第21話 俺…テイムをまだしてないんですけど…
第21話掲載させて頂きました。
当面の間、1日間隔の18時に掲載を予定しております。
28日から5日まで出張になりましたのでその前後の間、投稿ペースが乱れるかと思いますが、ご了承ください。何か変更点がありましたらこちらでお知らせいたします。
感想、ご指摘など頂けるとありがたく思います。
それではよろしくお願いします。
うーん…このスライムはこれかもしれない。
アイナさんが持ってきてくれた『世界スライム大全』。
大全とは大きく出たなぁと思ったが、スライム好きの気を引く題名ではある。
その本によると、『世界樹の木陰にて、雨上がりに極稀に見かける半透明の白いスライム』と記されている。
まんまこいつですがな…
そして、『恐らく世界樹の葉の上で生活しており、何らかの影響で地上に落ちてきたもの』とも。おっちょこちょいか。
「確かに世界樹の木陰で今日は雨上がりだし、半透明だし…こいつで間違いなさそうだな…」
とグランさんは、イエルムを追いかけているスライムを見ながら言う。
ちなみに筆者も見たことはなく、古い文献に基づいたり、世界樹の木陰にて聞いた話。と書いてあるが、スライムについての本を書いた作者が見たことないのであれば、間違いなく珍しいスライムなのだろう。
そして種族名は"ゴッデスティア"だそうな。女神の涙か。
世界樹には女神が宿っていると言われ、遥か高い位置にある葉から落ちてくると思われているところからこの名前がついたとか。
しかしゴッドではなくゴッデスか。確かに髭面の厳つい神様の涙よりか綺麗な女神の涙のがいいよね。…厳つい男の神様ごめんなさい。
「しかし、得意な特技やスキルみたいなものの記載はないわね。」
確かに。ページの前の方に書かれていたよく見るスライムには何の魔法が得意だとか、こういう習性があるとか、詳しく書かれていた。
まぁ筆者が出会ったこともないし、テイムしていた人も恐らく全くいないのだろう。故に情報がないと。
スライム…ゴッデスティアは疲れたのか、イエルムを追いかけるのをやめている。
「まぁなんにせよ珍しいスライムだってこったな。これでスイトもモンスターテイマーの道を歩み出した訳か!」
グランさんはニコニコしながらバシバシ背中を叩く。力強いです…
しかしテイムしてないし、こいつが俺についてきてくれるかどうかも分からない。それなのにテイマーを名乗っても良いのだろうか…
「俺…テイムをまだしてないんですけど…テイマー名乗っちゃっていいんですかね?それにこいつも俺について来てくれるかどうか分からないし…」
「スイト君は弱気ねぇ…この子スイト君に懐いているでしょう?人懐っこいところもあるし。しかも私達の言葉に反応しているわ?聞いてみたらどう?あら?この子…女の子ね?」
アイナさんはゴッデスティアを持ち上げ、テーブルの上に置きながらそう言う。
ゴッデスティアは俺を見て不思議そうにしている。
というかアイナさんも触っただけで雄雌が分かるのか…
リナさんを見るとほら!あたしだけじゃないでしょ!と言いたげな顔をしている。
「アイナもリナも…触っただけでスライムの雄雌が分かるなんて凄いよな…俺わかんねーもん。」
グランさんが俺にボソッと耳打ちしてくる。
あぁ…やっぱりあれは当たり前のことじゃないんだな。そして、グランさんも分からないという事で俺は少し安心する。
しかし、嫌がっているのにテイムするのは本意ではないし。ただ、バイトラビットにも襲われていたし逃がすわけにもいかないのも事実だ。
やっぱり直接こいつに聞いてみよう。それが一番お互いのために良さそうだ。
俺は目の前のゴッデスティアに話しかける。
「なぁ…俺モンスターテイマーなんだけどさ…まだ1匹も仲間いなくてな…お前が良かったら俺に付いてきてくれるか?」
ゴッデスティアは俺の問いに迷いなくぴょんぴょんと小さく飛び跳ねた。
そして大きく飛んで俺の頭の上に乗る。
…これは俺に付いてきてくれる…ってことでいいのかな…?
「スイト!やったわね!これでモンスターテイマーよ!」
リナさんが自分の事の様に手を合わせて喜んでくれる。俺もこれでモンスターテイマーか。実感が沸かないな…
頭の上のゴッデスティアもぷるぷる震えている。
「テイムしなくても、スイト君がちゃんと愛情を持って接すれば魔物は心を開いてくれるわ。私とイエルムがそうだったもの。」
いつの間にかイエルムがアイナさんの膝の上でぷるぷる揺れている。
そうだった。アイナさんとイエルムは心を通わせてアイナさんがテイムしたんだったな。
…テイムってどうやってするんだろう。
「えーっと…テイムって、どうやってするんですか?」
「あらあら…そうね。それをまだ教えていなかったわね。えーっとまず両手を出して、手のひらをテイムしたい魔物に向けるの。」
俺はゴッデスティアを机に置き、アイナさんに言われた通りに、ゴッデスティアに手を向ける。
「こう…ですか?」
「そうそう。テイムしたい魔物に向かって両手の手のひらから魔力を飛ばすイメージね。」
魔力?そもそも俺って魔力あるのかな…
良く分からないが…とりあえず言われた通り、手のひらからゴッデスティアに向け、気を送るイメージをしてみる。
すると、肩の辺りから手のひらへ向けなにか温かいものが流れる感覚になった。
おぉ!これが魔力が流れるって事か!?
そして手のひらに気のようなものが集まった感覚になり、それをゴッデスティアに向けて飛ばす感イメージをする。
すると、その気のようなものが、ゴッデスティアを包む。
「そこまでいけば大丈夫ね。弱っている魔物であれば強制的に受け入れられるけれど、この子は元気だわ。嫌だったら跳ね返される感覚になるもの。この子はちゃんとスイト君に付いてくる意思があるわよ。そしたら"テイム"と唱えなさい。」
俺はアイナさんに言われた通り、テイム。と言う。
すると、ゴッデスティアを纏っていた気のようなものが収まり、徐々に消える。
消えたと同時に、
「スイト!これでテイム完了よ!良かったわね!」
とまたリナさんが喜んでくれる。
ふぅー…俺も初めてのテイム。というか魔力を使ったので緊張した…目の前にいるゴッデスティアが俺の初めてテイムした魔物だ。これからよろしくな!
「テイムしていると思うが確認するのであれば、ライフカードを見るといいぞ。【称号】の下に、【テイム】という欄が出ているはずだ。その横に、まだ名前は決めていないなら種族と性別が出るだろう。」
グランさんの言った通りにライフカードを取り出し表面を見てみる。
おぉ!【称号】の下に【テイム】ゴッデスティア〔♀〕って出てる!
…本当にメスだった…リナさんも凄いが、アイナさんもやっぱり凄いのでは…?
「ゴッデスティアって出てます!なんかテイマーになった実感が沸きました!」
俺は興奮気味に3人に言う。
「ははは!そうだろう!俺も親父に手伝ってもらって初めてテイムした時は感動したなぁ…」
「そうよねぇ。私も嬉しかったもの。その子の名前は決まったらライフカードに向かって名前を呼ぶと登録されるわよ。」
そうか、あとは名前か…半透明の白いスライム…
ぱっと見、前世で言う水まんじゅうや葛まんじゅうっぽい…いやいや見た目通りの食べ物の名前からとるのはなぁ…しかもどうつけていいかわからんし…
神様の名前からとるのは?涙か…水だったらウンディーネとかポセイドンとか…駄目だ。なんかしっくりこない。メスだし。
ゴッデスティア…うーん…駄目だ。思い浮かばない。
「名前…思いつかないです…」
俺はうなだれながら、そう零す。
「あらあら…でも名前はその子にあげる初めてで一生のプレゼントだわ。よーく考えた方がいいわよね。」
アイナさんはうなだれた俺を慰めてくれる
「いいじゃない。ゆっくり考えれば!ふと思いつくこともあるかもしれないわ。」
リナさんは俺を励ましてくれる。
「名前は悩むよなぁ。俺もグライアの名前決めるのに何日かかったか…」
そうかグランさんも悩んでいたのか…そうだよなぁ。
いきなり、はい!じゃあ名前決めましょう!なんて無理だよなぁ…
「ごめんなー…ちゃんと考えるから待っててくれ…」
俺は頭の上のゴッデスティアに話しかける。ゴッデスティアはぽよんと1回跳ねた。
いいよー。って事なのだろうか?
「あ。そういえばリフルとグライアは今日はいないの?」
リナさんはアイナさんとグランさんに問いかける。
「あぁ。グライアを見てそいつがビビらないかと思ってな…とりあえずは奥にいるんだ。奥でリフルの相手をしてる。連れてきても大丈夫か?」
んーとりあえずは大丈夫だと思うけど…
ゴッデスティアは頭から降りてイエルムと何やらぴょんぴょん跳びあっている。
人懐っこいし、初めて会ったイエルムとも打ち解けてるようだし大丈夫かな?
「この子なら大丈夫そうねぇ。もしダメでもスイト君がいるから大丈夫でしょう。」
と、アイナさん。
「分かった。グライアー!こっち来ても大丈夫だぞー!」
とグランさんがグライアを呼ぶ。
奥からワン!という鳴き声が聞こえ、タッタッタッという足音がする。
あれ?こいつ…固まってね?ゴッデスティアはさっきまでイエルムとぴょんぴょん跳んでいたのだが、急に動かなくなった。大丈夫かな…。とりあえず固まったゴッデスティアを膝の上に乗っける。
さっきよりちょっと弾力がなくて硬くなった…?気がする。
そしてグライアが奥からやってくる。背中の上にはリフルが乗っている。
リフルは本当にグライアが好きなんだな。
グランさんは、グライアの頭を撫でている。
グライアはグランさんに撫でてもらった後、アイナさん、リナさんと順番に撫でてもらっている。
見た目はカッコいいのに嬉しそうに撫でてもらっているところを見ると可愛いな。
リナさんにひとしきり撫でてもらった後、最後に俺のところへ来る。
俺に近寄ってきたところで膝の上のゴッデスティアがピッ!と鳴き頭の上へ逃げる。
…今鳴いた?スライムって鳴くのか?
「あらあら!この子鳴くのね!イエルムもリフルも鳴くのよねぇ。」
そうなのか…スライムって鳴くのが当たり前なのかな。でもイエルムもリフルも鳴いたところは見たことないが…
「2匹も結構大きな声で鳴くからな…店の中では極力鳴いたら駄目だぞーって教えてるんだ。まぁ…リナとスイトだけの時はいいかな?」
あぁ。だからグライアも来た時は鳴いていなかったのか。鳴くときと言ったら奥で返事をするときだけだったもんな。グライアはともかくとして、イエルムもリフルもちゃんと躾けられるって、スライムって結構賢いもんなのかな?
「良かったわねぇ。イエルムもリフルも。グライアもね。リナちゃんとスイト君がいるときは我慢しなくていいからね!」
2匹はアイナさんにそう言われるとピッ!と鳴く。そしてグライアはワン!と鳴く。
グライアが鳴いたときに頭の上のスライムが1回ぶるっと震えた。
俺はゴッデスティアを持ち上げ目を見てグライアは怖くないぞー。と言う。
そして一旦膝の上に置き、グライアを撫でている。グライアは嬉しそうだ。
そしていつの間にかグライアの上にはイエルムも乗っており、ゴッデスティアに向かい、ピッ?と問いかける。ゴッデスティアも小さくピッ…と返すと、イエルムはぽよんぽよんグライアの上で飛び跳ねている。その様子をじーっと見てゴッデスティアはこっちを見て、ピッ?と鳴く。
グライアの上に乗りたいのか?と問いかけるとぴょん!と1回跳ぶ。さっきまで怖がってたのに…
グライアに乗せてもいいか聞くと、ワン!と元気良く答えてくれた。
俺はゴッデスティアに自分からもお願いしなー?と言うとこっちを見て1回ぴょんと跳んだあとグライアに向かって、ピッ?と鳴く。グライアはいいぞー!と言う感じでワン!と鳴いてくれた。
ゴッデスティアは俺の方を見直し、ピッ!ピッ!と鳴いてグライアの背中に乗る。
「あはは!みんな仲良しで可愛いわね!」
とリナさんはグライア達を見て笑う。
確かに大きな狼の上に3匹の色の違うスライム。異様な光景だ。でも純粋に微笑ましいと思う。
ゴッデスティアは楽しそうにぴょんぴょん跳んでいる。
グライアは3匹を乗せ店の中をトコトコ歩いてくれている。
「ホントに微笑ましいわねぇ。スイト君お茶のおかわりいるかしら?」
あ…気づいたら麦茶みたいなものが空になっている。
「すいません。お願いします。」
「グラン。お茶をお願いねぇ。」
「は?え?」
グランさんはえっ!?俺!?という顔をして、納得しないような感じで奥へ行った。グランさんへついていくグライアとグライアの上の3匹。
「しかしスイトもこれでテイマーの仲間入りだねぇ。」
リナさんはニコニコして俺に言う。
リナさん…ゴッデスティアをテイムしてからずっとニコニコして嬉しそうだ。
「そうねぇ。これからが本番よぉ。スイト君。テイムした魔物はペットではないからね。可愛がるのも大事だけど、可愛がるだけじゃダメよぉ。」
「はい。良いパートナーとして付き合っていけたらなぁ…って思ってますが。」
「そうねぇ。お互いが信頼できるパートナーになれるのが最高だわ。何か心配なことでもあるの?」
「どうやったらあいつを強くしてあげられるのかってことです…テイマーとして仲間はできたものの、何をしていいのかさっぱり…」
「私達はなんら特別なことはしていないわね。こうやって日中はパン屋をやっているし、休日くらいかしらね?森なんかに出向いて、一緒に魔物を狩る。そうしていくうちにその子になにができるか、得意な相手、苦手な相手っていうのが見極められていくと思うわよ。」
「そうね。行き帰りに弱い魔物しか現れない道を通るもの。少しずつ時間を置いて道中でゆっくり魔物を倒す練習をしていけばいいんじゃないかしら?」
確かにリナさんの言う通りだ。俺もまだ行き帰りの間しか魔物を倒していないが、練習にはちょうどいい。ゴッデスティアが慣れてきたら、徐々に戦わせていく。と言うのが良いのかもしれないな。
「まぁなんにせよ、テイムしたばっかのテイマーなんだ。分からないことだらけなのは当たり前の事だし、あまり深く考えるな。スイトが不安がってるとこいつも不安になっちまうぞ。」
グランさんが麦茶のようなものを持ってきてくれる。
そうだよな。俺が自信を持って戦っていかないと、こいつも可哀そうだ。
グライアの背で寝ているゴッデスティアを見てそう思う。しかし慣れるのが早いなぁ。
「そうよ!どうしても分からない事があれば、先輩テイマーのアイナさんとグランさんがいるもの。それにあたしにだって分かる事があるかもしれないわ!だから失敗したっていいのよ。誰しも成功ばかりじゃないわ。失敗して学ぶことが大事なの。」
そうだな。俺には心強い先輩方がいるんだ。一人で解決しないといけなかった前世とは違う。頼ってもいいんだよな…失敗を恐れてたら何事にも挑戦できないよな。
「すいません…3人には迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします!」
俺は席を立ち深く礼をする。見上げると3人はニコニコしている。
「スイトが失敗してもそれをカバーするのが先輩でしょう。だからスイトは思い切ってやればいいのよ!」
リナさん…そうやって言ってもらえると、気持ち的に凄く助かります。
「分からない事があったらなんでも聞いていいのよ。ねぇ。グラン」
「頼ってくる後輩を無下にはできねーよ。なんでも聞いてこい!」
アイナさん…グランさん…俺は良い人に囲まれているなぁ。
ちょっと涙ぐんでしまう。
前世に未練がある訳ではないが、前世に3人みたいな人がいてくれたら…
でも今の人生にこんなに良い人が3人もいる。だったら俺は大丈夫だ。
「さぁーて。昼休憩もそろそろ終わりか。スイトもいつでも来いよな。」
「そうねぇ。またスイト君のスライムちゃんともゆっくり遊んでみたいわね。あ、スイト君これね。うちのスライムのフード。レシピも一緒に渡しておくわね。」
「ありがとうございます!おぉ…結構量ありますね。」
「これで2週間くらいは持つんじゃないかしら?賞味期限は乾燥させてあるから大体1か月くらいかしらね。湿度が高い時は2,3週間だと思うわ。」
「分かりました。ありがとうございます。おいくらでしたか?」
「うーん…とりあえず中銅貨5枚かしらねぇ。また少なくなってきたら声かけてね?」
おぉ。結構安くしてもらっている気がする。
レシピもあるし、余裕が出来てきたら色々試してみよう。
「今日はリナがパン6個とセットで大銅貨1枚に中銅貨5枚、スイトがパン3個とセットで中銅貨9枚だな。いつもありがとうな。」
俺は自分のポケットから大銅貨を1枚取り出し、グランさんに渡す。
朝夜は、お金を出していないので、昼くらいは…とリナさんに持ちかけ自分の分だけ出すことになった。
ずーっとお世話になりっぱなしってのも気が引けるしなぁ。
「アイナさん、グランさんごちそうさまでした!よーし、そろそろ行くからバスケットの中に入ろうか。グライアもありがとうな!」
俺はいつの間にか起きていたゴッデスティアをバスケットの中に入れる。まだちょっと眠たそうだ。
グライアはワン!とひと鳴きする。俺はグライアを撫でると嬉しそうだ。
「イエルムもリフルもまたね!アイナさん、グランさんごちそうさま!」
リナさんもそう言いスライズを後にする。
バスケットの中からピッ!と鳴き声がする。
こいつもお別れを言ってるのかな?後ろから2匹のスライムのピッ!という鳴き声とワン!とグライアの鳴き声がする。
仲良くなったみたいでなによりだ。
リナさんと俺は食料店でミルクを買い、店へ戻る。
鍵を開け、ベルトを外し、バスケットをまたカウンターへ置く。
さぁ、午後からも頑張ろう!




