花のかくれんぼとおばけ
春のまよい森は、少しずつ目を覚ますように、木々や草花が色を取り戻していました。
まだ冷たい風が残るけれど、森のあちこちに小さな花の芽が顔を出し、やわらかい緑の香りが漂います。
コトリはふわふわの髪を揺らしながら、花の香りに誘われて森の小道を歩いていました。
「きょうは、どの花を見つけようかな……」
小道の途中で、ぽつんと丸い影が動きました。
「こんにちは、コトリちゃん!」
まんまる目のおばけが顔を出し、手をふります。
「わあ、きみたちも春を楽しんでるの?」
ふわふわの毛をまとったおばけや、ころころ転がるおばけたちも集まり、森の中はちょっとした花畑のような賑わいです。
森の奥に行くと、小さな丘の上に野の花が咲き乱れていました。
赤、青、黄色、白……
花の色はまるで宝石のようで、日差しを浴びて輝いています。
帽子をかぶったおばけがにこにこ笑って言いました。
「花のかくれんぼをしようよ!」
コトリは目を輝かせました。
「かくれんぼ? 花と?」
「うん、花の色と同じ色に隠れるんだ!」
コトリは黄色い花のそばにしゃがみこみ、まんまる目のおばけは赤い花の間に隠れます。
ふわふわのおばけは青い花の下に潜り込み、ころころ転がるおばけは白い花びらの中でくるくる回りました。
「みーつけた!」
「やだ、ここだ!」
小さなおばけたちの声と笑い声が、春の風と一緒に森に広がります。
丘を越えると、小さな小川に出ました。
水面には花びらが浮かび、流れるたびにゆらゆらと揺れています。
コトリはそっと手を伸ばして花びらをすくい、小さなおばけに渡しました。
「わあ、きれい……!」
おばけたちは花びらを頭にのせたり、手のひらにのせたりしてあそびます。
そのとき、森の奥から小さな声が聞こえました。
「助けて……」
コトリは立ち止まり、声のする方へ進みます。
すると、枝の上に小さな白いおばけがひっそり座っていました。
「どうしたの?」
「うまく飛べなくて……ひとりで登っちゃったの」
コトリはそっと手を差し伸べました。
「だいじょうぶ、いっしょに降りよう」
コトリとおばけたちは協力して、小さなおばけを安全に降ろしました。
「ありがとう、コトリちゃん!」
小さなおばけはにっこり笑い、森の中にふわりと舞い降りました。
森の小鳥たちも、その様子を見て、嬉しそうにさえずります。
日が傾くと、森全体がオレンジ色に染まり、花たちは夕日を浴びてやわらかく光ります。
コトリとおばけたちは丘の上に並び、沈む夕日を見つめました。
「春の森って、なんだか特別だね」
コトリがつぶやくと、帽子のおばけが小さな声で答えました。
「うん、花と笑い声と、コトリちゃんがいるからね」
森の中には、ぽつりぽつりと光る小さな春の妖精も現れました。
花の上で踊るように光り、おばけたちやコトリを照らします。
コトリはそっと手を差し伸べ、光を指先で受け止めました。
やわらかく、あたたかい光が、心までふんわり包み込みます。
夜になると、森は静かになり、春の香りと花の光だけが残りました。
おばけたちはふわふわと集まり、コトリと一緒に小さな花の輪を作ります。
「今日も楽しかったね」
「うん、森に来ると、いつも笑顔になれるね」
遠くの丘の上で、満月が顔を出し、花と森をやさしく照らしました。
コトリは手をふり、おばけたちはふわりと空中で手をふり返します。
まよい森は今日も、花と笑い声と小さな光で、しずかに、でも確かにあたたかく輝き続けました。




