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第29話 あらあら!凄いじゃないの!

第29話掲載させて頂きました。


当初の予定を変更して、毎週月水金の18時に掲載を予定しております。


ブックマークも10件を超え、評価をつけて頂けた方もいるようです。本当にありがとうございます。

レビューや評価、感想などを頂けると今後の創作意欲に繋がるかと思います。

またご指摘や、こうした方がいい等、助言も頂ければなと思います。

 5分ほど南門の前で待っていると遠くから2人の男女と犬のような動物…の背にスライムが2匹。

 あぁ、アイナさん達だ。


「あらあら。もう着いていたのねぇ。2人ともおはよう!」


「アイナさんグランさん。おはようございます。2日間よろしくお願いします。」


 俺は2人に向かい礼をする。


「おう!リナもスイトもおはよう!なに、気にすんなよ。今日が冒険デビューだろう?楽しまなきゃ損だぜ。まぁ、最初は分からない事だらけだし、上手くいかないだろうが…誰しも通る道だ。」


 グランさんは俺に向かいにこやかな表情で言う。


「そうよぉ。学ぶのも大事だけど、楽しまないと。肩の力を抜いて?ね?」


「ワン!」


「はい!色々勉強させてもらいます!グライアもよろしくな!…って首になんか巻いてますけど…」


「あぁ。これはテイムしている魔物ってのを他の冒険者に知らせるものだ。間違って敵対されるのを防ぐためにな。グライアの場合このバンダナがお気に入りだが、イエルムとリフルは帽子を被ってるだろ?」


 なるほど。グライアは青のバンダナを。イエルムとリフルは赤の帽子をお揃いで被っている。


「冒険者がどの子をテイムしているのかってのを色とか模様を統一して他の冒険者に知らせるのよ。色とか模様は好きなもので構わないし、帽子じゃなくても装備可能なものであればなんでもいいわ。」


 リナさんがそう説明してくれる。

 そういうことか。グライアは青のバンダナで、イエルムとリフルは赤で模様も一緒のお揃いの帽子を被っているのか。


「俺…ハルに装備するもの持ってないですが…」


「そうなのよねぇ。教えるの忘れてたから…とりあえず、店にあった帽子を持ってきたからハルちゃんにはこれを被せてあげて?」


「ごめんねスイト…あたしもすっかり忘れていたわ…帰ってきたらルーリアの店に行きましょ。ルーリアならオーダーで作ってくれるわ。それにあの子が作る魔道具や装飾品は良い物ばかりだしね。」


 帰ってきたらハル専用の帽子か何か装備品を作ってもらおう。

 確かにルーリアさんの店で購入したベルトとポケット一式は非常に使いやすいし、身体の負担にならない。他の店の商品がどういうものかは分からないが俺にとって使い心地は最高だ。

 

 そして俺は、アイナさんからピンクの帽子を借り、ハルに被せる。

 サイズ的にはぴったりだ。あとはハルが気に入るかどうかだが…


「ピッ!」


 おぉ頭の上からいい返事が返ってきた。どうやらサイズもぴったりなようだ。


「あらあら。気に入ってくれてなによりだわ。じゃあ早速行きましょうか。」


「さてどうやって歩くかだが…とりあえず、グライアとイエルムが一番前を歩いて、その後ろにリフルとハル。その後ろに俺達4人という風に歩いてみるか。」


「分かりました。ハル。ハルはリフルと一緒に歩くんだぞー。」


「ピッ!」


 ハルは返事をすると頭から降り、グライアとイエルム、リフルの3匹に挨拶をする。

 そしてグライアとイエルムが歩き出し、それに続いてリフルが歩き出したのを見てハルがリフルの横を歩く。

 その後ろに俺を含めた4人が続いて歩いて行く。


「まず最初の目的地は道なりに進んで、川を下っていくと途中に拓けた場所に出る。…地図で言うとこの辺りだな。そこを目指そう。」


 グランさんは地図を俺とリナさんに見せ、目的地の場所に指をさす。ここから歩いて約2時間。といったところだろう。

 グライアは何度もこの道を通っているようで、淡々と歩いている。

 アイナさんもグランさんも特にグライアにもイエルムにも指示を出してないから、2匹とも分かっているのだろう。

 俺達4人も色々会話をしているが、前の4匹も楽しそうに話している。

 仲良くしてもらえてるようで何よりだ。


「スイト君。あれからハルちゃんはどうなのぉ?強くなったかしら?」


「そうですね…バイトラビットしか倒してませんけど、最初は5回から7回くらいスライムブローで倒してましたけど、最近では1回、2回スライムブローを仕掛けて倒すようになってきましたね。」


「あらあら!凄いじゃないの!ハルちゃんも強くなってきたわねぇ。」


「そうなのよ。バイトラビットへの衝撃音も変わってきたし…なにより賢いのかしらね?的確に急所を狙えるようになってきた様に見えるわ。」


 アイナさんとリナさんはハルを褒めてくれている。

 仲間の魔物が褒められて俺も嬉しい。俺もハルに負けないように頑張っているつもりだが…

 しかし出会いはバイトラビットにやられてボロボロになってたところから今では一撃で倒してしまうんなぁ…ハルの成長は凄いものがある。


「テイムして1週間とちょっと、2週間ないくらいだよな。ハルは賢いし負けん気も強いから、ガンガン成長していくだろうな。ただ、その負けん気が裏目に出たり空回りしてしまうこともある。それをコントロールするのはスイト。お前の役目だからな。」


 確かにそうだ。今はバイトラビットだけだからなんとかなっているが、今後どのような魔物と対峙するのか分からない。

 ハルが熱くなって、空回りしてしまったら俺が指示を出しコントロールしていかなければならない。

 相性が悪い場合は俺が前に出るという選択もある訳だ。その辺りの立ち回り方も今回の冒険で勉強できると良いなぁ。


「まぁ賢いってのは武器だけどな。失敗してもどのように対処できるのか、弱点がどこなのかを見極める能力があればたとえ格下でも格上に勝つことができるからな。」


「そうねぇ。まぁまだこの辺りは草むらからバイトラビットしか出てこないけど、少し歩けば他の色々な魔物も出てくるわよ。イエルムとグライアが攻撃に回って、リフルはサポート。ハルちゃんはそれを見て勉強できればいいわねぇ。」


 旅慣れている3匹の連携や各々の役割等、ハルが見て勉強できれば…か。

 アイナさんもハルが賢いのは知っている。ハルなら3匹がどういう風に戦って、自分にできる事はなにか。自分だったらなにができるかを学べると踏んでいるのだろう。


「スイトは、グライア達が戦っている間にアイナさんとグランさんの立ち回りを勉強するといいわ。」


「そうだな。一旦見て勉強。敵の習性が掴めたら、ハルと実戦という流れで行こう。」


 一旦俺とハルは見て勉強。という事だな。

 実際、人が戦っているところを見るというのも初めてだし、アイナさん達はテイマーだ。

 テイマーとして学ぶ事は山ほどあるだろう。


「分かりました。勉強させてもらいます。あ、一応ですけど…ハルは治癒魔法が使えるみたいです。」


「あらあら。そうなのねぇ。なら万が一グライア達が傷ついたら治癒魔法をかけてもらえるかしら?魔法も使えば使うほど洗練されて威力や、治癒魔法なら回復量が増えるもの。」


 なるほど。魔法も使えば使うほど上達する。という事か。

 それなら積極的に使った方がいいかもしれないな。

 ただアイナさんは万が一と言っていたしここら辺の魔物でグライア達が傷つくことは皆無なんだろうな。

 前にいる4匹を見ていると何やら話しているようだ。

 雰囲気を見る感じイエルムとリフルがハルに何か色々教えているようだ。

 グライアは前を見て黙々と歩いている。


「ハルもアイナさん達の子と上手く行っているみたいで良かったです。」


「そうね。イエルムとリフルも後輩ができて嬉しいんじゃないかしら?」


 ハルもいい関係が築けているようで何よりだ。

 魔物間の仲が悪かったら戦闘においても連携が上手く取れなかったりするんだろうな。


「ピィ!」


 なんてことをのほほんと考えていると、イエルムが気配を察知したのかひと鳴きする。イエルムが乗っているグライアが瞬時に足を止めた。

 イエルムが魔物がいるであろう方向に目を向けると他の3匹もそちらに集中する。俺達4人も構える。

 すると草むらからバイトラビットが姿を現した。


「ま、この辺にいるのはバイトラビットばかりだからな。バイトラビットならハルに任せても大丈夫か?」


「そうですね。ハル!バイトラビットを倒してこい!」


「ピッ!」


 ハルはグライア達の前に出て、目の前のバイトラビットと対峙する。

 グライアとリフルはハルから距離を取り、何かあった時に備え、いつでも戦える姿勢をとっている。

 バイトラビットはハルに視線を合わし、勢いよく突進してくるがそれをハルは慣れたように躱す。

 そして、バイトラビットの横に位置を取り、腹を目掛けてスライムブローを仕掛ける。


 ドスッ!と鈍い音がし、バイトラビットは動かなくなった。

 ハルはバイトラビットに近づき、動かないのを確認する。


「ピッ!」


 ハルはこちらを向きひと鳴きする。

 よし。どうやらしっかり仕留めたようだ。


「あらあら。もうバイトラビットを一撃で仕留められるようになったのねぇ。」


「基本はバイトラビットから仕掛けさせ、急所が見える位置に避ける。そして急所に向かってカウンターのスライムブローか。やっぱりハルは賢いな。」


「よーし。一撃で仕留めたな。偉いぞ。ハル!」


「ピッ!ピッ!」


 俺はハルに近づきハルを撫でる。もうバイトラビットには楽勝だろう。

 俺は倒されたバイトラビットを捌き、皮と肉に分ける。

 いつも通り、肉はリナさんの冷蔵ポケットに。皮は俺のポケットに入れる。


「バイトラビットを一撃で仕留められるスライムブローなら、ハルちゃんもこの先の魔物にも苦戦することはなさそうねぇ。」


「そうですね。バイトラビットとの対戦はいつもこのパターンですが…今後は出てきた魔物の攻撃パターンを読んで臨機応変に戦えるんじゃないかと思います。…過信し過ぎかも分かりませんが…」


「冗談抜きにあのスライムブローならこの先の敵にノーダメージと言うことはないだろう。グライア達の戦いを見て、ハルも学習できるはずだから大丈夫だろう。」


「そうね…ってイエルムがハルに何か話しているわね。イエルムはハルの師匠だもんねぇ。」


 ふとハル達を見ると、イエルムがグライアから降り何か動きながらハルに教えている。

 ハルも時折頷きイエルムから何かを学んでいるようだった。

 そうか。ハルにスライムブローを教えたのはイエルムだもんな。ハルもハルでイエルムの言っていることを素直に聞いているし、良い師弟関係が築けるといいな。


「俺の師匠はアイナさん達3人ですね。」


 俺は笑いながらアイナさん達に言う。


「あらあら。嬉しいわねぇ。スイト君はハルちゃんにも優しいし、いいテイマーになれるわよ。既にハルちゃんといい関係が築けているもの。」


「スイトとハルを見ていると良い関係を築けているもんな。指示を的確に出すってのもテイマーの大事な事だが、一番大事なのは仲間の魔物との関係性だからな。それができているテイマーってのはみんな良いテイマーなことが多い。スイトはテイマーに向いているのかもな。」


「え!?あたしも師匠!?あたしテイマーでもないし…でもなんかいいわね。スイトなら大丈夫よ。毎日見ているもの。いいテイマーにも冒険者にもなれるわ。」


 なんか3人からべた褒めされたら照れるなぁ…えへへ。

 というかリナさんは師匠というか恩人というか…リナさん無しではこの冒険もできていない訳だしな。感謝してもしきれない。

 アイナさんもグランさんにも凄く良くしてもらっているし、この2人にも感謝しなきゃいけない。


「よし。内臓は処理したし、目的地に向かうとしよう。そこに着いたら一旦休憩にしようか。」


 グランさんがそう言うとグライアはイエルムを乗せ、再び歩き出す。

 ハルとリフルは何やら喋りながら歩いている。グライアのイエルムもハル達の方を向きグライアの上から喋っている。

 ハルもこうやって師匠に色々教わりながら強くなっていくんだろうなぁ…


 そして道なりに歩いて行くと、道中2体のバイトラビットが現れたが同じようにハルが倒した。

 そして数時間歩くと、拓けた場所に出た。

 各所に椅子やテーブル等も置いてあり、給水や簡単な食事もとれそうだ。

 数人の冒険者もおり、ここが休憩地なのだろう。


「よーし!とりあえずここで昼にしよう。」


 グランさんはそう言い、椅子に腰かける。

 俺達も座り、休憩をとることにした。

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