第73話 ドリルボアみたいな勢いだったなぁ。
「ふぅ…落ち着いたわ。」
ミリーはコップに注がれた牛乳を飲みながらそう言う。
すっごいドタバタした音が聞こえてきたし、すっごい勢いで出てきたしなぁ。
「そんなに焦らなくても良かったのに…」
俺は苦笑いしながらミリーに言う。
「だって楽しみにしてたんだもん!お昼回ったあたりからまだかなぁー?ってずっと…」
ミリーは急に身を乗り出して言う。びっくりするなぁ…
それにドキッとした。対女性に対して免疫が皆無の俺だからね。賢者だから。うぅ…
「本当にこの子楽しみにしてたんだよ!帰ってすっごい興奮しながらあなた達の話をしてたんだから。」
ミリーのお母さんは、はっはっはと笑い声を交えながら話す。
そんなに楽しみにしてくれてたのか。それならあの勢いも頷ける。
「ドリルボアみたいな勢いだったなぁ。」
「もう!」
俺はけらけら笑いながら冗談を言う。それを聞いたミリーはまた怒った表情をするがあははと笑いだした。
そういえばドリルボアと言えば…
「ピグミィは?」
「え?ピグミィならいるよ?ほらあそこに。」
ミリーが指をさす先を見ると、ピグミィが建物の中からこっそりこちらを覗いている。
おぉ…人見知りって言ってたからな…恐る恐るこちらを見るピグミィが可愛らしい。
とはいえドリルボアと言えばその名の通り猪突猛進してくるイメージだから違和感があるなぁ。
「ピグミィは恥ずかしがり屋で、人見知りだからなぁ…でもすっごい頼りになるんだ。」
「ミリーの相棒だもんね。俺もハルやロゼリールは凄く頼りになるから。」
「そうよね!やっぱり相棒というかパートナーというか…ハルちゃんやロゼリールちゃんを見てれば分かるよ。2匹ともすっごいスイトの事好きだもん。ね?」
「ピッ!」「ビッ!」
「あはは!ほんとに可愛いなぁー。」
ハルとロゼリールは元気にミリーに返事をする。ハルもロゼリールも人懐っこいからな。その辺は苦労はしない。
でもピグミィは人見知りをするって言ってたしなぁ。
「周りに俺達と同じくらいのテイマーはいないの?」
「そうねぇ。いるっちゃいるんだけれど…スイトはテイムしている魔物を信頼して大事にしてるでしょ?まぁなんというか…大事にしてあげてないって言うか…」
ミリーの表情が曇る。
アイナさんやグランさんが言ってた、『基礎ができてない』とか『魔物を下に見ている』テイマーが多いとかなのかな?
「俺の師匠たちも言ってたよ。魔物を下に見るテイマーが多いって。」
「うん。そういうこと。私はそういうのダメだから…可哀そうに思えちゃってね。」
うーん。やはり俺はその現状を目の当たりにしていないからなぁ。
実際見てないだけラッキーなのか。いや、見ておいた方がいいのかもしれない。
俺はテイムしている魔物をパートナーとして大事にしている人としか会ってない。むしろそちらの方が少数だとアイナさんやグランさんも言ってたしな。
「花畑でスイトを見掛けた時に、座ってるスイトの膝で落ち着いているハルちゃんを見てね。なんだか気になって…周りにはそんなテイマーもいないし。なんか新鮮で。」
ミリーは牛乳を飲みながら静かに話す。
やっぱりテイムしている魔物は唯一無二のパートナーだ。そう思うトレーナーが少ない。だからミリーのような感想に至ってしまうんだろうな。
「ぶぃー…」
気が付くとピグミィがミリーの傍に寄ってミリーの顔を見て心配そうに鳴く。
「ふふ。大丈夫よ。スイトは良い人よ?ピグミィもまだまだちっちゃい頃に街の子供たちにいじめられててね。私が助けて育ててるの。今じゃかけがえのないパートナーなの。ね?」
「ぶぃー」
「そういう過去があったから人見知りなのかもしれないわね。だけど本当に頼りになるのよ。」
「そうかぁ…ピグミィも大変だったんだな…」
俺は座っている椅子から降りてしゃがみピグミィを見てそう声をかける。
「ぶぃぶぃ」
お?ミリーの影に隠れないぞ。
ちょっとは心を許してくれたかな?
「ピッ!」
ピグミィの横にぴょんぴょんとハルが寄る。そして、ピグミィの目を見て鳴く。
「ピグミィ。こいつはハルって言って俺のパートナーだよ。仲良くしてあげてくれるかな?」
「ピピッ!」
「ぶぃーぶぃぶぃ!」
ピグミィは俺の目を見た後、再度ハルに視線を向ける。
逃げないところを見ると、どうやら打ち解けられたようだ。
「ピグミィ良かったわね!お友達ができて!」
「ぶぃ!」
「スイトもハルちゃんもありがとね。この街の同い年くらいのテイマーは私やスイトのような考えは持ってなくて…私が浮いちゃってるからピグミィも友達がいなくてね。」
言い方が正しいかは分からないが、テイムしている魔物を下に見ているテイマーが多いというのは事実なのだろうな。今までは見たことはなかったし、アイナさんやグランさんの話も本当かなぁ?と半信半疑で聞いていた。だってそういうテイマーを見たことがないし…場面にも遭遇していない。
しかし、テイマーとして除け者にされているミリーを見るとそれが事実と考えて間違いないだろう。
この辺の問題も色々複雑だよなぁ。それこそ、勇者になって魔王を倒すぞー!って旅に出た方が目的も明確だし分かりやすい。
「とはいっても俺もテイマーになってまだ数か月しか経ってないよ。ミリーの方が先輩なんだし色々教えてよ。」
俺は少し寂しい顔をしたミリーに言う。
ご機嫌取りとかじゃなくて純粋にそう思ったから。
ミリーの顔が、その言葉を聞いてぱぁーっと明るくなる。
「えぇ!?そうなんだ…私は長い事ピグミィと一緒にいるからなぁ。とはいっても1人ではマルスーナの森くらいにしか行ったことないよ?」
「それでもビッグフロッグや野生のドリルボアとか出るでしょ?」
「まぁそうなんだけど…ピグミィが倒してくれるからなぁ。」
「そっかぁ。ピグミィは強いんだなぁ。」
「ぶぃー」
俺はピグミィの頭を撫でると心地よさそうに返事をしてくれる。
というかマルスーナの森に入れるのなら、ゴトウッドに来るのも容易そうだ。
お?ハルとロゼリールの牛乳が空になったな。俺も少し残っているが、頂いた瓶はもう空っぽだ。
「さて…今日は街を案内してくれると言っていたけれど…」
「あ!そうだったわ!お母さん行ってくるわね!」
「気を付けて行くんだよ!それと晩御飯はどうするんだい?」
「そうだなぁ…スイトも一緒でいい?」
ん?まさかミリーの家でおよばれするということか。なんか申し訳ない気もするが…
「うちは構わないよ!スイト君はそれでいいのかい?」
ミリーのお母さんはにっこり笑ってそう答えてくれた。
ならお言葉に甘えようかなぁ。
「すいません。ご馳走になります。」
俺はぺこりと頭を下げる。
こっちに来て初めてだなぁ。1人でご飯を食べるのも、リナさん以外とご飯を食べるのも。
それにお昼はスライズで昼ご飯を食べているが夜は俺の手作りばっかだったしな。人が作った家庭料理は初めてだ。
「そんな畏まらなくていいんだよ!そんな大したもん出すわけじゃないんだから!」
ミリーのお母さんははっはっは!と豪快に笑う。
「じゃあ暗くなる前には帰ってくるから!スイト!行きましょ!」
そう言ってミリーはコップの牛乳をごくっと飲み干し、勢いよく席を立つ。
「ご馳走様でした。牛乳美味しかったです。夜もまたお世話になります。」
俺はお母さんに向け、お礼を言って席を立つ。
「うん。2人とも気を付けて!それとミリー!」
「ん?何?」
「あんたは自分で飲んだコップくらい洗ってから出かけなさい。」
…ミリーが戻ってくるまでもう少し座って待っているとしようかな。
前回、第72話と第73話を投稿する順番を間違えてしまいました…申し訳ございません。




