辺から物々しい音が響き渡り始めた。


《注意! 研究施設上位権限により、全隔壁の遮断が行なわれております。至急、隔壁付近から離れてください。全ての隔壁が、あらゆる障害を無視して遮断されます。速やかに、隔壁付近から離れてください。繰り返します。研究施設――》


 同時に、四方八方からアナウンスが流れ始める。どうやら英人が今握っているタブレットリモコンは、研究施設上位権限とやらを行使できるものらしい。おかげで。全ての隔壁を何とか下ろすことに成功した。


「これで……一安心、か?」

「だと、いいけどな……」


 相変わらずアナウンスはやかましいが、少なくとも隔壁は下ろせただろう。

 そのことに安堵し、一つ息を吐く武蔵。

 しかし英人の顔に安堵は浮かばない。何か見落としが一つでもあれば、そのままこの場所はすり潰されてしまうだろう。

 それでも適合者なる自分は生き残れるだろうが、問題はここに人間が四人もいるということだ。しかも一人はただの子供で、現在ウィルスによって苦しんでいるときている。

 ディスクは今回の事件の関係者らしいが、医者か何か。化け物と退治した場合の対処能力は一般人と変わらないだろう。ゾンビたちをどうにかできる薬品でもあれば違うかもしれないが、そんなものがあればこんな大事にはなっていないはずだ。ウィルスに感染し、今も苦しんでいる礼奈の治療を行なってもらわなければならない点を考えても、彼にはゾンビを近づけるわけにはいかない。

 ウィルスに感染している礼奈を除くと後は湊と武蔵になるが、一介の学生に過ぎない二人に物量で圧してくるゾンビたちの相手は無理というものだろう。そんなものを期待するほうがどうかしている。

 であれば、化け物と化した英人が対応に走るのがベストであるが……蜘蛛の巣のように無数に線が走る研究施設周辺通路は、ゾンビたちを迎え撃つポイントとして適切な場所が存在しない。ここに至る道が一本だけならそこに陣取ればいい話だが、唯一存在するのは研究室前廊下のみと来ている。ここは最終防衛ラインになるだろう。迎撃するのであれば、もっと前に出るべきだ。

 今は隔壁が下りているため、迎撃に対応する必要はないが、それもいつまで持つか分からない。最悪は想定すべきだろう。


「……ダクト」

「え?」


 不意に、湊が呟いた。

 真剣な表情で唸る英人の代わりにその言葉を拾った武蔵が湊のほうへと振り向くと、湊は不安そうな表情で呟いた。


「空気の通ってるダクト……そこは、大丈夫なのかな?」

「大丈夫って?」

「そこを通じて……体の小さな化け物が来たりしないのかな、って」

「……そういえば」


 湊の不安に、武蔵は思い出す。

 そもそも今いる研究所が陥落した原因。それは、この研究施設の中にいた適合者がエアダクトを通じてウィルスを研究所内にばら撒いたせいだ。

 そのダクトとやらがどの程度の大きさかは分からないが、映画などで登場人物たちが抱くとの中を通って移動するのはお約束のようなものだ。

 ならば、化け物たちにもそうしたものが存在する可能性はある。


「英人! ダクトの全体図とかって、出せるか!?」

「……ん!? なんだ? ダクト?」

「エアダクトだよ! そこを通じて、化け物が出入りしたりしねぇかって話だ!!」

「……そういうのもあるか。まってくれ!」


 武蔵の言葉に頷いた英人は、タブレットを叩いてダクトの全体図を呼び出す。

 モニターに映し出されたダクトは、研究室の概ね上部を覆い尽くす感じで張り巡らされており、その構造の難解さは通路の比ではない。


「うげ。なんだこれ……」


 あまりの細かさに武蔵は思わずさじを投げかけるが、それでも何とか目を細めて抱くとの全体図と研究室周りの通路とを比較する。


「……全体の縮図って、倍率同じだよな?」

「ああ。その部分に関して今は触ってない。ダクトと研究室の縮図倍率は同じだと思う」

「そっから考えると、この研究室周りのダクトはえらい細いな。人っこ一人は入れそうにない」

「ダクトから侵入というのはスパイものにもよくある。それを警戒したんじゃないか?」


 二人がモニターを見る限り、今いる研究室上部のダクトは腕が入るかどうかといった程度。到底人が出入りできるサイズではない。

 化け物の中にはこうしたダクトの中を通れるように変化したものがいるかもしれないが、モニターの中の映像を見る限りは、そうした化け物はいないように見える。

 であれば、今すぐ真上から強襲を受けるといったことはないはずだ。


「……!? 待って、隔壁が!」

「なに!?」


 そうして僅かな安堵も、すぐに上がった湊の悲鳴で吹き飛ばされる。

 彼女の指差す先では、モニターの中で一部の隔壁が開放されていることが示されていた。






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 物々しい音と共に開放される隔壁。

 その向こう側にいたゾンビたちは、待ちわびた隔壁の解放と共にまっすぐに目的地を目指し始める。

 だが、彼らの目の前には別の隔壁が存在する。これらを力づくで打ち破るには、戦力が足りない。


―キキィ―


 故に、先ほどと同じように触肢子供が飛び跳ねる。

 先ほど通ってきたダクトの中へと潜り込み、隔壁の向こう側を目指して移動を始める。

 小さな体はやや細まり始めているダクトを容易く通り抜け、隔壁の反対側へと彼を到達させる。

 ダクトの出入り口を破り、廊下に降り立った触肢子供は、辺りを見回す。

 隔壁はすぐ傍にあり、その上部に緊急開放用のレバーが存在していた。

 レバーの傍には鍵穴があり、本来は特殊な鍵を差し込んで回さなければ、レバーは下ろせないようになっているのだが。


―キィ―


 そんなことは関係ないといわんばかりにレバーに飛びついた触肢子供は思いっきりレバーを下ろす。

 数瞬の間、レバーは触肢子供に抵抗するように軋みを上げていたが、やがて抵抗空しく火花を散らしながらレバーが下ろされる。


―キキィ―


 喜ぶと共にレバーから手を離す触肢子供。

 無理やりレバーを下ろされた反動でけたたましいサイレンが鳴るものの、ゆっくりと触肢子供の目の前で隔壁は上へと上がってゆく。

 そうしてゾンビたちは再び前進する。ゆっくりと、ゆっくりと。

 一枚ずつではあるが、確実に隔壁を突破し、目的地を……“彼女”の敵がいる場所を目指して歩き続けた。






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「外部操作による隔壁の解放……!? そんな機能いらねぇだろうが!!」


 隔壁が開いてしまった原因をタブレットで知り、思わずそれを振り上げてしまう英人。


「ちょいまち英人ぉ!? 今それ壊されたら隔壁の操作どころかカメラも動かせない! だから堪えろ! 落ち着け!?」

「くっ……!」


 慌てて止めに入る武蔵の言葉に何とか冷静さを取り戻し、英人はゆっくりとタブレットをテーブルの上に戻す。

 くすぶった怒りは、代わりにその辺りにあった椅子を蹴り砕くことで発散しつつ、英人はモニターを睨み付ける。


「盲点だった……! まさか隔壁を外部操作で開放できるなんざ!!」

「っていうか、化け物しかいないはずなのに、外部操作なんて出来るとは思わなかったし。どういうことだよ……まさか協力者がいるとか?」

「いや。よくわからねぇが、委員長の奴はだいぶ自意識残してたぞ?」

「え、マジで!?」


 英人の言葉に、武蔵は驚く。

 彼らが最期に見た時には、だいぶ自我も怪しい感じだったはずだが。


「俺らが見た時にはもう化け物だったけど、どういうことだよ?」

「さあな。ただ、彼女とやらに会ったとか言ってたが……」

「彼女? 誰の話だよ」


 英人の言葉に、武蔵は不思議そうに首をかしげる。

 委員長の言う彼女とやらが一体何なのか。そして、彼は何故自我を持っていたのか……。

 不可解なことは積み重なるものだが、今はそれどころではないだろう。


「えと……委員長がそうだったってことは、他の化け物にも、自我というか自意識のある個体がいる、ってことだよね?」

「だろうな。委員長だけって事はないはずだ」


 湊の言葉を肯定し、英人は腕を組む。


「委員長が言っていた“彼女”とやらが、他の個体にもそうした自我を与え手、何らかの命令を出している可能性は高いだろうな」

「その“彼女”が隔壁の開放方法を教えたと? だとすると、研究所の関係者が敵側にいるのかよ……」

「今まで生きてるってことは、その人は人間なのかな……?」

「化け物の脳みそをいじれるんだから、多少知識と技術はあるんだろうな」


 三人は扉の向こうで礼奈の治療とワクチンの作成を行なっているはずのディスクの方を見る。

 ……彼なら知っているかもしれないが、それよりも今はゾンビたちをどうにかする必要があるだろう。

 三人は顔を付き合わせる。とにかく、今はゾンビたちを圧し戻す方法を考えなくては。




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