第28話 今日がスイトの冒険デビュー!
第28話掲載させて頂きました。
ようやく仕事が落ち着いてまいりました。
今後無理なく進めたいため、毎週月水金の週3日ペースで投稿していこうかな…と思っております。
よろしくお願いします。
レビューや感想、ご指摘など頂けたらありがたく思います。
数日経った最初の休日。今日はアイナさん達と1泊の冒険の日だ。
今は朝6時頃…かな。
ちなみに、こちらの世界での時間は前世と変わりがなかった。
1年は12か月で回るし、1日は24時間のサイクルで回る。
ただ前世と違うところはというと、1週が6日で5週ある。
そしてリナさんの店は週の終わり2日が休みだ。前世で言うところの土日が休みである。…週6日しかないけどね。
前世では週休2日もあり得ない事だが、こちらの世界では4日働いたら2日は休みだ。
世界そのものがホワイト企業かよ…
ちなみにスライズは奇数の週は週の終わり1日が休みで、偶数の週は週の終わり2日が休みだ。
今日は4月23日の前世で言う土曜日だ。…週6日しかないけど。
しかし、休みとはいえ、俺とリナさんは薬草や薬になる実などを調達しに行くし、アイナさん達は食材となる木の実や魔物を狩りに行く。
今日は俺の冒険のデビュー兼練習兼アイナさん達、スライズの食材調達の日だ。
しかし6時か…7時には家を出たいなぁ…8時集合だし。
俺は起きて身だしなみを整えリビングへ向かう。
昨日煮込んだスープを温めておく。そして、ティーポットとティーカップを温めておき、パンをテーブルに並べる。
あとは、ハルのフードとミルクだな。
あ、1泊するからハルのフードもある程度持って行かなきゃ。
スープから湯気が立ったタイミングでリナさんの部屋をノックする。
「リナさーん。朝ですよー!」
…
返事がない。しかし女性の部屋に勝手に入るのは賢者の俺には未だに難易度が高い。
俺は自室に戻り、ハルを起こす。
「ハルー。朝だぞー。今日は冒険だぞー。」
「ピィー…」
ハルはどうやら起きたようだ。眠そうだが。
ハルを抱えリビングへ連れていき、先にフードとミルクを与える。
「ピッ!」
お。ちゃんと目が覚めたようだ。じゃあ一旦食事を中断してもらって…
「ハル!GO!」
「ピッ!」
ハルは俺の目を見てぴょんと跳ね、ぴょんぴょんリナさんの部屋へ跳んでいく。
そしてドアノブに向かって跳び、ガチャッとドアを開ける。
いつの間にかドアの開け方を見ていたらしく、気がついたらドアを開けられるようになっていた。
ただし、奥に開く時はすんなり開けられるが、手前に引く時はまだ上手く開けられていない。
そしてリナさんの部屋にハルが侵入して数秒後。
「ピィーッ!ピッピッピッ!」
「ちょ!?ハルちゃん!?あはは!分かったから!起きるからどいて!あははは!」
…ここ3,4日くらい続いている光景だがハルはリナさんに何をしているんだろうか。
そしてまずハルがぴょんぴょんと満足そうに戻ってくる。
俺はハルの頭を撫で、ハルは食事に戻る。
「スイトー…おはよー…」
そして数分後リナさんが部屋から出てくる。
「おはようございます。すぐ紅茶淹れますから、今のうちに顔を洗ってきて下さい。」
「はぁーい…」
リナさんは洗面台に向かい顔を洗いに行く。これがイーガマック家でのお決まりになりつつある朝だ。
俺はキッチンに戻り、紅茶を淹れる。ティーポットとティーカップを持って、リビングに行くと大体寝ぐせ混じりのリナさんが椅子に座っていた。
「紅茶淹れてきましたよ。さぁ食べましょうか。」
「そうねぇー…いただきまーす。ハルちゃん今日も起こしてくれてありがとうねー。」
「ピッ!」
ハルはリナさんにお礼を言われ嬉しそうだ。さて時間は今6時半前…か。朝食を食べて、準備をしたら十分待ち合わせの時間には間に合うな。
「今日はスイトの冒険デビューだもんなぁ。スイトが来てから1ヵ月かぁ…なんだか早いなぁ。」
確かに俺がこちらの世界へ来て約1ヵ月が経つ。色々あったけれど、充実していると思う。
冒険の場所は先日スライズへ行った時に、アイナさん達から聞いている。
目的地とその周辺が乗っている地図はアイナさん達も持っているし、リナさんも持っているので大丈夫だ。
「そうですね。ちょっと緊張してきました…」
「まぁ最初の冒険だものね。緊張しない方がおかしいわ。でも場所的には世界樹の木陰から少々出るけれど、脅威になる魔物はいないわ。」
そう。俺が緊張している要因の大部分は世界樹の木陰外。だという事。
知らない魔物も出るだろうし、冒険も初めてだが、世界樹の木陰の外に出るのも初めてだ。
でもリナさんが脅威になる魔物もいないと言っているし、それはアイナさん達も言っていた。
でも緊張するもんはしてしまう。
「まぁ慣れと言えば慣れになるわね…なんにしても数をこなすことよ!それが自信になり、経験になるんだから。とにかく失敗してもいいから好きなようにやること!失敗を恐れて縮こまったらダメ!それを今回の冒険の課題にしましょう。いい?」
失敗を恐れずに…か。しかし気持ちの上では失敗してしまったら…というのが大きい。
恐らく前世の影響だろう。失敗したら罵倒され、解決策を自分で見つけ、周囲のカバーなんてものは皆無だった。
でもここは前世の会社とは違う。リナさんもアイナさんもグランさんも失敗を恐れるな。と言ってくれる。
今回の冒険で俺が前世の感覚を払拭できれば…それに越したことはない。この感覚は足かせになる。
「分かりました。頑張ってみます。ハルも一緒に頑張ってくれるか?」
「ピッ!」
ハルも元気に返事をしてくれる。ハルもいるんだし、いずれ俺はハルに指示を出すことになっていく。やっぱり俺がしっかりしないと。
「ハルちゃんもいるんだもの。毎日スライムブローの練習してたもんねー?」
「ピッ!ピッ!」
ハルは自信満々だ。
そう。アイナさん達がイーガマック家に来てから、ハルは時間を見つけて木に体当たりをしていた。
出会った頃よりか音も重く、大きくなっている。
「今のハルちゃんでも目的地周辺の敵は脅威ではないでしょう。とにかくスイトは冒険に慣れること!それと自分の作戦に自信を持つこと!」
「はい。分かりました!2日間よろしくお願いします。」
「よし!ごちそうさまでした!ご飯も食べたし、持ち物の確認をして出発しましょう。」
「分かりました。食器片づけたら準備しますね。」
「お願いねー。じゃあ7時半頃にまたリビングに集まりましょう。」
そう言ってリナさんは自室に戻る。
俺も食器を洗い、自室に戻り前日に用意してあったポケット内の道具を確認する。
えーっと…まずは水だ。小川の水はそのまま飲料水としても飲めるとの事だったので、それをそのまま汲んできた。
次にナイフか。これはリナさんのおさがりだ。
薬草類とポーションは…うん。あるな。消費期限ギリギリの青と赤のポーションが3本ずつ。
ちょうど消費期限が明後日ぐらいのものを店から持ってきている。もちろん許可はとっている。
地図とテントはリナさんが持って行くとの事だったのでよし…と。
テント1つってことはリナさんとテントで2人…リナさんの寝顔…あられもない姿…賢者の俺にはハードルが高いぞ。
でも楽しみだな…うへへ。
「ピッ!」
あ!おぉ…ハルもいたな。忘れてた訳じゃないぞ?それにどういうタイミングで鳴くんだ…びっくりした。
あとはハルのフード…と。
ミルクは新鮮な物をアイナさんが持って行くからスイト君は持ってこなくて大丈夫。との事だった。
フードも残り少ないなぁ。週明けに買いに行こうかな。
あとは食器と鍋は…俺が持って行くんだったな。よし。ある。
とは言え鍋はリナさんの物だが。
よし。とりあえずこれくらいか。
ポケットは見た目以上に物が入る。ルーリアさんいわく中に空間魔法がかかっているから見た目よりも入るそうだ。
そしてルーリアさんの店で買ってもらったベルトもポケットも全て火に強くできている。
あと分かったのは、冒険者は最低でも2つはポケットを所持している。
中身を分けているのもあるだろうが、アイテムを多く収納するという点もあるのだろう。
リナさんがゴトウッドの店に行く際にポケットは3つ。
聞いたところによると、道具等を入れる用。摘んだ薬草や魔物の皮を入れる用。あとは氷魔法による冷蔵機能付きのポケットだそうだ。これは倒した魔物の肉を保存するためとのこと。
俺もお金に余裕が出てきたら、冷蔵ポケット買ってもいいかもな。
ちょっと前にハルに小川の水とミルクを一緒に出したらミルクを飲んでいたし、ミルクの方が水よりも好きなんだろう。
よし。とりあえずこれくらいか?チゴの実などおやつになりそうな物は道すがら採集すればいいだろう。
時間的にもちょうどいいな。
俺はルナリスから貰ったペンダントをして、杖を腰に差し、リビングへ向かう。この杖をしまうホルダーも便利だ。
必要時はすぐに取り出せるし、不必要な時は両手が空けられる。
リビングへ行くとすでにリナさんがいた。
「準備できたかしら?じゃあ行きましょうか。」
「集合時間は9時ですが…ちょっと早くないですか?」
「道中バイトラビットが出ることもあるからね。倒したバイトラビットは捌いてギルドに持って行こうかなって。その分を余分に見てるのよ。」
なるほどな。イーガマック家からゴトウッドまで約1時間だ。
残りの約30分でギルドに寄ってバイトラビットの肉と皮を売る…と。
「そういうことですね。分かりました。道中のバイトラビットはハルに任せていいですか?」
「そうしよっか。よし!じゃあ行きましょうか。」
俺達は家を出て、ゴトウッドへ向かう。
今日は天気がいいなぁ…初めての冒険が晴れていて良かった。
ハルを先頭にその後ろに俺とリナさんで歩いて行く。
「ピーッ!」
ハルが鳴き、立ち止まる。そして草むらの方を見るとバイトラビットが現れた。
イーガマック家とゴトウッドの行き帰りで分かったこと。ハルは魔物の気配も読めるようだった。
ハルは最初バイトラビットを倒した時の様に、バイトラビットの体当たりを躱す。
躱したあと、内臓付近。腹の辺りを狙ってスライムブローを仕掛ける。
そこまでは最初から変わらないのだが…
ドスッ!
鈍い音。ハルのスライムブローの音だ。バイトラビットは倒れて動かなくなる。
そう。毎日の練習の成果かハルはバイトラビットを一撃で仕留めるようになった。
音からして全然違うもんな。今では重く鈍い音がする。
「ピッ!」
ハルは倒したバイトラビットに近寄ってこちらを向き直り一言鳴く。
ハルが鳴いたのを確認し、俺はバイトラビットに近寄る。
うん。ちゃんと倒してるな。
俺はナイフを取り出し、バイトラビットを捌く。
俺は俺で毎日の行き帰り、バイトラビットの捌き方をリナさんから教えてもらっていた。
料理スキルも手伝ってか、コツを掴んだようで今では皮も肉も捌けるようになった。
…リナさんほど綺麗に捌けるわけではないし、スピードも負けているが…
リナさんに聞いたら、「うん!これなら正規の値段で買い取ってくれるわ!」と。ギルドのアレイラさんは「これくらいなら合格よ。リナはキレイすぎるのよ…」と言っていた。
「リナさん。お願いします。」
リナさんははーい。と言ってバイトラビットの内臓を燃やす。
俺は火魔法が使えないので捌き終わったら、リナさんに燃やしてもらう。
俺も低級でいいから火の魔法使えればなぁ。
実際はリナさんの威力の20%で使えるのだが、これはあくまでリナさんの力だ。
俺の力で使えるようにならないと意味がない。と言ったらリナさんも納得してくれた。
俺も時間を見て火魔法の練習をしているが…うんともすんとも言わない。
「一日二日で習得できるものでもないわよ?コツは教えたし、あとは練習あるのみよ!」
とリナさんは励ましてくれている。
そして少し歩いていくともう1匹バイトラビットが現れ、それも難なく倒す。
結果としてゴトウッドに着くころには2体分のバイトラビットの皮と肉が手に入った。
「おぉ!リナちゃんにスイト君!おはよう!今日は早いな!…って今日から冒険だっけか?」
西門の門番、ダルカさんが笑顔で挨拶をしてくれる。
「ダルカさんおはよう!そうよ!今日がスイトの冒険デビュー!」
「あー!そうだったな。スイト君も冒険デビューかぁ。頑張れよ!」
「ダルカさんおはようございます!緊張はしますがリナさんが付いてますし…」
「がっはっは!リナちゃんは腕利きの冒険者だからなぁ。何。心配いらねぇよ。先生が優秀だし、スイト君も真面目だし、すぐ腕の立つ冒険者になれるわな!」
だと良いけどなぁ…まぁ何事もやってみてから。だ。
センスがあるかどうかなんてやる前から分かることでもないしな。
「ピッピッ!」
「おぉー。ハルは今日も元気だな!ハルも頑張るんだぞ?」
「ピッ!」
「がっはっは!この調子なら大丈夫そうだ。2人とも気を付けて行ってくるんだよ!」
「はい!ダルカさんありがとうございます!」
俺達はダルカさんに挨拶をし、ギルドへ向かう。
街へ入るとハルは俺の頭の上に乗る。
ハルは俺の頭の上が好きなようで、なんだか落ち着く…らしい。
皮は俺が持っているが、肉はリナさんの冷蔵ポケットに入っている。
ギルドに到着し、俺とリナさんはアレイラさんが受付をしているカウンターに並ぶ。
「あら?おはよう。早いわねぇ。」
「おはよう!そう。今日がスイトの冒険デビューの日だから。9時に南門に集合なの。」
そう言ってリナさんと俺はカウンターにバイトラビットの肉と皮を置く。
「そうだったわね。スライズの2人と…あとリナもいれば最悪なことにはならないわ。スライズの2人も腕利きの冒険者だし。」
「アレイラさんおはようございます。そんな方達と冒険できるなんて俺はついてるかもしれないですね。」
「ふふっ。スイト君も頑張らないとね。3人の戦闘もそうだけれど、冒険者としての冒険の仕方も見て学んで、聞いて学ぶといいわ。バイトラビット2匹分の肉と皮ね…大銅貨2枚と中銅貨3枚ね。大丈夫だと思うけれど、気を付けていってらっしゃい。」
「ピッ!」
「ふふっ。ハルちゃんも頑張ってね?」
「よし!じゃあ行ってきます。」
俺達はアレイラさんと少し話し、ギルドを出て南門へと向かう。
ちょっと早いくらいだが、早すぎることもない。ちょうどいい時間だろう。
南門に着くとまだスライズの2人は来ていないようで、俺達は2人を少し待つ事になった。




