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第71話 お?兄ちゃんこの辺は初めてかな?

 花畑をぐるりと周り道に戻る。

 少し道を歩いて行くと木々がなくなり、広い草原が広がっている。

 とはいえ全くの平地ではなく緩やかな起伏が随所にみられる。

 そういえばこちらの世界に来てから陽の光を直に受けたり、広大な土地が広がった景色は初めてだなぁ。

 ずっと森の中で生活していたような感じだし、開放感がある。それに風もなんだか爽やかだ。それに遠くまで見えるし・・・お!あの丘の先がマルスーナの街かな?とりあえず道なりに歩いて行こう。


 俺達は道なりに歩いて行く。やはり森の中と違い遮蔽物もないので、視界が良い。

 これならハルの索敵能力がなくても俺の目で視認できる。森の中では色々な魔物がいたけれど、この草原ではまた魔物が変わってくるのだろうか?

 とはいえ、周りを見渡す限り魔物などは見えないが・・・草原とはいったものの草もそんなに背は高くないしなぁ。しかし、白と黒のぶち模様の大きな動物が何体か見える。その近くに何やら人の姿も見えるのであれは飼われている牛なのだろうか?


 遠くには畑のような草原とは異なった四方に耕されたような土地が見える。作物も育てられているのかな?

 なんにせよ、世界樹の木陰やマルスーナの森では見られなかった光景が広がっており、こちらに来て初めて見るものが多く、興味を惹かれる。

 少し歩くと先ほどの牛を飼っているであろう人の元まで歩いてきた。俺は足を止め牛を眺める。

 道沿いの岩に座り、ガッチリとした40代前半から半ばの男性が牛を眺めている。やはりこの人が飼っている牛なのだろう。


「お?兄ちゃんこの辺は初めてかな?」


 牛を飼っているであろう男性に声をかけられる。顔はにっこりと笑っており、嫌悪感は抱かれていないようで安心した。


「すみません。こちらからお声かけしようかと思っていたのに・・・そうなんです。この辺は初めてで、お話を聞こうかと。」


「そうかいそうかい。たまにこうやってカウビーを放牧してるとね。不思議そうに足を止めたり、カウビーを見たりする若い冒険者がいるんだよ。兄ちゃんは察するにモンスターテイマーだね?」


 ん?あぁ。なるほどハルとロゼリールを見てそう思ったのだろうか?


「分かっちゃうもんですね。ずばりモンスターテイマーです。」


「やっぱり。戦士にしちゃ軽装だし、その杖を見た感じ魔法使いかとも思ったんだけどね。なんというか雰囲気が魔法使いと違ってね。しかし、連れている魔物がクイーンビーとは珍しい。初めて見た。それにそっちはスライムかい?あんまり見ない色だけど。」


 男性は、はっはっはと笑い、俺に言う。

 見た目で分かるものなのかなぁ。しかし、その男性は言い当ててきた。


「まぁ長いことこの街道の横のこの場所で牛を放牧してりゃ、色々な冒険者が通るんだ。そりゃ見ただけで大体どんな冒険者かってのは分かるもんだよ。」


 男性は目を細めニッコリと笑いながらカウビー達に視線を戻し話す。

 この男性は長い事カウビーの飼育に従事してきたんだろうなぁ。


「そうなんですね。今からソロでの冒険の練習がてらマルスーナの街に初めて行く最中なんです。」


「そういうことかい。兄ちゃん。あっちの街道から来たってことは、世界樹の木陰あたりの出身かね?」


「そうですね。以前は先輩方に連れられて川の手前まで来たんですが、ソロでの冒険の許可をもらえたんで、こちらに・・・で、今から知人に会う約束をしているって感じです。」


「なるほどねぇ。もし、兄ちゃんの待ち合わせの相手が同い年くらいの女の子ならあそこに見えるマルスーナの街の牧場の娘だな。門番に言えばすぐ案内してもらえるだろう。」


 なんか同じようなことをミリーも言っていたような・・・?

 それにこの男性はなんでそんな事も分かるんだろうか?ちょっと怖いなぁ・・・


「はっはっは!なんで知ってるかって顔してるな!まぁ色々とあるんだよ。もう昼過ぎてるだろう。女の子は待たせるもんじゃないぞ?」


 えっ。もうそんな時間になるか。急いでいかなきゃな。


「あっ!ありがとうございます!お邪魔してしまってすみません!」


 俺は街の方角を見て道を歩き出す。


「おう!まぁ街はそこだが魔物も出ないとは限らないからな!まぁそいつらもいるし大丈夫だと思うが、最後まで気を抜いちゃダメだぞ!」


「はい!ありがとうございます!おじさん!」


「うん。気をつけて!」


 俺は街に足を進めながら、男性の方をみて礼を言う。

 早く街に行かなきゃな。ミリーが待っているかもしれない。


「ははは。おじさん・・・かぁ」


 その牛飼いの男性がぼそっと何か呟いたが、もう俺には聞こえなかった。



――――マルスーナの街


 ここがマルスーナの街か。目の前に門があるが高さは約2メートル程。

 街と聞いていたので3階建て以上の建物が立ち並び、もっと建物が密集していると思ったらそうではなかった。

 門の外から見た感じでは、1階建て、2階建ての建物が間隔を空け並んでいる。


「お?初めて見る顔だな。マルスーナになんか用かい?冒険者ならライフカードの提示をお願いしよう。」


 腰には剣がしまってあり、皮でできている鎧と兜を被った門番らしき人に声をかけられる。


「えぇ。すみません。よろしくお願いします。」


 俺はライフカードを提示する。


「ありがとな。スイト・イーガマック・・・と。ん?レベルが低いが、お前さんルーキーかい?」


 ルーキー?初めて聞く単語だが・・・まぁ新参の冒険者と言った感じだろうか?


「えぇ。先輩方からお許しがてて初めてのソロでの冒険をしているところです。」


「なるほどな。ゴトウッド出身か。・・・その後ろの2匹はスイト君のテイムしている魔物かい?」


「えぇ。ゴトウッドから来ました、それでこれがマーカーで・・・」


 俺はベルトについている桃色のマーカーを門番に見せる。

 門番はハルの帽子とロゼリールのスカーフを見て、うん。といい頷く。


「なるほどな。分かった。最後にどれくらい滞在する予定なんだい?」


「明日帰ろうと思うので、明日までですかね。」


「そうか。ソロデビューだったな。ひとまずお疲れさん。っと、他の街の冒険者には一応このタグを身に着けてもらってるんだ。ベルトの横にでもつけておいてくれ。」


 そう門番に言われ、小さな木彫りのキーホルダーのようなものを渡される。

 これがこの街に正規のルートで入ったという証になるのかな。


「ルーキーなので聞いてないかもわからないが、それを身に着けていれば自警団に声をかけられることもないだろう。それをつけていないと色々と聞かれるからな。要はきちんとした審査をして、街に入ったという証だ。」


 なるほどやはりそうか。

 俺はすぐに自分のマーカーの横に身に着ける。


「うんうん。それでいい。見やすい場所だしな。」


「すみません。これって他の街でもやってるんですか?」


「あぁ。そこそこ大きい街だと絶対やっているな。小さな村等では恐らくやっていないが・・・で、だ。帰る際はまた、そのタグを門番に渡してもらえればOKだ。」


「ご丁寧にありがとうございます。」


「おう!この辺りは狂暴な魔物はいねぇが十分に注意するようにな。まぁ、マルスーナの森を通ってきたんだからドリルボアやビッグフロッグなんかと戦っているだろうし、大丈夫だとは思うが。それにスイト君のテイムしている魔物も強そうだしな。」


「ピッ!」「ビッ!」


 後ろでハルとロゼリールが自信ありげに鳴く。


「ははは!その調子なら大丈夫そうだな!よし!ゆっくりマルスーナの街を楽しんでくれ!」


 門番さんはにっこり笑ってそう言ってくれる。人の良さそうな門番さんだ。


「ありがとうございます!あ!牧場のミリーさんと待ち合わせしてるんですが、牧場はどこにありますか?」


「おぉ。ミリーちゃんの知り合いかい?ミリーの家ならここを過ぎて1本目の十字路を右にまっすぐ行くと牧場が見えてくる。色々な牧場があるが右手に最初に見える牧場がミリーのところだ。」


 1本目を右に曲がってまっすぐ行って、右手に最初に見える牧場・・・だな。よし。じゃあ行くとするか。


「門番さん。色々とありがとうございました。」


「なーに。ルーキーや初級冒険者を助けるのも俺達の仕事さ。ま、ゆっくりしていってくれよ!」


 門番さんは白い歯を見せにかっと笑う。

 良いお兄さんだ。

 俺はお辞儀をし、街の中に入る。

 街に入るとここが大通りなのだろうか?舗装はされていないが土で固められたような大きな道が一本に伸びている。

 さぁ、ミリーの家は最初の十字路を右だったな。

 まずはミリーの牧場へ向かうとするか。

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