第50話 エマリール様。エマ様。女王…
第50話掲載させて頂きました。
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「種族の長にも色々悩みはあるのです…エマリール様。エマ様。女王…対等に話してくれる方などおりませんから。」
あぁ。確かにそう考えると気が休まる時間というのもないのだろうなぁ…
「じゃあ俺は気軽にエマ。と呼ばせてもらおうかな。」
そう切り出したのはグランさんだ。
グランさん切り替え早いなぁ。さっきまで敬語使って"殿"とかつけていたのに…
「あらあら。じゃあ私はエマちゃんかしらねぇ。」
グランさんに続いてアイナさんがニコニコしながらエマ…にそう言う。
アイナさんもすっかり気を許している。というか、雰囲気がいつもの感じになっている。
「あぁ!なんか新鮮ですわね…でもなんだか嬉しいですわ。グランさん。アイナさん。よろしくお願いします。」
エマは声を上げ喜んでいる。
俺も前世では1人で大丈夫、やっていけると思ってはいたが、この世界で人々の温かさに触れ、前の世界に戻るのはまっぴらごめんだ。
つまりは…1人ぼっちは辛いという事。話し相手や、良くしてくれる相手がいると言うのは素晴らしいものだと実感した。
エマも1人ではないが、心から話せる友人はいなかったのだろう。非常に寂しい思いをしていたに違いない。
「うーん…あたしはエマさん…でもいいかなぁ?」
リナさんがエマにそう問いかける。やっぱり雰囲気的に年上な気もするし…リナさんも多少は気を遣っているのだろうか?
「構いませんわ!あぁ…こうして友人が4人も…なんて素晴らしい日なのでしょうか…」
エマは心の底から嬉しそうな表情をしている。それは声にも出ているが…
俺は…どうしようか?リナさんがエマ"さん"なら俺も"さん"のほうが良いだろうか?
「じゃあ俺もエマさんと呼ばせて頂きますね。エマさんよろしくお願いします。」
俺はエマに向かって一礼をする。このパーティで一番年下は俺だしなぁ。いくら友人になったとはいえ、礼儀はわきまえないと。一応エマには子供がいるわけだし、年上の可能性は高い。
「えぇ!えぇ!リナさんもスイトさんも今後ともよろしくお願いいたしますわ!そうですわ。皆様にあれを…誰か?誰かいませんこと?」
エマが広間の出入口に向かい、誰か…を呼ぶ。すると数秒で兵士であろうソルジャービーが飛んできた。
「この方達は本日から私の友人。あれを。」
エマがソルジャービーに言うと、ソルジャービーはまた飛んでいく。
兵士はすぐに戻ってきてエマに何かを渡す。
「ありがとう。下がって良いわよ。皆様にはお近づきの印にこれを。」
エマはそう言い俺達に蜜蜂が描かれた淡い黄色のメダルのような物を渡してくれた。
素材は分からないが金属でないことは確かだ。しかしその割に丈夫である。
「これは代々伝わる友好の印ですわ。ネックレスのようにしても良いですし、ブレスレットのようにしても良いでしょう。」
なるほど。よく見ると紐を通す箇所がある。
エマが言ったように身に着けるのもありだが、お守りのようにどこかにつけておいても良さそうだ。
「これを身に着けていれば蜜蜂族には襲われる事はないですし、何か我々蜜蜂族の力が必要であればそれを見せた蜜蜂族が力になってくれるでしょう。あとは、我々と敵対するような魔族には効きませんが…虫系の魔族であれば懇意にしている魔族もおりますから、交渉の際にも使えるかと。ただ1つお願いがあります。」
蜜蜂族の長、エマとの交友関係があるという証だからか。
野外にいる蜜蜂族が敵対するどころか、味方になってくれるのであれば利しかないな。
「蜜蜂族を襲わないで欲しいという事。これは絶対に守って頂きたいのです。」
確かに、エマとの交友関係があるのに蜜蜂族を我々が襲うというのは言語道断。交友関係を絶たれても仕方がないし、そんな事をするのは人としてどうなんだろうか…
エマは制約のように言ったが、俺達にとってみればそれは制約にはならないな。
「分かった。…まぁ俺もアイナも蜜蜂族を襲ったことは未だかつてないが…もし襲われそうになったらこれを見せるようにしよう。もちろんリナもスイトも良いよな?」
「もちろん。今日から友人なんだもの。逆に怪しい冒険者がソルジャービーのあとをつけてたり、戦ってたりしたら加勢するわ。」
「えぇ。そんなことをしたらエマさんが悲しむどころか非難の的になり得るかと思いますし…もちろん守りますよ。」
俺もリナさんもグランさんの問いかけにすぐ返事をする。
その言葉を聞きエマはにっこりと笑う。不安要素も見当たらなくなり安堵しているのもあるだろう。
「ふふ。皆様ありがとうございます。あとはこの娘を今後どうするかですわね…」
エマは今度は困った表情をする。
確かに、お付きのソルジャービーが全滅してしまったこのクイーンビーをまた巣立てさせなければいけない。
「実はこの娘は実は私の跡継ぎの最有力候補なのです。戦闘力の面はもちろん、下の者にも好かれておりまして…他のクイーンビーとは一線を画す存在なのです。」
そんなに身分の高いクイーンビーだったのか…要するに第一王女?みたいなもんだよなぁ…?
どうりで1匹のクイーンビーを助けただけなのにこんな手厚い対応をされるわけだ。
「ビビッ!」
ん?隣にいるクイーンビーが何かエマに話している。表情は真剣な表情だ。
「ふむ…なるほど…スイトさんにお話があるのですが…」
なんだろう。確かにこいつには好かれてるような行動があったが…
「この娘をテイムして頂けませんか?どうやらこの娘はスイトさんについて行きたいようで…」
なんと…蜜蜂族の長の跡継ぎ候補をテイムしろと…
本来なら受けたいところだが、凄い重荷になりそうだな…
「エマ様には申し訳ございませんが…俺は、駆け出しのテイマーでテイムしているのもこのスライム…ハルしかいません。駆け出し故に跡取りであるこの子に少なくない危険が及ぶ事を考えても…」
俺は思っていることをエマに言う。
そう。俺は駆け出しのテイマーで俺のせいでこいつが死に至る事が起こり得るかもしれない。
蜜蜂族の長、エマに頼まれたとはいえ、危険な目に晒してしまっては…
もちろんこいつにも申し訳ないし、エマにも合わす顔がなくなる。
「ビビビッ」
俺の言葉に隣にいるクイーンビーが真剣な眼差しでエマに何かを言う。
「この娘はそれでも構わない。と言っています。一度死んだところをスイトさんに助けて貰った。今生きているのもスイトさんのおかげ。と。」
そこまで言ってくれて、思ってくれているのか。心底こいつを助けることができて良かったと思う。
ただやはり…今後何かあっては…というのが付きまとう。それが払拭できれば喜んで迎え入れてあげたいところなんだが…
「それに私も他種族の方に付いて行くのは賛成ではあるのです。もちろんそれに危険が伴うのも承知した上でですが…私は一生をこの巣で過ごしてきました。そして先代も先々代も例外はなく。この娘は元々お転婆で巣から出ては…というのはお話しましたが、私はそれを良しとしていました。外に出て…巣から出て、世界を見て見聞を広げるというのは私達蜜蜂族にとっても有益なのではないかと。」
なるほどな…エマの言い方だと女王蜂が巣から出るのは恐らく巣作りの時だけなのだろう。
俺と生活や冒険をすることで世界を見て、それを次世代に活かせるのならば種族の繁栄にも繋がるのでは。ということか。もちろん危険は承知の上で、だ。
「そしてこの娘はスイトさんに付いて行きたがってます。私もそれには賛成です。危険が伴うのは承知ですし、この娘も分かっていることでしょう。もし最悪の事になっても…私とスイトさんの友好に亀裂が入る。という事もありませんわ。」
うーん…エマも賛成だし、こいつも俺と一緒について行きたい。あとは俺次第って事か…
俺はエマの話を聞いてさらに思案する。少し考えさせて欲しい。というとエマはニコりと笑って頷いた。
隣のこいつは不安そうで落ち着きがない様子だ。
「スイト。あたしは良いと思うわよ?思うけれど…スイト次第ね。多分スイトの事だから…この娘の事を第一に考えているのでしょう。それならあたしもいるし、スイトも強くなる。それで心配は薄れて自身に繋がっていくんじゃないかしら?あたしはスイトの為にもいい機会だと思うわ。それに…家は心配しなくても大丈夫よ?」
リナさんはゆっくりと、俺を諭すように言ってくれる。
うーん…不安そうな顔をしてたのかな?まぁリナさんの言う通り俺は俺自身の未熟さでこいつに危険が降りかかってしまうのを危惧している。がエマもこいつも…それにリナさんも大丈夫だと言ってくれる。その心配さえ取っ払ってしまえば返事はひとつだ。
「エマ様…分かりました。この子を俺に預からせてください。でも俺の未熟さでこの子に何かあった時は…」
「スイトさん。大丈夫ですわ。そこまで考えていて下さっている貴方なら。それにこの娘もそこまで心配されるような育て方もしてないのですよ?きっとスイトさんのお力になれるでしょう。この娘の事よろしくお願いしますね?」
玉座に座っていたエマは俺の目の前に来て、にっこり笑ってそう言う。
「貴女も。スイトさんの力になって、世界を見てきなさい。迷惑をかけてはダメよ?」
「ビビッ!」
エマは隣にいるこいつに優しく話しかける。
種族の長、とはいえやはり母親だなぁ。
隣にいるこいつは元気に返事をして俺に抱き着いてきた。びっくりしたぁ…
でも今日から仲間であり家族だ。俺も守るものが増えたしもっと精進しなくては。
「今日からよろしくな!頼りないかもしれないけれど、一緒に頑張ろう!えーっと…エマさん、この子の名前は…?」
そういえば名前を聞いていない。エマもエマで"この娘"とずっと言っているものだから、今の今まで分からずじまいだ。
「名前…ですか。蜜蜂族のクイーンビーは世代を変わるときに親が名前をつけるのですが…ちょうどいい機会ですわ。スイトさんが決めてあげてください。」
えぇ…いいのか…そんな風習というかしきたりを軽ーく変えちゃって…




