第43話 まーだ歳のこと言ってんですか…
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俺はティーポットとティーカップを温め直し、もう1杯紅茶を淹れる。
「はい。リナさん。」
「うん。ありがとう。そっかぁー…スイトは7個も上なんだなぁー…」
まだ歳の事をリナさんは気にしている。
そんなのあんまり関係ないとは思うんだけどなぁ…
「まーだ歳のこと言ってんですか…大体俺はこっちでは15歳です。思考は普通の15歳より大人びてるかもしれませんが、それ以外は歴とした15歳です。」
転生して若返ったことに俺が一番驚いているし、そもそも若返るどころか見た目なんて前世の面影は0だ。
それにしてもやっぱり前世より肉体的にも精神的にも健康なのは間違いないんだよな。しっかりとした食事を摂り、適度な運動。そしてやっぱり紅茶を飲んだり、周囲の人のおかげもあってか精神的にも非常に楽だ。
前世に未練があるかといったら特になんもないし。戻りたいかと聞かれたら答えは秒でNOと答えられる。
「いやぁー…そうじゃなくってね。あたしってスイトの事あんま知らなかったんだなぁーって。」
そういう事か…それなら俺だってリナさんの事も全然知らない。年齢だって今分かったくらいだし。
紅茶が好きで、薬屋を営んでることぐらいしか…
「俺だってリナさんの事は知らない事の方が多いですもん。これからお互い色々知っていけばいいじゃないですか。これからも俺はお世話になるつもりだし…」
俺もまだこちらの世界に来て1ヵ月しか経っていない。それにまだ分からないことだって恐らくたくさんあるだろう。
前世と違う文化だってあるだろうし…
「そうね。まだスイトもこっちの世界へ来て1ヵ月だもんなぁ…まだゴトウッド以外の街にも行ったことないしね。…というかあたしの家にずっといてくれるの?」
ん?ずっと?ずっといてもいいならずっといたいけれど…
いずれは1人で暮らすことになるのかな?リナさんに言われるまで気にもしていなかったけど。
「リナさんがダメって言うまであの家にいたいです。例えばリナさんに彼氏ができたりしたら出ていかなきゃいけないですけど…」
「そっかぁー…あたしもスイトと暮らしてて楽しいからいつまででも居ていいわよ。彼氏?ははは!ないない!逆にスイトに恋人出来たらどうするのよ?」
リナさんは明るくそう笑うが…リナさんほどの美人で性格も良いとくれば男に言い寄られることだってあるだろうに。あ、俺が常に傍にいるから誰も言い寄ってこないんだっけ。
虫よけになっているのか、それともリナさんの邪魔をしているのか…
「まぁでも俺とリナさんっていっつも一緒にいるじゃないですか。アイナさん達も言ってたし…一緒にいる限り、リナさんも俺も恋人なんてできないかもですね。」
昼間に言ってたアイナさんの噂。美男美女が毎朝一緒に歩いている。もちろん俺達の事なんだろうが…
別に俺も彼女が欲しいー!絶対欲しいー!っていう訳でもない。むしろこっちの世界に慣れることが先決だ。エロい事は考えても、女性経験皆無の俺にはハードルが…やっぱり高い。
「そうねぇ。確かにね。なら本当に付き合ってみる?」
え…何を言い出すんだこの人は!?にっこりそんなこと言われたら…
顔が熱くなるのが分かる。そりゃ前世では25歳で今より10個も上でしたよ。だけど女性経験はないんだ。女性に関しては思春期から何も成長していない。どどどどう返せば…
「あはは!スイト真っ赤ねー。冗談よ。冗談!さっきの河原のお返し!アイナさんにはやられてばっかだけど…」
ふぅー…なんだ…冗談か…冗談かぁー…本気にしちゃったじゃないすか…
別に河原でもいじった覚えないし。過去の事アイナさんに聞いただけだし。
「そりゃだって…俺前世で女性経験ないんですもん。急にそんなことそんな笑顔で言われたらドキッとしますよ。」
「ごめんって!まぁでもスイトが来てから楽しいってのは本当よ。あたしは楽しいけど…スイトは無理やり召喚しちゃったじゃない?だから…ね。だけど良かった!スイトの本心が分かって楽しんでくれてて!」
「本心ですよ。毎日が本当に楽しいのは。で、リナさんって俺が来る前ってどんな感じだったんですか?」
俺は再度アイナさんに聞こうとしたことをリナさんに聞いてみる。
さっきアイナさん達と話してたリナさんの印象はあくまで他人の目から見て。という事だ。
リナさん本人がどんな風だったのかは分からない。
「もう…気になる?そうねぇ…楽しいことは楽しかったわ。だけど…少し寂しかったかな。」
アイナさんの予想してたことと一緒だ。やっぱり1人暮らしだったし、18歳の女の子だ。寂しい時もあるよなぁ。俺は慣れちゃってたから何も感じてなかったが…
「だって朝1人で起きて、準備して…街に行けば仲の良い人と話すことはあるけれど、店でも1人で…帰ったらまた1人よ?そりゃ寂しくなるわよね。」
さすがアイナさん。ほぼ的中だ。それで俺が来て笑顔が増えてより一層明るくなった。と…グランさんもそう言っていたな。あの2人はやっぱりリナさんを妹のように可愛がってくれているんだな。
「そんな生活を続けているところにスイトが来たのよ。来たというか呼んだんだけれどね。最初はそりゃ不安だったわよ。」
「そうですよね。見ず知らずの男だし…見た目は若くても中身が最悪なことだってありますしね。」
「うーん…ある程度は知っていたわ。ルナリスから聞いていたしね。だけどやっぱり不安よ。仲良くやっていけるかなー。とか、ちゃんとこっちの世界に馴染めるかなー。とか。でも一番はあたしのこと恨んでないかなってのはあったわ。ずっと言ってるけどスイトの意思とは関係なく無理やり召喚したんだもん。」
なるほどなぁ。リナさんもリナさんで俺の事やっぱりちゃんと考えててくれてたんだな。
やっぱり優しくて頼りになる人なのは間違いない。でもやっぱり18歳の女の子だ。悩むこともあれば寂しくなることだってもちろんあるよな。
「でも俺は本当にリナさんに感謝してますからね?こっちの世界も大好きですし。」
「うん!それはもう心配してないわ。逆にスイトは前世でどうだったのよ?ルナリスからは聞いているけれど…」
あぁー…前世の話か。まぁ、リナさんになら話しても大丈夫か。むしろリナさんかルナリスにしか今は話せないもんな。
俺は前世は家族もいなく、両親は鬼籍で1人暮らしを続けていたこと。仕事が重労働だったこと。上司や先輩にいびられていたこと。趣味はおろか休日なんて全くなかったこと。そして女性との会話や経験が皆無だったことを包み隠さずリナさんに話した。
「そう…ルナリスからある程度は聞いていたけれど…スイトも大変だったのね。」
自分で話していたが今では考えられないような生活だ。前世の事を包み隠さずリナさんに話した。これでお互いの距離も縮まるだろうし、さっき話したこっちの生活の方が断然良いという話もより信じてもらえるだろう。
「という訳で俺はこっちの生活の方が本当に満足しているんですよ。それに生活の基盤を作ってくれたリナさんには感謝してもし尽せません。」
「スイトを無理やり召喚して後ろめたかったけれど…今の話を聞いたら本当にこっちの世界に召喚できて良かったなぁ。って思うわ。でも、性格的に合わなかったらここまで面倒見る事もなかったけれどね。」
リナさんと合わなかったらある程度この世界の事を教えて気楽に生活してください。って感じになってたのかな…そう考えるとゾッとするな。
「えー。俺がもし嫌な奴だったらすぐ家追い出してたんですか?」
「いや、すぐ追い出すってことはないけど…だってあたしだって女の子よ?一緒に住む人がどんな人でもいいって訳じゃないし…その…」
「その?」
「な…なんか嫌らしい目とかで見られたりさぁ…そういう風になるのは嫌なの!いきなり見ず知らずの男性と一緒に住むんだもん。ある程度はこっちの都合で転生させてしまうんだから気は遣うけど、そういう風になったら毎日が嫌だなーって…あとは性格が物凄く悪かったり、それ以上に気を遣ってしまうようなら一緒には暮らせないわよ…」
なるほど。性的な目で見られたり、そういうスキンシップがあったら嫌だったってことか。あとは転生させてリナさんに負い目があるとはいえ横柄な態度に出たりとか、会話が出来ずに引きこもってたりとか…ってことか。
「まぁ性格はそのまま転生するからね。その辺も踏まえルナリスが大丈夫と思ったからスイトはああたしの家で匿うことにはなったのだけどね。」
あー…元々ルナリスが前世で俺をある程度見ていたって言ってたな。
性格に難があればリナさんが面倒を見る事のない方法でこっちの世界に転生。っていう流れだったのかもしれないのか。
「ってことは俺はこの性格で良かったってことかぁ…」
「ん?どゆこと?」
「だってルナリス様のお眼鏡にかなわなかったらリナさんと一緒に過ごせてないんでしょう?」
「ま…まぁそうだけど…スイトはあたしと一緒に暮らしてて何も不満はないの?」
「不満なんて一切ないですよ。この世界の事を一から教えてくれて、なおかつ面倒まで見てもらえて…リナさんと一緒にこうやってお茶を飲むのだって俺の好きな日常の一つです。」
「そ…そっか…なら良かったわ。あたしもスイトの事が知れたしね。これからもよろしくね?スイト。」
「こちらこそこれからもよろしくお願いします。リナさん。俺にできる事があったらなんでも頼ってくださいね?ひとりで溜め込まずに…」
「うん!スイトがこの世界を楽しんでくれてるって分かったし、泣いたらすっきりしちゃった!さぁーて…そろそろ寝よっか。先に戻ってるわね。」
「俺もティーポットとティーカップ洗ったらテントに戻りますね。」
リナさんは、はーい!と言ってテントへ戻っていく。
俺はリナさん達が汲んできた水で軽くティーポットとティーカップを洗い、テントへ持って行く。
さーて俺も寝るかなぁー。
テントに入ると皮が敷いてあり、その上に枕と掛け布団の代わりであろう皮が敷いてある。季節的にまだ肌寒くないのでこれで暑くもなく寒くもなく丁度良さそうだ。
ハルは自分のベッドですやすや寝ている。クイーンビーも大人しく寝ている。息があるのを確認できたので一安心だ。
「スイト。今日はお疲れ様。洗い物もありがとうね。」
寝っ転がっているリナさんが俺に小声で話しかけてくる。
「リナさんもお疲れ様です。洗い物くらいさせてください。お世話になってるんですから。」
俺の横になり、小声で話す。
平静を装うが一大イベントのひとつを実行中だ。内心凄くドキドキしている。
「今日はアイナさんに茶化されまくったなぁー…あたしと一緒が嫌な訳じゃないんだよね…?その…スイトは女性経験が少ないからで…」
バクバクしている心臓が一瞬ドキッとする。もうさっきも洗いざらい話したし…。リナさんに対して隠し事はなしだ。
「嫌な訳ないじゃないですか…ただ…本当に女性経験がないんで女性が横に寝てるっていうのが本当に緊張して…」
「ふふ…スイトは可愛いなぁ…あたしは楽しみだったわよ?」
え?それってどういう…まさか…俺も大人の階段を…1段どころか4,5段飛ばしで駆け上がるのか!?
「ほら…あたしずっと1人暮らしだったでしょ?こうやって誰かと話しながら寝るのも久しぶりだったから。」
…あぁ。そういう事か。やっぱりさっきも言っていたけど寂しさってのはどこかにあったんだろうな。
「思えば俺もこうやって誰かと話しながら横になるのって…いつ振りかなぁ。」
取り留めない事を話しながら誰かとこうやって寝るのも悪くない。凄く落ち着く。リナさんも同じ気持ちだと嬉しいな。
「あたしって結構寂しがり屋で甘えたがりかもしれないなぁ…1ヵ月スイトと一緒に暮らしててスイトが来る前より楽しかったもの。ダメだなぁ…ちゃんとスイトに色々教えていくつもりだったのに。弱音吐いちゃって。」
日頃リナさんには色々教わってばっかりだ。それに俺だってリナさんと生活していて楽しいし、色んなものをもらっている。全然リナさんが言うほどダメな訳がない。むしろ、どれだけ感謝していることか…
「リナさんはダメじゃないですよ。俺はリナさんに助けられて、色々なものをもらいっぱなしです。それに完璧な人なんていないでしょ?」
そう。いくらリナさんが一流の冒険者とは言え18歳の女の子だ。弱音だって吐くし色々背負うには若いと俺は思う。
「それに…誤解はしないで欲しいんですけど…俺はさっきリナさんが俺に対して泣いてくれて、弱いところを見せてくれて嬉しかったです。あぁ、少しは俺にも何かできることがあるんだなって。頼ってもらえるところがあったんだなって。」
「うぅー…今思い返しても恥ずかしいなぁ…あんなとこアイナさん達にも見せた事なかったのに…でもなんかスイトならいいかなって。弱いところ見せてもいいかなって思えたのよね。」
それって多少なりとも信頼してもらえてるってことだろうか?これって男冥利に尽きないか?いや女性経験ないから分からんけど。凄く嬉しい。
「なんか分かんないけど、胸がムズムズしてきました…でも俺で良ければもっと頼って甘えて下さい。俺にできることならなんでもしますから。せっかく一緒に住んでるんですし、気を遣わないでくださいね?」
「うー…なんか恥ずかしいなぁ。でもスイトになら大丈夫かなって思えるわ。本当にありがとう。これからもよろしくね?スイト。」
リナさんは寝っ転がりながら薄暗い中リナさんがにっこり俺を見ながら言っているのは分かる。
なんだか俺はその表情に俺は見惚れてしまった。
「なによー…寝ちゃったの?」
「いや…そのちょっとリナさんが可愛くて…ドキドキしちゃいました。」
あかん。緊張しすぎてか思ったことが声に出てしまった。めっちゃ恥ずかしいこと言ってね?いや普通に恥ずかしくなってきた。顔も熱いし心臓もバクバクだ。
「…もう。バカ。でもなんか嬉しいなぁ。気を遣わず本心で話せる相手が出来たって感じ。」
なんか普通に嬉しいなぁ…これからは頼ってばかりじゃなく俺にできる事はしていかないと。俺はこの冒険でリナさんとの距離が縮められたことがなにより嬉しい。素直にそう感じた。
「いきなりだけど…スイトを頼ろうかな?」
「え…?なんですか?」
「手…手繋いでもいい?」
…はい?手を繋ぐってことは手を繋ぐってことですか?あぁ手を繋ぐってことか…
こんな綺麗な女性と?俺が?手を?汚くねぇよな?大丈夫だよな?あぁ…さっき洗い物したから大丈夫なはず…メンタル的には全然大丈夫じゃないですけど。しかしここで断るのも…というか断る理由なんてないし。
「めっちゃ緊張して手汗かくかもしれませんが大丈夫ですか…?」
「あはは。大丈夫よ。本当に女性経験ないんだなぁ。」
そう言いながらリナさんは手を差し出す。あぁ…もう後には引けねぇ…。
俺は前世と併せても最高潮の緊張の中リナさんの手を握る。
ほんのり冷たく、それでいてなんか…柔らかいです…
「スイトぎこちないなぁ。でもなんか安心するわ。こうやって誰かが傍にいて寝るのって…」
俺も未だ緊張はしているが、それでもなにか心地よく、落ち着く。
ってか俺はこんな緊張の中寝れるんか?
「めっちゃ緊張してますよ…でもなんか落ち着きます。手汗…ヤバかったら離してもらって大丈夫ですからね…?」
「大丈夫よ。全然気にしないわ。さぁ寝よっか…おやすみなさい。スイト。」
「おやすみなさい…」
そう言ってリナさんは手を繋いだまま目を瞑る。
俺が全然大丈夫じゃないです。しかしおやすみなさいと言ってしまった手前…寝なきゃ。
会話もなくなり、俺も次第に心が落ち着いてくる。緊張が徐々に薄れ、あるのはリナさんの手を握って…でもだんだん心地よくなってきた。
疲れもあったからか、俺は気づいたら眠りについていた。
この夜でリナさんとの距離が急に縮まったなぁ…




