第36話 めちゃくちゃ美味しいですね。
第36話掲載させて頂きました。
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いやぁー。自分が魔法を使えるとなって転生したというのを改めて実感する。
これで火魔法を極めていけば、前衛を仲間の魔物に任せ、後衛から魔法を放つという戦術もとれるという訳だ。うん。幅が広がるなぁ。
ライフカードを確認すると特技の欄に〔火魔法 Lv.1〕と書いてある。
うん。正真正銘、とりあえず最低限の火魔法を使えることになっている。
これから練習をしてレベルを上げていければ実戦で使えるようになるかな。
「よーし!できたぞー!」
グランさんは夕食の準備が終わり俺達に声をかける。
俺もハルの夕食を準備しなくては。
グランさんの元に向かい、ポケットからハルの食器を2つ取り出し片方にミルク、片方にフードとチゴの実を2つ入れて、ハルを呼ぶ。
ハルはずっとイエルムとリフルとなにやら話しているようだ。
今回は珍しくリフルも参加している。
「ハルー!ご飯だぞー。」
ハルに向かってそう呼びかけると、ハルは俺を見てぴょんぴょん跳ねてくる。
アイナさん達も自分の仲間の魔物の食事を準備し、焚火と鍋の周りに置いてある丸太に腰かける。
鍋はドリルボアのスープ、焚火の周りに串が刺さっており、これはドリルボアとフォレストディアの串焼きだそうだ。
「さてと。じゃあ食うか!」
グランさんの声かけで食事が始まる。4人一斉にいただきます!と声を出し食事を摂る。
俺はまずドリルボアの串焼きに手を付ける。
ドリルボアの肉はしっかり弾力があり、脂が乗っていて美味しい。脂もくどくなく、食べ応えがある。なにより、グランさんの味付けが絶妙でスパイスが効いている。
「うん。ちょうどいい焼き加減だな。塩があればもっと味に幅が出るんだけどなぁ…」
グランさんはそう自分の料理を評価する。
塩があれば…か。ゴトウッドや世界樹の木陰は海に面していないから塩が大変貴重でなかなかに高価だって言ってたな。それでも十分美味しい。
「塩って高価って言ってましたもんね…でもめちゃくちゃ美味しいですよ?このスパイスが癖になります。」
「お!そうか?このスパイスと俺秘伝のタレでドリルボア特有の臭みが消せているんだよ。肉はたくさんあるからな!どんどん食ってくれ!フォレストディアの肉も美味いぞ!」
グランさんに俺はそう伝えるとグランさんは嬉しそうに答えてくれる。
グランさんはパンだけでなく料理も好きなんだろう。スライズのスープもいつも美味しいしなぁ。
俺はドリルボアの串焼きを食べ、今度はフォレストディアの串焼きを戴く。前世で鹿肉を食べたことがないがどんな味なのだろうか?
!!美味い!あっさりとしていて、牛肉の赤身を食べているようだ。しかし、食感は牛肉に比べさらに柔らかくもちもちとしている。脂がほとんどないせいか肉自体は淡白な味だが、グランさんのスパイスのおかげだろう。あっさりとしているがスパイスの風味も相まって非常に上品な味になっている。
「フォレストディアはやっぱり美味しいわねぇ。スイト君はどう?口に合うかしら?」
「めちゃくちゃ美味しいですね。ドリルボアとは全く違う美味しさです。スパイスも調合変えてますよね?」
「おぉ!スイトわかるか!フォレストディアはドリルボアと違って肉が柔らかいし、脂も少ないからな。実はリナに捌いてもらってすぐ、ドリルボアのタレとは違うタレに漬けたんだ。ドリルボアはスパイスをガッツリ使って少しスパイシーに。フォレストディアは臭みがないから肉本来の味を引き出せるような香草を使ったスパイスを使ってるんだ。」
やっぱりグランさんはこだわりがあるんだろう。それでもやっぱり塩があれば…と言っている。
確かに塩があれば肉の旨味をもっと出せるのだろうが、グランさんの串焼きはただ焼いているだけでなく塩とという調味料がない中でベストな味付けになっている。
焚火の周りに刺している串だってドリルボアは焚火の近く。フォレストディアはその外回りに。
肉によって火加減もあるのだろう。それが絶妙な焼き加減で非常に美味しい。
そしてタレもドリルボアとフォレストディアの肉本来の美味さを引き出す調合をしているのだろう。同じ串焼きでも全く違う美味しさだ。
ふとハルを見るとハルもガツガツフードを食べている。ハルは肉とか食べないのかな?欲しがったら与えてみよう。
続いてドリルボアのスープだ。スライズでも戴いたが、今回はまた屋外という事もあり、また違った美味しさを感じる。あー温かいなぁ…体にしみる。
「そういえば、水汲みに行ってた時アイナさんと何話してたの?」
さっきまで黙々とスープ飲んで、串をガッツリ食べていたリナさんが俺に問う。
リナさんの器って俺のより一回り、二回りくらい大きいんだけどなぁ…もう空じゃん。
「スライムの事とか、テイマーとしての在り方とか…ですかね。」
リナさんはそっかぁーといい、またドリルボアの串に手を付ける。胃袋異次元なのかな?
「そうねぇ。同じスライムをパートナーとして持つ者として…色々私の考えを話してたのよねぇ。ねぇ?スイト君」
「はい。スライムは魔物の中でも弱いので育てているテイマーってあんまりいないって。でもイエルムやリフルを見てるとそうじゃないんだろうなって率直に思いました。」
「ピッ!」
ハルが私は!?と言っているような鳴き声をする。っていうかもうフード無くなってんじゃん…うちの女性陣の胃袋どうなってんだ。
「もちろんハルもだよ。俺と一緒に強くなろうなー?」
「ピッ!」
ハルは元気に鳴くと俺の膝の上にぴょんっと乗る。
「確かにね。スライム系の魔物は弱いという風潮は確かにあるわ。だけれどまだまだ解明されてないもの。スライムによっては他の種族より圧倒できるスライムもいるかもしれないわね。」
「そうだなぁ。イエルムやリフルを間近で見ているとスライムは弱い。なんて定説が嘘に思うときもあるからな。まぁゴトウッドの周辺の野生の個体はそれに当てはまるが…」
そうなんだよな。グランさんの言う通りイエルムやリフルを見ているとスライム=弱い種族なんて思えない。しっかりと育ててあげればちゃんと強くなる。これはアイナさんが言っていたがそうなんだろう。それは他の魔物にも言えるかもしれないが…まだあまりにも分からない事がある個体なのだろう。現にグランさんやリナさん。それにアイナさんにだってスライムについて分からない事があるんだろう。
「そうよねぇ。ハルちゃんだって光魔法を使えるようになったけれど…元々適性があったのか分からないけれど飲み込みが早かったものねぇ。」
「ピィ!」
「あらあら。イエルムの教えも良かったのかも知れないわね?」
アイナさんはにっこり笑ってイエルムに微笑む。
イエルムも良い師匠をしてくれているのだろう。ありがたい事だ。
ハルもハルで人懐っこい性格だ。イエルムとハルの中で師弟関係ができて、良好な関係が築けているのなら、俺はもちろんアイナさんも嬉しいんだろう。
「そうよね。ハルちゃんみたいに光魔法を習得する子だっているものね。大まかに種族によっての得意不得意。その中で個体によって得意不得意もあるんだろうなぁ。性格とかも違ってくるし。」
「リナの言う通りだな。グライアの種族、サイレントウルフは魔法は使えないが、物理的な攻撃、素早さに特化している個体ばかりなのが常識だ。だけど、もしかしたら魔法を使える個体もいるかもしれないもんな。」
「ハルも…ゴッデスティアに至っては本などを読んでも詳しい事は書かれていなかったですし、まだまだ分からない事ばかりです…」
「あらあら。それはそれで楽しみの一つよ。ハルちゃんがどのように成長するのか。私も楽しみだもの。」
そうだな。もしかしたらゴッデスティア自体が光の魔法が得意なのかもしれない。ただ、野生の個体はきっかけがないだけで。
ハルの場合はイエルムという師匠がいて光の矢を習得できた。だけど、もしイエルムが火魔法や水魔法が得意だったら、光魔法以外の呪文を覚えていたかもしれないし、苦手なら覚えていないかもしれない。
「ほんとにハルがどういう風に成長するのか俺も凄い楽しみです。俺もハルに負けないように努力しないと…」
「まぁ、まだ分からない事が多い魔物もいるしな。それに見た事無いだけで新種の魔物だっているかもしれない。もしかしたらグライアの事だって俺がまだ知らない進化をするかもしれないもんな。グライアが魔法を使えたりとか。」
「くーん…」
グライアはいやいや。俺にそれは無理っす。と言いたげな表情でグランさんを見上げる。
「ははは!グライアが魔法を使えなくても十分頼りになってるから落ち込むなよ?グライアがいなければフォレストディアの串焼きなんて食べられないんだし!いつもありがとうな?」
グランさんはにっこり笑ってグライアを撫でる。グライアは気持ちよさそうだ。
グランさんもアイナさんも仲間の魔物を本当に信頼し、大事にしているのが分かる。
最初に出会えたテイマーがこの2人で良かった。しかし、2人は他のテイマーはそうでもない奴がいるという。まだ他のテイマーに出会ってはいないが、この2人を見ているとなまじそんな奴おらんのじゃないかと思ってしまう。
「そうねぇ。私もイエルムやリフルがこれからまだまだ強くなるんじゃないかって思うとそれが楽しみだもの。もしかしたら私達が思ってる以上に進化するかもしれないものね。他の魔物についても知らない事があるもの。分からない事が分かるようになっていく。自分の仲間が成長していく。これを感じられるのがテイマーの楽しみでもあり、魅力よねぇ。」
アイナさんの言う通りだな。俺もハルの成長が楽しみだしどう成長するか分からないけれど今後は非常に楽しみだ。それにまだ見てない魔物だってたくさんいる。もしかしたら俺やアイナさん達が知らないだけで、今まで出会った魔物も実はこうだったとか育ててみたらああだった。等、解明されていない事だってあるかもしれない。
それが肌で感じられるのは魔物と一緒に戦っていくテイマーであり、その中でも限られたテイマーだけが知り得るのじゃないか。と俺は思う。
アイナさん達は仲間の魔物とちゃんと向き合って、お互いを信頼し合っている。もちろん俺もそうだ。
そういうテイマーだけがまだ解明されていない事を知り得る権利があるのだろう。




