第82話 絶対に必要だよ!
「あ。ちなみにハルとロゼリールはどうやってあいつらを倒してたんだ?」
純粋に気になったので聞いてみる。
ガーショを採集しながら、だからなぁ。効率よく連携をとっていたのだろうが…
「ビィー?ビッ!」
ハルとロゼリールが顔を見合わせこくりと頷くと、ロゼリールが上空へ飛んでいく。
ロゼリールが草むらを見下ろして、きょろきょろとしている。
その時に小さく草むらがカサッと揺れる音がしたその直後、
「ビビビッ!」
「ピィー!ピッ!」
その草むらに何かがいるのをロゼリールがハルに教え、ハルはそこに向かってスライムブローで体当たりをする。
また別の方向で音がするが…ハルは既にスライムブローを放っている。
「ビィー…ビッ!」
敵がいるであろう草むらを目掛け、今度はロゼリールが水魔法を放つ。
勢いよく水の弾が飛んでいき、何者かに当たる音がする。
命中したのを上空から確認したロゼリールは、イートラットを抱えて積んであるイートラットの横にポイッと捨てる。
ハルもハルで倒したであろうイートラットを頭に乗せ捨てる。
…なるほど…なかなか効率良く倒してたんだな。
ロゼリールが上空から索敵。ハルが討伐。ハルが討伐している最中であればロゼリールが魔法を飛ばして討伐…と。ハルもハルで索敵能力があるので、ロゼリールが討伐している最中はハルが索敵してスライムブローを決めたり、光の矢などで討伐しているのだろう。
「ほぇー…ハルちゃんもロゼリールちゃんも凄いねぇ…」
2匹はミリーにそう言われ、どや顔を決めている。
確かに連携はばっちりだし、2匹で良く考えたな。と思う。…俺要らなくね?
「ぶぃー」
ピグミィの鳴き声がするのでそちらを見てみると、ピグミィもイートラットを咥えている。
いつの間に…
「あはは。ピグミィも凄いなぁー。いつの間に倒してきたの?」
「ぶぃー」
ピグミィもミリーに褒められて嬉しそうな顔をしている。
ハルとロゼリールを見ていたから気づかなかったがピグミィも凄いな。しれーっと1匹討伐してきている。
…ハルとロゼリールから凄い気がひしひしと伝わってきている。
ピグミィに対抗しているのか、2匹ともやる気満々だ。
「ハルもロゼリールもちゃんと考えて倒してたのか。偉いぞー?」
「ピィー」「ビィー」
2匹を褒めると先ほどの嫉妬心みたいなものがなくなり、また嬉しそうな表情をしている。
感情豊かだなー。あはは。
「だけど、無理しちゃダメだからね?疲れたら休むんだよ?」
「ピィ!」「ビビッ!」
2匹は嬉しそうな表情のまま返事をする。
さて…と逆に俺達はここにいたら邪魔かもしれないな。草むらから出て3匹を見ながら、戦闘を見ているとしよう。
死角から敵が出てくることもあるだろうし、1体と対峙してたら別方向からもう1体…ということもあるかもしれない。
その時に備えて指示を出せるように草むらに目を配るとするか。
――――結論。俺とミリーはなにをすることもなかった。
ハルとロゼリールは、連携とって隙は無いし、ピグミィはどっかにとことこ歩いて林に入っていったかと思えばイートラットを咥えて捨て、またとことこ歩いて林へ…を繰り返していた。
「ハルちゃんとロゼリールちゃんは凄いなぁー」
「いや、ピグミィも凄いと思うけど…」
俺達は3匹が見える場所で、座って飲み物を飲んでいる。
ハルとロゼリールは連携が崩れないし、ペースも落ちていない。ピグミィは、コンスタントにイートラットを咥えて帰ってきている。
俺達2人の出番は皆無である。
「ほぼ私達の出番ないねぇー…」
ぽつりとミリーが言う。頼もしい反面、俺の必要性はあるのか…と空しくなってしまうが…
「俺って必要なのかなぁ。」
つい愚痴が出てしまう。同い年で、歳も一緒。気兼ねなく話せる相手がいると愚痴も出てしまう。
「絶対に必要だよ!」
ミリーは急に俺の方に振り向き、強い口調でそう言う。
「あーやってハルちゃんやロゼリールちゃんが一生懸命やっているのはスイトがいるからだよ。それにスイトに褒められた時すっごい嬉しそうじゃない。」
確かにあの2匹を褒めた時は本当に嬉しそうな表情をする。それに今だって頑張ってくれてはいるが…
俺はハルやロゼリールに何かしてあげることはできるのだろうか?やはり考えてしまう。
「私もピグミィに色々助けられてるけど、ピグミィは嫌がったりしないよ。ピグミィには私が。ハルちゃんとロゼリールちゃんにはスイトがいる。それが一番大事なんじゃないのかな?」
なるほどなぁ…ハルもロゼリールも頑張っているんだからといって俺が焦ることはないのかもしれないな。
今の俺にできること。それを地道に確実にやっていくことが大事なのかもしれない。
2匹が迷ったときに俺が先導し、指示をする。そうでないときは任せて見守るのも大事なのかもしれないな。
「ありがとうミリー。なんかもやっとしたのが晴れたよ。」
「えへへ。お互いが信頼し合っているんだもの。スイトが焦ることはないんだよ。あの子達が迷ったときに導いてあげられたらそれでいいと思うし…良きパートナーであり、友人だと思って。ね?もちろん私にとってのピグミィがそうだもの。」
俺とミリーは細かいところは分からないが根本は一緒だ。
パートナーである魔物を大事にする。ここはお互い一緒だから話も合うし、話が入ってきやすいんだろうなぁ。
しかし、フロルが遅いな。もう30分くらい経っていると思うが…
そう考えていると後ろで足音がする。フロルかな?と思って振り向くと、同い年くらいの男性冒険者であろう2人がにやにや笑いながら立っていた。
「お?ミリーじゃん。こんなとこでなにしてんの。っていうかこれ誰?」
初対面なのに馴れ馴れしいな。それにミリーを下に見ているような発言。
それにこの冒険者2人の横にはスカーフを巻いた犬がそれぞれ並んでいる。
スカーフ…それぞれ色は違うがマーカーか。ということはこいつらが、ミリーが言ってた同い年くらいのテイマーかな?犬もただの犬ではなく魔物か。その魔物は冒険者2人の横にビシッと座っている。
見た目は狼のような犬のような…鑑定してみると《バウ》と出た。バウという名の魔物らしい。
「イートラットの討伐よ。私とフロル、それにこのスイトの3人でやってるのよ。」
「そういやさっきフロルとすれ違ったな。で、お前らはここで座ってぽけーっとしてんのか。」
いちいち癇に障るなぁ。ぽけーっとしてる訳じゃないんだが…
2人のテイマーはにやにやして完全に見下している。
その間に、ピグミィがとことことイートラットを咥えて歩いてきた。
「相変わらず、使えなさそうなドリルボアだな。テイマーが甘ちゃんだと魔物もヌルくなるわな。どーせ隣の男もそんな感じだろう。」
こっちの世界に来て初めてムカついてきた。なんだこいつら。
ピグミィはちょっと首を傾げて、イートラットを置き、またとことこと林へ入っていく。
マイペースなのか、肝が据わっているのか…それかこの男2人を全く相手にしていないのか…
ミリーは悲しい顔をして俯くだけ。こいつらがミリーが言ってたテイマーなんだろう。
そして、俺達の様子がおかしいのが分かったのかハルがぴょんぴょん跳んできた。
「ピピッ?」
ハルは不思議そうに俺の顔を見上げる。
その後だんだんと俺を心配するような表情をし出した。うん。大丈夫だよ?
笑顔を作ってハルを見るがやはりぎこちないように映っているのか…心配そうな顔をしている。
「これがお前のテイムしている魔物か?ははは!スライムじゃねーか!そんなんじゃまともなクエスト受けられねーだろ!」
「スライムって…はっはっは!この辺のイートラットすら狩れないんじゃねーか!?」
俺だけならまだしも、ハルまで馬鹿にしやがった。ハルもイラっときたみたいで、冒険者2人を睨みつけている。
とはいえ…そこに積んであるイートラットとスティンカーはハルとロゼリールが討伐したんだが…目に入ってないのかな?
ハルとロゼリールがほぼほぼ討伐したんだが…
そのロゼリールも、ハルがこっちに来たのに気付いたのか、人が増えてるのに気づいたのか…それとも険悪な雰囲気に気づいたのか分からないが、ふわふわと飛びながら俺の隣へやってきた。
「ビッ?」
ロゼリールも俺の顔を見て、異様さを察知したのか心配そうに俺をじーっと見つめている。
「え…これって?ソルジャービーよりでかいけど…」
「さすがに少し大きいソルジャービーだろ。クイーンビーなんて俺達見た事もねーし。そもそもそんな激レアな奴をしかもテイムしている奴なんて聞いたことねーよ。」
「そ…そうだよなぁ。っていうか林の中に行かないと。」
「お前らもイートラット討伐してるつってたな。俺らなんて街からここへくるまでの草むらで3体も倒したぜ!まぁお前らも手こずるだろうが…え?」
冒険者の1人がイートラットの山を見る。ついでにスティンカーの山も。
凝視して固まっているが…
ちょうど良いタイミングでピグミィがまたイートラットを咥えて山に積む。
そしてまたてくてくと林の中へ入っていった。
「ま…まぁ。朝からやりゃこれくらい朝飯前だわな。弱っちぃドリルボアとスライムと…そこそこ強そうなソルジャービーか。俺達には到底敵うことないだろ。おい!行くぞボケっとすんな!」
と横にいる魔物。バウに怒鳴る。わざわざ怒鳴らんでも…
バウはバウで表情変えず無言で冒険者の前へ出る。
「お前もだよ。早く先頭に立て。」
もう1人の冒険者も、自分のテイムしているガウに命令をする。
ガウ2頭が先頭に立ち、冒険者は後ろから林の中に入っていく。次第に彼らの姿は見えなくなった。
「ごめんね。スイト。私のせいで…」
「ん?なにが?」
「だって私のせいでスイトまで…」
ミリーは悲しい表情を浮かべ俺に言う。ミリーのこんな表情を見るのは初めてだ。俺が対女性に対して気の利いたことが言えれば…!こんな表情をさせなくても済むのに…
「大丈夫だよ。あんな奴ら放っておけばいい。それに、ミリーにはフロルもピグミィも、それに俺だっているじゃん。なんならハルもロゼリールも。」
「ピィ!ピピッ!」「ビービッ!ビビッ!」
ハルとロゼリールは落ち込んで泣きそうなミリーを慰めている。ロゼリールは頭をぽんぽんしているが…ハルはぴょんぴょんとミリーの目を見て何か訴えかけている。
「うん…!ありがとう!そうだよね!ハルちゃんもロゼリールちゃんもありがとう!私は恵まれてるなぁー。」
ミリーも少しは元気が出たようだ。
それに、ハルもロゼリールも優しい。テイマーとして自分のテイムしている魔物が人を気遣っている。2匹とも良い奴で良かった。
俺も2匹を見て、少しイライラが収まってきた。
イライラが収まってきた…が、林の中に入っていって大丈夫なのかな?明らかに強くはなさそうだけど…
さっきフロルが持って行ったスイートオウダーってこの辺じゃ見ないらしいが…
それにしても、フロルが遅い。もう1時間ほど経つ気がするが…
さっきの冒険者2人よりもフロルの方が心配だな。




